Act-03 雨模様
警察車両と救急車が到着し、俺が身動き取れなくした不良少年と不良娘が手を後にして捕まる
警察車両に救急車。
赤井が逃げないように肩や膝の関節を外したり、仲間割れで鉄パイプで殴ったりしたので、救命士は応急手当に大わらわだ。

ポツポツポツ・・・ と冷たい雨が降ってくる

「赤井さん!」

顔なじみの警官が傘を差し出す

「ああ―……… 済まない。 保護した子供の怪我はどうだ? 壁の隙間に隠れていろと言ったんだが?」
「それが……」

警察官が顔を曇らせる

「まさか怯えて逃げたとか?」
「その反対です。―……  余程怖かったのか、突き当りの奥の電柱の影に隠れて逃げ込んでしまって怯えきって返事もしません。 路地奥は子供1人が何とかの幅で、出てこないんです。」
「逃げ込んだ? …… 確かにあの奥は狭い場所だから子供なら逃げ込めるが。 怯えてしまうのも無理はない」

赤井は冷たく流れる雨を見上げる。

「私が話そう。 最初に子供を見つけて、隠れるように言ったのは私だ。」

それに… と、赤井は言い続ける

「左腕と背中にナイフで切られたような傷があった。 不良どもに麻薬の煙を掛けられて、嘔吐したらしい跡もあった。」
「麻薬を打たれたと?」
「それは病院で検査をさせないとわからないが、煙草を煙を車内に吐き出していたのは見たからな」

赤井の言葉に警察官が顔色を変える。

(雨が強くなってきた。子供の躰には毒だ)

雨は激しさを増していく。
赤井は隙間の前にしゃがみ込んで話しかけている女性警官の肩を叩く。

「私が変わろう」
「赤井捜査官!?」
「子供にかける乾いたタオルと毛布があったら用意しておいてくれるか?」
「はい! 待機している救急車の中と、車の中にある筈です。 直ぐに」

パタパタと駆けて行く女性警官。
上をみれば、子供が逃げ込んだ奥にブルーシートを張り、濡れないようにしてやろうとロッククライミングの要領で降りてくる警官の姿が見えた。

「おい、聞こえるか? お嬢ちゃん?」

小さな子を相手に、おい、と呼びかけるのも可笑しいが、赤井は隙間の前に座り込んで声を掛ける

「赤井さん、濡れます」
「構うな。 子供だって濡れている」
「でも」
「いいから私に任せるんだ。 子供が濡れてるのに俺だけ傘をさせるか。 それより、早く、ブルーシートで壁の隙間に雨が入らないようにしてやれ」
「分かりました。やってみます。 ―…… おい! ブルーシートを張るのを急げ! それから……」

慌てて部下に何かを話だす警部をみて、赤井は再度子供に呼びかける

「聞こえるか?」
「……」

ピクン、と小さな躰が動く。

「―……… 耳は聴こえてるらしいな? 濡れるぞ? 風邪をひくから出てきなさい」
「……!」

ふるふると、膝を抱え込んだままの少女が首を振る。

「大丈夫だ。 悪ガキどもは警察のおじさんたちが全員、捕まえてくれたから」
「―………?」

怯えた儘の顔が少し持ち上がる。
助けた時は暗くてよく分からなかったが、壁の隙間をライトで照らされて明るくなっている為に北欧系のような白い肌に長い金髪と金色の瞳が良く見えた。

「ホォ―…… 君はまるで太陽のように綺麗な金色の瞳を持ってるんだな? 名前は? 言えるか?」
「―……」
「私はシュウ。シュウイチ・アカイ。 アメリカ国籍だが日本人だ。 君は?」
「―………」
「怖がらなくていい。名前を言えるか?」

少女は余程怖かったのか嫌々をするように顔を横にふる。

「大丈夫。 私がいるだろ? ―…… 君のパパとママも探しているんじゃないか?」

弾かれたように赤井を見る少女。

「そうだ…。 腹が減ったろ? 俺の車の中に果物があるから食べないか?」
「……!」

果物、の一言で顔をピクンを上げる少女の反応に赤井は頬を緩ませる。

「お腹が空いているならマスターに頼んで何か作って貰ってもいいし、甘いものがいいならプリンかチョコレートを買ってやるぞ?」

優しく話しかければ少女の顔がまた動く。
女と子供は基本的に甘いものが好き……、 という定石通りの反応に赤井は目を細める。
両親の見立てなのか、ロリイタまではいかないがレースとフリルを沢山使ってあるピンクの長袖のワンピースで、これで髪をくるくると巻いてエプロンドレスとヘッドドレスを合わせたらロリコン街道まっしぐらだろうと思われる程だが、子供の両親にはそこまでの趣味は無いらしかった。
そして白い編み上げ風の靴。
バックの変わりにエナメル風のベルトポーチ

