クッキングスタジオ 〜葛編〜
シルヴィアは時々妙な事を始める。

子供らしく? 遊ぶ時もあれば大人のように料理を楽しみ、天然酵母を作ったりする。
天使の力とはいいもので普通は発酵機や天然酵母を作る器械に入れて数日かけて酵母液を作るものだが、果物の入った水に楽しそうに話しかけてあっという間に作ってしまう。

俺も止めてはいない。

作った戸籍が14歳という大人だが子供だが分からない年齢で(実際は2世紀以上は生きているというが、人は100歳も生きたら移動にも困るヨレヨレになると思う)

そして俺の今、目の前にあるのは…

なにやら分からない大木のような木。

「お、お帰り、秀一」

そわそわと落ちつきがない

「早く帰ってきたのが珍しいか?」
「だ、だって、明後日になるって」
「予想外に早く事件が解決した。 奴等も馬鹿じゃないからな、暫くなりを潜めてまた動くだろう、が その前に」
「ぇ… な、何??」
「新聞の上に置いてあるこれはなんだ?」
「葛の根よ」
「葛?」
「そ! 時期外れで奈良の吉野まで桜の古木に会いに行ってきたの。」
「何故、この時期なんだ? 桜が見たいなら春に行けばいいだろう? 連れってやるのに」
「ん〜〜でもね、行きたいのは吉野葛が自生する山奥だったから」
「は?」
「葛の根が欲しかったのよ。 でも桜の時期は人込みが凄いでしょ? 本当は葛の採取は初夏が望ましいのだけどその時期は業者の人が凄いから」
「ヴィー! お前は〜〜〜! 危険な場所にはあれ程行くなと!!」

小さな躰を抱き上げると居間に入る。
日の当たるベランダ側に白く輝く物体。

「きゃああああ!! DV反対!」
「DVじゃない! 子供を躾けるのは大人の役目だ!!」
「だれが子供よっ! 折角自家製の葛粉を作ってあげてるのに!」
「は?」
「葛の効果ってあるんだからねっ! 漢方に葛根湯ってあるでしょう! 葛湯とか!」
「そんなもの買えばいいだろう?」
「だって退屈なのよ!」
「退屈って…」
「昔ね、日本をテリトリーにしていた仲間が人の姿で村人として混じってた時に葛の精製をみたんですって」
「葛の精製? 砂糖の精製はTVでみた事があるが」
「こういう葛の根を買って来るとか、堀りだしてきて、根についている泥を水でよく洗うの。そして繊維質にする それを水ー…当時は井戸水とか、川の水でよく洗って、それを笊で漉すの。」
「ほぉー…」
「そしてね、汚れが落ちたものを水に付ける、一晩おくと水が泥水のように茶色くなるからその水をすててまた洗って水に付けて浸す。それを4日から5日繰り返すと段々水の色が薄くなって沈殿物が見えてくるの」
「ふむ… それは道理にかなっているが」
「でね、5日位してから今度はとても目の細かい笊でこすんですって」
「ほぉー?」
「その時には量も可也少なくなるから入れ物も小さくしてまた沈殿させるの。」
「で…?」
「それを更に3日とか…」
「―… 気の長い話―… ってお前それじゃあ、今、それをやってるのか!? 俺が留守をしていたのは3日程度だろ? その間に吉野まで行って戻ってきて作り出したのか?」
「だって、秀一、1週間位居ないっていうから〜〜〜」
「はぁー…」

赤井は溜息を付いた。

「これから冬になるから、葛でとろみをつけたおうどんとか、柚子とかいれた葛湯とか、葛切とか…」
「ちなみに聞くが、ここにある分量でどの位精製できるんだ?」
「… 1キロで約100gとれるか取れないか。」
「ー… 天然の本葛が高いのも道理か」
「まぁね。ちなみに発汗・解熱効果もあるしイソフラボンの一種であるダイゼイン・ダイズイン・プェラリンが含まれてるから、血中コレステロールの低下とか更年期障害にも効果あるらしいわ。 オブラートに包んで週2位飲めばデトックス効果もあるからヘビースモーカーの秀一には丁度いいでしょ? ね??」
「葛は夏の菓子に使われるのが多いと思ったが」
「そうね。でも和菓子以外にもプリンとかも作れるし。」

「で、確認するが」
「…!!!」
「どの位作った パッと見200か250位か?」
「300… ちょっと」
「という事は4キロ近くか… 結構な量使ってまだ残ってるようだな」
「葛の木が遠慮なく持っていっていいよって言ってくれるから一番大きな根を5〜6個。 御礼に吉野の山を一回り飛んで天使の羽をひと振り散らして上げたから来年はお花見が盛況よ。」
「なら、その効果は来年確認しに行くとして、だな。次に作る時は俺もやる。今度は勝手に作ったりするなよ」
「…ハイ」
「イイコだ」

視線を逸らすシルヴィアを膝に乗せる

「〜〜〜 どうやら、今日は葛を使った饂飩と和菓子が夕食になりそうだな」
「あと、胡麻豆腐…」

小さな声で囁かれる声に赤井は口角を上げる。

「全く、葛の根もあっという間に粉にされたら職人が泣くな」
「だって、悪い事に使うわけじゃないし! 秀一の邪魔しちゃ悪いし! 元々は農家の人が冬の閑散期の仕事にしていた事でもあるのよ」
「…まぁ、いい。俺は風呂でも入れて―…」
「きゃあ!! 駄目! まだ駄目!」
「―…」

シルヴィアの悲鳴に赤井は眉を上げて風呂場に行けば浴室は冷蔵庫のように冷えており、大きな根が鎮座ましましている。

「ほ、ホントは秀一がいない間に全部精製しようと思ったの! けど結構時間が掛かって! 水替え位は時間を早める事ができるけどその前の葛の根を洗って細かい繊維にするまでがっ」
「―…」
「葛を洗ったりするのにお風呂場が丁度良くて! 冬の冷たい空気と水で仕上げるのがいいって聞いてたからっ!」
「っったく! これなら途中のスパで風呂に入ってくればよかったか」
「ごめんなさい… 一端中止にするわ!」
「―…その風呂に入れるようになるまでどの位かかる?」
「あ、だ、大丈夫! この子たちはまだ洗う前だから! 捨てないで!!」
「わかった。 根子は、新聞の所迄運んでやる。」

赤井は少し水分の残っている根を軽々と持上げて浴室から運びだした

その後、大慌てで風呂場の掃除をしたシルヴィアは、赤井が風呂に入っている間に熱々に作られた柚子風味のあんかけ饂飩と胡麻豆腐に京野菜の漬け物と御握りを作り上げ、作り立ての葛餅と京都で買ってきた抹茶を点ててデザートとした。

勿論、その後から、さっき浴室に置かれていた葛の根を叩いて砕いて一晩水に付ける、という所まで手伝ったのは言う間でもない。
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