present





22

食堂について、何となく皆と食べる気になれず、1人で適当に済ませてしまった。


ちょっと散歩したら皆の所に戻ろう。そう思いながらお盆を片付けていた時だった。


「あー!なまえちゃんいた!!!」

『え?...三奈ちゃんと葉隠ちゃん?』

恐らくブンブン手を振ってる葉隠ちゃんと三奈ちゃんが私に駆け寄ってきた。

どこか慌てた様子の2人に、まだ1人でいたかったんだけど。と心の中で小さく呟く。


「良いから来てー!時間ないよー!!」

『え、ちょ!?』


ガシッと2人に手を掴まれ、ガヤガヤと賑わっている食堂の人混みを掻き分けて走る。

「急げ急げー!」と楽しそうに前で笑う2人に、抵抗する間もなく連れてこられたのは控え室。

中にいた女子皆は何でかチアの格好をしていた。

しかも、ちゃんとポンポンを持っている。

驚きのあまり声を出せないで入り口で突っ立っていれば、また腕を引っ張られさらに奥へ連れていかれる。


「ほらほら着替えるよー!!」

「なまえさんのは、ちゃんと尻尾が出るように作りましたわ!」

『え、あ、ありがと..?』


バサバサと隣で葉隠ちゃんと三奈ちゃんが着替え始め、百ちゃんに渡された衣装をジッと見つめる。



え。

だから、なんでチア?



「レクリエーションで女子はチアに着替えるんだってさ!なまえも早く着替よ!」

『わっ!?じ、自分で脱げるよ!!』


後ろからスルッと服の中に入ってきた手に思わず飛び跳ね、その手の主から距離を取る。

ニシシっと意地悪な笑みを浮かべながら両手で何かを揉む仕草をしながら私に近づく三奈ちゃんに、ムッと唇を突き出す。


「お二人とも、本当に時間がないですわよ。」


百ちゃんの苦笑いに、他の皆も時計を気にし始めた。

三奈ちゃんは仕方ないと言うような顔で着替えに戻って行ったので、取り敢えず私も渋々短い丈の服に袖を通す事にした。

着てみて改めて思うけど、チアの服は明らかに露出凄いし..拒否権はない感じだったのかな?

チラッと着替え終わった皆は、恥ずかしそうにしながらも何でか少しノリノリで楽しそうに笑っていた。





「ケロ?なまえちゃん、その腕どうしたのかしら?」

『ん?あー...ちょっとぶつけちゃって。別に痛くないから大丈夫だよ。それよりお昼一緒に食べれなくてごめんね。』

「それは大丈夫よ。」

着替え終わって部屋の隅にいれば、梅雨ちゃんがきて数回会話のキャッチボールをする。

先ほど爆豪くんに掴まれていた腕が明らかに赤くなっており、目敏い梅雨ちゃんにすぐ指摘されたけど、適当な理由を付けて話を逸らした。

他愛もない会話は長く続く事なく、昼食の話がキリよく終わったタイミングで再度百ちゃんの声が掛かる。


「皆さん、そろそろ行きますわよ!」

「 「 はーい 」 」





あぁ、やだな。

上手く笑えていただろうか。



.





