氷壁の姫 Act-10 交錯 前編
「これだけは忘れないでほしい。」

赤井は立ち上がると黒曜石の瞳と艶やかな黒髪を持つ少女をふわりと抱き締める。

「ルナ姉さんが巳恩の事を案じていたのは事実だという事を。 俺は、お前を身籠った時のルナ姉から、とても嬉しそうに電話やメールでノロケ話を聞かされてたんだ。 毎日毎日嬉しそうにお腹に話しかけていると、厳さんも言っていた。男の子か女の子か分からない時から女の子だと決めつけて人形やままごと道具を買い込んでいるとノロケてな。 お前がお腹の中にいた時のルナ姉は、誰よりも幸せそうに輝いていたよ。」

一瞬身を固くした少女の額にキスを一つ。

「なっ!! 何するのよ! ロリコン男!」
「―… たかがアメリカ式のキス程度で其処まで飛躍されても困るんだが。」

思わず赤井の頬を叩こうとした手は難なく受け止められてしまう

「お前はもう16になる。 子供、ではないだろう? 大人、とも言えないが。 早逝した天才外科医・有間厳が残した愛娘は、父の跡を追って医学の道に進んだ。 坊やのように子ども扱いはできないさ」
「貴方も、キャメル捜査官のようにお父様と私を比べるの?」

キッと強い煌きを見せる瞳に赤井はゆっくりと首を横に振って否定して、キャメルは首を竦める。

「―… そんな積りはない。 頭がいいだけじゃ医師にはなれないし、免許があるからと言って腕がいい医者とは限らない。 研究者肌の名医もいる。 厳兄さんが中心となって作り上げたRHJ―… Relationship Hospital in Japan は世界中の名立たる名医と連携が取れると評判だ。文字通り世界中の専門医との絆を持つ病院だ。 インターン医師の研修センターと独身寮と家族寮を完備。 院内保育に院内学校を筆頭に看護学校、医大 栄養士専門学校、漢方医学、赤十字・ユニセフ等とも連携をとって、国籍を問わずに人材を集め、他の病院の医師が研修を受けたいといえば派閥を問わず受け入れ、反対に講義に出向く事もあるそうだな。 これまで縦長の系列が多かった総合病院を横にも広げている稀有な病院。 患者の家族で調理師や栄養士の免許を持つ人達がボランティアで患者とその家族の相談に乗る日もある。 現在進行形で大病院へと変貌をかえている病院が、親の七光で医師免許を持つだけの子を安易にインターンとして受け付ける筈はないだろう。病室が足りない場合は系列を考えずに患者にとって必要な医療設備のある病院を探してコーディネートすると聞いた」

天才外科医の計画は頓挫する事もなく、志を同じとする沢山の医師達に引き継がれた。
患者の為に枠を超える。
それは一兆一石にできる事ではない。
どこの病院も技量のある医師・患者を呼び込める名医を求める。
それを一纏めの病院にするのは反発もでる。

それに着手したのが巳恩の父。
バックにホワイトカラーがいるとはいえ、広大な敷地、専門医師や看護師や介護士との連携。
医療ミスが出た時の弁護士。
その基盤の青写真を作り上げた功績は大きい。
そして、巳恩は一歩ずつその父親が作り上げたものをより強固にしようとしている。
あれ程の強大なネットワークを持つホワイトカラーが巳恩の言葉で動くのだ。
白の世界では下っ端という巳恩だが、下っ端にできる事ではない。

「お前がやろうとしている事を、俺は誇りに思う。 あの病院の青写真を描いた有間厳は俺の義従兄で、巳恩は、俺の従姪だと誰にでも云える。 俺は、そんなお前がとても愛おしいよ」
「さっ… 最後の言葉が余計だけど、 えっ…と。  その、お褒め頂き、どうも、ありがと。 ―… でも、褒めるなら Relationship Hospital が 50周年を迎えてからにして頂戴。 あの病院はまだ10周年を迎えてないの。」

目を丸くした後、コホ、と空咳をして言葉を紡ぎ出す巳恩の頬がうっすらと桃色になっている。

「了解した。 では俺はあと最低50年は生き延びないといけないな。その50周年の祝いの席で、檀上でスピーチをするお前が見れたら本望だ」

赤井はその言葉に少し目を見開くと口の端を上げt笑う。

「―… その時には死んでるんじゃない?」
「なら幽霊となってお前の傍に行くさ」
「死ぬのに未練はなかった筈よね?」
「お前のこの手には沢山の人を救ってきた厳兄さんの血も、ルナ姉さんの血も入ってる。 その頭の中には俺達には想像もできない知識が埋まっているのを、俺は知ってる」

