Act-11 天使の業
明日にでも退院、と云われた筈が1週間程オーバーしたのは、赤井がFBIの捜査で急遽カナダ支局まで駆り出されたからだった。
アメリカに戻った日、赤井は飛行機の中で作成した報告書をプリントアウトし、経費精算の書類を作成して提出するとジェイムズの許可を取り早退し、翌日からは有給合わせて3日の休みを貰ってシルヴィアを迎えに行った。
「赤井さん! やっとお迎えですね。」
「あぁ。 漸くカタ付いたんでね。ヴィーは元気か?」
「赤井さんが電話をくれた後からお待ちかねです。IQが高くて賢い子とはいえ、やっぱり子供ですねぇ。 朝から時計と睨めっこ、ですよ」
「俺もまさかカナダまで追いかける羽目になるとは思って無かったからな。寂しい想いをさせてしまった」
「寂しいかどうかは別として、シルヴィアちゃんは、とても優しい子ですね。 自分よりも小さい子が、夜中にパパとママに会いたくて泣いてると起きて来て看護師たちと一緒に宥めてくれるんですが、そうすると、不思議と泣き止むんですよ。 ICUの前にいるな、と思ったら、重篤昏睡で寝てる人の為に祈ってくれているんです。 後数分の命、という時にシルヴィアちゃんが病室の外で祈っている事に気づいた家族の方が中に招いてあげた事があるんですが、シルヴィアちゃんか傍で聖書を読んで祈ったらふっと魔法のように患者さんの呼吸が楽になって。 ―… 短いけれど、家族と最後の会話が出来て、楽な顔で天に召された事が何度かあるんです。 ご家族の方がどれ程シルヴィアちゃんに感謝して、家族を連れて帰った事か。 自分だって、パパやママに会いたいでしょうに。」
「―…(天使、としての仕事なのか義務なのか?)ヴィーの家族は、敬虔なカトリック教徒だったのかもしれないな。 誰に対しても優しく、誠実で、娘にも優しい―…」
「きっと、そうだったんでしょうね。 シルヴィアちゃんは、ホスピスの仕事に向いているかもしれません。」
「ホスピスの?」
「自分の死を受け入れて穏やかに暮らす人たちの世話をしたり話を聞いたりするのはとても難しい事です。 頭で理解しても心は違う。 精神カウンセラーは患者さんとのコミュニケーションをとる時、常に会話に気を使いますが、シルヴィアちゃんは、それを太陽のような金色の瞳で優しいオーラで普通にこなしてしまう。」
「そうか」
「もし、よければ退院してからも時折つれてきて下さい。 患者さんも、患者さんの家族も。医者が近寄るのを嫌がっても、シルヴィアちゃんなら喜んでくれますから」
「―… 分かった。 学校が休みの週末とか友達ができたらこれるかどうか分からないがそれでいいなら」
「是非、お願いします」
ノックをして病室に入るとベッドで退屈そうにごろごろしていた少女が飛び起きる
「秀一!」
保護者を待つ子供のフリで飛びついてくる少女をよろけもしないで受け止める。
「おっと! ―… 待ったか?」
「うん! お帰りなさい! お仕事、終わったの?」
「あぁ。 無事、逮捕してカナダ支局に引き渡してきた」
「そう。」
「さ、帰ろうか? 学校の方も手配済だ。お前さえよければ明日にも編入試験を受けれるぞ」
「じゃあ、鞄とルーズリーフとペンを買ってくれる?」
「勿論だ。食事には早いから先に文具店に行こう」
「やった!」
「良かったね、シルヴィアちゃん。 でも、肩の傷が治るまで運動は禁止だよ」
「うん。」
「何か食べたいもの、あるか?(―… 見事な化けっぷりだな)」
軽々と抱き上げたまま耳元で囁く
「チョコレート! (何年、天使をやってると思うの?)」
シルヴィアは嬉しそうに抱き付いたまま囁き返す
「くっ」
赤井と医師は顔を見合わせて笑う
「チョコレートはデザートだな。」
「ホント、女性と子供は甘い物が好きっていいますが、シルヴィアちゃんはチョコと蜂蜜が大好きなんですよ。 ご飯よりもチョコがいい、みたいな」
「―… そんなに食ってるのか」
「えぇ。 しかもメーカー指定でジョディさんがデパートで買ってくるんです。子供に蜂蜜はあまり良くないんですが、シルヴィアちゃんは平気なようですね。―… 退院してからも検査には関係なく来てくれると嬉しいよ。 患者さんたちがシルヴィアちゃんの顔を見ると喜ぶからね」
「チョコレート、用意してくれる?」
「君が好きなメーカーはもう分かったから用意しておくよ。」
「じゃあ、遊びに連れて来てもらう!」
「はぁ―……(確かに嗜好品とは言ってたが)病院で祈るのを停めはしないが、土曜と日曜だけだぞ? 放課後は禁止。あと、学校の課外授業とか入ったらそっち優先。 いいか?」
「うん。」
赤井は苦笑する。
「お前がチョコが好きなのはよーく分かった。 学校で必要なモノを買ったらマスターの店に行こう。チョコレートはデザートで買ってやるが、ご飯の後だぞ」
「うん。」
シルヴィアは子供らしい笑顔を見せる。
「―… で、この子の荷物は」
「そこのボストンバックに着替えと。使ってたマグカップとか入ってます。」
「忘れ物はないな?」
「大丈夫。朝から3回もチェックしたの」
その返事に赤井は苦笑してボストンバックを取り上げた。
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