氷壁の姫 Act-08 保証人
「昔話をしに来たのかしら? 老人は昔話が好きだというけど、赤井もそうみたいね」

クスリと笑う巳恩。

「まぁ、お前とくらべればおじさんだが。」

赤井は苦笑する。

「昔話ついでに聞くけど、灰原哀を保護してた阿笠さんの処遇や組織壊滅に協力した怪盗KIDはどうなったの? 」
「―… とっくに知ってると思ったが」
「Ich weiß es ―…聞きたいのよ。 云わせたいともいうけれど? どうしたの? FBIには関係ないでしょ? 阿笠さんも怪盗一家も」

くすくすと楽しそうに笑う巳恩

「阿笠さんは坊やの躰が戻った後、宮野志保が逮捕されるのに合わせて犯人隠匿の罪で逮捕された。 窮鳥懐にはいれば漁師も此を撃たず、という諺もある。 窮鳥懐に入れば猟師もこれを撃たず―… 発明家としても道を閉ざされても宮野志保を保護した事を後悔はしないと云っていた。 キック力増強シューズや麻酔針入りの時計やスケボーなどは今まで犯人に重症を負わせた事例を感が見て、修理を含めて2度と開発しない法的契約書を書かせられた。 ただし、実際に使用したのは工藤新一だった事から再犯率は低いとの判断もあり執行猶予付きだが無罪となった。」
「まぁ、阿笠博士は人が好いだけが取り柄だったものね。 志保を保護した時は志保は子供の姿だった。 博士は子供が好きという事だけは認めるわ」
「確かにな。 阿笠さんには子供のような面があった。だが、世間はそれほど甘くなくてな、どんな発明をするか分からないのを1人暮らしにさせるのかと市民団体が言い出した」
「で?」
「阿笠さんは志保が何時か遊びにきたときのためには引越しとかはしたくない。だが、身元保証人がいない。 工藤優作氏が名乗りを上げたが被害者側なので保証人としては不適格だと言われてな。」


(身元保証人がいない場合の処遇は刑務所に装置するかー…)
(俺達FBIの保障ではダメなのですか)
(日本の国籍を持たない人達ではこれも問題で―…)
(今度は自分達のために発明させそうですしね)
(そんな事はしないし、させません。 定期的に監査もして報告書も提出させます。 どれでも?)
(できればもっとしっかりとした身元の確率できる人の方が―…)

FBIと裁判所の押し問答。

(私では、ダメですか?)
名乗りを上げたのはフサエ・キャンベル・木下だった

(フサエブランドのデザイナーであるフサエさんが阿笠博士氏の知り合いだったとは?)
(私はアメリカ産まれですが、日本でも生活しています。小学校は阿笠君と同じでした。)
(と、あるニュースで組織壊滅の際に元犯罪者の科学者―… といっては語弊がありますが犯罪組織から逃げ出した科学者を匿っていた発明家が逮捕されたと聞きました。もしかしたら阿笠君かもしれないと思ってはいたんです。そうしたら、私と阿笠君の関係を知っている人から連絡が入って ―… 身元保証人が居なければ発明家としての道は閉ざされ、刑務所に送致になると―… ならば、もし、私でも保証人になれるなら、と)

デザイナーとして世界からボイコットされるのを覚悟の上で来日したフサエ・キャンベルの言葉に阿笠は言葉を失った。

(私のデザイナーとしての銀杏のロゴは阿笠君と出会って決めたもの。小学校でこの髪の色を揶揄われ大嫌いだったこの髪の色が好きになったのも阿笠君がくれた言葉があったから、です)

阿笠の友人として弁護にたったフサエ。
フサエが言わなかったのはだれからその情報を得たのか、という点だけだった。

「フサエさんが身元引き受け人で、デザイナーとしての拠点をアメリカから日本拠点に。移す手続きをしている。フサエ・キャンベルなら誰もが、とは言わないが少しは名の熟れたブランドデザイナーだからな」
「フサエブランドの名前が落ちるのを承知で身元保証人になったの?」
「全世界の人間が後ろ指さしたとしても自分だけは彼を受け入れると言った。 阿笠がした事は褒められる事ではないし、彼の味方をすれば石を投げられるかもしれない。 それでも、世界に一人位味方がいてもいいだろうと。阿笠さんの友人として裁判に臨席した時に言った。女心としてはお前にもわかるんじゃないか?」
「そう。」
「―… 号泣したよ、阿笠さんは。 自分のした事を後悔はしないが、フサエブランドの名前を汚す事になると」
「それを判断するのはカスタマーね。 一部の女性心理として売り上げが上がるかもしれないし、そっぽ向くかもしれないわ。」
「それは同感だな。」

