24
【また凄まじい爆破が炸裂するかあ!?てか、女子とばっか当たってんなあ!ヒーロー科、爆豪勝己!バーサス!ちょっと尻尾以外の攻撃見せて欲しいぜ!ケモ耳少女!ヒーロー科、狐森なまえ!!】
スタジアムに響く大きな歓声に、遠くに行っていた意識がスッと戻ってきた。
目の前に立つやる気満々の爆豪くんを見て、私はどうやってここまで来たのか記憶が曖昧だった。
確か私を探し回ったという三奈ちゃんと耳郎ちゃんに連れられて来た気がする...。
「テメェ、怖気付いてどっか隠れてたんか?コッチは15分も待たされてイライラしてんだよ」
確かに爆豪くんは明らかにイライラしていた。
その眉間には青筋が浮かんでいて、掌からは見せびらかす様にバチバチと火花を散らしている。
やっぱり、さっき彼が実は優しいなんて思ったのは気のせいだった様だ。
「俺はなァ、完膚なきまでの一位じゃなきゃ意味がねェんだよ。デクに炎を使った半分野郎にも、テメエにも勝つ!!」
『...』
【第五試合、スタート!!!】
「死ねやああ!!!!」
青山くん同様、試合開始早々に爆豪くんは私に突っ込んできた。
目の前に迫る拳。
直撃したら顔の形が変わってしまうのでは無いかって、こんな時に呑気に考えてしまった。
試合になんて全く集中していなかった。
むしろ早く終わらせて欲しかった。
早く。
早く帰って、私はアイツに会わなきゃいけない。
ドガンッッ!!!!!
『っ.....?』
盛大な爆発音にスタジアムが静まり返った。
私は来るはずだった衝撃が無く、攻撃が来る直前に閉じた目を開ける。
土煙が晴れ、徐々に現れたのは、地面に拳を打ちつけたままコチラを睨みつける爆豪くんがいた。
「狐女...ふざけてんじゃねェぞ!!!」
そう伸びてきた大きな手が私の顔面を鷲掴んだ。
その指の隙間から見えた顔は、目を充血させ、いつも以上に怒りを露わにしている爆豪くんだ。
【お、え?どゆこと!?爆豪!まさかの爆発は地面に直撃!?】
『っ...早く、終わらせて。』
「あァ!?!?」
ギリギリと徐々に強まる力に、顔を歪めずにはいられなかった。
「さっき言ったよなァ。俺は完膚なきまでの一位じゃなきゃ意味ねえって...テメェの本気は尻尾が9本だろうがよォ!!!」
ボンッ!!!
【おおおいい!!!爆豪!!女子の顔面を爆破しやがったああ!!!!】
『うっ...』
爆破の衝撃で少し後ろに飛ばされた私は、咄嗟に尻尾をクッションに地面へ横たわる。
彼の攻撃は見た目通りちゃんと痛いし、直撃を喰らった視界はチカチカと眩しい。
至近距離の爆破で耳もキーンとして、全てが不快でしかなかった。
ふらっと立ち上がって、ジリっと一歩彼に詰め寄る。
「完膚なき、一位ね。私なんか、貴方にとって何の障害でもないでしょう。さっさと倒して、スッキリ準決勝にでも行きなよ...」
プッと口の中に広がった鉄の味を唾液と共に吐き出す。
彼同様に、私もイラついていた。
本当は開始直後に棄権しようかと考えた。
それでも試合を続行しようと思ったのは、数回ほど私を助けてくれた彼へのお礼のつもりだった。
ここで相手に棄権されて準決勝に上がったって、彼は何も納得しないと思ったから。
だから彼の言う"完膚なきまでの一位"の為、ここに立っているというのに、随分と理想の高い"完膚なきまで"ね。
「ざっけんなよ....全力で戦いもしてねェ癖に、ほざいてんじゃねェ!!!」
『っ..また』
向こうから距離を詰めてきたと思ったら、また顔を鷲掴みにされた。
今度はそのまま足が宙に浮いた。
いくら私が身軽とはいえ片手で持ち上げられ彼の腕力は化け物かと思った。
「尻尾だせやあぁ!!!!」
『っ!?!?』
彼は空いた反対の手で私の尻尾を掴んだ。
直後私の体は恐怖...
いや、拒絶反応を起こした。
『さ....』
「あぁ"!?」
『触るなぁ!!!!』
ゴオオッ!!!!