そっと愛おしむかのようにつかんでいる手に唇を落とす。

何処までも優しい瞳の赤井に、巳恩の心臓がビクリと小さく跳ねた

「―… 確かにどんなに否定してもこの躰にはお母様の血が入ってる。 でも、お母様は組織を裏切った。 疑わしきは罰する。 それが組織のやり方よ。」
「そうだな。 お前はそう教え込まれた。」
「役にたたない構成員はいらない。 赤井が愛した宮野明美は組織にとっては必要のない人間だった。」
「俺は、確かに組織に潜入するために明美を使った。 それは認める。愛したフリを―…偽装恋人を演じてはいたが、俺は、明美が嫌いじゃなかったよ」

(娘を救いたい。 FBIの保護を受ける代わり天才外科医の妻の座とあれほど愛していた夫を捨てようとしたルナ姉。 俺の初恋)
(妹を救いたい。 その為に成功しても失敗しも殺されるのが分かっていても銀行強盗をした明美。 俺の事を知りながらも俺を愛してくれていた。)
(ジンを守りたい。 その為にFBIの的になっても後悔はしないとジンの前に立った巳恩 寂しがり屋で気が強くて、プライドも高くて女王様で。 ―…誰よりも繊細で優しい)

それぞれが、それぞれの想いを貫こうとした。

「俺は、お前の優しい面を知っている。」

掴んでいた手を放すと僅かに上気した頬を大きな手で挟んで額を合わせる。

「な… なに、を、すっ…!!」
「友人である志保が事件に巻き込まれた時、お前は保険内の金額で手当てをした事があったそうだな。 保険証を持たない灰原哀は入院すれば全額負担になる。 それを保険の治療費におさめたのはお前の紹介状があればこそだった。 病院の事務長が <灰原哀は親友の縁戚に当たる子である。 犯罪組織に巻き込まれて身分を隠す必要がある為、保険証を発行する事ができない> ー…というような紹介状を書いていたと」
「―… あンの馬鹿事務長、患者の個人情報とか余計な事を阿笠さんに喋ったようね。 病院に復活したら厳罰処分に科してやるわ… 事務長が自害したらお前の責任よ」
「それは止めてくれ。 事務長から無理矢理聞き出したのは俺で、この件に関しては阿笠さんは一言も漏らしてない。」

その言葉に赤井はやっと手を放すと両手を上げて降参の意を示す。
やっと赤井の手から逃れて、深い溜息を吐く巳恩

「気に入らないわね。 赤井にもFBIの権力を行使する趣味があったとは」
「―… お前を、知りたかっただけなんだ。 俺が知らないお前の事を」
「大きなお世話よ。―… 正義の名の元に何人の犯罪者を撃ってきたの? 世界に名立たる長距離の名手の銃の的に倒れたのは何人いるの? 貴方だって人殺しよ」
「… 人殺し、か。 確かにな」

巳恩の視線が今だ弾丸の入った儘の銃に向いたのに気が付いて、赤井は巳恩から一歩下がった。

「今日はもう退散するよ。 約束の時間よりもオーバーしたしな。」
「お利口さんね。―… 帰り路は背中に気を付けなさい。」
「怖い事を」
「死を覚悟してるなら怖くない筈よ」
「俺は、な。 だがこいつらは当分寝れないだろう。―… 特にジョディ、はな」
「そうね。ホワイトカラーにも狙撃手は沢山いるの。でも、彼等はジンやキャンティたちとの様に顔は知られてない。」
「だ、そうだ。 胆に銘じて置くよ。」

