氷壁の姫 Act-32 対価
「ー… 降谷さん? 局長から預かっているのがこれです」

料理を出し終えて見送りはいいという萌花が車に乗ってそのライトが見えなくなるまで確認して、家に入り、ゆっくりと食事を摂る。
萌花の作ったソーキ蕎麦にラフティに海鮮類の味噌汁。
母親が得意だというゴーヤチャンプルーに祖母が作ったというお赤飯と可也贅沢な夜食である
軽く食べて来たとはいえ、心の籠った料理がおいしく無い訳がないし健康な男性が2人である。
料理を味わいたいのでビールは1本だけにしてテーブルに出された料理を綺麗に完食した。
テーブルの上を片付け、お湯を差すだけのドリップ珈琲ー… は勿論、降谷が淹れた。

そして、珈琲を半分ほど飲んた時に、小さく溜息を吐いた風見が開封したらわかるようになっている小さな箱を見せた。

「鍵は赤井捜査官が降谷さんに渡した手紙の中に入ってるとか」
「! あぁ、確かに。どこの鍵かと思ったがこの鍵か」
「はい」

慎重に鍵を開ければ鷹が描かれた深紅のUSBが収まっている

「嫌な予感がする。これを持たせたのは」
「国家公安委員長から警視庁出勤最終日に渡されました」
(局長ねぇ…)

「そういえばー… 辞令の話があった翌日に有間巳恩さんと会いましたよ」
「巳恩さんと?」
「有間の専任弁護士と護衛を引き連れてきたんですが、その護衛が警視庁のSPに引けを取らない動きでした。サングラスをしてて顔は100%判別できませんでしたが」
「あー… 彼女は組織のドンが半端なく可愛がっていてー… 半世紀以上経って産まれた女の子っていう事もあって幹部連中が蝶よ花よで至れり尽くせり。 京都の縁戚も末っ子呼びして猫可愛がり。 日舞やお茶は京都の縁戚が教えたんだよ。」
「へぇ…」
「英語、独逸語はいうに及ばず数か国語を流暢に操り、社交ダンスに乗馬にハープとピアノにクレー射撃。日舞にお茶に香道に華道にお琴… だったかな。あと絵画」
「そりゃ…なかなかと多才というかなんというか。 彼女、医師が本業ですよね?」
「もっとも本人曰くのコミュニケーションツールの一つらしいが。」
(という情報の出所は赤井から聞いた事だが、それを知ったらどんなしっぺ返しがくるかわからないしな)

思い出したように頬を掻く降谷。

「あー… つまり、だな。 白の組織はドンを頂点としてそれぞれ青龍、朱雀、白虎、玄武、とチームが分かれてるから<四天王>と呼ばれている。―… これ位なら公安も把握してるだろう?」
「その程度でしたら各諜報機関も把握しているかと思いますが」
「だろうな」

降谷は頷いてゆっくりと珈琲を啜る。

「四天王のトップはドンの血を引く直径の子孫が率いている。 現在の朱雀は女性。朱雀は医師を志すメンバーの集合と聞いている。 これは偶然の産物なんだろうが幼い時から医師を志した巳恩さんは朱雀の後継者と云われていているよ。 直径の子孫は何名かいるらしいが朱雀を継ぐだけの才能と技量を持っているのが彼女だけらしくてね。下手したらドンの座につくんじゃないかとー…」
「は…? え?? ドンは健在なん、ですよね?」
「ドンの所在は不明。 ダイレクトに会えるのは4天王のみで朱雀の候補と呼ばれている巳恩さんですらまだ、直接は会いに行けない。 巳恩さんが朱雀を継げばいつでも会えるようになるらしいけどね。 こればっかりは情報が錯綜し過ぎでさすがの俺にも分からなかった」
「犯罪組織ではないと聞きましたが」
「端的にいえば世界中で通用するスペシャリストの教育機関だな。 白の協力者は世界中にいる。 そしてだれもが自分が協力者だとは気付いてない。」
「降谷さんも赤井捜査官も存在感は在りますが、彼等の動きも視線も鋭すぎるのがやっとわかりました。」

