Act-08 想い
「随分と元気になったな」
「秀一? どうしたの? 今日は平日でお仕事でしょう?」
「昨日は来てやれなくて悪かったな。 抱え込んでる事件の機密会議があって本部をでたのが真夜中だったんだ。 だから、今日は午後出社にして貰ったんだ。 捻挫は完治したようだし、昨日も今日も熱は出てないとDrが言っていた」
「ん―…… まぁ、ね? 正直、翼を出して姿を消して、ここから消えるのは簡単なんだけど… 助けてくれた保証人に迷惑かけるのは本意じゃ無いしね」
左の肩から腕にかけて白い包帯が巻かれているが、鋭いナイフで斬られた痕はすぐに治らない。
姿は子供だが、赤井と一緒にいる時は対等の口を利くようになった。
実際の年齢は赤井よりも遥かに年上だが、大人の姿になっても、赤井より2〜3歳程年下に見える。
「それにね、毎日来てくれなくても大丈夫よ。 病院には救いを求める魂が沢山残っているの。今の私には一人ずつ話を聞いて道を示してあげる事しかできないけど、元の姿になって集中治療室で先の短い患者さんの夢の中で翼を出して魂の安らぎと祝福の口付けをしてあげる事ならできる。 ドミニオンズとして力を使えたら、簡単に上の世界に導てあげられるのに、なんて歯がゆい事」
「属にいう霊魂が視えるというか、人の躰の中に入れるというのか?」
「人の姿をしていても天使なのよ? 迷ってる魂が視えるのは当たり前でしょう! 死に直面して今日明日の命の火を灯している人の恐怖を消してあげる事は私達の義務よ。 死後の世界を恐れている人たちが迷わないように、少しでも安らかに眠れるように祈るのは私たちの仕事。 そして、新しく産まれて来た命に祝福を。天授を全うした魂に生まれ変わりを。そして殺されて恐怖の中でなくなった人たちの魂に安らぎを。」
凛、として答える少女の瞳が輝いて、躰からも金色の輝きが見えるような気がして赤井は笑みを浮かべる
「なんか変な事でも言ったかしら?」
「いや。 ―… らしい、言葉だと思ってな。ヴィーの躰が輝いてみえた」
「輝く?」
きょとん、とした顔を見せる見かけ通りの顔
「なら、俺が死んで迷った時、君が傍に居てくれるのを期待してもいいか?」
「え?」
「俺にはまだやる事が残っている。 そしてそれはとても危険な事なんだ」
「秀一程強い人が弱音を吐くの?」
「俺は強くなんかない」
(俺は明美を見捨てた。任務に失敗し明美を見捨てて、アメリカに戻って来てしまった)
「秀一? 何を悩んでいるの? 貴方の心が泣いているわ?」
「分かるのか」
「云ったでしょ? 私達は感情の動きには敏感なのよ」
「そのうちな。 ―… 室内はエアコンが効いているとはいえ廊下は冷える。 風邪をひくぞ」
赤井は病室から持ってきたカーディガンを着せかける
「ありがと。 でも一つ訂正すると、天使に体感温度は関係ないの。 服も自在だからロリータから流行アニメのコスプレからヘビーメタルまで秀一のお好み次第よ。」
「ははっ! 確かヴィーを助けた時はロリータ風だったような気がするが」
「子供の姿は見た目的に誤魔化しやすいのよ。 魂を導く時はロリータ風にふわふわな姿か、あるいはマリア様のような姿の方が喜ぶのよね…。 宗教絵画の影響かしら?」
サンルームでの日光浴。
本当は外にでて、ダイレクトに日の光を浴びる方が治りも早くていいのだが、医者に見咎められて傷に触るから、と優しく諭され、最上階に作られた入院患者用のサンルーム兼談話室を案内された。
窓が広く、セルフサービスでお茶を入れる事も出来るので長期の入院患者は自分の好きなメーカーの珈琲等を持参で来たりする。
「―… ほら」
小さなサーモポットとマグカップを差し出される
「これは?」
「お前を助けた駐車場の隣は俺の行きつけのレストランでな。 そこのレストランの人気メニューのアーモンドミルクココアだ。 マスターに頼んで分けて貰ってきた。 明後日、退院したら一緒に礼に行くぞ」
「ココア?」
「救急車で飲んだだろ? それにチョコは嗜好品だと云ってたからな。 それとコンビニで買った純粋蜂蜜100%の蜂蜜飴だ。 デパートの蜂蜜専門店で何か買ってやろうかと思ったんだが、好みが分からなかったから、退院したら買ってやる」
「ありがと!」
蓋を開けるとアーモンドとチョコがミックスされた甘い香り。