赤井に言われたジョディはビクンと背後を振り返る、

「権力を振り回すオバサンは以外と小心者なのね。」

くすくすと笑う巳恩

「ねぇ? 志保とどんな司法取引をしたの? FBIの研究所に拘束して、志保の薬の成果を自分達の物にするの?」
「いや、残念ながら、司法局に却下された。 我々としては残念だが」
「なら、どんな?」
「俺個人は何もしない。 俺は、志保にも、お前にも、普通の生活をしてもらいたいと、おもっている。」
「FBI―… いいえ、赤井秀一が潜入捜査官として諸星大として宮野明美に近づいた。 結果として志保にとっては血のつながった姉が殺される原因を作ったという負い目が有るものね。その贖罪はを背負っていくといいわ」
「あぁ、そうだな。 志保が許してくれたとしても俺は明美を忘れない。」
「あのねっ! 諸星なんて人は知らないって、何度いわせるのっ! 此だから―…「ー…… お前は明日から停職だな」」
「ぇ?」
「ついでにジェイムズにお前のアメリカへの帰国と停職処分を進言する」
「ま、待ってよ! 私が何をしたと」

頑として否定するジョディに言った赤井は、心配するなというような優しい瞳を巳恩に向ける

「これは姿の見える幽霊とでも思ってくれ。足があるのは気の所為だと」
「幽霊、ね。聖書でも読めばいいかしら? それとも日本だからお経?」
「コイツは一応、カトリックだったと思うぞ」
「なら、悪魔祓いが必要ね。聖書に聖水にバチカンに連絡取ってエクソシストを呼ぶのかいいかしら?」
「勝手に殺さないで! 大体シュウは甘すぎるのよ! 親戚だろうがなんだろうがこんな子供、厳罰にすべきだわっ!!」
「幽霊の戯言に耳を貸す必要はない。ー…… 俺は、志保にも、何を望むか聴いた。」
「それで?」
「別人になってやり直したい、と言われてドイツの国籍に変えただけだ。志保はドイツ語を喋れるからな。医学、薬学にはドイツ語は必須だろう。傍からみたら証人保護だな。本来なら国籍を変えた事をいうのは情報漏洩に当たるんだが」
「じゃあ、…… 志保は」
「分かったのか?」
「そりゃあ志保は、この私が唯一無二のパートナーと認めた科学者だったもの。」

(ならば、お祖父様がFBIに解らないよう手を回して下さったんだわ。志保の頭脳に相応しい研究所を。)

「志保は名前を替えて、ドイツの国籍を持ちイギリスの大学を飛び級した事になっている。両親が事故で無くなったのを期にドイツに戻ってきた、という設定でな。微生物研究所で研究員として忙しい毎日を送ってる。1ケ月に1度、形ばかりの監査を受ける事になっているが何しろ上の方から志保に対する監視をするなという厳命でね。 志保が成人するまでは俺が保証人という形をとった。」
「―…… そう。」
「俺が志保の事を思い出話で阿笠さんに話す事、阿笠さんたちの思い出を志保に話す事は問題ないだろう、とね。」
「志保には随分と甘いのね? 」
「日本での関係者とはすっぱり縁を切ったからな。 俺達が驚く位未練もなく見事だったよ。 博士や坊やの方が未練タラタラで見苦しい位に駄々をこねていた。 志保は博士や坊やと2度と連絡をとる事はないと云ってたがな。 勿論、何等かのはずみで工藤氏と顔を合わせる確率もあるが、工藤氏や有希子夫人が志保の居場所を知って坊やに話したら情報漏洩の罪に問われる事になるという誓約書も書かせられた。その時に俺が中立の立場でお互いの近況をそれとなく話という事を提案した。 向こうにばかり条件を飲ませるのは不平等だと思ったからな」
「それで高校生探偵の足止めができると思ってるの?」
「坊やも同席の上での契約書作成だったからな。事件があっても志保に協力要請はできない事は分かっただろう。 志保がいなけりゃ東洋一の探偵に成れないと喚き続けていた。宮野は俺のワトソンだとな」
「志保の頭脳は自意識過剰な探偵の為にある訳じゃないわ。 あの儘日本に居ても志保の為にならない。 研究生活の中でこそ、志保の頭脳は生きるのよ。コナンだったころ、確かに彼は組織の壊滅に貢献した。同時に彼は散々器物損害事件を起こした。スケボーでの道路交通法違反が一番多いわね。巻き込まれて軽症を負った人は数知れず。 事件解決後に自殺した人もいた筈よ。 工藤新一は危険運転の確率が高いため、車の免許も取れないリストに名前が上がるかもしれないわ。」
「坊やは、大人に戻った後遺症で右足の麻痺が完治してないから免許に関しては何ともいえないが、仮に取得ができても高速には乗れない排気量止まりだろうな。」
「え? あら? 一流の療法師を手配したと思ってたけどまだ動かないの? リハビリをサボルような坊やじゃないと思ってたのに。 紹介したリハビリの療法士を間違った? それとも治療方法を何処かで間違ったかしら…」