思い出したかのように身震いをする風見。

「そんなに凄かったか」
「一般の刑事はガタガタ緊張しっぱなし。あの目暮警部も冷静さを保つのが精一杯のようでした。 俺は必死で顔を合わせてましたが」
「へぇ… あってみたいなその連中」
「おれは懲り懲りです。 場所こそ警視庁のVIP専用応接室でしたが。 中学を卒業したのような子が秘書のような人を1人つけただけであのメンバーの中であれ程の存在を持つなんてどこの姫かと思いました」
「姫、ねぇ…? 例えは間違っていないが彼女は普通の女の子、だよ? 京都の旧家の血をひいてたり、今だに謎な組織のメンバーだったり。 あのジンを後見にして海外で飛び級やら何やらで育ったから特殊といえば特殊だが」
「京都のー… あぁ、祇園の鈴乃屋、でしたね? 確か皇室のように代々遡れる旧家でしたよね? それだけでも特殊すぎやしませんか?」
「まぁ、困った事に自分がどれだけ特殊なのか、あのお姫様は自覚してないし、分かってないからね。」
「でしょうね」
「ついでに今更だが彼女は16歳。」
「16…? まだ遊び惚けても赦される歳ですよね? … とも角、降谷さんと赤井捜査官が気にかけるだけあって、堂々たるものでしたよ。護衛のような連中は部屋の前に二人と、部屋の中に二人。 最初から空気のように存在感がなくて最後まで無言でした。」
「空気?」
「革靴なのに殆ど足音がしないんです。存在感はあるのに気配を感じませんでした」
「…まわりに溶け込むという事か」
「だと思います」

降谷は鷹のストラップが付いたUSBをくるくると回す

「PCは梱包を解いてないし、安全を期して予備のタブレットで閲覧したいがこの形状のUSBの接続端子を持って来てない…」
「家に戻って取ってきましょうか?」
「ん… それもなぁ… 彼女の事だからタイムアウトエラー設定にして、クラッシュしてもいいPCを設定して差した時には消えてる、という事もありえるし」
「はは…」

風見の乾いた声に苦笑した降谷は少し考えてビジネスバックを取り出すとノートパソコンを立ち上げた

「コピーは出来ない特殊仕様のを使ってると言ってました。」
「まぁ… そうだろうな。 彼女が掛かわってる時点で必要な事は頭にたたき込め、という事だ。 ここに入ってるデータならDVDに全部落としてあるし、Wi-Fiの電源をいれて接続しなければPCとリンクしない。彼女だって馬鹿な事はしないだろうしな」

降谷はカチリ、とUSBを差し込む
少し経つと予想道理にホルダーが出てきて動画が入っているのが見て取れた。
セオリーに通りに開くかどうかのダイヤログが表示され、少し諮詢した降谷はOKのボタンをクリックした。

更に数秒してホルダーの中の動画が再生を始める


「はぁ〜い、あむろん、元気ぃ?」

暗転した画面に程なく表示されたのは他ならぬ巳恩
画面一杯にハートの枠が描かれて、横に一緒に映っているのは国家公安委員会の委員長と強面で有名な黒田参事官だ

「これを見ている、という事はタイムアウト前にかざみんから無事にUSBを受け取ったという事よね。配達ご苦労さま。」

にっこにことご機嫌な巳恩は闇夜を染めたような漆黒の詰め襟チャイナだが件の話に出た四神が刺繍をされている
そして右上に点滅しているタイマーはバーボンの瓶の中に数字が書かれて今日の12時にタイムアウトになるように減っていく。