凄まじい勢いで私を包んだ青い炎。
爆豪くんは咄嗟に私から離れ、距離を取った。
「...はっ、んだよ。出来んじゃねぇかよ。」
不適な笑みを浮かべる彼に、私は募っていた怒りが膨れ上がった。
触られた。
男の方から。
握られた。
怖い。
むかつく。
触るな。
ぐるぐると回る感情に合わせるかの様に、私の炎は威力を増した。
『そう...。そうね、他人に変な気回してる暇があるなら、最初から私が...終わらせれば良かったじゃないっ!』
ブワッと足元から温風が立ち込め、彼のお望み通り私は尻尾を9本にした。
今更ながら、爆破された顔面がチクチクと痛んだ。
けどそれを隠す様に両手に青い炎を纏い、目の前の彼へ鋭い視線をぶつけた。
【おぉぉ!本日2回目の9尾だ!!!しかも何だあの炎!!ここまで熱が伝わってくんぞ!?】
「やる気出すんが遅ェんだよ!!!」
爆破の勢いで私に飛び込み、仕掛けてくる彼。
その顔は私が本気出すことを喜んでいる様な狂気じみた顔だった。
ゴォっと突っ込んでくる彼の前に炎で壁を作る。
「ちっ...。甘ェんだよ!!!」
炎の壁手前でコンクリートを抉る様に爆破し、その瓦礫が宙から私に降り注いできた。
一瞬意識がそちらに逸れ、炎の威力が弱まった。
彼はその一瞬を見逃さなかった。
「死ねえぇぇ!!!」
『っ...』
ほら、やっぱり。
私がどんなに怒って感情的に個性を使おうとしたって、貴方の戦闘能力なら障害にもならない。
目の前に迫る拳がスローモーションに見え、私はこの後のことを考える。
この距離なら尻尾でガードする事もまだ可能だ。
けど、このまま殴られて場外に行けば望んでいた通り試合は終わりとなる。
...終わらせよう。
変に熱くなってしまったけど、爆豪くんは私の尻尾を傷付けるような人じゃないってわかってる。
大丈夫。
そう最初と同じように瞼を閉じた時だった。
ゴオオォォォ!!!!
「っ....!?」
『!?』
【あ....あぁ!?な、なんだあああああぁぁ!!?!?】
私を中心に天高く青い炎の柱が生まれた。
青い空を突き刺すように上へ上へ伸びている柱は、一体どこまで続いているのか、終わりが見えない。
【おおおおい!!放送席めちゃくちゃ熱いんだけど会場大丈夫かあ!?!?】
マイク先生の放送音と、会場から聞こえる「暑い」「溶ける」という声からして、かなり高温なんだろうと察する。
無意識とはいえ、なぜ急に炎が...。
ふわっと後ろに生える9本の尻尾が円を描くように勝手に広がった。
自分の意思ではない。
個生の意思なのだろうか。
『はっ...なにそれ。』
【おいケモ耳ガール!ちょっとやり過ぎだぜえ!!】
威力がどんどん上がり、会場が灼熱地獄になりかけている。
マイク先生と会場の悲鳴に、遠回しに何とかしろと言われている気がした。
けど、わからない。
自分の意思で起こした訳じゃ無いのに、どうやって止めれば良いの。
『はぁ...はぁ...』
戸惑いと焦り。
そして徐々に削られていく体力に目が回りそうだった。
『っ....ごふっ...』
胃から湧き上がった不快な感覚に、咳き込む。
咄嗟に口元を押さえた掌には、真っ赤な鮮血が付いていて、私は顔を歪めた。
「おい!!!」
霞んでいく視界には青..いや、虹色の炎..?
それから初めて見る爆豪くんの困った顔。
これ、ダメなやつだ。
『...ごめっ……爆豪くん。』
「っ...おい!!!!」
パタリと倒れた私は、背けになって空を仰いだ。
青い空を背に、ゆらゆらと虹色の炎が楽しそうに舞い踊っていた。
重たい腕を持ち上げ、そっと掌を空へ翳す。
優しく拳を作り、ほぼないに等しい体力を振り絞って炎へ意識を集中させる。
意外にも勝手に発動した炎は、私の意思通りゆっくりだが縮小していった。
同時に尻尾の本数が減っていく感覚がして、安心した。
結局自滅してるんじゃ、ここに来た意味ないじゃん…。