氷壁の姫 Act-27 送別 前編
(今日で暫く、東都の景色ともお別れか)
降谷は展望台から見る景色を眺める
フライトの時間は17時過ぎだが、暫くの間は見納めになるかもしれないと早めに来て飛行場内をふらついて居る。
子供向けのショップから東都限定の土産物にファミリーレストラン。
日本らしさの演出でお茶席を楽しめる和風喫茶もある。
赴任地まで旅行を兼ねて日本横断ドライブ、とも考えたが、沖縄迄の一人旅は疲れる。
自慢のRXは昨日、マンションを引き払う時に引っ越し業者に頼んた為に今はまだ運輸業のトラックの中だろう。
沖縄に赴任してから2ケ月か3ケ月の間は県警が持っている官舎で暮らし、その間に借家を探す予定で、車の配送先は官舎の方に届く事になっている。
何も考えずにぼーっと展望台の日あたりの良い場所で景色を見渡す。
(エレーナ先生ー… 僕のしてきた事は正しかったんでしょうか…。 先生と御主人を殺した組織は壊滅しました。 でも上のお嬢さんを助ける事は出来なかった。上のお嬢さんが好きになったのは赤井秀一で、僕の事は嫌って、ロクな会話が出来なかった。 ジンに殺される事が解っていたのに手を打つ事が出来なかった。志保さんだって結局、助けて証人保護を掛けたのは赤井秀一だった。 巳恩さんは今だにジンへの想いを貫いてるから僕どころか赤井も、新一君の事すら嫌っているけれどー…)
幼い頃、虐められてて怪我ばっかりしていた時。
年上に立ち向かって擦り傷ばかりしていた僕をいつも優しく抱き締めてくれた。
「零君ー… 肌の色が違うからって自分を憐れむ事はダメよ?」
「せんせー?」
「世の中には学校に行きたくても行けない子が沢山いるの。」
「がっこうにいけない?」
「れーくんにはいじわるなお友達ばかりじゃないでしょう? れーくんが正しければ、何時かみんなわかってくれるわ」
「わかって、くれる?」
「零君。10人の中で一人が正しい事を言ってても、他の9人が違うと思えば正しい事が間違っていると思われる事があるの」
「そんなのヘンだよ」
「そうね。 だから零君は何が正しいのか何が間違っているのか、ちゃんとわかる大人になりなさい。 何時か、零君の力が必要になる日が来ると、先生は信じているから」
(明美さんー… 僕の力は、役にたったのでしょうか?)
(先輩ー… 向こうの世界でも新人たちを鍛えていますか?)
フライト当日の朝、広田雅美から宮野明美の名前と変わった墓と ”スコッチ” の墓参りをした時にも問うた言葉。
解答は今だに出ない。
「あ、居ったで! 降谷の兄さん!」
自分の不摂生というか、親にも内緒でカフェインを摂取して松葉杖がと眼鏡必須となった出席日数が足りなかった工藤新一とは番違って無事に進級した服部平次、トレードマークのニット帽で姿を見せた赤井秀一を見て、降谷は溜息を吐いた。
「俺が今日フライトなのは誰にも言ってない筈ですが」
「俺達は探偵ですから、と、言いたいですが、 お二方の前で探偵なんて言えないですね。 赤井さんが、今日がフライトだと教えてくれて。」
「随分と殊勝な言い方だね。いつもなら自信満々で、僕は探偵ですから此のくらいわかります。とか言いそうなのに。」
「ははっ。 まぁ、降谷さんの事だから向こうの土地勘を頭に叩き込む為に赴任の1週間か2週間前にはいくだろう、とは想像してましたけど。」
「まぁ、俺が無事に進級できたのは公安の兄さんとFBIの兄さんの御蔭やし。見送りは当然や。 最も親父の厳命で大学に進級するまで一切の事件現場への立ち入り禁止中やけどな。 まぁ、事件の事を聞いて推理する事は頭が錆びない為に認める、って言ってもろうただけええとしないと。」
