present





16

「急に悪いな」

『うぅん、大丈夫だよ。それより、お茶で良かったの?』

あぁ。っと短い返事を返しながら、轟くんは私が淹れたお茶を飲む。
駅から私の家まで、彼の足だと10分くらいで到着するとは思ったが、本当に10分だった。

突然の客人に、久々に使う客間をざっと掃除して、和美さんには茶菓子を今買いに行ってもらっている所だ。

「和室、なんだな。」

『あ、うん。ここだけ和室なんだよね。他は全部洋間だよ』

キョロキョロと部屋を見渡し、顔は無表情だけど興味津々って感じだった。

「和室は、良い。色々落ち着く。」

『轟くんのお部屋、和室なの?』

「あぁ。…今度来るか?」

『っ!?』

突然のお誘いに、口に含んだお茶をこぼしそうになる。
そういうの、ほんと、だめ。
ただでさえ、轟くんがうちにいるっていうだけで少し緊張しているのに…。

なんともない顔をして、大丈夫か、なんて聞いてくる彼が少し恨めしい。


『…それで、何でうちに?』

「あぁ......その、顔が見たかった。」

轟くんは眉をハの字にし心配の色を含んだ眼差しを向けてきた。

そうか、昨日の事を心配して来てくれてるんだ。

さっき見たトークとかもそうだけど、ほんと、沢山心配をかけてしまっているみたいだ。
明日学校でもちゃんと謝らなきゃな。


『ごめんね轟くん、心配してくれて有難う』

「いや、俺の方こそ悪い。もっと早く広場に向かえば…」

『うぅん、あの状況だもん、なんか色々仕方ないよ。それに私が勝手にやった事だし、轟くんが気にする事ではないよ』

そう言ってはみるが、彼の表情は晴れない。
本当に、仕方ない事なのだから、気にしないでいいのに。

けど、その心配がやっぱり少し嬉しくも思う。
ぽかぽかと胸を温めていれば、轟くんが小さく息を吐いて神妙な面持ちになった。

「...なあ。なまえに聞きてえ事があるんだ。.........なまえと緑谷は、どういう関係なんだ」

ほんの少し見を乗り出してきた彼に、私はなんのことかを頭を傾げる。

緑谷くん。

…私の知っている緑谷という名前の人物は、一人だ。
どんな関係かと聞かれれば、友人…クラスメイト…。
私的にはクラスメイトっていうのが、しっくりくるけど。

というか…。


『なんで、緑谷くん?』

質問の答えを言う前に、まずはこれだろう。

「……俺は、緑谷に敵対心を持ってる。あいつはオールマイトに目をかけられてるだけじゃなくて、俺の知らないお前の何かを知っているだろう。...オールマイトの件は、正直なんだっていい。だけど、お前らがどういう関係かは知っておきてえ。」


『……えぇっと』

質問に質問で返した私もあれだけど、それは質問の答えになってないよ轟くん。
それより敵対心って何、オールマイトに目をかけられてる?
突っ込みどころが多いんだけど…。

『……うん、まず、私と緑谷くんはただのクラスメイトっていう関係。緑谷くんより轟くんの方が私の事知ってるはずだけど?』

「俺も、そう思ってた。けど、…昨日保健室で緑谷にお前の事を聞いたら、勝手に話すのは…とか言って口を開かなかった。あいつは、何を知ってるんだ」

アーモンド型のその目がキリっと私を見る。
なんでか重なった目を逸せない。
なぜそんなに必死そうなのだろうか。

そう思いつつも、私は昨日の記憶を手繰り寄せる。



……確か、昨日の保健室。


あぁ、そういえば。


ピンッと私の中の微かな記憶が蘇る。
昨日、保健室で意識が少し戻ったときに緑谷くんが誰かと話してたんだよね。
確か私の個性の話をしていた気がする...。

うん、これだろうか。

『...多分、だけどね。私って、皆に個性が2つある事言ってないでしょ?だから、緑谷くんはその事を昨日保健室で知って、隠してるって勘違いでもして…それで話していいか迷ったんだと思う...。あくまで推測だけど...』

考えられる線はこれしかない。
誰と話していたか分からないから、何で私の個性を知ったのか分からないけど...。
少なくとも話してた相手が先生だったら、私の事知ってても可笑しくないしね。

それに昨日皆の前であの個性を使ったから、他の子たちも薄々気付いたのだろうと思う。
別に隠しているわけではないけど...。

「個性…。なまえ、俺はもう一つの個性を持ってるって事ぐらいしか知らねえ。」

『あ、そうだっけ…?』

「あぁ。…父親の方の個性、だよな。病院の委員長って事は、リカバリーガールみてえなもんか?」

『………んと』

私は後ろの棚から紙とペンを取り出し、その紙に「修整」と書いた。

『この”しゅうせい”がもう一つの個性。簡単に言うと、傷とかを塞いだり、折れた骨を真っ直ぐ戻したりとか、かな。私は全然使って来な方から時間もかかるし、応用とかはわからないけど。』

