Act-04 月桂樹 前編
「治療には1時間程かかります。職員用のシャワールームまで案内させますので熱いシャワーを浴びて、髪洗って着替えてらしてください。傍にいる約束をしたとしても泥だらけの人は雑菌がついてますからダメですよ。 靴はレンタルのをご用意してお貸ししますから……」
雨にぬれてコンクリに膝を付いてたせいで靴もジーンズも泥まみれ。
救急車でぬれた上着を変えたとはいえ、流石にズボンまでは変えられないので半分泥にまみれた赤井をみて医師がいう。
「はは…… 院内を汚して申し訳ない。」
「それはお気になさらず。 容体については、大体の状況は把握しています。背中の傷が酷いようですが出血はさほどでもありませんから安心して宜しいかと。」
「なら、御好意に甘えてシャワールームを借りる事にしよう。―……それから喫茶店のマスターからお孫さんが昼寝をする時に使っているものだが、この子の着替えにとパジャマを預かったんだ。 着替えで脱がせたワンピースとポーチは俺の権限で中身を調べる事ができるから控え室に置いといてくれるかな」
「承知しました。 どちらにしても入院ですからパジャマは有りがたいですね」
「そうだな。俺もそう思う。マスターのお孫さんはあの子よりも一寸大きい年頃だから、仲良くなれるといいんだが」
「なれますよ、きっと。 あのレストランのお孫さんは常連のお客たちのアイドル・ポリスですからね」
「ははっ 違いない。 アニーは煙草を吸い過ぎると躰に悪いからだめー……っ 逮捕しますよっ て 笛を吹いて制服姿で飛んでくるからな、スモーカーには肩身が狭い」
「赤井さんも言われたクチですか……」
「と、いう事はDrもだな」
「えぇ……まぁ。 でも、アニーにいわれるとつい……”すいません”って煙草をひっこめちゃうんですけどね」
「違いない」
くっくっくっ…… と顔を見合わせて笑う赤井と医師。
「Dr! もう! 怪我の状態は酷くないからってお話をしてないで下さい。熱があるのは事実なんですからね。 ほら、金属アレルギーの検査もしなきゃ」
「ぉっと! すまない。 じゃあ後ほど」
医師が紙袋を受け取る
カラカラと運び込まれる少女を見送った赤井は病院内の風呂場を借りて埃を落として髪を乾かして着替えをすると、借りた靴に履き替えて家族用の控室へ向かう。
テーブルの上に、脱がされた衣類が透明な袋と不透明な袋が二つあり、不透明なf黒には下着類と明記され、透明な袋にはワンピースが、床には靴も置かれているが警察の指示なのか袋に入っている。。
そして、ワンピースの横にビニールに入ったベルトポーチ。
いずれもキチンと封印シールが貼られている。
着ていたジャケットの内ポケットを探れば幸い濡れずに済んだ白手袋があるので鑑識のようにきっちりと手袋をはめる。
悪戯された訳ではないのに下着類に手を付けるのは如何なものかと思って、不透明な袋に入った方はそのまま手つけずにしておく事にして、透明な袋に入った濡れて汚れたワンピースを取り出して丁寧に広げていけば、背中にざっくりと切られた刃物と雨で薄くなったようだが明らかに血痕と思える後がある。
雨で滲んだ血の跡に置くに逃げ込んでしゃがみ込んでいた時に付いた泥。
(気に入ってたかもしれないがー…… このワンピースはもう着れないな)
服は綿素材で肌触りがよいものだが、ブランドのロゴマークはない所をみると母親が既製品に手を加えたのか、縫い上げたのだろうか。
ポーチにもブランドのロゴマークがない。
(ノーブランドだが品質は良い服とポーチ。 レースのハンカチと、 水晶とアクアオーラのブレスレットにネックレス? 盾と剣と弓のモチーフが付いているペンダントトップ? 子供に持たせるようなキッズスマホも、パスポートケースもホテルカードもないのはジェイソンがどこかへ放りすてたのか…?)