赤井は苦笑した。

事実フサエブランドの公式Webサイトは閉鎖こそしてないが嫌がらせのメールや問合せ、そして激励のメールと一時アクセスできない程になった。
フサエブランドツィッターやブログのアカウントは巨大チャンネルに晒されて削除せざるを得ない状況になり、一部の店舗は冷やかしと嫌がらせで閉店せざるを得なくなり、提携していたTV番組サイドは、犯罪組織との関係は一切無いのを強調してフサエブランドとの更新はしないという公表をした。

犯罪者を庇った研究者と知り合いだったという事で世界ブランドとしてのランクは落ち、一部の女性層の指示率はあがったのも事実だがファッションショーに出演予定のモデルはイメージダウンを考慮して大半が出演キャンセル、ショーを行う予定だった会場からは来季以降は貸せないという打診が有った。

阿笠の研究所は警察官が警備しなくてはならないほどの嫌がらせが相継いだが、阿笠は黙して語らずと、マイペースな生活だ。

「怪盗KIDこと黒羽快斗君は未成年ながらも、これまで盗んだ宝石の展示や人的被害総額が億単位を軽く越える事と器物損害罪で1審で執行猶予無しで6年の求刑が言い渡されたが、結論は来月言い渡される。」
「随分と長引いてるわね?」
「彼は器物損害の方が酷くてね。証人やら被害総額やらのまとめに検察も弁護も大わらわだ。はっきりしてるのは彼の念願であったマジシャンとしての海外公演の道は閉ざされたという事だ」
「そう。」

赤井は軽い溜息を吐くと巳恩が再度淹れ直した暖かな紅茶を飲んだ

「宝石そのものは返品してるものも有るが、絵画のひまわりを巡る事件で人の命を奪っているからな。未成年である事と、そのあと、被害者一家に匿名でかなりの金額的補助をしていた事から、刑期は2〜3年になる可能性もある。だが、彼が追っていたブラックマーケットはまだ壊滅していなから、今後も変装しての再犯の可能性があるとして体内にGPSを埋め込み手術の後、刑務所に送致される事になるだろう。裁判所の判決によっては日本国内の旅行も制限される事になる。 被害者側は善意の補助金だと思って生活費として少し使ってしまったがKIDからの金は受け取らないと、弁護士を通じて、残った金を返す手続きをしている。 アシストした寺井氏は先代からの協力者という事もあり、アメリカの刑務所での懲役5年。ただ、向日葵の事件では自分が頼んだ所為で坊ちゃまに人を殺させてしまったと。 向日葵事件は全て自分の所為で坊ちゃまの所為じゃないと繰り返し訴えていた。  母親は息子の逮捕を海外で聞き、出頭したよ。 夫と息子の行為をっていながら黙っていた事とファントムレディだった事から活動拠点だった仏蘭西の刑務所で送致された。母親の方は売ってしまった宝石もあり、その分は遊興費に消えたとかで自白に基ずいて古物商の摘発が入ったが少々厄介な状況でな…。
「厄介? マフィアが購入とか?」
「マフィアならまだマシだ」

赤井は溜息を重ねる

「入手したのは美術品の修復師で何も知らずに購入した。ほぼ原石程度の叩き売りで買ったとか」
「修復師?? 宝石を使うとなると絵画とかドレスの補修かしら?」
「当たりだ。 歴史的美術品の絵画の修復に使われていた」
「は?」

巳恩は珍しく目をパチパチと見開いた

「昔の美術品って宝石を砕いて色を塗ったのもあるけどまさか…?」
「そのまさか、でな。 購入された宝石全て、大半が2度と元の姿に戻らない程に粉末状に砕かれていた。」
「その修復師は?」
「罪に問われない、というか本人がキョトン状態だったからね。 宝石の由来を聞いて絶句してたよ」
「それは、ご愁傷様としか言えないわね」
「同感だ」

