氷壁の姫 Act-30 天邪鬼
「アラーム? お前のバイクのアラームか?」
「って! あのバイクに手ぇ出してるヤツラがいるっちゅー事か? ならとっつかまえてぎゃふんといわせなあかんやろ! 弟分としてここは俺が撃退してー…」
「落ち着きなさい、平次。 バイクのアラームならハウスの警備員が飛び出して捕まえているわ。」
「へ?」

腕まくりして立ち上がる平次に呆れた声で止める巳恩。

「ならば今のアラームは?」」
「飛行場の領域内には取り扱い注意の重機とか燃料とかを保管してある場所があるのよ。それを盗ろうとしてこのハウスの警備員に成りすまして危険物を持ち出すような不届きものが稀に出没するの。 だから、飛行場の航空警備課と連携してハウスの周囲をカメラで監視しているし、密輸や密入国を防ぐ為に警備員も配置してるの。珠〜〜に麻薬犬の訓練で犬達がくるのよ。 私も医師の卵としてレディとカノンを同行させて訓練に参加させて貰った事があるけど、犬たちが工藤新一と違って躾が良いから賢くて可愛くてし… っと、話がそれたわね。 とも角、 このハウスも飛行場の警備課のアドバイスに基づいて警備員を雇ってるのよ。 許可証無で地下の移動ルートを使ってゲームをしようとする―… 一言でいうと暴走族連中が出没するから、逮捕術に優れて銃の使用許可を持っている警視庁OBの猛者連中や機動隊出身の警備員が私服で定期的に巡回しているのよ。」
「途中に工藤の名前が聞こえたんは忘れるとして、ホンマに色々と忙しい姉ちゃんやな」

赤井の言葉に巳恩が苦笑して答えた時、パパパパっと、展望台を囲むようにLEDのライトが点滅を始める

「日の入りの時間ね。」
「さっき話していたイルミネーションライトか?」
「そうよ。 アラームはLEDが点灯する5分位前の時間にセットしただけ。 飛行機の命は管制塔だけど、このライトは展望台みたいな役目よ」
「ほぉー…?」
「<行ってらっしゃい>と見送って、<おかえりなさい>と出迎えるの」

そして南の方から高度を下げつつ戻ってくる1機のジェッ ト機がモールス信号のようにライトを2,3回点滅させてハウスの上空を滑走路に向かって行く

「ああ、ほら。 あの飛行機のパイロット。ただいま、とライトを点滅して行ったわ。ライトを点滅させるパイロットはこのハウスのLEDライトの事を良く知っている人だわね。 あっちで今、東に向かっていくあの飛行機ー… あむろんが搭乗している筈よ。 定刻より1時間程遅れなの。 搭乗予定のお客を乗せた電車が人身事故ストップしてバスやタクシーでに乗り換えるお客が数珠繋ぎで渋滞遅延したから。」
「そういえば…」
「毛利蘭が云ってたわ。 東都電で飛行場直通電車に乗ろうとしたらが人身だかなんだかで停車して各駅停車になった挙句大幅に遅延して見送りに行けないって言ったもの。定刻発だとあむろんのように午前中からふらつくか、新一坊やように午後から早退以外は可也の人数が間に合わなかったはずよ。 バイクで高速の合間を縫って飛ばした時に抜いたバスにイライラと時計をみている客がいたわ。 電車で行けない人たちがバスに乗り換える人も可也いたの。 滑走路が空かないから燃料を多めに積んでいる飛行機は上空待機とか有った筈よ。 今は旋回してる飛行機の姿もないから混雑は終わったようね。」
「そう言えば、坊やを連れてった時に電車の遅延と部分的な運行中止案内が出始めていたな。あの時か」
「でしょ? 帰り道も混んでるだろうからレストハウスに寄ったの。 夜景の中を飛ばして帰ってもいいと思ったから。 鷹は組織選抜の管理人が餌をやって小屋の掃除もしてくれているし」
「鷹の兄妹は元気なんか?」
「えぇ。とっても! 2回程鷹匠の所でお見合いさせたんだけど、兄妹そろって知らんプリしたから諦めたわ。適度に飛ばせてるから眼鏡にかなった子がいたら連れて来るでしょうしね」
「成る程な。 あのレディとデユークの子供だ、気も強くて美男美女なんだろ」
「よくわかってるわね。」
「そりゃあな、昨日今日の付き合いじゃない。レディには散々世話になったしな」
「沖縄は羽伸ばしに丁度良いわよ? 赤井も付いていけばいいのに 崖の上からマスタングとダイビングが出来るかもしれないわよ?」
「車との心中は御免だな。 沖縄旅行なら兎も角として、そう簡単に巳恩に会えなくなるのは耐えられ無い」
「あら? 飛行機代に不自由ないでしょう?」
「それは否定しないが」
「まぁ、帰りの足は兎も角としてー……」

