present





15



USJ事件から次の日の事だ。


目が覚め、ふっと視界に入った時計を見れば針は両方とも天を指していた。
見慣れた部屋の景色に、私は自分の部屋で寝ていた事に気付く。
それから意識が消える直前の記憶をぐるりぐるりと思い出す。


…あぁ、そう、確か。

USJで敵に襲われて、それで皆が助けに来て、保健室で緑谷くんが何か話していた気がする。

そっと手を天井に伸ばし、擦りむいた傷がない事を確認する。
多分、お兄ちゃんが治してくれたんだろうな。
傷はないけど、まだ少しジンジンする。


『…はぁ』

体がだるい。
まだ個性を使いすぎた反動がが残ってるんだ。

けど、凄いお腹すいた。
そういえば昨日のお昼から何も食べてない気がする。

腹の虫は鳴く気力もないようだが、空腹すぎて少し気持ち悪い感じがする。


もそもそと布団から這い出て、リビングへ向かう。


『和美さん…?』

キッチンの方でガタガタ音が聞こえ、私は小さな声で和美さんを呼ぶ。

「まぁ!なまえさん、もう大丈夫なんですか!?」

パタパタとスリッパを鳴らしこちらに駆け寄ると、両手で私の頬を包んだ。
ふわっと彼女から美味しい匂いがし、それに気力をなくしていた腹の虫が生き返り始めた。

『ん、もう、お腹ペコペコ』

へらっと笑いかければ、和美さんは数回目をパチパチさせた後、「もう」っと小さく息を漏らした。
どうやら丁度ご飯を準備してくれていたようで、席について待っていたらすぐにお皿が並べられた。


「お腹がびっくりしないように、ゆっくり食べてくださいね。」

『うん。いただきます。』


ご飯は、玉子粥みたいなものだった。
油揚げが細かく刻んで入っており、これはよく風邪の時に作ってくれる私専用のお粥。
一口食べれば、腹の虫が一瞬で黙った。

最高に美味しい。


「そういえば朝、担任の先生から電話がありましたよ。起きたら、電話をしてくれって。」

『えっ…。担任って、相澤先生…?』

「はい。なんだか籠った声でしたけど、マスクでもしてたんですかね?」

相澤先生、もう復帰したの?
あんなにボロボロだったのに…。

それに比べて、私はただ個性の使いすぎでぶっ倒れて、こうやって学校にもいってない。

なんでかその事を酷く情けなく感じた。


「なまえさん…?」

『…和美さん、今電話して来てもいい?』

「え、えぇ。そうですね、今なら丁度お昼休みですし、今しちゃいましょう。」

そうリビングにある子機を私に持ってきてくれた。

『お部屋で、電話してくるね。』


まだ半分も食べていないご飯を残し、私は階段を上がる。
登録してある学校の番号をピッピっと探し、コールボタンを押した。


..

「はい、雄英高校です」

その声に、聞き覚えがあった。
多分、B組の…ブラドキング先生だ。

『ぁ…もしもし、ヒーロー科、1年A組の狐森です。…相澤先生は、いらっしゃいますか?』

「狐森?...あぁ、君か。少し待っててくれ。」

あぁ、君か。って、ブラドキング先生って私のこと知ってるのか。
そう思っていたら、クラシック音楽が流れ始めた。
なんだったっけ、この曲名。
すごい有名な…えっと、あぁ、そうそう。


メヌエットだ。


ぷつん

「もしもし、相澤だ。」

なんの曲か思い出したところで、その音楽は不自然に途切れ、代わりにその声が聞こえた。

『ぁ、相澤せんせっ…狐森です。』

「…あぁ。」

『っ......』


少し籠った先生の声に、なんでか泣きそうになった。
それに、さっきまで話そうとしていた内容が一瞬で吹っ飛んだ。


「体調はどうだ?明日から復帰できそうか?」

『あ、はい。…大丈夫です。』

「そうか、なら良いんだ。…狐森、本当は直接言うべきだが、今言わせて欲しい。…昨日は、ありがとう。お前が俺の傷塞いでくれたそうだな。それがなかったら、俺はもっと酷い後遺症が残ったと医者に言われた。感謝してる。」

