Act-05 約束
ノックの音に赤井はベッドで眠る少女を見てからドアを開けた。
「お早う、シュウ。 休暇初日に酷い目にあったようね。 被害者の子供の様子はどう?」
「まだ、熱が高くてな…… 一度、目を醒ますような気配はあったんだが、俺の気のせいだったらしい。」
「そう…… 可哀想に」
「ナイフで切られた背中の傷が変色するような症状を引き起こしたらしくてな。 注射程度ならいいんだが、点滴とか長時間のものは使えないみたいだ。少し時間がかかるが、背中の傷も数針縫っただけで済んだ。抜糸の必要がない、蛋白質の糸だからアレルギーからあっても大丈夫だそうだ」
「そう」
ショディは眠る少女をみる
「頼まれたものを持ってきたわ。 10歳位の子の着替え…… 下着とパジャマと、それからワンピも あと、歯ブラシに、ピンク花模様のマグカップ。 ……で良かったかしら?」
「―…… たぶん。」
「たぶん?」
「この子がきていた服やポーチに住所を示すもの…… ホテルカード、スマホ、パスポートとか何も入ってなかった。」
「! …… じゃあ、名前も分からないの?」
「意識を失う前にシルヴィアという名前だけは教えてくれたが、ファミリー・ネームを聞けなかった。病室のネームプレートは俺が勝手につけたファミリーネームだ」
「ラウルス・ノービリス?」
「ま、閃きなんだが、ポーチに月桂樹の刺繍があってな」
「そう。 逮捕した不良たちは」
「所轄警察に丸投げしてきた。今頃たっぷり油を搾られて、両親は呼び出し、主犯のジェイソンは立件されて再び塀の中…… だろうな。 女の子も居たが、煙草と酒、売春までは分からないが実際子供を傷つけてはいないようだから、罪は問われないだろうが、学校は停学処分か自宅謹慎か……」
「ジェイソンって、秀が日本に行く前に捕まえた?」
「そうだ。 折角外にでてきたのにな」
赤井は苦笑した。
「それから、俺のシボレーを店に預けてあるんだ。 マスターに、そこの…… サーモポットを返しながら転がして来てくれるか? なんならキャメルに頼んでもいい。 運転はジョディよりキャメルの方が数段上だ。 あと、明日は週末で孫が手伝いに来てるはずだから、ケーキ…… は、店に有ったから、適当にデパートで適当に見繕って何か贈ってやってくれないか? ヴィーが来ているパジャマはマスターから使ってくれと貰ってしまった服だからな。」
「そう。 確か、今、日本の食品フェアをやってて、金平糖やら金太郎飴やら売ってるから。適当に見繕って秀からお礼だと伝えるわ」
「なら、この子の分も買ってきてやってくれないか? チョコレート味のお菓子がいいだろう。 マスターが差し入れてくれたアーモンドミルクココアが気に入ったみたいだったらな。日本フェアをしてるなら、マスターの孫には日本人形とかでもいい。 後は俺の服の礼だと言って日本酒を2〜3本」
「この子のお菓子は金平糖じゃなくてもいい?」
「任せるよ。 俺は菓子には詳しくないからな」
「あははっ! 了解。」
ジョディはウィンクを一つ。
(シュウ…… なんか優しい顔をしている?)
ジョディは昏々と眠る少女をみている赤井を見て微笑む。
(日本から戻ってきてずっとピリピリしていたシュウが。 この子の傍にいるだけで優しくなったようだわ…… シルヴィアちゃんの周囲にふわふわとして暖かいものが漂って、シュウのささくれだった心を癒したよう)
「じゃあ、私は本部に行くわね。 ジェイムズに報告して、それからマスターの店に行くわね」
「済まない。 俺はヴィーが目を醒ますまで傍にいてやると約束をしてしまったからな」
「あらあら、大変ね、"お父さん"」
「おっ……! だれが親だ、誰が……」
「だって、シュウ。 本当の父親の様に見えるんだもの。 いっそ、両親が見つかるまで、保護者になったら? 17で父親になったとしたら、父親になれるわよ?」
「はぁ…… 確かにシルヴィアは可愛い子だとは思うが、俺なんかが親代わりになったら、実の親に迷惑がかかるだろう?」
「―…… そうかもね? でも、シュウ。今の貴方、とても優しい顔してるわ。」
「優しい?」
「この子の影響かしらね?」
(―………!)
赤井は目を見開く。
(確かに…… 眠りの浅い俺が、半日以上熟睡したような感覚がある。 この子を見ていて…… 優しい気持ちになれるのは否定はできないが)
「まぁ…… 親が分からなかったらその時考えるさ」
「そうね。 ー…… じゃ、また後で。 夕方位には来れると思うわ。 その時までに熱が下がるといいわね。」
「俺もそう願うよ。」
赤井は頷いた。
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