08
—轟side
周正 なまえ。
この名前を初めて知ったのは、中学んときだ。
「なぁ、2組の周正なまえって知ってるか?」
「あー、父親が周正病院の委員長だっけ?」
「そうそう!!今結構噂になってんだけどさ!」
確か、昼休みに教室で本を読んでいる時だ。
隣のやつらのデカい話し声で初めて周正の名前を知った。
俺は周りの人間に興味なんてねえし、ましてや同じクラスじゃねえ女の話なんてどうでもよかった。
けど、この時だけは違った——。
「あいつの親、”個性婚”ってやつらしいぜ」
「個性婚?なんだそりゃ?」
「ほら、あれだよ!良い個性同士で結婚して、子供の個性を強くする…的な?」
“親が個性婚”
俺と同じだ。
話を聞いて真っ先に思ったのはこれだった。
ただこれだけで、この日を境に俺は周正なまえという女が気になり始めた。
「確か周正って狐の耳と尻尾のやつだよな?ていうか結構可愛いよな?」
「そうそう、どいういう個性までかは詳しく知らねえけど、親のすげぇ個性2つ持ってるって事だな!」
「じゃぁ、その周正と俺ら結婚したら強い子供作れんじゃね?」
「ははは、確かにな〜!可愛いからワンチャンありだわ!」
クソみてえな話だったが、正直そんな話の内容は関係なかった。
狐の耳と尻尾。
これが周正の容姿だと知り、翌日から俺はその情報を頼りに周正を探していた。
だが、クラスが少し離れている事と学年の人数がそこそこ多いせいで周正を探すのは難しかった。
それから俺が周正を探し始めて1週間経ってだろうか。
周正なまえが誘拐される事件が起きた。
この事件はすぐ解決されたが、学校側は緊急保護者会の後に2週間ほど生徒を集団で下校させる事を決定した。
学校で事件の事はかなり騒がれ、しかも事件の被害者である周正は、”親が個性婚”という噂が同時期に流れていたという事もあり、その噂はさらに広がっていった。
集団下校の期間が終わり、その数日後にずっと休んでいた周正が学校に復帰したと、例の奴らの会話で知った。
残りの15分もない昼休みだったが、俺は読んでいた本を閉じ周正のクラスに向かっていた。
会ったところで話す内容なんて何もなかった。
ただ、何でかこの時は周正なまえという人間を見たい。
知りたいって、そう思った。
「なまえちゃん、早く理科室いこ」
2組の教室に近づけば、廊下から教室の中に声をかけている女がいた。
“なまえちゃん”
俺が探している周正と同じ名前だ。
俺は歩く速度を下げ、ゆっくり2組に近く。
「ごめんね、お待たせ!」
その声と同時に俺はピタリと足を止めた。
教室の中からぴょこっと現れたのは狐耳と尻尾の女だった。
間違いない、彼女が周正なまえだろう。
だが俺は驚いた。
あの噂の中身人物であり、この前誘拐された女であるはずなのに、彼女は笑っていたのだ。
それに友人と楽しそうにお喋りしていたんだ。
こちらに向かってくる彼女と少しだけ目があったのを覚えている。
綺麗な、透き通った青色の目だった。
そして俺は察した。
多分、あの噂は本当であったとしても、”彼女は俺と違う”っと。
それから周正なまえは、俺の中でただの同級生になった。
..
