Act-09 魔族襲来 前編
肩を斬られたのは不覚だった。

天界を襲ってきた魔の一族。
迷った魂を最初に導く役目のチビちゃん(8位以上の天使達は9位の天使をチビちゃんと呼ぶ事もある)―…… の、天使達が襲われて魂を吸い込んでいく。

「ヴィーっ! 大変よっ! スローンズのお姉様やお兄様たちのエリアまで総防衛出撃ですって!」
「何ですって! 3位!?」

萌えるような赤金髪の少女が戦用の装束で駆けてくる

花畑で色とりどりの華を摘んでいた金色の瞳の少女の一人が立ち上がり、少女の周囲で花を摘んでいた天使たちが騒めく。

「ヴィー姉様! キャリー姉様! 花園はどうなってしまうのですか!?」
「魔の一族がまた!? 怖いよ…!!」
「大丈夫よ。チビちゃんたち。 この花園にいる限り、魔の大王でも手は出せない。 良い事!? 9の位のチビちゃんたちは絶対に花園から出ては駄目よ!」
「はい!」
「プリンシパリティーズが他のチビたちを此処に誘導してる! ドミニオンズは門を護れって命が出てるの!」
「分かった!」

ヴィーと呼ばれた少女が首に下げたネックレスに口づけをした瞬間、躰が金色に輝いて兜に弓、背中には銀色の矢、腰には細剣が現れる。

「キャリー、出るわよ! 盾をお願い」
「護りは任せて!」

片手に光の水晶で出来た銀の大きな盾を持つパートナー。

キャリーと一緒なら魔の一族なんて怖くなかった。
夫々定められた空間を護るのがドミニオンの仕事。

万一私達が破れたらスローンズのお姉様やお兄様たちが居る。
さらにその背後にはケルビムのお姉様とお兄様がいる。

天が破れてはならない。
天が破れた時、地上は無くなる。

でも、この何十年か、悪の心が増している。
大地が怒り、天が怒る。
血の女神が爆発しても人の心は神々の想いに気づかない。
自然を侮るなと教えているのに何故人々は気づかない?
地が乱れれば天が乱れる。
天が乱れれば地が乱れる。
人を育て植物を育てる大地が怒る。
恵みの雨を降らせる天が轟いて雷を起こす。


「キャリー! 上っ!」
「え!? きゃあ!? 盾に傷が入ったわ!? 何なのあの矢は!?」
「魔族の毒矢みたいね。 修復できそう?」

キャリーが盾を落としかける。

「キャリー!! 無事っ」
「な、 何とか…。 でも応急処置に過ぎないわ。長くは持たないかも」
「ヤバイわね。 この空間、破られるかも」
「上等じゃない。 ドミニオンズのキャロラインは盾以上に剣の名手よ!矢羽位、剣で防いで見せるわ」
「…… 魔に堕ちる時は一緒に消えるわよ、キャロライン」
「何方かが天に帰れるなら、ヴィーが戻るのよ」
「出来ないわ。キャリーを護るのは私よ。」
「アンタは時期にスローンズに上がる立場でしょ!」
「だからこそよ。 パートナーを置いて白の扉に戻るなんて出来ないわ!」
「だから一緒に消えると云うの!?」
「キャリーは私の背中を護るパートナーで、私はキャリーの背中を護るパートナーしょ!」
「馬鹿ね、ヴィー。 そんな事いわれたら消えるなんて言えないじゃない……」
「誰が消えるのよ! 一人でも多くの天使を護って、私達も一緒に戻るのよ!」

盾がなければ担当の空間を護るのは無理。

次々に襲ってくる矢を防ぐには限界がある。
私達の命が尽きる前に、白の扉が開く。
私達の魂を受け入れる為。
躯は入れ物に過ぎないから魔の一族に渡ってもすぐに消える。
でも魔族に捕まったら―…

多少の矢傷なら自分たちの力で直ぐに癒える。

だけど―……

「キャリーっ!!」

敗れた空間から斥候でやっていた魔の一族の一人がパートナーのキャロライン目がけて剣をふるってきた。

「危ない!」

背中を斬られた。と思った瞬間、もう飛べないのが分かった。
渾身の力で矢を放てば一時的に光が闇を防ぐ。
でも長くは持たない。

「ヴィー! シルヴィア!!」
「早く行って! 白の扉が空くわ!?」
「馬鹿! 一緒に飛び込むわよ! 花園に戻ればそんな怪我直ぐに治るわ!」
「駄目。 扉までは飛べない。 一端、地上に逃げ堕ちるわ。 傷が癒えたら戻るから! 地上の時間は私達にとっては僅かな日々よ」
「でもっ」
「早く!」
「分かった。ならこれを!」

キャロラインは自分がつけていた盾のネックレスを手渡す。

「これは、キャリーの武器でしょう!? ダメよ」
「アンタなら使えるでしょ!? 私のパートナーはヴィーだけなんだからっ! 戻ってきて、絶対返してよ!?」
「分かった。 この空間のチビたちは」
「プリンシバティーが頑張ったから、殆ど白の扉の中に帰れたわ。さっきの衝撃で魔に囚われたのが2〜3いたけどこっちはそれ以上に魔族を消滅させてるから戦力は互角ってトコかしらね」
「そう―…… 残ったチビたちを、お願いね」
「ヴィー?」
「また、空間が破られるわ。さあ、早く! ここは私が守り抜くから、キャリー、アンタが最後に入って扉を閉めて!」
「ヴィー!」

空間がやぶられたら、次の扉が破られる。
白の扉に戻ったら私は、闇に染まったとして永遠の眠りに付かされてしまう。

その眠りに付く位なら。

「プリンシバティー!」
「は、はいっ!」
「ドミニオンのシルヴィアの命令よ! キャロラインが入ったら、直ぐにドアを閉めなさい! いいわねっ!」
「で、でもお姉様はっ」
「私に構う必要はありません! 貴方たちの仕事はチビたちを花園に避難させる事でしょう! 次の空間のお姉様とお兄様の指示に従いなさいっ」
「わ…っ 分かりました! お姉様、ご無事の帰還をお待ちしてます」
「さぁ、キャリー! ドミニオンズの責務を果たして!」
「ヴィー!」
「また、会いましょう。私に運が残っていれば必ず戻るわ」
「分かった! 待ってるからね!」
「大丈夫よ! 私の飛ぶ速さはドミニオンズの中でも折り紙付きよ。 魔族の矢が千本放たれてもすり抜けて見せるわ」

シルヴィアは自分の腰に付いている剣をパートナーにむけて投げる

「預けるわ!」
「馬鹿! 剣がなきゃ戦えないでしょうが!」

キャロラインは呆れて自分の剣を投げ返す

「貸してあげるわ!」
「了解。 …… さあ、敗れるもんなら破って見せなさい。 この扉の向こうにはいかせない」

傷付いた翼がいつまで持つか。

破られた空間から入ってくる魔の一族を幾人斬ったか分からない。
合間を縫うように下に。


下の世界に。

追ってくる魔の一族にどこか、斬られたのは覚えている。
左の翼の色が黒ずんでいくのが分かる。
長くは持たない。
光のある世界で魔の一族は動けない。
賑やかな、夜でも明るい場所を見つけてどこか大きなホテルの駐車場みたいな所に逃げ込んだ。
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