氷壁の姫 Act-26 お説教
「宮野は俺と釣り合いが取れませんか?」
「釣り合い?」
「高校を卒業して探偵事務所を立ち上げた時、宮野が欲しいんです。一流の探偵には一流の相棒が必要です。 あの状態の蘭を放置する事はできませんが、蘭の知識レベルじゃ俺の生涯の相棒には慣れません。宮野を俺にくれるなら2年間留年してもいいから今すぐ迎えに行ったって良い」
「ー…… 」
「くれるとか欲しいとか、本気で言ってるのか」
「宮野の知識は俺の相棒に相応しいと思いませんか? ー……俺は、平成のホームズになるんです。 ホームズにはワトソンが必要で、宮野はワトソンに なれる知識があるけど蘭が持つのは空手だけ。」

スウッと目を細める赤井と眉を顰める降矢。

「 レディDrが新一君を嫌うのが分かるような気がしました」
「ぇ?」
「志保はボウヤにはやれないし、生涯の相棒にさせる事もさせない。 俺のコネをフルに使っても、な」
「何故」
「それは君が」
「永遠のボウヤ、だからさ」

赤井は降谷の台詞を奪うように答えてモスグリーンの瞳で新一を睨み付ける

「俺の意見も赤井と同じですよ。志保さんは犬猫じゃ無いでしょう。新一君の身体を治す薬を精製した事で彼女は責任を果たした。レディDrは組織の関係者ですが、医師として新一君の身体を治す協力をした。 研究データが満載のPCを押収出来なかった事だけは今でも悔しいですが。」
「ははっ! 巳恩のタブレットで見たが、君も君の部下もかなり悔しそうだったな。最もCIAにKGBの連中も来て居たが。」
「あの研究が日本の医療機関でどれ程の価値が有ったか、あんたにわかるとでも?」
「まぁ、な。 だが、研究のデータはホワイトカラーが、ー…… FBIにある知的財産犯罪捜査班の方ではなくて、巳恩の父方の親族の医療機関の通称の方だが。 そちらの機関が全ての権利を譲り受けた。公安の権力程度じゃびくともしないだろうな」
「全く。志保さんといいレディDrといい、夫々才能に秀でたご両親の血を引いてるだけに多才ですよね」
「特に巳恩は妙に負けず嫌いでな。 厳兄さんの名前で特別扱いさせるのを嫌って父親とは違う分野で博士号を取った。 病院や学校経営は父親がやり残した事だと言ってたが。 アルテミスは半分趣味嗜好の感じで楽しんでいるようだから別格として、スィーツショップとしてはこの店以外にもお気に入りが有るらしいぞ。ガブリエルという名前の店でなんでも苺のショートケーキが絶品だそうだ。 」

ガブリエル、という名前に安室は少し目を細める。

「スィーツが大好きな幹部二人に、とガブリエルのショートケーキにチーズケーキを差し入れた事があったそうだな。」
「あー… ははは。 後でアルテミスのオーナーだと知って冷や汗を掻きました。」
「だろうな」
「チーズケーキは自分の店の方が美味しいが、ショートケーキのふわふわ感だけはガブリエルのスポンジの方が日本人の口にあうと云っていたぞ。」
「あのお姫様が負けを認めるとは思いませんが」
「美味しいものは美味しいと認める事はするらしいな。ちなみに独逸での学会は来週だからウィーンまで行ってエカテリーナ宮殿近くのホテルに滞在してお気に入りのパンがあるか見にいくだろう」
「へぇ… 」
「黒澤陣と一緒に旅行した時に見つけたとかでデニッシュブレッドとかのリッチ系のパンが極上らしい。」
「それは知りませんでした。 今でもあるといいですね」
「そうだな。3食パンでも文句ない子だからな」
「あー… そうでした。 幹部同士で食事に行った時、和食禁止!とイタリア料理にフランス料理、独逸とか…。 ベルモットにたまには和食よ! と無理矢理ゴリ押しされた時に洋食じゃないなら1円も出さないと言い出して、ベルモットが和食なら全員分奢るわよ、と言ったら、超一流の料亭をシャロン・ヴィンヤードの名前で予約して、一人3万はするコースを当然のように注文してました…」
「ハハ… 3万、ですか」
「流石のベルモットも唖然としてましたが奢ると言った建前上人数分を…」
「ちなみに何名か聞いても?」
「ベルモットに俺にジンもいて追加で極上の日本酒を頼んでて…… 確か10名程で40万程だったかな」
「一晩で約40万? さーすがベルモット」
「食べないわけじゃないんだが、そこらは見事に父親の遺伝だな。巌さんは日本人だったから海外生活が長くてパン食になった。日本に移住してからも超一流の料亭に招かれて食べる事はあるが基本は洋食。外食する時は5ツ星ランクだったから舌は肥えているぞ」
「みたいですね。組織の情報として知ってます」
「まぁ、巳恩が和食をクリアしたのは藤代恭介さんが一流料亭の板前を張れる位に料理上手だったからだろう。 出汁をうまく使った和食と京都風の漬物が得意でね。亡くなったおばあ様が祇園で有数の料亭の娘だったとかでその血を受け継いだんだろうと笑ってたが、料亭を経営できる技術があるぞ」
「つまり料理上手は恭介氏と血のつながりがあるから?」
「それは知らないが有間邸には山程の果物と自分で作ったトマトソースとかジャムとかの保存食が沢山ある。冷凍庫にパンも常備してあるし。あと紅茶。 鷹を飼っているせいか綺麗好きで部屋は可也綺麗に片づけているし洗濯も自分でちゃっちゃとするし。流石に一人では手が回らないからハウスキーパーが掃除にきてるが」
「まぁ、一人暮らしをしても、新一君と違って食事は自分で作れるという事ですね。」
「そうなるな」」
「話を巻き戻しますが志保さんとレディDrは親の名前のプレッシャーを跳ね返しましたよね。ですが、」
「ボウヤはまだまだ雛のままだ。衣食住すべて親に掛かり切り。尻に卵の殻を付けたままだ」
「使える者は使わないと! それに事件現場では警察の方が呼んでくれるし」
「何か有れば全責任を取る、と、優作さんが言っていたのを知っているのか?」
「ぇ」
「目暮警部は降格処分になる所だったが、自分の馬鹿息子が招いた事件が発端だからという優作さんの嘆願書で半年の減俸処分で済んだ。佐藤刑事と高木刑事も子供たちを足しげく現場に近ずけた事で万一子供達の身に危険が及んだらどう責任をとる積りだったんだと、危うく降格処分か移動かとなったが昇任試験の資格が2年延期。警察機構において昇進試験の資格延期は負け組と同じでな。 延期処分の件は子供達のご両親へ通達が言ったから今後はベイカーストリートキッズはできないだろう。」
「ー…… まさか、そんな」
「子供達を巻き込んだのは君だ。止めようと思えば止められたのに巻き込んだ」