「大学に進むのかい?」
「探偵になる為の事務所資金の援助の条件は警察官か弁護士か検事になる事やった。警察学校に入って寮生活をして10番以内で卒業して大阪府警とか京都府警、地方の所轄に配属されるかもせぇへんけど、親の後押し無く入って最低10年は下積み勤務せいってな。 自分で人脈を作れない探偵は役にたたないってどやされた。ついでに自宅開業はゆるさんってな。資金で最低一千万貯めたら親父が管理してるマンションの1戸を服部探偵事務所として貸してくれる事になっとる。家賃は最初の半年のみ無料であとはきっちり払うのが条件や」
「だから警察学校に行くのか?」
「当たり前や! 毛利のおっちゃんも大元は警察官や。 資格も何も取らんでいきなり探偵っちゅーのは世間知らずのするお坊ちゃんのする事や。だから降谷の兄さんも赤井の兄さんも警察官って事では俺の大先輩になるんやで! っちゅーても、俺も目標は公安に入る事でもFBIに入る事でもないけどな」
服部はガハハ、と白い歯を見せて笑いながらも何かしらを決めたのかキッパリという。
「親父が祇園の常連だったのはオカンも知ってる。それがある日藤代っていう人から出入り禁止を言われて、一時へこんで大変だったんや。それが何だったのか今ならわかる。 俺は、殺した人が日本人であれ、外国人であれ差別ない調査をして呼びだせる位の力のある警察官になる。そして西の探偵なんじゃなくて、日本で一番… 20年後には東洋で一番と自他供に認められる探偵になるんや。」
「ほぉー… 平次君は随分変わったな」
「まぁ。 実を言えば藤代の家…ちゅうか、鈴乃屋に直談判に行って、あの家の若主人の恭介さんと綾乃さんにコテンパンに滅多打ちされまして…」
「お前が?」
「本当はこっちが滅多打ちにしてやるつもりで剣道の道具一式持って殴り込みに云ったんやけどなー…」
平次が遠い目を見せる。
「恭介師範の棒術と綾乃師範の小太刀は遊びなんかやないで? オリンピック級の腕やった。 俺の剣道なんて子供の遊びや。」
「恭介さんの技術はそんなに凄いか? 巳恩の棒術を見れば想像もつくが」
「15分で痣だらけ。」
「服部が?」
平次は溜息を吐いて頷くと着ていた上着の袖を捲って青痣になっている腕を見せる。
「うわ… 」
「これでも大分薄くなったんや。 祇園を護るためとはいえ棒と剣なら絶対、俺の剣に部があるって思ったのは打ち合う前だった。 俺の呼吸に合わせて緩急使い分けてパンパン当てて来るんや。まぁ、公平を期する為にお互い竹刀にしおうと審判を申し出てくれた綾乃さんの意見を受け入れただけだったんやけど、向こうは防具付けないでいたから俺が手加減してたら防具の上からバッサバッサと撃ち込まれた。しかも! 片手やカ・タ・テ! それなら、と俺も防具外して挑み直したんやけど、本気だしてかすりもせぇへん。 3日程へんで、剣道やめようかと本気で考えた。 そしたらなー… 和葉は嫌ならやめればいい。平次なら親以上の警察官に成れるって言ったんやけど、 それをどこからか聞きつけた紅葉が伊織はんを御供に家に押しかけてきて容赦ない往復ビンタをした挙句、弱虫って一言いうたんや」
「往復ビンタ、に おまけに 弱虫 の言葉付き?」
「負けて悔しいと思わない服部平次はただの一般人や、警察官になっても役にたたないから高校卒業したら大学なんぞに行かずにそこらの企業に就職しろ、ってな。 大岡の下請け会社で一般事務員か営業で雇ってやるって言い切りおった」
「ははっ… 流石、紅葉さん…」