赤井も頷いた

「ともあれ二人ともマジックを使う事と、変装する可能性が有るので、快斗君と同じで体内にGPSを埋め込まれ最低10年外される事は無い。 二人は人を殺した訳じゃないので状況に寄っては収監年数が軽減されるだろう。 快斗君はアメリカの裁判所で、寺井氏の罪を自分が全部被るから罪を軽減して欲しいと必死に庇ってたよ。 寺井ちゃんと母さんを巻き込んだのは怪盗KIDの2代目である自分だと言い張ってた。」
「FBIの口添えで無罪にすればいいんじゃない? ジェイムズの嘆願書があればー… 何よ、その目は」

ジョデイはいいかけて巳恩の小馬鹿にしたような笑いに言葉を尖らせる

「何かというと権力を誇示するのね。おばさんからFBIの名を取ったら生活出来ないんじゃなくて?」
「どーゆー意味」
「刑事やめたら威張れないって事。 私、これでも医学の他に生物や科学、物理、語学の教員資格も有るし、ダンスも国際資格持ってるわよ? クレーのライセンス持ってるし。 おばさんはどう? 射撃以外に資格は有るの?」
「ー……… 教員ライセンスなら持ってるわよ!」
「 喋れる言語はいくつ有るの? 英語と日本語以外、でよ?」
「ー…」
「やめろ、二人とも。 巳恩は語学は複数言語で同時通訳出来るからジョデイのレベルじゃ太刀打ち出来ないぞ。 巳恩も大人をからかうのは止めろ。 履歴書の資格覧は書ききれないだろう。」