「ふ、降谷さんをあむろんって…」
「お前も気の毒だな かざみんって… お前、彼女に何をした?」
「局長に呼ばれた時にお客様で一度会っただけです。」
「どっちの」
「警察庁警備局企画警備課と警視庁公安の両局長です」
「はぁ!?」
「2人とも彼女に頭が上がらないようで」
「警視庁に検察庁… 一体どんなコネがあるんだ巳恩さんは」
「俺は知りませんよ。―… でも俺は有間巳恩の名前は聞いた事はあっても顔は知らなかったー… というよりジン・デイジーは宮野志保と同じ位の年齢と思ってたので、この子供は何をしでかしたんです? って聞きましたが」
「<かざみん>呼びはその所為だな。彼女は子供扱いを嫌う。医師としてビジネスマンとして1人でも十分生活できるだけの能力がある」

降谷は溜息を吐く。

<んふふっ 感動の対面は過ぎたかしら? ともあれ、このUSBを見てるという事は、かざみんはあむろん恋しと沖縄まで行ったという事よね?>
「ー…」
<あー、いっとくけど、沖縄にトバされたのは私の所為、だなんて言ったらどうなるか、わかってるわよねぇ?>
「ー…」
<かざみんもよ? 愛しの新婚奥さん、可愛い人よねぇ?>
「ー…」
<かざみんに送られた写真、原因は勿論あむろんの責任。 絶望の淵に立たされて死んだのも、怨嗟で裏の世界に行ったのもみーんなあむろんが上に相談もなく決めた個人プレイ。>

風見が見せた写真と同じのをぴらり、と画面で見せる。

<私がコレをどうして持ってるかー…知っているか、なんて野暮な質問は無しよ? あ。あと、こーんな写真も持ってるの>
「(!!)」

ぴらりとみせられた写真に降谷は息を止める

<お前たち公安は非合法な事しかしないから恨まれて当然、 自分の蒔いた種を刈り取る事もできやしない。 護る事もできなかった。 志保の事だって、後手に回ってFBIに送れを取った。 ボウヤの依頼で非合法な事も散々やったわよねぇ? 最も、その行動の一部は黒田さんが黙認したようだけど?>
「!ー… (俺はー…)」
「ー… (それでも俺は)」

<ま、そんな事はどーでもいいわ。お前達より階級が上の幹部連中はあむろん達が一般人の工藤新一の頼みで非合法の行動をしてきた事を把握してるもの。 工藤新一が逮捕拘束されないのは彼自身も被害者である事と、公安と警視庁が紛争し、工藤夫妻が日本に戻ってきたからと宮野志保の供述書があったから その上で彼が壊したものに関しての損害賠償請求を認め、工藤夫妻が支払うという事で情状酌量が出ただけよ。>
「ー…」
<私が持ってる証拠を裁判所に提出すれば未成年とはいえ逮捕されるのは目に見えているわ。有罪には成らないけど、少年院にいれる事は可能。そうなったらあむろん、お前も捌かれる立場になるわね>
「ー…」
<それを私がしないのは警視庁と警察庁と契約をしたからよ。彼らが契約を反故にしたら工藤新一とお前の手は後ろに回るわ。 毛利蘭はすでに社会的制裁の渦中にあるから彼女次第ね>

顔色一つ変えずに淡々と話す巳恩

<でもね、こうみえても私、貸しを作るのは嫌いなの。 アルテミスで寝ぼけ探偵を押さえてくれたお礼に家の方にはリビングウェアを送って置いたわ。2階に和室があると聞いたから畳も新しくして置いたわ。 リビングは私の好みだからあむろんの趣味とは合わないかもしれないわね。 気に入らなければ棄てて良いわよ。 あと、怨嗟の渦で裏に飛び込んもうとした人達は白の組織でそれなりの手段を困じてあげたから安心なさい。>