時は流れて雄英の推薦話を学校からもらった時の事だ。
その日まで、ずっと気にも留めていなかった周正なまえの名前を担任から聞かされた。
「そういえば轟、2組の周正にも雄英の推薦やってるんだ。同じヒーロー科だし、もしタイミングがあれば話でもしてみろ。いくら推薦とはいえ、すんなり入れる所じゃないからな。推薦の試験で協力出来るかもしれないぞ。」
この時、そうですか。って適当な返事をした。
もう周正には興味がなかったからだ。
強いて言うなら、同じヒーロー科という事が少し気になったぐらいだ。
当たり前だが、周正とは何もないまま推薦入試を迎えた。
どうやら入試日は2日に分かれており、俺と周正は同じ学校という事で別日だったらしい。
だから顔を合わせる事もなく、周正がどういう結果を残したのかも分からず日だけがどんどん過ぎ、気付けば卒業式になった。
式が終わって、周りが皆別れを惜しむように写真を撮ったり、お喋りしていた。
けど俺は1人、さっさと帰ろうと門をくぐったいた。
そして少し前を歩く狐耳と尻尾の後ろ姿に気付き、俺は何でか無意識に横に揺れる尻尾に付いていってしまった。
「ふんふ〜ふふん〜」
風に乗って鼻歌らしきものが聞こえてきた。
尻尾も機嫌良さそうにブンブン揺れていて、それを後ろから見ていた俺は何してるんだっと急に我に返り、自分の帰り道に戻ろうとした。
その時だった。
急に激しい風が吹き、咄嗟に足を止め砂が目に入らねえように目をつぶる。
「あ…」
風が止み、その声に目を明ければ彼女はすぐ横にあった桜の木を見上げていた。
今の強風で桜の花びらがヒラヒラと周正の上に舞っている。
それを見ている周正。
何を思っているのか分からなかったが、俺は思わずその横顔を凝視してしまった。
——ばいばい。
声は聞こえなかったが、彼女の口は確かにそう動いた。
それで俺はこの時気付いた。
俺の中の”ただの同級生の”周正なまえは、本当の彼女ではないと。
澄んだ目をして友人と笑っていた彼女は恐らく偽物で…。
今目の前で沈痛な表情を浮かべている彼女が、本当の周正なまえなのだろうと。
(※沈痛な表情=ひどく辛い出来事や悲しい事、胸の痛む事を胸中に抱いていることが見て取れるような表情)
気付けば彼女はもういうなかった。
それから数週間経ち、俺は彼女と再会する。
だが彼女は、”同級生”の時と同じ……
澄んだ青い瞳をしていた。
個性把握テストで自然と観察するように彼女を見ていたが、あの時見たような表情は一切しておらず、俺は脳裏に浮かぶあの表情がすげえ気になっていた。
気になる事は、早めになんとかしてえ。
そう思ったら、俺は放課後に周正を呼び留め、次の日の放課後に話す時間を作った。
そして今。
どうしても話の内容的に家庭の問題に入り込み過ぎてしまう。
どう話を切り出そうか考えていたら、周正の方から察したようで話を切り出してくれた。
自らその話を出してくるとは思わなかったから、驚いた。
「…あぁ、その事で聞きてえ事があるんだ、……周正は、自分が個性婚で産まれた事を、嫌だと思った事あるか。」
正直、直球な質問だと思う。
でも周正は、少しの沈黙を経てゆっくり口を開き始めた。
..
答えははっきり、YESだと言った。
それから理由までしっかり話してくれた。
「…父にとって私は”夢を形にできるもの”でしかないんだって。それ以降、ずっとそう思ってる。父の夢はオールマイトになる事。それは小さい頃から知ってたし、私も純粋だったから、私がオールマイトになるね、なんて言ったりしてたよ。でももう、そんな事一ミリも思ってない。…私はヒーローになるつもりはない。父の夢は、絶対に叶えない。…そう、あの突き飛ばされた時に、誓ったの」
ギュッと尻尾を抱き寄せた彼女と目が合う。
澄んだ瞳の彼女は、そこにはいなかった。
俺はその目に、表情に、あの時知った本当の周正が目の前にいると思った。
『個性婚で産まれた事を嫌って気持ち、伝わったかな?それとも、余計な事も喋っちゃったかな?』
そう言う彼女は、既にいつもの周正なまえで、俺は一瞬言葉を失う。
何も言えないでいる俺をよそに、彼女は続けて帰ると言い出し律儀に千円札を机に置いて席を立った。
あぁ、だめだ周正。
多分、このまま帰ったらお前は明日から俺と話をしてくれないだろう。
そんな確信はないが、なんでか俺はそう思った。
それにまだ、俺はお前に大事な事を伝えてねえ。
俺は横を通り過ぎようとする彼女の腕をパシッと掴んだ。
『周正、俺の親も個性婚なんだ』
中学の話色々捏造してます。
ご了承くださいまし。