新一は口の端を僅かに歪める。
「俺は確かに大岡の家と釣合いの取れる男やないけど、警察官にむかないっていうのは癪にさわってな。 … 今は週に1回、恭介師匠が祇園の男衆相手に教えてる棒術の道場の弟子に加えて貰っとる。ちなみにあの、沖田が俺の兄弟子だったちゅうオチもあるで」
「沖田が?」
「おう。 偶々母親が海外の友人に送る小物を鈴乃屋に取り寄せを頼んでいて、代理で取りに行った日が、剣道の練習日で打ち会う音を聞いて、見学させて貰ったんやと。 沖田はもう俺とは違う剣道の道場に通ってたけど、どうしても通いたいって月に1度でも2ケ月に一度でもいいって頼み込んでそれまで通ってた道場をすっぱりやめたんだと。 恭介師範の棒術に綾乃師範の小太刀の前じゃ二人揃って子ども扱い。 綾乃さんの妹の豆乃さんが剣道家でこれまた女性にしとくにはもったいない腕をもっててな。道場を使う週末は師範たちが弟子の使う着替え部屋を掃除して、道場の床や板の間を自ら丁寧に雑巾がけして拭いているんや。弟子共に任せてられるかというて、素振りをする庭先まで掃き清めているんやで。 沖田も朝から姿を見せて拭き掃除から庭掃除に加わっているんやと。 俺が初めての練習の日に時間の30分前に云った時は沖田はとっくに素振りを終わらせてて、驚いたのなんのって。 俺も道場の拭き掃除から修行のやり直しや。 神棚の前で30分の座禅から庭先での素振り200回をしてやっと稽古を付けて貰える。 俺も高校生として可也自信あったんやけど、豆乃さんの前にでるとおっきい岩に立ち向かう小波に思えてな。 世間っていうものを思い知った。あの一家、侮ると痛い目にあうのはうちらやで。因みに始めたばかりのちっこい子たちは5分〜10分の座禅で素振りは道場の中で50回からなんだけど、座禅してる後ろで打ち会いや素振りの音で集中力がきれたら座禅の時間のやり直し。」
「その口ぶりだとかなりやり直しをさせられている口ぶりだね」
「沖田は座禅の最中は地震があってもピクリともしない集中力。俺は速く打ち会いたくて集中できなくて、最近やっと座禅のやり直しが無くなってきた所。 稽古が終わるともうフラフラで学校の部活と今まで通ってた道場がもの足りない位や。 で、道場に通う弟子たち専用の風呂を使わして貰って飯を御馳走になって帰るんや。ちなみに恭介師範の飯は料亭並に美味いで。漬物だけで丼飯3杯はいける。」
「食事も出るのか?」
「あぁ。 稽古の後はもう腹減って。 豚角煮や肉団子、豚汁、酢の物とか鍋の中に山っとあってな。 ただし、食事の人数は練習の人数で揃って食べるからバランスみて取り合うんや。がっつきすぎるとチビ共が泣く。」
「協調性も養える、と」
「おっきい連中が子供らの面倒を見るんや。賑やかだけど楽しいで」
「へぇ…」
「巳恩さんが、あの恭介さんと綾乃さんの弟子なら技術も半端ないやろうな。棒術でも立派な凶器になるで。祇園を守る旧家の血筋は芸事も武道も半端ない」
「それ程の腕の方に教えて頂いたとなると… 納得できますね。」
降谷がアルテミスでの事件の時を思い出していう。
「只、警備棒を持って立っているだけだったんですけど、隙が無かったんですよ。 ここから先に通れるものなら通ってみろ、っていうようなバリアのようなものがあった。」
「沖田が <巳恩さんとは棒術と竹刀で2〜3回立ち会った事があるけど、剣道の基礎も出来てるように見えた。本気で剣道をしたらあっという間に美人剣道家になれると思う> っていうとった。 最も、豆乃師匠がいうには、どちらかというと時代劇と歌舞伎の影響が強すぎて見栄を切るような殺陣の動きに近いから実践向きじゃないと言ってたけどな」