赤井の言葉に巳恩は驚いたように目を丸くしてブツブツと思い出すように考え込む

「あぁ、言葉が足りなかったな。  大人に戻った時は、お前の見立てた通り、筋肉が固まって棒のようで首から下がガチガチになっていた」
「そうね。温水に浸からせて筋肉をほぐして首、肩、ひじ、手首と動かす事から始めたもの。 あの時の悲鳴は面白かったわね。 自分一人でトイレにもいけないから」

くすくすと笑う。

「男としては同情するよ。 志保と巳恩があっさりと処理をしていくんだからな。」
「それ位でオタオタしてたら医者も科学者も務まらないわ。 赤井が盲腸で入院したら私が率先して毛剃りをしてあげる」
「残念ながら小学生で盲腸は経験した。してないのは馬鹿な部下の方だ。」
「あらそう。 じゃあその時の手術はインターンの研修で公開手術にしてあげる。」
「その時は俺にも見学させてくれ」
「あ、自分は高校の時にやりました!」
「いいわよ。おばさんが運び込まれたら特別スタッフとして招待してあげる」
「ちょ、ちょっとちょっとやめて!」

キャメルがぶんぶんと首を横に振り、想像したのかジョディが顔を赤くする。

「残りはジョディだけらしいな。」
「十分楽しめそうね。 次いでに研修医の衆人環視の中で全身くまなく健康診断してあげるから楽しみにしといて。スリーサイズから体重迄ね。 赤井は肺癌程度よね?」
「それはまぁおいといて、話を戻すとな、お前が療法士が来るまでリハビリをして、バトンタッチをしただろう?」
「確か、交通事情で飛行機が飛ばずに1日遅れたのよね?」
「大嵐で1日飛行機が飛ばなかったから仕方ない。 その療法士が超絶スパルタ方式でな。 アルプスの少女ハイジにでてくるクララのペーターの悪戯が可愛く見える程だったな。」
「クララは車椅子が谷底に落ちて歩けるようになったのよね? 確かハイジがクララの面倒を見ていて、ハイジと遊べないペーターがクララに嫉妬して、だったかしら?」
「多分、そんな感じだったと思う。 人形のようにしか動かない膝の筋肉を柔らかくするには痛くてもなんでも動かして柔らかくするしかない。 まぁ、そのおかげで首を突っ込まれる事なく組織との決戦が出来たから安全は守られたがな」
「まぁ、あの療法士は治療中は鬼ですものね。泣こうが喚こうがリハビリを諦めるならお前の人生はそこまでだ、と患者を患者と思わない方だから。 私は躰の状態を全て伝えて、リハビリに関しては全てお任せにしたから」
「全くだ。 あの掃討作戦のあと、俺が報告を兼ねて、推理小説の新刊を持って見舞いに行った時。丁度リハビリの初日に入る所でな。 やっと一人でベッドから車椅子に乗れるように腕の筋肉が動くようになってきたばかりの時だった。 リハビリルームはお前の名前で貸切になっていたんだが、入った途端、新一君を車椅子から引きずり下ろしたんだ。 座りたければ車椅子まで這って行くか歩行器使って歩いて行くかの2者選択。 必死になって歩行器まで這って両端の棒を支えに車椅子に向かうだだろ? 車椅子を目の前にするとこれがまたスパルタで車椅子を反対側までまた動かすんだ。初っ端から3往復させて息も絶え絶えで、少し休憩した後、その後はマットの上で足を持ち上げたり下ろしたりする運動をさせていた。 病室に逃げ戻る選択肢はなかったな」
「やりかねないわね。―… あの療法士なら」
「毎日毎日、午前1時間、昼食挟んで午後1時間、休憩挟んでまた1時間。 最初は思う様に動かないから新一君が自棄になるだろ? そうするとこれ見よがしにサッカーの試合のビデオとか流すんだ。新一君の好きな東都スピリッツの試合とか、志保が好きだったビッグ大阪のをな。しかも華麗にシュートを決める場面とかばかりを編集したのをな。 リハビリを止めるならその足は一生動かない。 腕が動かなればPCで情報を調べる事も電話もできない。 探偵に戻る事もできない。 探偵小説が好きなだけの高校生に戻れとな。」

