Act-14 翼を持つ少女 前編
赤井は自分の腕を枕にして眠っている少女の温盛で目を覚ました。
10日ぶりの公休日初日。
シルヴィアを通わせている学校が週末を挟んで4連休。
赤井もそれに合わせて有給を付けた4連休にして、昨夜は仕事が終わった後に残業もせずに帰宅。
いい加減、貯まりまくった有給を消化してくれ、と総務にも散々いわれているので4連休どころか1週間でも、と言われた程だ。
学校帰りに拾って自宅には帰らず、ドライブを兼ねて郊外にある別荘にやってきた。
途中飲酒運転の交通規制があって、子連れの夜中のドライブに胡乱な目をされたが赤井のFBI捜査官としての身分証で難なくクリア。
別荘に付いたのは夜中の2時に近い。
シルヴィアは”嗜好品”だが大好きな100%純粋蜂蜜とチョコレートを買って貰って嬉しそうに抱え込む。
嗜好品なので沢山は食べないが車の中でディズニーにでてくるクマさながら蜂蜜をスプーンですくってペロペロと舐める。
(よくそんなに舐められるな……)
食べない訳でも無いが、蜂蜜そのものの舐める、という事をしない赤井は運転しながらあきれ返る。
だが、見かけは中学に上がったばかり(飛び級で中学3年)の子供がチョコや蜂蜜を抱え込んで舐めたり齧ったりする姿は可愛いものがあると思った。
「本来のサイズになった方が沢山食べられるンじゃ無いか?」
赤井はからかう。
「でも、本来の姿の方だと、知合いに会った時が困るでしょ?」
「俺は構わないがな……」
「じゃあ、好きでもない女の人にモーションを掛けられてお断りする時に戻ってあげるわね?」
「それはありがたい、と言いたいが、俺はそんなにモテないぞ」
「そう? 秀ならサイキュバスが喜ぶかもしれないのに」
「サイキュバス?」
「下級夢魔のインキュバスの女性系。インキュバスが人間の姿をすると眉目秀麗な男性系で、契った人の女性に子を宿す事もするし。 サイキュバスはそこらの女性顔負けの美人さんよ」
「できれば、魔族との姻戚関係は遠慮したい。」
「ふふっ! 残念だけどね、秀位、自己意識が強ければサイキュバスが寄ってこないわよ」
「そう願いたいな」
子供がする会話か、と言いたい所を堪える赤井。
端から見れば、父親と娘の真夜中のドライブ。
別荘に付くと電気とガスの基をいれる
別荘の管理人に行くことを伝えてあったため、冷蔵庫の中身は豊富で、掃除もしてある。
職業柄セキュリティは半端無く高い。
シルヴィアは別荘に入るなり真夏のようにキャミソールのような丈の短い服に変え、赤井は溜息を付く。
「ここが、月光と朝陽が一番差し込む場所だが、その恰好で眠るのは寒くないか?」
「大丈夫。天使に温度は関係ないから」
「とはいえ、俺からみたら寒そうだ」
「じゃあ、明日からは見た目も考える様にするわ。 秀一が、児童虐待とか噂されたら気の毒だものね」
「虐っ…… おい、ヴィー? 俺が、何だって?」
「ふふっ 何でも無いわ。」
ふわりと飛び上がりミニチュアサイズになり、パタパタと翼を羽ばたかせると、赤井の肩に飛び移り、背伸びをすると頬にキスをする。
「大丈夫よ、秀。 ミニチュアサイズでも人に見える子供の姿でも、仮にもドミニオンの位の天使がいるんだから、そこらの雑多な魔族なんて目じゃないわ。貴方がリアリストで神の存在を信じてなくても、ね。」
「ヴィー?」
背中にある銀色に光る翼。
左の翼と左の腕には抉り切り付けられた後があり、傷跡が黒ずんでいる。
その傷跡は魔族から9の位の天使達を守る為に戦い、パートナーを守ろうとして付けられたといい、天界とやらに帰るには傷が癒えないと戻れないらしい。
「確かに俺はリアリストだが、目の前にいるお前に綺麗な翼があって、その翼が傷付いて遠くまでは飛べないという事まで否定したりはしないぞ。」
「秀……?」
「宗教や神の存在を否定するつもりはない。”宗教組織”は嫌いだがな。」
「うん……」
手の平を肩に差し出せば飛び移ってくるシルヴィア。
「早く治るといいな」
「ー……」
「人の薬が効けばいいんだろうが、太陽と月の光でしか癒せないとなると俺には何もしてやれない」
「……」
シルヴィアは顔を曇らせる赤井に笑顔を見せる。
「ー……この傷の事なら後悔してないから大丈夫。 少なくても、チビ天使たちの何人かは救えたし、パートナーのキャリーは斬られなかった。」
「だが、お前は傷を負った。」
「秀」
シルヴィアは小さな手で赤井の口を押える。