(そんな事は。 目暮さんも高木さんも佐藤さんもそんな事一言も)

「事件ホイホイ人間、というのは巳恩と志保が言った事でもあるが、自分の行動がどのように影響するかをしっかりと考えて行動する事を覚えるんだな。ローラーボードで突っ走って一般人に何人怪我を負わせた?」
「コナン君は事件が俺を呼んでいると言ってましたね。」
「ー…まぁ、本人が懲りない以上俺達が言っても無駄だが」
「じゃあ、ボウヤ達の事は暫く放置しましょう。回りが気を遣うだけ時間の損だ。あ、それからこのカフェの代金は俺が持ちます」
「いいのか?」
「ランチ代は赤井が払いましたから。これ位は払わせて下さい」
「ならば有りがたく」
「いえいえ。それにレディDrから思わぬ選別も頂きました。」
「そうだったな。」
「ー… これからどうします?」
「巳恩が帰ってくるまで有間邸の留守番だ。学会に鷹を連れて行く事はできないからな。」
「そうですか」
「君は」
「ボウヤを工藤家に送って、珈琲を飲んでいたという事を報告してマンションに帰ります。あのマンションで暮らすのもあと1ケ月程ですし」
「そうか。」
「戻れない可能制が高いので知り合いの不動産に売れるかどうかきいたんですが、それを聞きつけた警視庁の関係者が買ってくれるという人がいて、条件が合えば売る予定です」
「売るなら父さんに声をかけてくれれば居ぬき状態で買って貰ったのに。降谷さんが生活してたマンションは場所もいいしセキュリティもいいし。あの場所なら事務所にも使えー… っと」
「なんでもご両親に甘えるは止めろと云った筈だが」
「君の貯金で買えるというなら売ってあげますが、無理でしょう?」
「… そう、ですね。」
「はっきり言っておくが、君の言動は沢山の人の生活に余荒波を投げかけたという事だ。ボウヤのレベルでは志保の頭脳に釣り合わないんだ。」
「俺が、釣り合わない?」
「それと同じ事を平次ボウヤにも云った。 平次は確かに優秀だが大岡財閥の跡取り娘の婿に迎えるには相応しくない。と」
「何故?」
「平次君は確かに優秀だ。だが、紅葉嬢は跡取りで嫁には出せない。ならば平次君が婿入りをしてその間に生まれた子の一人に服部家の継がせる、という事はできるが、平次君にはあの巨大財閥の跡取りに相応しい度量も才覚もない。 財閥のコネを使って勝手きままに探偵業をしかねないと、巳恩は言ったな。 服部平次には葉っぱちゃんレベルの女性でいいのだと。」
「うわ… 」

新一は頭を抱え込む。

「欲しいなら愛人にすればいいとまで言い切ったぞ。まぁ、和葉さんが頭から湯気だす勢いでな。 平次なら大岡の家をもっと巨大化させる事位できる、と言って。」
「あ… ははは。 喧嘩するのが好きですね、有間先生は」
「ですが正論です。平次君もお父さんのコネを使う傾向が可也強いですからね。」

新一は溜息を吐いた。

「まぁ、要約するとレディDrは親の力で有名になって持て囃される人や、力で人を言いなりにさせようとする人が嫌いという事ですよ」

降谷がニコリと笑って場を収めた
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