と、巳恩はコホン、と空咳をする。

「明日は、アルテミス・ジャパンのオーナーとしてホテルの企画運営担当者との打合わせが有るの。店にも顔出しするから、一般人として来る時間があるなら、もしかしたら会えるかもしれないわね。」
「それは、赤井さんに来て欲しいってゆう事と同じやで!! と、もとい、事じゃないですか?」
「まさか! 売り上げに貢献して貰うだけよ。 藤代の先代のお爺様が下さった縄文杉のテーブルに傷を付けたジョディスターリングと工藤一家と毛利一家は同行者が誰で有ろうと出入り禁止。テイクアウトのケーキを買うだけなら黙認するけど、毛利蘭が顔を見せたという報告はないわね。」
「ジョディ先生も出禁って 何やらかしたんや?」

興味深々と聞いた平次に巳恩はくい、と赤井の方に視線を巡らす。

「ー… 有間邸のリビングにあった縄文杉の1枚テーブルをただのアンティーク家具と思って銃艇で傷を付けた。10センチ… いや15センチ位に渡って力任せにな。 …今、藤代の宗家を通じて紹介して貰った宮大工に頼んで写真を見せて、宮大工が有間邸に状態を確認にきてー… テーブルを作った宮大工はもうなくなっていたがその直弟子が屋久島に在住していてな。 ものがものだけに現物をみないとなんとも言えないと云われて東都まで来てくれた。 先代の作品に手を付けるのはと迷ったようだが、大切にしているのが分かったようで、修復をしてくれる事になった。今頃は宮大工の工場で傷み具合の確認と必要な資材の取り寄せをしている頃だと思うが」
「縄文杉は今じゃ伐採禁止やからも骨董商の資格がいる筈や。 先生も馬鹿な事をしたなぁ」
「所詮アメリカ人の御馬鹿さんね。 日本が好きといっても歴史を知ってる訳じゃない。 縄文杉のテーブルをたかがアンティークと云ったのよ。」
「そらまた災難やったなぁ。 で、テーブルを修理に出してる間はどうしてるんや?−… ですか」
「赤井がFBIで押収した美術品からこれぞというのを見せてくれたわね。 けどどれもこれも華美過ぎたり小さかったりの帯に短し襷に流しで、居間にしっくりくるまともなのがなかったの。 赤井の上司にあたるブラック捜査官がFBIにある美術品専門で捜査をするホワイトカラーのチーフに相談したらしくて、押収品として期限が切れてオークションに出す予定になっていた直前のヒマラヤ杉のテーブルはどうだと見せてくれて。素封家限定のオークションだったから建築士が磨き直した後だったけど、現物を見たら、年月による艶もあったから貰ったの。」
「貰った?」
「そ! 最もオークションに出品予定だったから公式には開始額の600万程で私の名義で購入した事になっているわ。 でも実際は送料も購入費用もスターリング捜査官の給料天引き。 FBIの美術品の盗難を専門に扱う捜査チームに協力している元犯罪者がこれならどうだ、と折り紙を付けた一品もので飴色で艶やかな風合いのテーブルよ。縄文杉が戻ってきたら藤代に送って京都料理のお店で使って頂く予定なの。 因みに現物を見に行く飛行機代の往復はファーストクラスでFBIの支払いよ。」
「ファーストクラスって…」
「当然でしょ? テーブルを傷つけたのは赤井の部下で同僚よ。 故意に傷つけたんだから」
「ジョディは当分ゲームとかに金を掛けれないだろうな。組織壊滅作戦の危険手当てと報酬の残りは全部消えた筈だ。 自業自得だろうが修理費用は500万近くの見積もりだが、費用の半額をこれは上司である俺とジェイムズ、その場に居合わせたキャメルで負担する事になった。 材質に見合った鑢とか膠とか必要になるらしい−… 磨き直しも一部じゃなくて全面しないと色が変わると云っていた。―… 京都料理の店は、予約制という南禅寺の近くの?」
「正解。 予約と云っても奥座敷で女将さんが手ずから給仕するレベルのVIPの方々の特別室用よ。 スターリング捜査官は少しは懲りる方がいいわ。 私だってクレー射撃が好きだからゲームセンターでシューティングゲームに熱中するのが悪いとはいわないけど」
「そういや藤代一家は皆クレーするんやったな」
「おじ様と恭介兄さんは見事な腕前よ。 綾姉さんも豆乃姉さんも嗜む程度に楽しむわ。 私もね。」
「巳恩の射撃の技術は中々のものだったな。あれだけ撃ち落せたらその気になればオリンピック選手になれる程だと思うが」
「冗談! クレーはただの遊びよ。」
「まぁ、明日、は時間が取れたらアルテミスに行くとしよう。 会える会えないは別として素でお前に会える確立があるなら行く価値は有りそうだ。」
「赤井が来たいならよ止めないわよ」
「なぁ、姫さん?」
「姫さん?」
「姉さんの方がええならそう呼ぶで? 事実、道場の姉さん弟子だし! けど、みんな藤代の末姫って呼ぶし! どう見ても 姫、として思える話し方やし! かといって姫様って感じじゃないし! 姫さんなら名前の略とかもありそうやし!」