ぐ、と手を握り締める風見

<あむろんに奪われた人生を、かざみんの愚かな行いが原因で自らその命を立ち切った。>

「ー… 彼等は! 今、どこに居る!」

画面に向かってさけぶ風見
だが、画面の中の巳恩は冷たい視線の儘答えない。

<あー… そうそう。 こちらで保護した時、彼等は薬に手を出していたわよ? 禁断症状でリストカットもしていたわ。 薬中毒で正気を無くせば、最悪でも無期か終身刑ー… 死刑には成らないってケラケラ笑ってたわ。 モテる男はつらいわね。 家族を失った両親は後追いしたと聞いたわよ?>

「俺を恨むなら恨めばいい! どうしてー… どうして降谷さんを! 萌花を!」
「風見! 落ち着け! これは録画だ」
「! 降谷、さんー…」
「これ位で狼狽えていたら公安なんて務まらない」
「ですが」
「下手に詮索すればそれをネタに今度こそ懲戒処分になるだろう。 俺達がしたように。公安得意の違法捜査であらぬ疑いと証拠を偽造されてな」

二人の会話に構わずに画面の中の中の会話は続く

<因みに、沖縄はぼんやりとしてみえるけど琉球とか呼ばれて琉球王朝とかあっただけに犯罪者の巣窟もあるの。軍の上層部が銃の密輸とか、繁華街の地下でカジノに観光客とかに春を売ってぼったくり。 海に逃げ出したら海路に寄っては捕まえるのが一苦労>
「!!」
<軍の基地に出入りできる業者とかー… 本国じゃないからと、羽目を外して、仕事が終わって遊ぶ時、女好きな海兵隊は自分が鍛えてるのをいい事に沖縄の女子学生を強姦したり、酒場で暴力ふるうとかねー… 犯罪率は高いわよ?>
「ー…」
<あむろんは観覧車の上でファイティングできるんだから、海兵隊を取り締まるなんて簡単でしょ? もっとも海兵隊はライフルバック背負ってないでしょうから、勝てないかもしれないわね>
「!!」

<あらあら、画面の向こうで息を飲んでるかしら? 赤井はライフルバックを背負ってあむろんは身軽なシャツとズボン。それを同等の勝負と思うなんて、可笑しいと思わなかったの? どちらが強いなんてわかりきってる事よね。 ねぇ? 局長もそう思わない?>
<ー… 確かに降谷は勇み足が過ぎる事も多いですー…。 ですが公安への合格率はとても低く、降谷の警察学校での成績は歴史的レベルで飛びぬけておりました。 ー… 喪い難い人間なのですが>
<あら、かばうの? つまり私達の情報はもういらないという事ね。>
<い、いえっ! そうではなく、ただの合格率の話として>
<ま、それはどうでもいいわ。 あむろんから降谷、に昇級したかったら自分もライフル背負って同じファイティングができるようになったら連絡して。 もしくは赤井が軽装、あむろんはジーンズにライフルバックで勝つ事ができたらあむろん呼びを止めて上げる>

苦虫を潰したような顔をする降谷

<あら、いけない! 局長の所為で肝心の話題が横道にそれちゃったじゃない! >
<それはー… 申し訳ない>
<ま、いいわ。 ちょっとしらべさせたら、腰かけの公安支部に綺麗な部屋を用意するのは経費の無駄使いって言われてるそうね。>

くすくすと画面の中で笑う巳恩

「経費の無駄ー…?  本当か?」
「あー… えぇ。それまで倉庫扱いの部屋だったので。簡易キッチンは備え付けでしたが長く使って無かったので水流の出が悪くて。 先日水道業者に依頼して水とお湯がでるようにして貰ったばかり―… 大きな窓がありますけど誇りっぽい部屋です。 キャビネは廃棄した方がいいようなのしかなくてとりあえず本棚のようなものが一つ。 」
「予想はしてたがー… 経費面でも苦労しそうだな…」
 
<でねっ。 これから何年在籍するか分からないんだから私からの栄転祝いで県警出入り業者に依頼して部屋の壁の塗り直しさせてを新品同様にするように前金で全額払ってあげたから、楽しみにしときなさい。かざみんが帰署してから業者をいれる手筈になってるの。 明日はかざみんは公休日よねっ 気になって様子を見に行ってもキープアウトで公安支部には入れないように署長命令をださせたから諦めなさい。>