先生はもう一度私に”ありがとう”を言った。

私は、先生に感謝されるような事はしてない。
あんな微力にすらならない個性、先生はきっと慰めでそう言ってくれてるだけだと思った。



『せんせ、あの時、私先生が敵にやられてる時、なにも…なにも出来なかったんです。私、その事謝りたくて…だから、ごめんなさい。』

子機を握る手に力を入れ、溢れそうな涙を必死に堪える。
あの時、あの瞬間の光景は多分一生忘れられない。
それと同時に、私は何もできなかった事がずっと後悔として残るんじゃないかって思う。

電話の向こうで、先生が小さく息を吐く音が聞こえる。

「……俺はあそこでお前が飛び出して来なくてよかったと思っている。あぁいう形になったが、お前を守れたならそれでいい。それに、お前は個性の限界を超えてでも、俺の傷を塞いでくれただろう。十分助けられたよ。」

『っ…で、でも』

「今朝、蛙吹がお前の事心配していたぞ。あの時、自分を庇って個性を使ったから倒れたんじゃないかって気にしていた。」

『そんな…、梅雨ちゃんのせいじゃ 』

「…それは本人に言ってやれ。今のお前と同じで、気に病んでたぞ。」



——私はやっぱり、なまえちゃんの個性がとっても強いしカッコいいって思うわ

梅雨ちゃん…。
彼女のケロッと笑う顔が脳裏に浮かぶ。


「…いいか狐森。俺はUSJでのお前の行動を高く評価している。誰もお前を責める奴なんていねぇ。お前は強い。だから…...もっと強くなるんだ。」


ブワッと堪えていた物が溢れ出した。

私は床に膝をつき、片手で口元を覆った。
なんで泣いているのかなんて、もう分からなかった。




ただ、先生のその言葉が嬉しかった。




それから私は昨日から胸に抱えていた重たい物がスッと消えていくのを感じた。









「あ、なまえさん、先生はなんて?」

顔を洗ってリビングに戻れば、和美さんが心配そうに顔を覗き込んできた。

『うん、体調は大丈夫かーとか、もう直ぐ体育祭があるからねーって、そういうお話だったよ』

「そう。そっか…そっかぁ」

和美さんはなんでか満面の笑みで、私の頭を撫でてきた。
彼女がなぜその行動を取ったのかよく分からなくて、私は首を傾げていた。

「(さっきと違う。いつもと同じ、元気ななまえさんだわ)」


それから温め直してくれたご飯を平らげ、お風呂で体を綺麗に洗い、私はまた少し休むことにした。


部屋に戻り、そういえばっと鞄の中からスマホを取り出す。
液晶をつければ、メッセージアプリの通知が何件か入っていた。

『えっと、凄い…』

A組女子のグループの通知が20件近く入っていたり、尾白くんや緑谷くん、梅雨ちゃんからは個人的にメッセージが飛んできていた。

みんな、心配してくれてるんだな。
胸がぽっと暖かくなった。

とりあえず、皆にメッセージ返してから休もうかな。

そう一番気掛かりだった梅雨ちゃんのトークを開こうとした時だった。
ヴヴっとバイブの振動を手で直接受け、同時にトーク一覧の一番上に轟焦凍という文字がずれ込んできた。

少しだけ表示されている文には、「今日会えるか?」という簡潔な文字があった。
時刻を確認すれば、15時13分となっており、授業が終わったのだろうと予測できた。

パッと指で轟くんとのメッセージを開き、少しなら。っと送る。


既読がついた。

すぐ返事が来るだろうと待っていれば、またヴヴヴっとバイブが鳴り。画面が着信画面に変わった。
びっくりして咄嗟に通話ボタンを押す。

『...も、もしもし?』

「あぁ、悪いな。電話の方が早えと思って……。今、なまえの最寄りの駅で降りたんだが…」

『え……?』

「家までの道、教えてくれねえか?」


それはつまり、うちに来るって事?
というか、早くない?
さっき学校終わったんじゃないの…?

突然の事に頭が追いつかない。
電話の向こうで轟くんが心配してくる声が聞こえる。

『あ、えっと…交番があると思うから、そこ真っ直ぐ行ってもらって、そしたら…』

訳もわからず、とりあえず私は家までの道を説明する。

「あぁ、分かった。じゃぁ、また後でな」

そう一方的に切られた電話。
しばらくトークに表示された電話マークの吹き出しを眺める。


今から、轟くんがうちにくる?


どくどくと心臓の鼓動が早くなり、頭が冷静になってやっと私は動き出す。



『か、かか和美さん!!?』



私はバタバタと階段を降り、急いで和美さんの元へ向かった。






キリがいいので切ります






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