Act-13 学芸員とFBI
赤井がシボレーを校門近くに止めると、待ち合わせていた友人が、登校してくる生徒との会話を切り上げて寄ってくる。
「シュウ! シュウイチ!」
「フランク、久しぶり、でもないか」
「先週、編入試験の時にあったからな!」
「無理を言ったから迷惑かけたかと思ったんだが」
「ははっ! 編入試験程度で目くじら立てる狭量な教師はこの学校には居ないさ!」
「ならいいが。―…… ヴィー、肩は大丈夫か」
「左で持たなきゃ平気。 おはよう、先生」
「おはよう、えっと、シルヴィア、と呼んでも良いのかな?ファミリーネームが良ければそう呼ぶように紹介するが」
「シルヴィアでいいです。」
「そうか。俺はフランクリン。けど、99%フランクと呼ばれてる」
「フランク先生?」
「あぁ。 俺の担当は数字だけどな! 後は放課後 週末は美術館でツアー客相手の絵画の説明ガイドとか模写とかしてる! 宜しくな!」
「おちゃらけて見えるが学芸員の資格と修復師の資格が有るんだ。お前と話も会うと思うが」
「それで、油の匂いがして、爪の間に絵の具がついてるのね。」
「え? 匂うか?」
「ヴィーがやたら絵画に詳しいのは知ってるだろ?」
「だったな。 見事だったよ! 俺の師匠に紹介したい位だ!」
「フランク。」
「あー 分かってるって! 言わないから!」
ギロリ、と睨まれてごくん、と顔色を変えるフランク。
同級生、とはいえ、飛び級をしていた赤井は自分よりも年下だが、万能選手で同窓会では話題に事欠かないがFBI捜査官。
しかもアメリカ切っての狙撃の腕で今迄、幾人もの犯罪者の逮捕に尽力している切れ者だ。
「じゃあ、後は任せたぞ。」
「あぁ、分かった。クラスの子供には旅行中に事故に巻き込まれた時に、記憶無くして親戚の保護されてる子供だと言ってある。」
「そうか」
「俺のクラスには2年飛びが二人、1年飛びが3名入るから心配は入らないよ」
「1年?」
「1年飛びなんてこの学校にはザラっといる。 そいつらがクラスで授業についていけない子供をフォローして教えてくれるから、子供達の成績はどんどん上がっていく。 お陰でうちの学校の知名度は上がる一方だ。 初等部はないのかという問い合わせもあるから校舎増設する計画もあるんだ。」
「流石だな。今の校長の経営手腕は先代譲りで健在という処か」
「さぁーな。だが、課外活動でボランティアやケアセンター慰問の体験もさせている。月1だがここらの地域を統括してる警察署員が護身術とか教えに来てくれるし、高校生になったら職業訓練であちこちの会社のバイト研修もさせているしな。 秘書業務のイロハとかIT技術のイロハを教えてくれたりする理解ある企業も増えてきた。 警察学校体験入学1週間は人気コースで抽選倍率が凄く高い。 ―…ここだけの話、実は俺と秀一もここのOBなんだよ」
「秀一が? 知らなかった」
「当時はまぁ、飛び級なんて殆どいなかったから秀一は少しばかり目立っていたが、勉強もスポーツも飛びぬけていたからな。」
「当時の校長が色々と便宜を図ってくれたからな。中々有意義な高校時代だった。」
「その校長先生は、どう為さったの?」
「5年程前に勇退してね、今はスペインで娘さん夫婦と暮らしてる。料理が得意だから共働きな娘さん夫婦に代わって夜ご飯は先生の担当で小学校から帰って来た孫と遊んで、宿題を見て、月に何回か家庭教師の真似事をして近所の子供たちの勉強をみているそうだ」
「ははっ! 変わらないな」
「全くだ」
(きっと、その先生は、この世を去られる時、沢山の嘆きに包まれて亡くなるだろう。 でもそれは次の生への門出。祝福された来世に向かう)
「どうかしたか」
「! っ ごめんなさい。何でもないの。」
「ならいい。」
授業が始まる15分前の鐘がなる。
「じゃあ、秀一。シルヴィアは確かに預かるよ。今日の授業は3時までだ。 スクールバスに乗せたらメールするよ」
「分かった。 ―… バスで降りる場所は覚えたな?」
「うん。 授業で足りないモノがあったら連絡いれるわ」
「了解。 ―…あ、絵の具やキャンバスが欲しかったらフランクに相談しろ。 俺には分からないからな」
「分かった。行ってらっしゃい」
シルヴィアは窓から少し顔を出した赤井の頬にキスをする
「お前もしっかり勉強しろよ」
赤井は窓から手を出してするりとシルヴィアの頭を撫ぜるとバタバタと駆けこんでくる子供達の邪魔にならないようにゆっくりとシボレーのアクセルを踏んだ
「さて、教室に向おうか」
「はい」
「秀一がいうように美術なら俺の専売特許だからな。 絵の具も筆も、良い材料を知っている。 ただ絵がすきなだけな学生なら店しか紹介しないがシルヴィアは別格だ。 学芸員割引をしてくれる専門店があるから連れってやるよ! なんなら最初は俺が使っている絵の具で残り少ないのを幾つかと学生に渡すサンプルキャンバスのA4サイズを何種類か上げるから試し描きをしてみるといい。絵の具も生物だ。メーカーに寄って発色が違う。 本当に高い一流のものは天然石を粉末して材料に使うんだがな」
「天然石」
「昔の技法さ。黒は日本の墨とか蝋燭の煤とか黄色は硫黄とか」
「あぁ! 瑠璃とか翡翠も使うわね。キラキラ感を出す為に粉末したダイヤモンドとか使って描いていたわ。 あと、変わった所で卵の殻も使ってた。 一度下絵を描いて、その絵を塗りつぶしてから、改めて絵画を描いた人もいたわね」
「ははっ! さすが詳しいね。 昔は絵の具も少なかったからそういう材料を使ってた画家もいるけど、宝石を粉末にして絵の具にしたのを使えるような一流の画家は少ない」
(そうだった。 王家や教会というパトロンがいて、肖像画を描いていた。 頼まれた宗教絵画を描いて、彼等は名を馳せた。 けれど、自分のスタンスを貫いて、死ぬまで生活に苦しんだ画家もいる。)
シルヴィアは思い出した。
パトロンを得て、裕福になった画家。
自分の意志を貫いて自分の絵を描く道を選んだものの評価されずに借金に塗れて絵の具すら変えずに家を抵当にして狂っていった画家の魂を迎えに行った時。
私達に人の生死を操る事は出来ない。
でも、魂を迎えに行った時、敬虔なカトリックには姿が見えてその姿を描かれた時もあった。
人は皆、祝福されて産まれてくるのに、死にざまは変わる。
迎えに行っても生に執着する魂もある。
(秀一の心の奥底に残る女性は、何方の道を選ぶのだろう。)
シルヴィアは新しい学校が楽しみな転校生のフリをして楽しそうに絵画の話を続けるフランクと一緒に教室に向った
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