「美味しい…」
作ってくれた人の想いを感じる。
昔、とても苦労した人。
今は回りに恩返しをして、美味しい料理を作ってる。
「良かった。ココアなら飲めそうだな」
「え?」
「病院の栄養管理師からシルヴィアちゃんはアメリカの食事に慣れてないようで、殆ど残すから心配だ、と連絡が入ってな……」
「―…… ごめんなさい。 食べれないわけじゃないの。 確かに人が食べる分には美味しいのだと思うけど、食材は全て加工されたものを使っているでしょう? それは私たちの力にはならないの。 私達は元々、太陽と月の光があれば食べなくても平気なのよ。 人のようにお腹がすくという感覚はないから。 秀一が持ってきてくれたココアのように美味しいとは思えないの。 」
「便利というか不便というか……」
「マスターのココアのようにね。優しさや思いの籠ったものは別なの。 チョコだって加工食品だと言われたらそれまでだけど、嗜好品だからこそ好みがあるのよ。 キャリーは嗜好品の中でもゼリーが好きだったわ。 果実をふんだんに使ったゼリーがね。」
「キャリー、とは?」
「私のパートナーよ。7の位になると天使はパートナーを見つけるの。そのパートナーは時々変わるのだけど、キャリーと私はほぼ同時にランクが上がって、人間でいう幼馴染というか姉妹というか。」
「腐れ縁、というやつか…」
「まぁ、そう言ってもいいかしらね。 キャリーはあの時、無事に戻った筈だから、今頃花園でチビちゃんたちを鍛えている頃かしらね。」
「チビちゃん?」
「最下位の天使たちには名前が無いからチビちゃんと呼ぶのよ。 何も知らない9位の天使に名を与えると魔族に囚われやすいから。8位になって、セラフィム様から名前を付けて頂くの。 私やキャリーは女性系だけど、男性系を好む仲間もいるわ。4位になって、真実の名を与えられるのよ」
「なにが何やら… つまり、天使にも階級があるという事でいいのか?」
「そう。 私は8位になって、シルヴィアという名を貰った。キャリーは本当はキャロラインというのよ。」
ふふっと、笑うシルヴィア。
「この話はここまでよ。気が狂っていると思われてしまうわ」
「大丈夫だ。 幸い、今はサンルームのこちら側には俺達しかいない。」
「それでも、よ。 秀一が知りたいのは私の怪我の原因でしょう?」
「―……」
「病室に、戻りましょうか? 秀一が信じるか信じないかは別として、事実を知る権利が貴方にはあるものね」
「分かった。」
赤井は自分が思った以上に告白を聴ける、という事に少し驚いた。
だが、事実として、
逮捕した少年たちが少女を拉致した場所として証言した場所と、少女が休んでいたという場所と一致しており、その時はすでに怪我をしていて、その治療をしてから幼い少女が好きな好事家に貸し出して金儲けを考えていた事も証言として調書をみた。
そのマンションには麻薬を打たれて逃げたくても逃げられない少女が3人いて、一人は家出中で捜索願いがでており、2人は孤児院から逃げ出した子供だった。
さらに、シルヴィアに該当する年齢の子供の捜索願いに入国記録、宿泊記録も無い。
ましてや、自分の目の前で、翼をもつ年頃の娘の姿から少女の姿に成ったのだ。
現実主義者とはいえ、超状現象を信じざるを得ない。
「ねぇ、秀一。」
「ん?」
子供らしく手を繋いで病院の廊下を歩く姿は年の離れた兄妹か従兄妹同士か。
金色の髪と金色の瞳
黒い髪と翠の瞳。
「私、本当に秀一と一緒にいてもいいの?」
「何故、そんな事を?」
「だって、秀一は私が記憶喪失じゃないって事を知ってるじゃない。 まだ飛べないけど、翼を出せば普通の人からは見えなくなるし、躰のサイズだって、自在に変えられるし基本的に食事も必要ない。だから、放り出してしまって構わないのよ?」
「理論といえば理論だが、俺が身元引受人として書類手続きをした以上、放り出すのは無理な相談だな。 今、ジェイムズを通して、斬られたショックで親の名前や住所が思い出せないようだ言ってあるから、法的手続きが終わり次第、シルヴィア・ラウルス・ノービリスとしての戸籍を作成する事になっているからそのつもりでいろ」
「分かったわ。」
シルヴィアは溜息を付いた。
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