赤井は軽い溜息を吐いた。

「そうね。 話を巻き返すけど黒羽君は、死罪と無期にならなかっただけ良かったんじゃない? 最も、KIDは組織壊滅に協力した正義の味方とい印象付けただろうから保護観察が妥当だと、弁護士が言ったんじゃなくて?」
「確かに。 だが、彼は散々文化財を壊したからな。建物の修復だってタダじゃない。 住んでいた家は競売にかけられるが、買い手は厳重な審査を受ける。工藤優作氏が名乗り出たが却下された。 財産も全て被害者たちへの賠償金の支払いになるから帰る家はもうない。 出所した後は中森警部が身元引受人になるそうだ。」
「へぇ…… よく、お嬢さんが納得したわね」
「そのお嬢さんの提案、だよ。 青子さんは大学で法律を学び、検事を目指すそうだ。」
「検事?」
「黒羽怪斗が馬鹿な真似をしないようにストッパーになる為に弁護士でなく検事になるのだと。 快斗君は高校退学の措置となったがまぁ、IQだけは高いから受け入れてくれる大学があれば罪を償ったあとからでも大学の卒業は可能だろう。 収監中はマジック類もネットも一切禁止措置が取られるだろう。」
「賢い人ね。毛利蘭よりも頭が良いわ。 そうそう、鈴木財閥はどうなったの?」
「怪盗KIDのパンドラ探しに協力して財産を湯水のごとく使ってきた治郎吉氏は相談役の地位を退いて、鈴木の経営から隠退したよ。 そして今後は国の監査チームが財閥の資金を管理する事となった。 最も株価は一夜にして低くなったから、 会長の座は外部監査チームが任命する事になった。 社長が所蔵している美術品をすべて競売にかけて、倒産した子会社が潰れないように補償に紛争してる毎日だそうだ。」
「スズキの屋台骨は持ったという事ね。 言っておくけどスズキ以外でも有名な財閥の中に組織とつながっていた会社はあったわよ?」
「そのようだな。 流石の治郎吉氏が驚いて、個人的に契約を結んでたのはKIDだけだと言っていた。最も財閥で一番タフなのは園子嬢だったな。 治郎吉のした事は財閥として褒められた事ではない。けれど、スズキの1人として、一人でも多くの社員を助ける事ができるなら邸を売り払うだけの覚悟はあると。」
「―… 流石は鈴木の令嬢ね。」
「社長夫人も長女である上のお嬢さんも、世界中の貸金庫に有る鈴木の資産を放出しても社員とその家族を一人でも多く守ると云ってたな。」
「へぇー…… 鈴木の社長夫人は剛胆だと聞いた事があるけど、半端じゃないわね。 まぁ… ここで組織と繋がりのあった財閥を上げれば世界がパニックになるでしょうから、政府としては頭がいたいわね」
「阿笠さんは今後、メカの研究に関しては各機関への届けが必要で5年の間、半年に1回の国の監査が入る。 目玉焼きレベルから追跡装置迄、個人での機材購入は出来なくなり、研究室は24時間の監視が今後3年。それから後もメカの修理費用に関しても全て国の選んだ会計士への書類提出が必要となる」
「つまり、下らない発明に費やす時間はなくなるわけよね。いい事だわ で、身体が元に戻って留年した工藤新一はどうなったの?」
「坊やは被害者の枠だからな。だが、ご両親が海外生活なのをいい事にも単位がギリギリだったからな。 事件の立役者とはいえテストも受けてないから成績もない。 ましては病院に入院して院内教室で授業を受けていたわけでもないからそれで進級させるとPTAが黙ってはいないだろ? 身体が元に戻った後、高校生探偵が留年なんて世間体が悪い、組織壊滅したのに留年なんてありえねぇ、3年時は皆勤賞でサボらねぇから進級させろと喚き散らしたのもPTAの印象を悪くしたようでな。 退学して高校卒業認定をうけてもいいが、今後一人でアパート暮らし、バイトで生計を立ててみせろ、と優作氏に殴られた。」
「息子に甘いご両親だったと思ったのに?」
「まぁ、薬を飲まされたのは自業自得。見栄っ張りに育てた自分たちも悪いから、という事らしい。 彼は独りでは食事も作れないし洗濯も出来ないお坊ちゃんだから。ご両親の監視の元で留年するだろう。高校卒業までは探偵の真似事をさせるなと優作氏が日本警察に申し入れて、目暮警部もいたく反省していたよ」
「そうだったわね。 家の片づけ一つできない人だったっけ? 事件ホイホイで一寸した事にも首を突っ込んでいた工藤新一がいう事をきいたの?」
「坊やが喚いた時、ご両親は何も言わずにマンスリーマンションを買って、社会人として誰にも頼らず生活して見せろと放置したそうだ。」
「男寡に蛆が湧くっていう事をリアルでしそうね。 ぞっとするわ」
「まぁ… それに関しては否定しない。1ケ月後、部屋はぐちゃちゃ、キッチンはベタベタ。テーブルに上にあったのはレトルト買いだめのインスタントにカロリーメイト。まともな服は制服だけだったそうだ。 」
「―… そこまで生活力無かったの?」
「みたいだな。」
「ともあれ、坊やは自分の生活力の無さを自覚させられて、素直に留年するのを認めたそうだ。 工藤夫妻は息子さんが高校を卒業するまでは日本にいると云っていた。坊やの変わりに優作氏が数回に一度だけ協力するという事で日本警察も坊やに謎解きはしないという事で手打ちをした。」

「あら、残念。 」

くすりと笑うがその顔は同情の欠片もない。

「本当にそう思うのか」
「人の力を借りなきゃ事件を解決出来ないのは能力不足よ? そう思わない? と、いってもあの坊やの事はそこのオバサンを含めたFBIもショタコン兄妹揃ってお気に入りだったわね。」

クスリと笑う巳恩

「真純がショタコンなのは否定出来ないから、それに関しては反論しないが、妥協点は、無さそうだな。」
「有るわよ。」
「俺の死か」
「そうよ。変装で逃げてジ・エンドにする可能性もあるけれど」
「俺の死と引き換えに怨みを忘れるなら撃ち抜いて良いぞ。俺の眉間を撃ち抜いて殺したのがお前だった場合、お前が殺人罪にならないよう、法律的効果のある書類は職場の机の中に置いてあるし、自宅にもあるし、FBI専属の弁護士にも預けてある。」

赤井は自分の銃を取り出すとテーブルの上に静かにおいた。
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