その綺麗な服も靴も、床に座り込んだ所為で泥で汚れて、雨を吸ってしまっている。
警察の配慮で壁と壁の間にブルーシートが掛けらたので段々酷くなる土砂降り雨に濡れはしないが、隙間から拭き込んでくる冷気は防げない。

普段から鍛えている赤井と子供では体力面でも大違いだ。

「寒いだろう? おいで?」

せかす事はしないが、そっと手を差し出す。

ふるり、と震えて子供からコンコンと小さな咳が出始める。
コンコンコン、ケホケホ……
躰が冷えてきたのか、咳がどんどん酷くなる

「咳が酷くなってきたな? 雨で躰が冷えてきたんだろ? 君がでてこないなら私がそっちに行こうか? 風邪を引いて拗らせたら肺炎を起こしてしまうぞ」
「!!」

赤井の言葉におずおずと立ち上がり、大人には少し狭くて入れない隙間をゆっくりと歩いてくるが、左足を庇う様に引き摺って居る。
赤井は後ろで傘を持つ警察官と救命士に合図を送る。
少女は赤井が差し出している手に捕まろうとして、警察官をみてビクンと怯えて、奥に下がる。
咳はどんどん酷くなり、顔色も悪くなっていく。

「大丈夫。この人たちは警察で、君を心配してるだけだ。 おいで? 着替えないと熱を出すぞ」
「―……… 」

赤井の手を取ろうとしては引っ込めてしまう。
手を伸ばした瞬間に掴んで引きづり出すのは簡単だが、そんな事をすれば怯えば増すばかり。
僅か数分が、1時間にすら思える程
何度か、手を伸びして引っ込める用な事が繰り返えされ、そして、自分と同じようにびしょ濡れの赤井を見て、ゆっくりと手を繋いで近寄って来る。
赤井は引きづり出したい衝動を抑えて、少女が自分の前まで来るのを待って、横から差し出された毛布ごと抱きしめた。

「怖かったな? もう、大丈夫だから、怪我の手当てをして貰おう?」

バタバタと、赤井と少女に傘を差し掛けて、あっという間に雨の水分を吸ってしまったタオルを取り替えた警察官もレインコートは着ているがびしょ濡れだ。

「シュウイチ!」

少女を抱き上げた赤井が救急車に乗り込もうとした時、相談を持ちかけたレストランのマスターが傘を差しながら駆け寄って来る。
少女はビクン、と顔を強張らせるが、赤井が抱いているせいか落ち着いている。

「帰ってなかったのか?」
「当たり前でしょう! 子供が巻き込まれて帰れると!? 連れて行かれた悪餓鬼どもを殴れなかったのか残念ですよ」
「ははっ! マスターらしいな」

二人の会話をきょとんとした顔で聞く少女。

「具沢山の暖かいトマトスープとコーヒー。 小さい方は自家製アーモンドミルクで作ったホットチョコレート。」
「アーモンドチョコは今日の分は完売したんじゃないのか?」
「これは明日の為に仕込んだ…… いや、今日の分ですよ。孫から大人までの人気メニューで1日の個数限定。これはお嬢ちゃんに差し入れです。トマトスープはキャシーとトニーが手伝ってくれたから沢山あります」
「キャシーとトニーにありがとう、と礼を言っておいてくれ。 トマトスープは警察署で有りがたく頂くよ。 救急車の中でこの子にホットチョコを飲ませてやってくれ。 」
「はい。―…… 大丈夫よ。 怪我の状態を診るだけだからね? 救急車の中だと雨が当たらないし、ベッドもホットカーペットで暖まってるから暖まりましょう? 女性に冷えは大敵よ」

女性救命士は優しく声を掛ける。

「大丈夫だ。 ―…… 私も直ぐに行くから先にちゃんと手当をして貰いなさい」

赤井は少女の頭を軽く撫でる

「後、アニーの服ですがこれを。サイズが幾分大きいかもしれませんが」

4階はマスターの家になっているから、孫の為に置いてある服を取ってきたのだろう。
ビニールの手提げにいれた服を傍にいる警察官に渡す。

「濡れた服よりマシでしょう? あと、息子の服を2着程入れて置きましたから赤井さんも着替えて下さい。」
「助かるよ。 報告は後日改めてでいいだろう?」
「勿論ですよ。 報告なんか何時でもいいんです。 先に、その子のパパとママを見つけてあげて下さいよ。」
「勿論。 まずは行方不明者の書類からになるかもしれないが」
「名前は?」
「怯えて、教えてくれないんだ。 まだ警戒してるだけかもしれないが」
「きっと、一晩眠れば落ち着きますよ。」
「なら良いが」

