present





17

『ほら、もう暗いお話はお終いにしよ。というより、色々話逸れちゃったね。』

「あぁ、でも、緑谷と何もねえ事が分かったから、もう大丈夫だ。」

そうフォークでティラミスを突き始める。
私はまだ貴方に色々突っ込みたいことがあるんだけどな...。
でも、まあ、あまり深入りするのは良くないかな。

こういう時、自分は遠慮がちな人間だなっとつくづく思う。


それにしても轟くんって、なんでそんなに私の事を気にするんだろう。


『違かったらごめんだけどさ。もしかしてだけど、轟くんって私の事好きなの?』

「はっ?」


ピタッと止まる彼はティラミスに向けていた視線をゆっくり上げた。
暫くじっと見つめ合い、パチパチとお互いで瞬きを繰り返す。
だが特に無表情から変わらない表情に、私の問いは間違いだったと気づく。

『あ、ごめん。自意識過剰だったねっ、あはは、忘れていい…っっ!?』

本当にぽろっと溢してしまった疑問だった。
それに対しても無表情だったはずなのに、轟くんの表情は見る見るうちに変わっていった。


「好き...。これは、好き、なのか。」


ぶつぶつと独り言を始めたが、距離的に全部聞こえてくる。
これはもしかして、今まで気付いていいなかったのを私が気付かせてしまったのだろうか。
それ以前に、自分で質問しておいて何だけど、私の思ってる好き(異性)がきちんと伝わった事にも驚く。
彼の事だから、好き(友人)と捉えるかと思ったけど、普通に捉えてくれた。


『と、轟くっ....!?』

徐々に顔が赤みを増していく彼の名を呼ぼうとすれば、目の前に彼の右手が伸びてきた。
待て。という手だ。


「わ、悪い、今見ないでくれねえか」

格好悪ぃ顔してるっと言う言葉は消え入りそうな声で発せられた。
何も言葉が出てこなかった。
まさか轟くんがココまで天然を拗らせているとは思わなかったからだろうか。

既に引っ込ませた右手で顔を覆い俯いている彼。

私は自分が他人からどう思われているのか、何となく察してしまう。
だから轟くんの今までの態度とか、無意識に私を知りたいとしている事に、“もしかして”っと思ってしまった。

こういうのって察せない女の子の方が可愛いんだろうな。
目の前の彼の反応の方がよっぽど可愛い、なんて思う。



『轟くん、有難う。』

轟くんのその気持ちは純粋に嬉しいと思った。
だからだろう自然とこの言葉が出た。

顔をあげた彼は、まだ赤みは残るもののだいぶ落ち着いた様だった。


「………待っててくれねえか。」

『え?』

「…今はまだ言えねえ。俺がヒーローになって、胸張って言える様になったら…。そん時は俺の気持ちをちゃんと聞いてほしい。」


開きっぱなしになった口をキュッと締める。
左の個性は使わないっていうのに、彼の瞳の奥にはメラメラと燃えているのを感じた。

私は轟くんが好き。
でもこれは異性へ向けるものじゃなくて、友人として…
以前思った戦友としての好きだ。

だから轟くんのいう”その時”に私のこの気持ちがどういう風に変化しているかわからない。
天然を拗らせているとばかり思っていたが、今目の前の轟くんは全然そんなんじゃなかった。

私は首を縦に頷く。

ホッと息を吐いた轟くんは、少し口角を上げて「ありがとう」と言うとティラミスを再度突き始めた。

それからはお互い特に今の会話が無かったかの様に他愛もない会話をしたりし、時間が過ぎていった。
普段だったら今の会話が気になって仕方ないだろうが、彼がいつも通りに戻ったから気にしないでいれたんだと思う。






『気をつけてね。』

「あぁ、邪魔したな。」


轟くんを見送るため外に出たが、すっかり辺りは暗くなっていた。
遠くの方の空は微かだがまだ赤っぽい。
隣にいる和美さんは帰り際に夕食でもっと彼に言ったのだが、お姉さんが家でご飯を作っているという事で断っていた。