ワタワタとした平次に巳恩は小さな溜息を吐く

「ま。いいわ。 何か聞きたいの?」
「えと。 その。  俺もー… アルテミスに寄ってええか?」
「平次は今日、大阪に帰るんじゃなかったの?」
「その、なぁ。アルテミスと聞いて思い出したんやけど、 実はー… 以前、工藤からアルテミスのケーキをオカンにって土産にもろた事があるんや。 オカンが凄く喜んでな! 今回は新幹線で来たからお気に入りのカレーのレトルトとアルテミスのケーキ、買って帰ったらご機嫌とりー… やない、 喜んでくれるかと。 カプセルホテルなら予約なくても5000円位で止まれるトコがあるしな」
「カプセルホテルって…。ホテルを探すならアル・アマーニに声を掛けてもいいわよ? シングルの一部屋位なんとでもなるから。 それに平次は出禁にはしてないから遠慮はいらないわ。 出禁にしたら紅葉に泣き付かれるものね。」
「そら嬉しいけど節約せなあかんからな! カプセルホテルっちゅってもそれなりのホテルがあるんやで? ってー… 紅葉?」
「大岡財閥は先代以前から呉服商・鈴乃屋の上顧客よ? 梨園や政治家にもご贔屓筋がいるの。 いくら私でもその紅葉のお願いを無碍にはできないもの。」
「そらどーも…」
「お礼は紅葉にいいなさい。 最も、葉っぱちゃんは何かあったら即出禁推奨ってあっさり言ってたけどね」
「ー… ホントあいつら相性悪いなぁ… 」
「平次がグズグズしてるんだから当然でしょ! 紅葉程の家柄の娘がどうしてお前みたいなのを好きになったのか分からないわ。 財力は親におんぶだっこで父親がオエライさんで止める事ができないのをいいことにドヤ顔で事故現場にしゃしゃり出る。 財力と親の権力は新一ボウヤとおんなじね」
「えろーすんまへん。けどな! 今は自粛してるんやで」
「それは報告を受けてるわ。 新一ボウヤと違って今は頑張って勉強に専念して大学もそれなりに目指してるようだから、そこだけ認めて上げる」
「そこだけかい!」
「あら? この私が認めてあげてるのに文句でも?」
「おおあり… いえ、 ない、です」