赤井はのベッドに座り何枚ものタオルにくるまれて、長い髪の毛を拭かれている少女を見詰める。

「あ、待ってくれ、マスター」
「何か?」

赤井は車のロックを解除すると助手席の買い物袋を取り出して、果物のパックだけ取り出すと残りを袋ごとマスターに手渡す。

「俺の車、一晩おいといてくれ。明日の昼頃、誰かに取りに来させる」
「分かりました。 果物はあの子に?」
「女の子だからか子供だからなのかわからんが、果物とチョコレートは好きみたいな反応があったからな。 あと、すまないが、生肉やらパンやら入ってるから適当に食べてくれるか」
「分かりました。ならその食材で明日の昼の弁当でも作っておきます。炒飯とかなら冷めてもレンジで温めれば食べれるでしょうし。」
「ありがとう。」
「いいえ。 この位ならいつでも。」

赤井はマスターを見送ると救急車に近寄る。

「怪我の状態は?」
「切られた範囲は広いですが出血はそれほどでも。 ナイフみたいなので切られた跡が青くなっているようなので、もしかしたら鉄とかアルミのアレルギーがあるのかもしれません。 病院でちゃんと検査して消毒しないと化膿したら痕が残ってしまいます。 脚は軽い捻挫ですから、2〜3日湿布すれば大丈夫だと思います」
「アレルギー?」

赤井は少し顔を険しくする
ココアを貰って、舐めるように飲んでいる少女の背中に応急処理の包帯が巻かれているのが見える。
大きなタオルを羽織らせながら手当をしている女性救命士が云う

「そうか。 俺も一緒に同乗していいか?」
「勿論です。赤井さんがマスターと話してる間、ずっと不安そうだったんですよ、その子。」
「そうか」

赤井はくしゃりと大きなタオルで包まれている少女の頭を撫でると車両に乗り込む。

「大丈夫。 そんな顔をしなくても、俺も一緒に病院に行ってやる。」
「―……」
「? 頬が赤いな?」

少女の頬が少し赤味を帯びているのをみて、自分の手が濡れてないか確かめて、何度か手を擦って温めてから少女の額に触る。

「少し熱が出て来たか?」
「そのようです。 子供があれだけ冷たい雨に当たってたら風邪を引いて肺炎を起こしてしまっても可笑しくありません。さ、道も空いてますから、夜間救急病院まで15分程ですわ」
「お嬢ちゃん。 少しの間だけでもベッドに横になって躰を温めるんだ。 病院に付いたらもっと暖かい部屋で手当てをしような?」

別な救命士が声を掛けるが少女は黙ってベッドの隅でココアの入ったカップを持って固まったまま動かない

「ったく」

横れたジャケットを衛生ビニール袋にほうりこんだ赤井はシャツだけ着替えて濡れた髪をタオルで乾かしながら熱いコーヒーを飲んでいたが、溜息を一つ吐くと、カップを救命士に預けて動かない少女を抱き上げて膝の上に乗せると宥めるように背中を撫ぜる。
最初抱き上げた時には気づかなかったが、とても軽い。

「驚いたな。君はとても軽い。 バレエとかフィギュアスケートでも習っているのか?」
「!!」

吃驚したような顔を見せる少女。

「変な事を聞いたか? ロスにはパパとママと旅行にきたんだろう? どこに泊まっていたのか覚えているか? それか携帯とか、ホテルカードとか」
「パパ… と ママ―…?」

きょとんとした顔をする少女。

(何だ? この反応は…)

赤井は顔を曇らせる

「此処はドコ?」
「「―………!!」」

赤井と救命士は顔を見合わせる

「怖くて疲れて―… 混乱してるんだね?」

救命士が優しく云う。

「赤井さん。子供をストレッチャーに寝かせて下さい。」
「ああ… そうだな。少し、眠った方がいい」
「さ、お嬢ちゃん。少し眠りなさい。」
「―…」
「大丈夫。私がずっと傍にいる。」

少女はぎゅっと、赤井の服を掴んで離さない

「大丈夫だ。 約束する。 君が目を覚ますまで傍にいるから」
「―…」

少女が小さく何かを云う

「え?」
「ヴィー……」
「ヴィー?君の名前か?」

こくんと頷く少女。
やっと教えて貰った名前に赤井と救命士がほっと顔を緩ませる。

「ヴィーでいいのか?」
「シルヴィア」
「シルヴィアが名前でヴィーと、呼ばれていたのか?」

その言葉にこくりと頷く少女。

「そうか… 良い名前だ。」

赤井がそっと少女の頭を撫ぜれば、気が緩んできたのかゆっくりと瞼が閉じていく。

「シルヴィアちゃんっと。 えーと、ファミ…」

ファミリーネームは、と聞きかけた救命士は赤井が指を口に当てたのをみて少女を見れば目を閉じている。

「疲れたんだろう。可哀想に」

ピンクに上気した頬で眠る少女

「熱がでてきたな」
「大丈夫です。小児科医と外科の医師が待機してる筈ですから」
「そうか」

赤井は自分の服を掴む小さな手をそっと包むように握りしめると、少女に掛けられた毛布の中に手をしまった。
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