るんるんと楽しそうに話す巳恩に降谷は深い溜息を吐く。

(そうだった。 こーゆー子だった。 仕事に追われている時は回りの声も聞かずに患者の事しか考えない。 遊ぶ時は目一杯遊ぶ。 人を揶揄う。 …全く赤井は厄介な子を抱え込んだもんだ… )

<それから、部屋のレイアウトは私好みにさせて貰ったわよ。沖縄だけあって広い倉庫だけあって弄りがいがあって楽しかったわ〜。>

(…んだと? まさかと思うがレースフリフリとか女の子の憧れというロココ調とか。 いや巳恩さんに限ってそんなレイアウトはしないだろうが… いや、彼女の財力ならアールデコにしてしまう事も可能だろうが…)

背中を嫌な汗が流れる。

<キャビネも新しいのを送ってあげるわねっ。 栄転祝いといえば胡蝶蘭よね! トバされた人間の為に内装工事をするような人がいるって事で、すこ〜しは署内での立場もかわる筈よ? トバされた人間に栄転祝いを送る人なんていないもの>

「ほ、本気ですかね、この子? 胡蝶蘭ならまだしも内装業者って」
「巳恩さんの事だから内装は事実だろうな。全く彼女はどこまで沖縄県警の実情を知っているのやら。 先が思いやられるな。 ま、内装は兎も角、PC位はあるんだろうな?」
「それだけは局長が新調してくれました。降谷さん用に1台とノートが1台です。サーバーを取り付ける余裕はないので今は外付けハード位しかありません。 TVとか応接セットは経費が来月に成らないと計上されないので未購入です」

<ー… と、いう事で楽しみにしておいてねー… あ、そうそう沖縄県警の副署長ー… 軍との繋がりが深いわよ。>
(!?)
巳恩の話はぼんやり片耳で聴いていた降谷だったが、いきなり切り替わった話題に瞬時に公安としての顔に戻る
<署長は清廉潔白ー… とはいえないけど、ポールダンスの店やゲイバーのショーとかご夫婦で見るのが面白いという程度なので罪にもならないわ。何しろ娘さんがポールダンスの日本大会に出場しているんだもの。 ツアーでゲイバーのショーを見に行く程度で取り締まられたら何人の男性が捕まる事やら>

巳恩の言葉に降谷と風見は顔を見合わせる

<食わせ物といなら副署長。備品係の責任者は同じ穴の貉。公安なみにゆるっゆるの備品保管だから保存期間とか色々書き直して持ち出してブラックマーケットに売っているという噂よ。 これが証拠写真。 署長は個人的に不正を調べているようだけどまだ証拠は掴んでないようね。 押収した備品の中で高く売れそうなものをブラックマーケットの用意した粗悪品と入れ替えて在庫数の書き換えとかして軍と金銭とか情報とかで引き換えに渡してるの 通帳のデータはこっち。 不良海兵隊とか使ってね。偽品係りの責任者は女好きで妻以外に女の人に入れあげていてそこを突かれてしたがっているという感じ。 海兵隊で 繋がりがあるという思われるのはこの7名ー…>

パパパパ… と画面が切り替わると数字が振られた顔写真と名前と階級が表示される。

<7名のうち最初の一人は女性への暴行で不名誉除隊。アメリカの軍刑務所に収監されているからスルーしてもいいわ。2番から4番は自分からは進んではやらないけど安全と分かったらお金で転ぶタイプ、 5番目は脱走兵として軍を不名誉除名処分にされた後は行方不明。 アメリカの自宅に戻った痕跡はない。 この5番目が食わせ物で、見た目は色男であむろんのようにハニトラで女性をひっかける名人、だそうよ。 それから6と7はー…>