轟くんは紙の字をマジマジと見て、ぼそりとその文字を口にした。

今は狐森だけど、戸籍上の自分の苗字と個性の名前が一緒って、正直ややこしい。
まぁ、そんなこと言ったらあの人はこの40数年ずっとそれだったのだ。

『その個性について知りたいなら、兄に聞くのが一番早いかな。病院でその個性活かして働いてるよ』

「兄...昨日のはやっぱり兄だったのか」

『え、会ったの?』

「あぁ、なまえの事迎えにきた時に保健室で。」

『そうなんだ。…全然似てないでしょ』

兄の姿を思い出しているのだろうか、轟くんは少し上を見て固まった。

「目の色、ちげえなって思った。後は…」


「なまえさーん!お待たせしました!」


轟くんの言葉を遮る様に、スッと襖を開けお盆を片手に持った和美さんが入ってくる。
お盆の上にはなんでか軽いお菓子でいいと言ったのに、ケーキの乗った皿があった。

「あ、えっ…?」

入って早々に轟くんの顔を見て、なぜか和美さんは固まってしまった。

「お、お邪魔して、ます。」

轟くんも和美さんの突然の登場に少し動揺している。



そして訪れる謎の沈黙。



それを破ったのは、ハッと息を飲んだ和美さんだった。

「ま、まあまあ!なまえさんったら、お友達っていうからてっきり女の子だと思ってケーキにしちゃいましたよ!!えっと、お名前を伺っても?」

「あ、轟です。」

「轟さんですね、甘いものはお好き?男の子って甘いもの苦手だったりするわよね?別のもの用意した方がいいかしら?」

「え、あ、えっと…」

和美さん、なんだか凄い早口だな、なんて思っていたら正面から救いを求める視線が送られてきた。
轟くんって、人見知りなのだろうか。

『和美さん、大丈夫だよ、有難う!』

「あ、あらそうでしたか。じゃぁ、私はお邪魔みたいなので、うふふ、では、ではでは」

机にケーキの皿を置いていくと、やけにニヤニヤしながら部屋を出て行った。
嵐のような彼女に私は何だったのだと眉間にシワがよった。
轟くんは目の前に置かれたモンブランを見て固まっていた。

よくみれば、ケーキはモンブランとティラミスだった。

何故このチョイスだったのか。

『轟くん、どっちがいい?好きな方でいいよ?というか、勝手に大丈夫って言っちゃったけど甘いもの平気?』

「あ、あぁ甘いもんは食える。…なまえは、どっちが好きだ?」

『んー…どっちも好きなんだけど、今はモンブランな気分かな』

じゃあ、っと自分の前の皿を私の前の皿と交換してくれた。
いいの?っと聞く前に俺もどっちでもいいから、大丈夫だと言われてしまった。


『有難う。それより話中にごめんね、なんの話だったっけ』

「あぁ、なまえの兄さんの話だな。」

『あ、そうそう。似てないよねって話だよね。…私のこの青い目は母からなんだって。目とか鼻とかも、全然似てなくてね。唯一似てる、というか同じといえば髪色くらいなの。』

モンブランの一番上にあった栗をフォークで刺し口に運ぶ。
甘すぎず普通に美味しい。
多分これ駅前のケーキ屋だな。

「母からって、なまえのお母さん、目の色茶色じゃねえのか?」

『え?あっ……もしかして今来た和美さんの事言ってる?』

そういえば私は母の事を轟くんに話していない。
多分、さっき来た和美さんを母だと勘違いしているに違いない。
彼女の目は茶色だから、きっとそう。

その勘違いが少しだけ面白くて、私はフォークを持った手とは反対の手で口元を覆う。

『ふふ、さっきの人はお手伝いさんなの。そうだね、母の事はまた今度話そうて思ってたけど、意外と早く話す日が来たね。』

正直、かなり重たい話だ。
今ここで言うべきかどうかは分からない。
この話を聞いて、轟くんはどう思うかも分からない。

けど、この前色々話したのだ、今更だろうか。

モンブランに向けていた視線を、真っ直ぐ轟くんに向ければ、彼は私の言葉を待っていた。



『私のお母さんね、私を産んだと同時に死んじゃったの。』

「はっ…」

極力、場の空気を重たくしたくなくて、私は笑顔を作って話を続ける。


『よく、ドラマとかである話なんだよね。助けられるのは母か子供かってやつ。…それで、選ばれたのが私だったって事。何で私だったのかなんて幼い時から聞けなくてさ。まぁ、今となっては、聞かなくてもわかるんだけどね。父は、母の命より優秀な個性を持った子を選んだって…。母は私の代わりに殺されたんだって少し思ってたりもする。前に話した目的は、母の敵討ちみたいなものも含んでたり、するかな』

じっと話を聞いている彼の顔を見て、私は小さくため息を吐いた。
やっぱり、どんなに明るく話そうが、話の内容が重すぎてそういう顔になってしまうよね。

『…ね、轟くん、口開けて』

「えっ……んぐっ』

フォークにモンブランを一口分掬って、それを彼の口に突っ込んだ。
上唇に塗りつけるようにしてフォークを引けば、びっくりした顔で口をもぐもぐ動かし始めた。


『そういう暗い顔は、甘いもの食べたら治るものだからね?』


「ゴクッ…悪い、そんな顔してたか」


『ふふ、気付いてないの?ほんと、轟くんって天然ついでにおばかさんなのね。』

「おばっ…おい、それは酷すぎねえか」

天然には突っ込まないのね。


でも…。


すっかり彼の顔から影が消え、少し安堵する。
轟くんは、暗い顔してると顔が怖いからね。


「モンブラン、うまいな。」

『ほんと?よかった。』






もう時期、体育祭!






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