「轟さん、またいらしてくださいね!」

「あ、はい。ケーキ、ご馳走様でした。」

ペコペコとお互いで頭を下げているのが面白くて、ふふっと笑ってしまう。


「じゃあ、また明日な」

『うん。また明日ね!』

小さく手を振り、駅の方へ歩いて行く彼の背中が小さくなるまで私はぼーっとその背中を見ていた。

「なまえさん、入りますよ」

『あぁ、うん。そうだね。』

和美さんの呼びかけで、私は中に入ろうとした。
その際、もう一度だけ轟くんの背を見ようと振り向くが既に曲がり角を曲がった様で見えなくなっていた。

今頃冷静になって思うが、明日会うの少しだけ恥ずかしいな。

そう思っていると、見慣れた車がこちらに向かってきた。



『お兄ちゃん』

ゆっくり私の前で停車すると、運転席の窓が開いた。

「お前、何でこんなとこにいんだ?」

『ん、まぁ色々あって。そういえば、昨日ごめんね心配かけちゃって。』

「いや、細かい事は夕飯の時にでも聞くわ。ちょっと車止めるから、早く家の中入れよ」

ガーっと音を立て駐車場のシャッターが開く。
それと同時に兄は車をゆっくり発進させた。
私も開けっぱなしだった玄関に入り、リビングへ向かった。






「そいで?今日は轟くんが心配して家に来てくれたと?」

和美さんと兄の3人で夕食を囲み、とりあえず私は二人に昨日のUSJの話をした。
二人は何となくしか知らなかった様で、私がかなり無茶した事を少し怒られた。

轟くんの話はしないつもりだったのに、和美さんがポロっと出してしまった事で話さざるを得なかった。


『うん、そう。』

「私ったら、てっきり女の子のお友達かと思っちゃって!恋人が出来たなら教えてくれればいいのに〜」

『ぶっ!』

「ごふっ!」

「あら、ちょっと二人とも汚いですよ!」

和美さんの発言で私と何故か隣にいた兄もお茶を吹き出した。
和美さんは私たちにティッシュを渡してくるが、それどころではない。

『か、和美さん!?轟くんは恋人じゃないからね!?』
「お前、轟くんが彼氏なのか!?」

『は?』
「え?」

兄と言葉が連続で被さる。
続けて口を開こうとした兄に私はシッ!っと人差し指を顔の前で立てる。


『全く…。二人とも、良く聞いて。轟くんは私のクラスメイトなの。中学も一緒だから他の子達よりは仲がいいだけ。…おっけ?』

「あぁ、そういえば中学一緒だったっけか。」

『そうだよ。だから家も近めだし、お見舞いに来てくれたんだと思う。』

吹き出してしまったお茶を拭きながらそう言えば、兄は納得した様な顔をした。
けど一方で和美さんは不満げな顔をしていた。


「でも轟くんはなまえさんに好意を抱いてると思いますけどね」

「だめだ。俺が許さない。」

「治さんったら、いつまでもガードしていたらなまえさんに恋人が出来ませんよ。」

「いや、俺が認めた相手じゃないと絶対にダメだ。」


二人は勝手に盛り上がっている。
私は和美さんの「轟くんはなまえさんに好意を抱いてるんじゃないですか?」という言葉にドンピシャすぎて少し俯いてしまっている。
もしかしてだけど、轟くんってかなりかなり分かりやすいのだろうか。
今日初めてで、しかも全然話していない和美さんがわかるって事はそうだよね。

家はともかく、学校で誰かがそれに勘付いて遠回しに気を使われるのは嫌だ。
というか、恥ずかしいからあまりそういう風な目を向けられたくない。

あぁ、どうしよう。

「なまえには俺みたいな男が現れるまでダメだな。」

「なまえさんにだって好みってものがあると思いますけど…?」


私が一人悩んでいると、二人はまだ私の事で言い合っていた。

あぁもう、少しだけ静かにして欲しい。




次回R指定です。
閲覧注意です。






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