メモを取る暇を与えずにサラサラと説明をする巳恩

<ま、左遷祝ー… じゃない、栄転祝いの手土産としてはこんなものかしらねー。>

「(彼女はなんでそんな情報を教える?)」

<ちなみに情報料は頂くから安心して。>
<致し方ない。一応、公安の沖縄支部長として栄転して貰った以上、早々に手柄のひとつふたつは立てて貰わないと沖縄県警に侮られる>
<今回は降谷の栄転記念のスペシャルサービスで局長と黒田管理官の期待以上の情報だった筈よ>
<確かに。感謝する>
<―… 私達の情報は公安の把握してるデータよりも精度が高いの。 公安の信用度を取り戻す協力をしてもいいけど、それは、情報に見合う対価次第ね。>
<承知してる。>
<結構。 じゃあ、今回の話はここまでね。>

巳恩はゆっくりと笑みを深くする。

<それからあむろんからも対価を頂くわ>
「!?」

<このUSB―… 一世風靡したナイトバロンの真逆の改良型ウィルスを仕込んであるの>
「「!! ナイトバロン!?」」

<どのPCを使ってるか分からないけどー… このUSBを開けた時にウィルスの注入が始まって保存データをしこたま転送してくれるようになってるの。どれ程の情報か分からないけどそれが対価よ>
「なんだって!」
<ちなみにUSBは昔懐かしスパイドラマTVのように自動的消える仕様になってるの 簡単にいうと、 ”このディスクは自動的に消滅する”  という台詞がピッタリ。 じゃあね、あむろん、かざみん。東都に遊びにくる時は病院に立ち寄って頂戴。 健康診断位ならタダでしてあげるわよ じゃあ、月下の花咲くバルコニーでまた会いましょう>

どこだかの怪盗のようなセリフを言ってちゅっ! と投げキスをすると手首をしゅっと首に走らせる。
画像を斬れ、というサインなのだろう。
画面がブラックアウトして壁紙に戻らずに黒い画面になる

「ぬ、抜けませんよ、このUSB!」

ナイトバロンの台詞と同時にUSBに飛びついた風見だがどうゆうシステムなのかがっつりと張り付いている。

「あ、あんのクソガキ医者〜〜〜〜っ!! どれだけ苦労して集めたデータだとっ」

降谷はシュウウ… と差し込み口から小さな煙を上げ、基盤がガコンと嫌な音を立ててDVDを入れるスペースがカシャリと開いて、キーボートの一部が溶けだしたノートパソコンを見つめる
重要データそのものは複数のDVDにコピーしてあるので新しいのを買えばいいだけだが、HDDディスクは2テラ内臓という特注品の軽量ハイスペックで資金は山ほど次ぎこんだ。

個人PCは3テラのオールインタイプ一体型の大型で外付け4HDDは10テラのデュアル画面の超高性能だがノートにリンクできる仕様になっている為、電源を着けた途端にどうなるかと思うと当分の間はセットができない。

「少し見なおしてやろうかと思ったが、今度会ったら思い知らせてやる!」

ギリギリと奥歯を噛みしめる降谷。

「風見」
「は、はひ!?」
「泡盛がある、といったな? 氷は!」
「あ、あります。洋酒はご自分でと思ったので買ってませんが。 氷は直ぐにできませんからスーパーで買ってきたのを一袋、製氷室に。えと、枡におちょこに徳利も…」
「上等だ! 付き合え!」
「は!?」
「初日に大切なノートをぶっ壊されたんだ! 同じのを特注したら納品まで1ケ月はかかるからな。」
「ふ。降谷さんっ」
「明日は公休と言ってたな!? ゴーヤにラフテーは十分に摘みになるからな」

ぶちん、ときれた降谷を見る。

(だ、ダメだ。付き合わないと。 ってか! こわれてもいいような古い中古のタブレットかノートを用意しときゃこんな事にはっ)

風見は溜息を付くとスマホを取り出した。

今夜は帰れそうもない事を伝える為にー…
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