その説明にジョディとキャメルは顔を見合わせる

「ちょっ!そんなリハビリを許したの!? 死んじゃうわよ!」
「お前のような根性なしなら辞めるだろうな」
「!!」

赤井はさらりと答える

「初日で根を上げたよ。 夜に、療法士が帰ったら、2度と歩けなくてもいいってな。 有希子さんも優作さんも止めたいなら辞めろ、そんな根性なしなら親子の縁を切るだけだと言って、慰めようともしなかった」
「そう。」
「で、俺はその3日後、新しい小説を持って訪れた。」
「続けてた、わけね?」
「療法士に悪態付きながら必死に歩行器使って歩いてた。 初日は厄介な荷物のようにひきづるような足首は少し曲がるようになって、本当にゆっくりとした、じりじりとした歩みだったが、歩いていたよ。最も3往復なんて簡単なものじゃなくて10往復とか。しかも車椅子は歩行器の近くじゃなくて療法士が動かしまくるから嫌でも往復するしかない。」
「そう。」
「その儘、本だけおいて帰ろうとおもったら夫妻に捕まってね、お前に会ったら礼を言っておいてくれ、と」
「礼?」
「優作さんと有希子さんの伝を持ってしてもアドバイス貰うだけでも精一杯な一流の医師に声をかけていてくれたそうだな。 優作さんも有紀子さんも感謝こそすれ、恨む事は無いと言っていた。 」
「医師として私はするべき責務を果たしただけよ。あの療法士だって、依頼はしたけど、リハビリの担当を続けるかどうかは患者次第なの。 見込みがないなら後輩に任せてトンズラする位の気まぐれよ」
「ハハッ… 今度伝えておくよ。 ともあれ、まだ右足を軽く引きずってるし、左手も微妙に不自由でな。 けれど日常生活には復帰しつつある。 最もそんな躰で一人暮らしをさせたんだから、工藤夫妻も頑張ったな。 身体関係に関してはお前を責める積もりは全く無いと、言っていた。 普通の療法士では何時まで経っても車椅子に頼っていただろうと」
「―… 御礼なら療法士に言いなさい。 まぁ、工藤夫妻が甘いだけの親じゃなくてよかったわね。 リハビリが終わってなくて放り出すなんて普通の親ならできない事よ」
「まぁそうだな。 坊やも、あまりに貶されるからやけくそになって廊下を歩く練習とかしたらしい。今は工藤邸に戻って松葉杖でリハビリに通ってる。 夫妻がこれ見よがしに車椅子を玄関と新一君の部屋と書斎にと置いて、いやでも目に入るから挫折したら車椅子生活になる。嫌がらせのように新一君の部屋にランニングマシンまで置いたんだ。 志保とDr有間の食事療法と合わせて頑張ってるよ。 まだ走る事もスケボーも無理だが、高校生で有る間に徹底的に治して見せると豪語してたが、どうなるだろうな? 諦めが悪いから未練がましく志保と連絡を取りたがるかもしれない。 事件で出会った警察機構に連絡しまくるかもしれない。」
「ご両親の目がない所でやってそうね。 でも日本警察も公安も馬鹿じゃない筈よ。教えたらホワイトカラーが全力で潰しにかかるわ。 日本中パニックになる」
「だろうな。 口が裂けても言えないし、志保の行先は俺達しか知らない事だ。」
「あのボウヤはこれからも自意識過剰で暮らすでしょうけど馬鹿じゃないわ。 身体が不自由な間に貪欲に法律とかの本を読むでしょうね。 資格一つ無い探偵でいられるのは父親と母親の名前のお陰なのだから。」
「辛口の言い方だが事実だな。 幾ら推理ができても探偵になるには其なりの資格がいる。 毛利さんは元刑事という経歴がある。坊やと真純に有るのは推理する事だけだ。 経験値があっても信用度は低い。志保とお前は資格を持っている。経験値もある。若くても研究者としては一流だろう」
「親がかりの坊やと一緒にしないでほしいわね。 志保に足りないのは年齢だけよ。 私は医師としては卵に罅が入った程度だから一流入りはまだまだよ」

ちっとも残念そうに聞こえない声であっさり言い切った言葉に赤井はまた一つ溜息を重ねた
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