23
ついに始まった個人戦。
誰もいない空き控え室でストレッチをしていれば、モニターに試合の様子が映し出されていった。
第一試合は緑谷くんが勝った。
轟くんが気にかけているだけあって、確かに彼には何か不思議なものを感じた。
そして第二試合はものの数分...
いや、数秒で轟くんの勝ちとなった。
会場からのドンマイコールに「うわぁ。」と思わず声が漏れてしまった。
モニター越しでも分かる轟くんのイラだった様子。
瀬呂くんの氷を溶かす彼は一体今何を考えて、何を見ているのだろうか。
..
【続く第5試合!腰にベルトがあっても変身しねえぞ!ヒーロー科、青山優雅!そして、皆お待ちかねケモ耳ガール!ヒーロー科、狐森なまえ!】
「ボンジュール」
「...よろしくね。」
ハートが飛んできそうな勢いでウインクされて、思わず顔が引き攣る。
青山くん。クラスは同じでも話したことがなくて、個性もよく分からない。
お腹からビームが出るんだっけ?
となると、多分遠距離だ。
どういうビームか分からないけど、長引くとめんどそうだなぁ。
【さあ、いってみようか!第五試合スタート!!】
「先手必勝!!」
ビュンッ!
『わわっ!びっくりしたぁ。』
急に打ってきたビームを反射的に尻尾を硬化して弾く。
あれ、弾く...弾けた...?
【おーっと!これはもしや、相性最悪かあ!?てか、ずっと思ってたけど、その尻尾どうなってんだよ!?】
弾かれた事に苦い顔をした青山くんだったけど、構わず私にビームを連射してきた。
私は特にその場から動く事なく尻尾でガードを続ける。
うーん。
ここからどうしようか。
そう考えていた時だった——。
バキンッ
「あぁ!僕の大切なベルト!!」
『あ、...ご、ごめん?』
私の尻尾で弾いたビームが、まさかの青山くんのベルトに直撃した。
大切なベルトなのか、悪い事しかたなぁ。
でも——。
『ごめんね青山くん。』
「え?...うわああぁぁ!!」
彼がショックを受けている隙に、一気に距離を縮めると、尻尾で彼を思い切り場外へ叩き出した。
痛くない様に力加減したつもりだったけど、顔を真っ青に目を回した彼は立ち上がれない様だった。
「青山くん場外!2回戦進出は狐森さん!!」
ミッドナイト先生の判定結果が会場に響き、同時にマスコミのカメラが一斉にシャッターを切ってきた。
途端に恥ずかしくなって耳をパタンと閉じ、尻尾で顔を隠しながら私はそそくさとスタジアムを後にした。
..
『青山くん、本当にごめんね。』
「いや、いいんだ...初めから勝てるなんて思ってなかったさ。」
救護室で彼に付き添ったが、変わらず顔が真っ青だった。
それでも私を気遣ってかウインクしながらグッジョブしてくれて、なんだか申し訳ない。
尻尾の力加減、うまくコントロールしないと..。
そう思っているとリカバリーガールがやってきた。
「何だい、あんたまたお腹壊してるのかい?」
『え?また?』
「この子は個性を使いすぎるとお腹を壊すんさね。」
『あ、そうなんですか...』
リカバリガールが治療するというので、最後にもう一度謝って救護室を出た。
静かな廊下に、うっすらとマイク先生の声が響いている。
私も観客席に行こうかな。
多分...。
もう大丈夫。
だいぶ気持ちも落ち着いたし、“笑える”はず。
そう考えながら、階段を登ろうとした時だった——。
ユラっと赤い何かが視界に入り込んできた。
赤い、炎...?
パッと顔を上げれば、凍てつくような冷たい視線が私を突き刺した。
『え....エン、デヴァーっ』
途端に体が硬直して無意識に息を呑んだ。
「...周正なまえ。」
『っ!?』
“周正”
その風貌に似合う程低い声で、確かにこの人は今そう言った...。
でも、なぜ。
知っているの。
じわじわと感じる熱と威圧感に、変な汗がじわっと滲んでくるのがわかった。
「まさか焦凍と同じクラスとはな。...輝夫とは何かと縁がある。」
『っ...なんで、アイツの名前を...』
鋭く冷たい目がスッと細くなる。
どこか苛立ちのあるその表情に、体の芯が冷めていくのを感じた。
「ほぉ。...話には聞いていたが、貴様も親にくだらん反抗期か。せっかく父親と母親の個性を受け継いだ“傑作”というのに....輝夫も随分と甘やかし過ぎているな。」
———は?
『今、なんて言った?』
多分無意識だったと思う。
グッと握った拳は微かに震え、爪が食い込み、薄っすら手に血が滲むのを感じた。
キッと彼を睨みつければ、私の言葉を待っている様に黙ってこちらを見下ろしていた。
『私が傑作?バカにすんのも大概にしてよ...。なんで....っ...どうして貴方もアイツも“私達”のことを道具としてしか見れないんだよ...。』
フラッシュバックしてくるあの日の出来事。
突き飛ばされた時に手をついたコンクリートの気持ち悪いぐらいの冷たさ。
いつまでも残るあの冷たい感覚は、あの時からずっと私の心も冷やしている。
どんなに暖かい兄や和美さんの愛情を得てきても、アイツの娘である事でこの心は一生温まる事なんて無いんだ。
目の前のエンデヴァーとアイツのあの目が重なり、抑えていた私の怒りはほぼ頂点に近くなった。
『っ...私も...轟くんも、
ボォッ!!
エンデヴァーに対抗する様に、私は青い炎を大きく纏う。
完全に感情任せだった。
「...輝夫は残念だな。狐森朱音が”自害“する前に、後2人は作っておけば良かったものを...。」
『......ぇ?』
溜め息混じりで吐き出された言葉に、勢いの良かった私の炎がシュゥッと小さくなった。
『ジガイ...?』
一瞬、その言葉の意味がわからなかった。
けど、すぐに脳内で変換されたその漢字に、脳が真っ白になって思考が停止した。
「ふん。どちらにせよ、貴様が九尾の力を継いでしまったから、別の子を作ったところでだったか。せめて死ぬ前にその力の使い方を母親から教わる事が出来れば、少しは焦凍と並べたかもしれんな。」
私の事を轟くんより下だと、遠回しにそう言っているのが分かった。
けど、そんな事よりなんの話をしているんだ。
『...母が、ジガイってどういう事。』
小さく溢れた疑問をエンデヴァーは拾い上げた。
眉間に深い皺を作り、その瞳にしっかり私を映して口を開いた。
「まさか貴様……自分の母親が自害した事を知らないわけではなかろう。」