「私が助かったのは秀が居たからよ。 あの儘捕まってたら、私は数日後には闇に落ちて、堕天使になっていた。秀が助けてくれた。 秀が傍で、私が起きるまでずっと傍にいてくれた。秀の強さと優しさが、私が闇に落ちるのを止めてくれたの」
「ヴィー?」
「天使の命はね、助けた人の優しさ、想いの強さで変わっていくの。勿論、信心深さでも変わるけど。」
「だが傷跡は残るのだろう?」
「私は、いずれ元の世界に還る。 でもね、赤井秀一から貰った優しさは私の中でずっと生き続けるの。 貴方が死んでも私の記憶からは無くならない」
「人の 優しさ? 俺が優しく信心深いと?」
「ー……天に召される人の魂を迎えに行く時ね、どのような罪を犯した人でも、その人の精神が心からの赦しを請えば、大天使様は生まれ変わりの機会を下さるの。 人生をやり直す機会をね。病や犯罪に巻き込まれて亡くなった人もそう。 冷たい振りしていて、目に見えない優しさを持っている人は沢山いるの。 でも、人を欺いて欺いて、そして嘘を突き通して亡くなった人の魂は、私達には救えない。」
「なら俺に救いはない。 任務とはいえ、散々欺いてきたからな。」
(明美ー…… お前は今頃、平気な顔して泣いているのだろうか)
「違うわ。秀一。 貴方は後悔してるでしょ? 欺いた事を後悔して、助けてあげたいと思ってる。」
「……」
「それはね、貴女が”優しい”からよ。その人を”愛した”から」
「そう思うか? 彼女はきっと殺される 俺の所為で」
「秀」
シルヴィアは大人の躰になると天使の翼で赤井をそっと抱き締める。
「秀一の云う、彼女が、肉体的な意味で救われるのかは私には分からない。 でもねー……」
白く細い腕が赤井の背中に回る。
それは、母親が子供に与えるような温もり。
父親が、子供を守ろうとする強さ。
「悪い組織に居るから救われないというのは間違いよ。 人は良い事をしながら悪い事をし、悪い事をしながら良い事をする生物なの」
「……」
「秀。 貴方は十分優しい。 だから、私は魔族の毒に打ち勝つ事ができたのよ」
「ヴィー、 俺 は」
「貴方は独りではないでしょう? 仲間がいて、家族がいる。 これからもっと強く優しくなれる人よ」
「ー…… お前の翼は暖かいな。 俺が死ぬ時もお前が迎えに来てくれるのか?」
「私達はね 傷ついた心を癒して導くのが仕事なの。 だから、貴方が天授を全うした時、天使の一人が迎えに行くわ。 でもね、秀? 貴方はまだ天に召される時じゃない。 まだやらなくてはならない事が沢山あるでしょう?」
大人の形を取っていたシルヴィアの躰が小さくなると肩で息をする。
「ヴィー!?」
「大丈夫。 翼の傷が癒えてないから一寸疲れたみたい 」
「すまない。 俺が」
「秀。 なんでも自分の所為にしちゃダメ。ごめんね、今の私の力じゃ抱き締めて上げるのが精一杯。 心の苦しみを取ってあげられない。この傷さえ癒えたなら」
「いいんだ。ヴィー。 お前が傍に居てくれれば。お前が居たら、何故か癒される」
「ありがとう」
シルヴィアは疲れたように赤井の膝の上で眠りに付く。
フィギュアサイズの小さな姿。
そして閉じられているが翼もある。
赤井は傷付かけないようにそっと抱き上げて、月が入り、明け方には朝日が差し込む窓際に置かれた籐の籠に優しく置く。
ヒーリング専門店で買った目の上に置くビッグサイズのアイクッションだが、ラベンダーの香がして、シルヴィアの気に入りだ。
赤井はそれを複数購入しての籠に敷いてその上にパイル生地の布を置いてふかふかのベッドになるように加工した。
(寒さは関係ない、と言ってもな)
赤井は肌触りのいいシルクのハンカチを2つに折ると籠にそっとかける。
(便利な躰だ)
シルヴィアと暮らしだしてまだ数ケ月。
赤井の同僚の中には保護施設に預ければよいのに、という意見も多々あった。
それをしなかったのは記憶のないシルヴィアが人の中で暮らすには無理がある、と判断したからだ。
外見はまだ少女。
だが、本来の年齢は赤井どころが背かいの長寿でギネスに認定されている人物ですが赤子と思える程の歴史を見てきている
翼がある時は、彼女を助け出した赤井位しか姿が見えない。
ファンタジーの世界のようだが、現実の自分の目の前に翼を持つ少女が居る。
それも、人工的に羽 とういか翼を、つけられたものではない。
自称”天使”で9位中4の地位にいるというシルヴィア。
本当かどうかはさておき、翼があるのは事実として受け入れる事しかできなかった。
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