「ははっ! 巳恩は歌舞伎と昔の時代劇が好きだからな。 梨園の知合いから桟敷の券を貰って歌舞伎座に行くときは決まって着物だ。」
「へぇ…」
「あの藤代の血筋なら着付けができて当然でしょうけど、医師の仕事の合間に観劇ですか?」
「梨園の大御所、ご意見番とも称せられる大物たちが競うように演目スケジュールを1年先まで送ってくるんだ。 若い弟子たちの健康診断とかもJRHに一任した程巳恩を贔屓客の上位に格付けしているからな。 巳恩もそのスケジュールを見て初日だけは絶対に携帯の電源はオフ。変わりに他の日は夜勤だろうが緊急だろうが仕事の嵐」
「そこまで好きなのか…」
「まぁ、巌兄さんのお母さんが祇園の舞姫と言われた程の天才舞妓で、巳恩も歌舞伎の御大たちの前じゃ、組織の幹部として迫力なんか消え去って凄く可愛かったしな……」
赤井は京都で舞妓姿だった時の置屋を思い出す。
黒曜石のような瞳を輝かせて歌舞伎界の人気を競う御大たちの舞を見ていた。
簪にサインをもらって頬を染めて、福玉を貰って嬉しそうに持ち歩いた。
「因みになまだ俺の話には続きがあって、オカンは百人一首の女王の座を退いてからも着物での所作事を忘れない為に藤代宗家の日舞を習ったというとった。けど、有間博士の事件以降出入り禁止を言われたんや。所作事を覚えるだけなら他の流派に移れ、といわれたって」
「ここにも飛び火をしてたのか…」
「藤代流の師範になるのも近いって言われてたオカンだったから親父と大喧嘩して一時夫婦中が冷え込んでな―… 俺が幼稚園の事だったんやが、一時冷戦状態で。」
「小母さん強いもんな」
「で、それなら大阪県警でトップの立場になったら迷宮入りになりかかってる事件を追うって約束してな。 これからってその矢先に工藤がちっこくなるヘマしでかしてくれたおかげで捜査は暗誦に乗り上げた。」
「わーるかったな!」
「興味本位で事故現場ばっか覗き込むとこうなるっていう反面教師やな」
「まぁ… 巳恩と志保の努力をブチ壊してくれた坊やだ。 ー… 巳恩からの報告を受けたリハビリの医師が烈火のごとく優作さんと有希子さんに怒鳴り込んで、治療の打切りを申し渡したと聞いた」
「おかげ様で。リハビリステーションの予約は一切取らせないといわれました。」
「はん? なんかしでかしたんか?」
「治療中のカフェイン摂取禁止を破って珈琲を飲んでいた。」
「そら見放されて当然やな。ノンカフェインの珈琲をコッソリ、っちゅーのなら話は違うけどな」
「今は飲んでねーよ。てか珈琲メーカー相変わらずキッチンに置いてあって、冷蔵庫の奥にいれて置いた豆やブラック珈琲の缶とかがあからさまに見える所に置かれるようになったけどな。しかも俺の好きなメーカーの缶コーヒーをここぞとばかりにダースでキッチンにおいて、治療は終わったんだから好きに飲め。 お祝いに新一の好きな珈琲豆と缶コーヒーを買っておいたってな」
「巳恩は公私の区別は付ける筈。 医師として患者を見離すとは思えんが」
「痛みがピークになった時に個人営業のリハビリ療法師の住所とそれまで服用していた薬を3日分と代用できる薬のリスト、送ってきました。」
「へぇ…」
「父さんが調べてくれたら属にいう隠れ家的な療法士で保険適用外の医師でした…」
「巳恩さんらしい…」
降谷はくすっと笑った。
「で、授業の後、3日に1度通ってます。 父さんと母さんに頭下げて、治療費を出してもらう事にしました。 法学部に行って、犯罪心理学と法律をきっちり修める予定です」