巳恩にジロリと睨まれて慌てて言い換えた平次の漫才にでもなりそうな会話に赤井は楽しそうな顔をする。

「赤井? お前の事も出入り禁止にしてもいいのよ? これでもアルテミスのオーナーなの。」
「悪かった。 お前が楽しそうなのは久しぶりだと思ってな。 それに、あそこまで嫌ってる毛利のお嬢さんを空港に送るなんて予想外だった。」
「ま、ね。 あそこで顔を合わせなかったら送ったりしなかったわよ。 美味しいケーキブッフェで胃も満足して機嫌も良かったしね。 元はあむろんのご贔屓店よ。 あのショートケーキだけはアルテミスに真似できないわ。 最も素材で使う粉とバターが違うんだから当然といえば当然なんだけど。勿論、チーズケーキとチーズスフレに関してはアルテミスの方が上だという自信があるけど」
「まぁ、自分のした事を認めないのはどうしようもないが、謝るタイミングを逃してしまったら謝れないのかもしれないぞ」
「毛利夫妻は教育を間違ったという事よ。 工藤夫妻のようにね。」
「蘭ちゃんな、確かバイトするっていうてたで」
「バイト? バイトが出来る高校生といえど元・空手高校生女子チャンプの毛利蘭の噂と顔は知られているのに、この東都で雇う人がいたの?」
「なんていったかな? 高級料亭のドアかなにか壊して、その弁償金を払う為にその店でバイト? するらしいで?」
「ー… あ、そういえば、ヨーコさんの番組の同行者できた時に難癖付けた寝ぼけ探偵が放心してた時に適当な場所に放り出してこいって頼んだ事があったわね。 後からどこかの料亭近くて抛り出してきたって聞いたわ。 そしたらお財布とかスマホとかぜーんぶ後部シートにバラまいてたとかで、戻って探すのもなんなのでお財布の中の金色の名刺の住所に届けてきたって報告を受けたわ。」
「それや! その料亭の女将さんと若女将ってのが沖縄空手の使い手で、蘭ちゃんをボロ負けさせたんやと」
「へぇー… 見たかったわね、毛利蘭が負ける所」
「けど、あの蘭ちゃんより強い人がいるとは思えんけどなぁ… なんせコンクリを割って電柱をへし曲げるのはいかな俺にもでけへんし…」
「自分は強い、という油断でしょ? 私だって合気道も棒術もそこそこだとは思ってるけど、自分が強いなんて思ってないわよ? 銃の才能だってジンの方がー… くやしいsけど赤井の方が上でしょうし? 財力というなら大岡財閥や鈴木と比べたら月と鼈。」
「だが、お前には自ら磨き増やした知識がある。 経営者としての才もある。どれもこれも自分で培ってきたものだろう」
「基本はお父様が弾いてくれたレールの上を走ってるだけ。あの病院の礎を築いたのはお父様。学校のアイデアを話してくれたのはお父様。お父様の名前は偉大すぎて、私が越えるのはまだまだ先よ」
「… それが解ってるなら、お前はもっと大成するさ」
「え?」
「父親が青写真を描いた学校を形にしたのはお前だろ? 忙しい合間を縫って土地を見つけ、教育委員会に掛け合い、見積もりや設計図を見せて自治体の協力を取り付けた。」
「それは私の力じゃない。 藤代のおじ様方がいたからよ。 無きお祖母様を贔屓にして下さっていた梨園の御大たちがご贔屓筋の会社に声を掛けてくれたから。 私の力じゃないわ」
「それは過小評価というものだ。 お前は十分評価されている。 あの病院だって、その気になればお前が牛じる事が出来る。学園の経営もな。 けれどお前は経営に関しては基礎を提案しただけで後は回りの意見やアイデアを次々と盛り込んでいるだろう。」
「そ、そう?」
「医師としてはまだ若いのは事実だが先に伸びしろがある。 お前の遺伝子治療の研究が花を咲かせたら臨床実験に入り、実が熟したら遺伝病で苦しむ人が減るだろう。 その時、お前は医師として本当の意味で厳兄さー… 有間博士を越えるだろう。 元々、博士のテーマである心臓医学とは違う道だ。 じっくりと研究を続けていけばいいと思うぞ」
「ー… 赤井は本気でそう思ってるの? 私が目指しているのは10年や20年でできる事じゃないかもしれないのに」
「勿論。 それにお前は有名になろうとはしていない。 年齢的に騒がれているのは受けるしかないが、厳兄さんも若くして難しい手術を成功させていたからな。」
「でも」
「お前が医学雑誌に投稿する原稿は有間巳恩じゃないだろう? 黒澤巳恩と名乗ってる。父親の名前に頼ってない。それだけで凄いと俺は思うがな」
「…盛り過ぎよ」
「そうか? お前は俺の大切な従姪だ。 今更だが、俺はお前が好きだ。」
「っ!! な、なにを、突然っ」
「聞こえなかったか? 俺はお前が好きだ。 赤ん坊の時保育器の中で生き延びようと頑張っているお前をみた時から、お前を護ると決めたんだ」
「って! い。一体いくつの時よ! 赤井はペドフェリアだった訳!? いっとくけど私、光源氏は大っ嫌いなのよ。 源氏物語が名作なのはおいといてね」
「あまりな言い方だな。 俺はお前を葵の上にするつもりはないぞ。 第一育てたわけじゃないからな。 お前を手にいてれる為に100日の間毎日通えというのなら深草の少将になってもいいが」
「ー… 頭が痛くなってきたわ。 赤井と話してると時々可笑しくなりそうよ…」
「それは残念だ。 俺は本気なんだがな。 それに俺が告白したのは平次君が証人になってくれるだろう?」
「証人って… 本気なら他人のいる前でいうもんですか! 私が愛してるのはジンで、ジンが私の後見で私を育ててくれた人でもあるから、ジンが光君なら許すけど! ―… 現に世界中に女性がいたし… ジンの女になる為にどれだけ努力したと思ってるのよ! 第一、深草の少将は小野の小町の家に99日しか通わなかった筈よ」
「あー… 姫さん。ジンが属にいうロリコンとかは?」
「思わないわ。 私が先に好きになったんだもの!」
「聞くだけ野暮やった…」

平次は溜息を吐く

仲がいいんだが悪いんだか…

人前で平然と好きだとか深草の少将になってもいいと云う当たりは揶揄っているのかもしれないが、大切におもっているのは事実である事を平次は知っている

(まぁ、赤井の兄さんが藤代の姫さんを好きっちゅーか、庇護対象として大切にしてるのは事実やし、姫さんだって本気で嫌ってたら変装したって近寄らせないやろうし… 喧嘩する程仲が良いっちゅーしなぁ)

平次は不毛としか思えない会話で遊んでいるとしか思えない2人をみてため息を吐いた
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