19
ついにやってきた体育祭当日。
私は念の為に怪我の最終確認を朝一番で兄が診てくれるというので、それからの参加となった。
会場の外は祭りみたいな感じで出店がたくさん並んでおり、良い匂いに足が引っ張られそうになる。
『うぅっ...』
うっかりリンゴ飴屋さんの前で足を止めそうになるが、ダメダメと頭を振って自制する。
絶対帰りに買おう。
そんな屋台が並ぶ長いエリアをなんとか誘惑に負けず、皆がいる控え室まで辿り着けた、のはいいんだけど...。
うーん。
何、この空気...。
控え室へ入れば、お通夜なのかと思うほど重たい空気が流れて居た。
『あー、えーっと....。』
部屋の中心で轟くんと緑谷くんが真剣な眼差しで向かい合っており、完全に場違いなタイミングで入ってしまった様だ..。
なんでこんな風になってるの?
もしかして喧嘩?
轟くんと、緑谷くんが?
1人考えていれば、轟くんが突然コチラへ振り返り、私と目を合わせる事なく部屋を出ていった。
え、何今の...。
怒ってる。とは形容し難い様な表情でいた彼に驚きを隠せなかった。
つい昨日まで一緒におしゃべりして帰ってたと言うのに、一体彼に何があったのか...。
目をパチクリさせ一人首を傾げた。
「轟くんが緑谷くんに宣戦布告してたんよ。」
『え、なんで?』
「んー...分からんけど。ちょっと怖かったかも。」
そっと私の近くに来て、苦笑いしながら状況説明してくれるお茶子ちゃん。
私も全く状況がわからないから、疑問符が止まらない。
「と、とりあえず開会式ですわね!」
「そうだな。皆、会場まで一列になって行こう!」
続く重たい空気を破った百ちゃんの一声に、飯田くんが続いたけど、彼の提案は虚しく、皆バラバラと部屋を出て開会式へ向かった。
私も梅雨ちゃんとお茶子ちゃんと診察どうだった?など他愛もない話をして並んで会場へ向かうが、やはり轟くんが気になってしまった。
.
開会式の最中、斜め前に並んでいた轟くん。
なんとなくだけど、声を掛けようにも掛けにくい雰囲気で、もどかしい気持ちを抱えたまま第一種目開始となった。
——第一種目【障害物競争】
『なるほどね、こういう妨害がありの障害物競争なのね』
開始早々、轟くんが個性でコースを凍らせた。
普通科の人は勿論、彼の氷個性に瞬時に対応できる人はかなり少ない様で、皆序盤から苦戦していた。
私は彼の氷は簡単に溶かせることが出来るけど、自分の走る足元だけ上手く溶かして進む。
全部溶かしても良かったけど、流石にこういうのもレースの一貫なら、皆にも自分の力でなんとかして貰わなきゃだよね。
そう後ろにいる皆に心の中で小さくエールを送りつつ、轟くんを追いかけた。
少し先に進めば、何やら大きなロボットが出てきて、足を止める。
追いついて来た皆も立ち止まって入試だ入試だとぼやいているのが聞こえてくるので、入試の記憶を手繰り寄せる。
そっか、ヒーロー科一般入試用のロボットなんだ。
言われてみれば推薦入試もあんな感じだったかも。
轟くん含め、皆がざわついている間に私は尻尾を5本に増やした。
『あの時と同じなら、同じことをするまでだよね。』
グッと足を踏み込んで、私は駆け出す。
目の前のロボットが逃さないと言わんばかりに、私に手を伸ばしてくるが、すかさず尻尾を硬くしてその手を弾く。
勢いよく弾かれたせいか、ロボットはぐらっと横に倒れそうになるが、私はその隙に足の間から抜け、このステージの障害物を難なくクリアした。
【おーっと!A組の狐森なまえ!ケモ耳が可愛いと人気らしいが、尻尾の威力は可愛くねえなあ!!】
『っ..マイク先生、何そのコメント...恥ずかしい。』
放送の音声に苦笑いしつつ、少し後ろを振り向けば、私が倒しかけたロボットが氷漬けにされているのが見えた。
やっぱり轟くんが続いてくるよね。
私は尻尾を3本にして走る速度を上げた。
.
第二関門の綱渡は、尻尾を使って立ち幅跳びみたいにすれば届いてしまったのでこれも難なくクリアできた。
渡りきったところで後ろを確認すれば、轟くんが縄を凍らせて器用に渡って居流のが見えた。
それからその少し後ろからは爆豪くんが鬼の形相で空中を飛んできていた。
...このままじゃ私、もしかして1位いける?