「工藤?」
「どちらにしてもこの足じゃ警察官は無理だしな。夜勤は視力が低下する。灰ー… 宮野みたいにすぐに物理を覚える事は無理だけど、弁護士を目指せば探偵になれるだろうしな」
「この間会った時はまだ子供のような事を言ってたのにな」
「ま、何時までも子供じゃいられないと学習したんだろ」
「巳恩さんが聞いたら今頃目をさましたの、と、笑うでしょうね。何しろ、新一君の事を親の7光とか博士の眼鏡やスケボーがなければ解決できない、と、一刀両断した子ですから」
「有間先生だって、亡くなったお父さんは世界屈指の天才外科医ですから親の7光だといえるでしょう 」
「確かに父親が天才外科医で、その血を引いているのを否定はしないが、14で遺伝子工学博士号を取ったのは人一倍努力した成果だぞ。厳さんは心臓外科を目指したが巳恩の最終目標は遺伝子治療。 今は外科を含めて実践で知識と信頼を積み重ねている段階だと言っていた。」
「まぁ、医者は患者の命を預りますからね。 探偵は知識が有れば何とかなります。」
「降谷さんまで」
「生活に不自由のない資産があった、組織でのバックアップがあったというのも事実だが、自分の趣味と学業両立はなかなかできないだろう。 新一くんは趣味を優先させて出席日数は常に留年ギリギリだったと、優作さんが嘆いていた」
「有間さんは多彩ですよね。学校経営も出掛けてる。 学校の方も、クオリティはかなり高い」
「特に医学系に力を入れてるが、来年開校の大学には医学部と薬学部の他に法学部と犯罪心理学を併設する。小学校は無料。中学生は一部無料教育で、高校生からは奨学金に返済不用の特待生制度。 リスクの高い事業だが、知名度は右肩上がり。」
「物好きですね。そんなのに金かけても自己満……っと」
新一は赤井と降谷に冷たい視線を向けられて口が滑ったと、黙り込む
「新一君は本当にお坊ちゃんですね」
「ぇ?」
「足長おじさん基金と同じなんですよ。 入学に関しては片親だったり、孤児だったり、里子だったりー…… 家庭に事情の有る子を、差別をされてしまいがちな子を受け入れている学園です。 何年か経ったら日本有数の学園都市になるでしょう。君に資産があったとして、できますか? 」
「でも、俺には学校の教員とかにコネなんてねぇし」
「あったらやりますか?」
「んな、面倒な事しねぇって。文化庁とか教育期間への登録とか土地を探すなんて面倒だし。学校は生徒を集める為に必死な時代だろ? 子供の絶対数が少ないし優秀な教師を雇うのも大変だし」
「巳恩にはコネがあった。資産もあった。だが、コネだけで膨大な土地を買えると思うか?」
「普通は無理でしょうね。」
「だが巳恩はやり遂げた。 そして、今年の春の全国一斉模擬試験で、生徒全員が1000番以内に入った。試験人数2万超えの中でトップランクの学校として名前が掲載された。 学校の青写真も病院建設も、元々は父親の描いた物。 学校建設は父親の死で一時中断してご破算になるかと思ったが、巳恩は迷う事なく後を継いだ。」
「まぁ、新一君には出来ない事、というのは事実だと思いますよ。」
「だろうな。コネがあったら全部事件収集に使うだろう」
「へぇへぇ。俺にはできませんよ」
新一は不貞腐れる。
「そういえば、蘭さんはどうしてます?」
「蘭? 蘭は……」
殆どの教員とPTAが自主退学を勧め、多数決でも同じ結果だったが、一部の教員とPTAがやり直す機会を与えて欲しい、帝丹が見捨てたらやり直す場所が無くなってしまう。自分を見つめ直す場所が必要だと庇ったのだ。
だが、このまま進級しても納得しないのがPTA。