【どうしたA組!?どんなサービスだあ!?】

会場に着くなり、マイク先生の驚きと笑いの声が響いた。


『これって…、そういうこと?』


私の呟きに、空気が一気にどんより沈んだ。

どうやら皆仲良く峰田くんと上鳴くんに騙されたようだ。

ショックを受ける百ちゃんにプンプン怒る次郎ちゃん。

もう何だか、こんな事に時間を使われたのかと溜息しか出なかった。


『...今更だけど、このスカート短すぎない?ちょっと動いたらパンツ見えそう...。』


ヒラっと掴んだスカートの端。

基より、こういう格好は嫌い...ではないけど、好きでもないから落ち着かない。


「似合ってるわよなまえちゃん。」

「うんうん!こうなったらやったろー!」


始終ノリノリの葉隠ちゃんに、私の背をポンっと押す梅雨ちゃん。

また小さく溜息をついた。

どうせ最終種目もあってすぐ着替えるから、もう少しだけこの格好でいるか。



それからレクリエーション前に最終種目の内容が説明され、騎馬戦で勝った上位4チームメンバーの個人戦との事だった。

一部の出場者は辞退したり、繰り上がったりと色々あったみたいだけど、私の出場は変わりなかった。




『じゃぁ、私着替えてくるから。』

「えぇ!?レクリエーションの間だけ一緒に盛り上げへんの!?」

『うーん。個人戦もあるし、ちょっと休憩したいかも、ごめんね!!』

控え室に戻ろうとしたらお茶子ちゃんに引き止められたが、強引にかわしてきた。

申し訳ない気持ちはもちろん湧いた。



でも…。

それよりも胸の奥底で黒いドロドロとした感情が今にも溢れてしまいそうだった。




..




「おい、あの子障害物で2位だった子じゃん!近くで見ると可愛い〜」

「ケモ耳でチアってエロいな、最高かよ。写真撮ってもらう?」

「え、いいじゃん、声かけようぜ!」




控え室までの道のりで、後ろからそんな低俗な声が聞こえてきた。

レクリエーションに参加しない生徒達でごった返している通路は、意外と狭くて動き辛い。

そして何より嫌でも目立つこの格好に、周りからの視線が痛いのは分かってたけど..

いくら何でも人が多すぎる、完全に移動のタイミングを間違えた。


だんだん近づいてくる低俗の声に、自然と私も人混みをかけ分ける速度が速くなる。



「早くしろって、行っちゃうぞ!」




あー、煩い…

私は今虫の居所が悪いって言うのに...。



「あれ、どこ行った?」



やっぱりこんな格好無理に断ればよかったんだ。
後で峰田くんと上鳴くんの事ちょっと燃やしてやろうか。



「あ、あれじゃね?」

「ちょっと人多すぎだろ!」


『っ〜〜〜。』




あぁ!本当にっ!





『しつこい!!』
「おい。」


『え...。』


振り返って追い払ってやろうって思ったら、私の大きな声とドスの聞いた低い声がごった返した通路に響いた。


「お、おいあれ...。」

「爆豪じゃん、怖っ」


周りの生徒が何事かとヒソヒソ声をあげる。

どうして...?


突然の事に戸惑っていれば、私に背を向けている彼がその低い声でさらに言葉を紡いだ。


「失せろ。」


「っ...な、なんだよ。」

「俺らその子に用が…」


さっきの低俗達の声だ。

もうこんな後ろまで迫ってきていたのか。
爆豪くんの背中で彼らの姿は見えないが、声が震えていて怯えているのが伝わってきた。

それでも引こうとしない彼らに、爆豪くんは再度「失せろ。」とだけ言うと、パタパタと遠ざかっていく足音が聞こえた。


『あ、えっと...爆豪くん...?』

「...チッ。」


周りからの視線と異様な空気に、思わず彼の名前を呼ぶ。
少しでかい舌打ちが聞こえた後、こちらを振り返った彼は心底めんどくさそうな顔をしていた。


「てめぇ、ちったぁ自分が目立つって事理解しろや。」

『え、ごめ...んっ!?』


歩み始めたと思えば、急に私の首根っこを掴んだ彼。
私はザワザワと騒がしい通路を、爆豪くんに引き摺られる形で離れる事となった。

この人、なんで毎度私の首根っこ掴むんだろう。乱暴すぎる。




..



「おら。」

乱暴に彼の手が離されたのは、人通りが無くなった場所だった。
しかし急に手を離されたもんだから、咄嗟に受け身が取れず私はベシャッと床に尻餅つく。

『ちょっと!!』

座ったまま後ろを振り向けば、ポッケに両手を突っ込んで少し猫背の背がドンドン先へ進んでいくのが見えた。

そのまま1人残された私は、なんなの。と小さく独り言を溢しながらお尻を摩る。



...まさか、助けてくれたのだろうか。

少し前のマスコミ事件でも彼は私を助けてくれたし、騎馬戦でも何かと私が困っているタイミングで声をかけてくれた。
いつも緑谷くんに酷い態度を取っているのを見るけど、もしかして普通に優しい人なのだろうか。




『....あり得ないか。』










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