不良少年たちが捨てたのか、両親と一緒だから持って出なかったのか
捜査の参考になりそうなものは何もないと踏んで赤井はテーブルに並べたアクセサリーをポーチを入れてファスナーを締める。
最後に靴を調べてみたが、編み上げのショートブーツ風で柔らかい素材である以外はありふれたようなものだが、メーカー名がない所から個人経営などの小さな靴屋で買ったのもかもしれない。
変わっているのは紐の端に小さな金と銀の羽の飾りがついている位だが、これは恐らくアクセサリーショップにいけば沢山売ってる類のものを縫い付けただけの様にも見える。
ワンピースが親の手造りとすれば靴ひもにアクセサリーを付ける位は簡単な事。
服やポーチをひと通り調べた後、治療の邪魔になってはと思い、そのまま家族用の控え室で煙草を燻らせていたらノックの音がしてドアが空く。
「Dr? 手当は」
「終わりました。 病室は小児病棟の5階の503の個室です。目が醒めて落ち付いているようなら4人部屋へ移す事もできますが、それはご両親と連絡がとれてからですね。 怪我の方は完治するまで時間がかかりますが命に係わる程の心配ありません。 左足首の捻挫は確りテーピングしましたから3日もすれば完治しますが、無理に歩かせると癖になってしまうので気を付けて。 まぁ、雨に打たれた所為で、風邪を引きかけて熱がでてきているので1週間程度安静が必用ですが。―……… この子のご両親と連絡は?」
「ファーストネームをいう前に気を失ってしまったから、俺は知らない。……ベルトポーチに入ってたのはブレスレットにペンダントトップにハンカチ位だったから何も分からない。 不良共が捨てたのかもしれないからそれは事情聴取を待つしかないな。 それか旅行者の行方不明捜査依頼から調べないと」
「では、入院届の名前は未記入になってしまいますが………」
「シルヴィアという名前だけでは無理か?」
「ええ…… 事務手続き上どうしても―………」
「とはいってもなぁ……」
赤井は溜息を付く。
「そうだ。 とりあえず仮に、俺がつけてもいいか?」
「え?」
「この服からして可也良い家の子の筈だ。子供を拉致しようとした悪餓鬼どもを締め上げて拉致した場所を白状させて、その近辺のホテルを調査をすればそれほど時間もかからないだろうし、この顔立ちからして北欧系かもしれないから英語が良く分からないだけかもしれない。 それに、両親はきっと探しているだろうから、その間……」
「そうですねぇ…… まぁ確かに育ちも可也よさそうですし。…… 他ならぬ赤井さんですから、保証人、というサインを下されば」
「分かった。入院届けには俺がサインをしよう。ファミリーネームはラウルス・ノービリス。 シルヴィア・ラウルス・ ノービリス……と」
「ラウルス・ノービリス? それは確か?」
「月桂樹の学術名。ほら…… 白いポーチの隅に緑色の糸で月桂樹の刺繍がされている。」
「ああ…… それで。 分かりました。では、シルヴィア・ラウルス・ノービリスで手続きをしましょう。」
「すまないな。ファミリー・ネームまで聞き出せなくて」
「いえ。悪戯とかされずに助かってよかったですよ。…… あの子をみてると、なんかふんわりとした気分になれて元気を貰ったような感じです」
「とても綺麗な金色の瞳をしている子だったが。」
「そうなんですか? 一度も目を開けなかったから見てませんよ。残念です。」
「目を醒ましたら嫌でも見れるさ。 ―……… じゃあ、俺は、子供に付いてるから、用があったら病室へ」
「帰らないんですか? 仕事は?」
「幸い、上司命令でな、1週間の公休で暇を持て余している」
苦笑した赤井に医師も苦笑を返す。
「それに、目を醒ますまで傍に居てやると、約束してやったんだ。怖い夢を見たら可哀想だしな」
「子供には優しいですね。」
「まぁ、この子……ヴィーは被害者だしな? 観光客だとしたら、嫌な思い出の国にしたくない。」
「そうですね。」
「―……… あ、ジョディが来たら、病室を教えてやってくれ。一応、女の子に必要な着替えとかをメールで頼んでおいたから暇を見て来るだろう」
「分かりました」
赤井が病室に行けば、看護師が丁度少女の躰に毛布を掛けている所だった。
「点滴とか輸血とかしなくていいのか?」
「怪我は酷かったですけど、不思議と出血は少なかったみたいです。 でも、軽い鉄アレルギー見たいで、ナイフで切られた傷跡が炎症を起こしてしまったようなので、アレルギーの検査が出るまで強い薬は控えようとDrが。 傷口はアレルギー対応のたんぱく質素材糸で縫いましたから、いずれ体内吸収されますので大丈夫ですわ」
「炎症?」
「かわいそうですが、背中の傷跡が消えるまで数年はかかるかと……」
「女の子なのにな。 夏になって袖なしの服とか着たら目立ってしまうだろうに」
「全く! いい大人が子供に傷つけるなんて!!」
「大人ではなかったが同感だ。」
「じゃ、ごゆっくり。もし、熱が上がってきたらナースコールして下さい。あと、各階に喫煙所はありますが、換気の都合上5名以上の入室禁止です。病室をでて右手側。 化粧室を通り過ぎて階段近くの踊り場に喫煙室があります。 煙草の自販機地下の売店のみです。 ジュースとかの自販機は各階の化粧室の前あたりにあるたまり場みたいな場所にあります。」
「たまり場?」
「患者さんや付き添いの方同士が息抜きにお喋りする場所ですよ。」
「なる程。 了解した。」
赤井は苦笑ながら頷いた。
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