停学処分を受けて1ヶ月が過ぎたある日、学校から呼び出しがあった。
復学の条件として、公共物破損を含む暴力的行為、体育系部活の禁止、最低3ヶ月は週1回の学年主任との面談、卒業するまで月1回の家庭訪問に加えて月1〜2回の精神科でのカウンセリング。
そして1年の留年を言い渡された。
受け入れる事が出来ない場合は自主退学し、外部の編入試験を受けてもいいが紹介状は出さない、今まで支払った授業料は蘭が壊した備品等の修繕に当てられてそれでも不足が生じている為、返金しない。
加えて再度1年分の授業料の追加の支払い。
という結論だった。
何度も協議を重ねて、妥協に妥協を重ねて出た結論。
推薦が貰えないなら季節外れの編入は難しい。
奨学金の有る学校も有るが、転校の詳細を聞かれるだろうし蘭の名前は知らなくてもニュースの事件は知ってるだろう。
今の毛利家の財政で新しい制服やら何やら一色取り揃える余裕も無い。
夜間定時制高校か通信教育高校にすれば授業料も押さえる事が出来て、昼間はバイト、というのも考えたが、両親の仕事上、世間体が悪かった。
2ケ月の謹慎処分という、学生にとっては可也長期の処分を経て、蘭は復学した。
だが、良く顔を見せれるものだという生徒や父兄の言葉が待っていた。
幸い、新一と同じクラスにー… 問題児はまとめて、と判断されたらしいがー… なったものの、副担任が廃部寸前に追い込まれた空手部の顧問で蘭を目の仇のように監視する。
文句を言えば、もし、万一怒りに任せて机を壊したりしようものなら警察沙汰になるのは目に見えている。
蘭は必死に耐えてー… 昼もどこかで一人でひっそりと食べて、戻って来る。
新一とはまた別次元で耐えている。
「随分と厳しい処分だね。」
「でも、少なくても虐めにはあっていません。 クラス全員からスルーされているのも確かですが授業で当てられすぎるとか無視されるとはありませんし、授業態度は正直、いままでよりもいい。 部活を禁じられて帰宅部になっていますけど。 俺よりいいかもしれません。俺は1年通して20日以上の休みをしたら成績が良くてもまた留年、と、学校に言われてます。 遅刻早退は両方で2週間。天候に寄る交通麻痺は除いてくれるそうです。 テストはクラスで10以内を卒業迄キープする。 まぁ、成績は兎も角、早退遅刻は厳しいです。校内に居る間はスマホ類はロッカーで、昼間だけ使用可能。 」
「20日って、じゃあ今日は自主休講か早退かい?」
「今日は俺が学校に説明して特例にして貰ったからノーカウント。事件で彼の命を守った恩人の一人が地方の支部長に栄転するので見送りさせたい。飛行機が飛ぶのは5時だから午前中はしっかりと高校生をさせて来た。今日の分は土曜日に補講だ」
「土曜に補講なら1日休講にして欲しかったです」
「馬鹿言うな。 そこまで甘やかす義理は無い。」
「有間には、激甘な癖に」
「巳恩は君の様に何でもかんでも甘える事は無いからな。それに 基本的に巳恩からのコンタクトは無い。」
「赤井は、少しはコミュニケーションが取れるようになったのか?」
「歌舞伎の初日の送り迎えを義務化されているがそれ以外の付き合いはないな」
「ここでも歌舞伎…」
「着物姿で運転は出来ないからな」
「赤井さん、良いように使われてませんか?」
「かもしれないか、それが巳恩を繋ぎとめておけるなら送り迎え位幾らでもするさ」
赤井は平然と答えて、新一と平次は顔を見合わせて首を垂れた
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