Act-06 従姉弟 後編
長い黒髪と黒曜石のような輝く賢そうな瞳。
分かる人が見ればブランドものと分かる仕立てのよい服はブルーグレーに近い黒のワンピースでバックは銀と黒とツートンカラー。
年齢的に無理がありそうな大人びたデザインを見事に着こなしている。
傍からみれば女優の卵がモデルの卵かという位均整のとれた躰付きはスポーツで鍛えているのだろうか。
これから出国なのか、窓から外を眺めている。

(髪の色も瞳の色も違うのに、ルナ姉さんによく似ている。 否、厳兄さんの血を引いているんだから、黒髪に黒曜石の瞳でも可笑しくはないが)

帰国審査を通り、カフェで珈琲を飲み煙草を吸って一息ついて家に戻ろうとカートに大きなバックを置いて飛行場内を歩いていると 背後で悲鳴が上がった。
バタバタと俺の横をすり抜けていく若い外国系の男が血相を変えて走って行く。
振り向けば男にぶつかったのか尻もちを付いて倒れた女性と、女性を助け起こした通り縋りの客の姿。
駆けて行く男の背後を制服の警官が追って行く。

「危ない…!」

男の駆けて行く方向の窓際に外を見ている少女。

男は少女に突進するように向かうと羽交い絞めにするように盾に取り、他の乗客が悲鳴を上げる。

「!!」

驚いて鞄を落として目を見開く少女。

だが、―… 次の瞬間、俺は目を疑った。
少女は男に捕まれた手を逆手で捻りあげるようにして避けると、くるり、と回転させるように躰を屈めて、事もあろうに、綺麗な足で股間を蹴り上げて床に叩きつけた。
どうみても非は男にあるが、見事な股間蹴りは女の子がしてもいいものなのだろうかと思ってしまう。
持っていたカバンが床に落ちて中から飛び出してきたリップが、俺の足元まで飛んできた。

「相手をみて掛かってくる事ね。お間抜けさん」

股間を押さえて蹲ってる男に冷たく云い放つとバックを拾う少女。

「お手柄でしたね、お嬢さん。 此奴は密輸グループの一人なんですよ。」

くすくすと笑いながら男を抱き起しながら手を後ろにして手錠をかける警官。

「大した事なんかしてないわ。 最も突然だったから手加減せずに蹴りあげてしまって、暫く男性機能が使えないでしょうけど」
「ー…ぷっ」

少女の言葉に回りにいた幾人かが笑いを堪える。

「全く。 出発前に余計なおせっかいをしてしまったわ」
「出発前? これからご旅行ですか?」
「留学中の一時帰国よ。Vaterが今、搭乗手続きに行ってるわ」
「それは… できれば、調書をお取りしたかったのですが」
「無理な相談だな」
「Vater!」

(Vater? 父親、なのか? この黒髪長髪の男性は?)

俺の後ろから少女と同じ黒髪の男が人並みを分けて入っていく。

「フライトは1時間後だ。 大した事をしてねぇのに調書だなんだと煩わしい事は断る」
「しかし、ご協力して下さったのは事実ですし。」
「Vaterの戻ってくるのが遅かったのが悪いのよ。 30分もあれば済むっていっといて、もう45分近くたってるわ。」
「前の客がモタモタしてやがったんだ。挙句、爪切りだの小型のナイフセットだがセキュリティにひっかかり預けてた」
「その人もお馬鹿さんだわね。」
「同感だ。 まぁ、協力は市民の義務とでも思え。持ち込む荷物は殆どないとはいえ、手荷物検査はあるからな。 行くぞ巳恩」
「あん! 待ってよVater!」

シオンと呼ばれた少女が搭乗ゲートに向った父親に向って小走りに走る。

(あの子もシオンという名前なのか。 偶然とはいえ他人の空似とはよく言ったものだ)

「っ・・と。 君! 待ってくれ!」

俺は足元に転がってきて拾っていたリップを去りかけた少女に向けて差し出す。

「違ってたら申し訳ないが、このリップは君のじゃないか?」
「あ… 何時の間に…」
「さっき、見事な足蹴りの時にバックから落ちたんだろう。」
「見られていたの? ありがとう。 このリップ、Vaterがお誕生日に買ってくれて、とても気に入っているものだったの! 後で無くなったのに気づいたら落ち込む所よ」
「それは良かった。」

少女はリップを鞄にしまう。

「何をしている、巳恩」
「今、行くわ。 このおじさまが、さっき落としたリップを拾って下さったの。 Vaterが誕生日に買ってくれた個数限定のお気に入り」
「そうか。」

長髪の男が立ち止まる。

「礼は、言ったのか?」
「勿論よ。」
「なら、行くぞ」
「うん。」

シオンと呼ばれた少女は鞄から小さな袋を一つ取り出して俺の手に乗せた。

「拾って下ったお礼。じゃあね、おじさま。それでも舐めて疲れを取らないと、目の下の隈が酷くなってしまうわよ」
「おじ……」

俺は言い返そうとして、少女がすでに父親の腕に絡みつくように傍に駆け寄ったのをみて諦めた。

少女にパパと呼ばれたあの男。
長髪の所為で顔は良く分からなかったが、何故か危険な臭いがする。


手に置かれた小さな袋には色とりどりの金平糖。

(ルナ姉も金平糖が大好きだった。 色とりどりの砂糖の塊。 沢山の種類と沢山の味。 季節限定のもの。 親が離婚する前の小さな子供の時に、京都に旅行をして人目で気に入って通販などでも買っていた。 金平糖は両親が分かれる前の幸せだった頃の記憶。あの子も金平糖が好きなのだろうか。)

何時か、会えるだろうか。

ルナ姉が大切に護りたいと願っていたあの子に。


俺は遠くに消えて行く、ルナ姉の子と同じ名前の少女、ルナ姉が好きだった金平糖の好きな少女を見送って、任務に入る為に意識を切り替えた。

(俺はFBIの潜入捜査官。厳兄さんがテロに自ら所属していたのなら、その組織を潰す。ルナ姉を殺した奴等を潰す。 そしていつか必ず、巳恩を探して、もし、無事に生きているのなら保護をして護ってやらなくては。)

(その為なら俺は、組織に潜入する為の手段は択ばない)

俺は諸星大の家に帰り、普通の生活に戻るべくバス停に向かった
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