そんな甘いことを考えながら、私は前を向き直す。
【さあ、早くも最終関門!果たしてその実態は...】
相変わらず煩い放送の音。
けど、マイク先生の説明によればここは地雷原のエリアらしい。
地雷って事は踏まなきゃ反応しないよね?
地面の中ごと燃やして爆破できるなら、後は走るだけになるけどいけるか..
..まあ、とりあえず1箇所試してみよう。
ボッと地雷が埋まっているであろう場所に火をつけてみた。
けど地雷はうんともすんとも言わない無反応だった。
『無理か。...高速で走り抜けるしかなさそうね。』
【おっと!ここで後続組も最終関門が目の前だ!!って、ほとんどA組じゃねかよ!!】
あぁほんとだ、もう皆来てるね。
でも、ちょっとだけ、集中させてね。
ガヤガヤと盛り上がる放送の音や周りの音を遮断するように耳をパタリと閉じた。
徐々に温まる耳をパッと伸ばし、温かい風が私を覆った。
【おっ?お!?おおぉぉぉぉ!狐森なまえ、尻尾9本モードじゃねえか!!こっから本気って事かー!?】
「っ...なまえ。やっと追いついたぞ!」
ガシッと肩を掴まれ、反射的に振り向く。
今日初めて聞けた彼の声に、少しだけ胸が弾んだ。
でも、ねぇ——
だから、なんでそんな顔してるの…?
今話している暇はないから、その言葉をぐっと飲み込んで、私は尻尾の先で彼の頬を撫でた。
「っ..なまえ?」
『お先!』
「っ...!!」
モヤっとする気持ちを隠す様に薄っすら笑顔を見せ、私は今日1番の速度で地雷原を駆け抜けた。
【おいおい!速すぎるのか狐森なまえが身軽すぎるのか、通った場所の地雷が爆発しねえじゃねえか!それにどうした後ろ!?喜べマスメディア!お前ら好みの展開だ!!】
後ろからドンパッチする音が聞こえるけど、私はもう振り返る事なく前だけを向いて走った。
『はあ、はあ...あと少し!』
意外と長かった地雷原のゴールが見えた。
もう終われる。そう思った瞬間だった。
突然私の視界の端にそれは入り込んできた。
『え…?』
横へ視線を向けた瞬間、時すでに遅し...。
ドガーンっ!!
真横で轟いた爆音に、思わず足が止まり耳を塞ぐ。
『なっ!?緑谷くん!?』
もくもくと上がった煙が晴れ、私の前を駆け抜けていく後ろ姿が見えた。
あのモジャモジャは、間違いなく緑谷くんだ。
『って、やば!!』
驚いて口をあんぐり開けている暇なんてない!
私は1本に戻ってしまった尻尾を3本にし、彼の後を追いかけた。
『っ...もう、すぐ!』
そう伸ばした手が彼に触れそうになった瞬間、視界がパァっと明るくなり、ピストルの音が聞こえた。
続く大きな歓声に、足を緩める。
『はぁ...はぁ……えぇ、大どんでん返しじゃん。』
第一種目、障害物競走は2位という結果で終わり、まさかの緑谷くんの追い上げに拍手を送りたくなった。
思った以上に個性を使って疲れた競技に、私はその場で腰を下ろした。
天を仰いでいれば、轟くん、爆豪くんと続々とゴールしてきて、会場はこれでもかという程盛り上がっていた。
「なまえちゃん、お疲れ様。」
『あ、梅雨ちゃん。』
座り込む私に、彼女の小さな手が差し出され、自然と笑顔が溢れる。
優しいなぁ梅雨ちゃん。
ぎゅっと彼女の手を借り、立ち上がってお尻の砂を叩く。
すっかり周りにはゴールした人たちで溢れていた。
「なまえちゃん2位!すごすぎるって!!」
『わ!お茶子ちゃん!?だ、大丈夫!?』
フラフラと人混みを掻き分けて現れたお茶子ちゃんは、なんか見るからにボロボロだった。
『2人もゴール出来てよかった!』
3人で盛り上がっていれば、アナウンスが流れ、休む間もなくゴールした人たちは第二種目進出となった。
あんなにスタートの時に人がいたっていうのに、たった43人しかゴールしなかったのか...。
よく見渡せば、A組の人が多く残っており、流石ヒーロー科と思わず感心してしまった。
お久しぶりです。約5年ぶりの更新です!
体育祭からの再開となりますが、もしかしたら長い年月が経ってしまい
文章の書き方や表現に違いがあって読みにくいかもしれません…
でも多くの方に更新を待って頂けていた事とても幸せに思います!
長編の掛け持ち多くて更新頻度が高いとは断言できませんが、地道に書いていけたらと思おっているので
楽しんでいただけますと幸いです!