present





27

体がだるい。
目覚めてすぐ、ただそう思うことしか出来なかった。

記憶はちゃんとある。

個性が暴走して、なんとか止めれたのも、保健室で休んでて眠っていたことも。


...全部覚えてる。




窓から差し込むオレンジの光。

もうとっくに体育祭は終わっているだろう。

...結局誰が一位になれたのだろうか。


そんな事、本当は気にすらしていないのに、何故かぼんやりとそれを考えていれば扉が開く音が聞こえた。


カツカツと靴の音を鳴らし、私の寝ているベッドのカーテンを開けたのは、今朝も顔を合わせた兄だった。

心配そうに私の名前を呼んだ彼に、寝起きの頭は高速で覚醒していった。

そして心臓がドクドクと大きく鼓動を打ち始める。



「大丈夫か?まさか個性暴走するとはな、TVで見てて流石に焦っち「お兄ちゃん。」」





「お母さんは、自殺だったの?」




兄の言葉を遮って、スッと口から出た冷めた言葉。

部屋から音が消え、目の前の男の表情がみるみる青ざめていくのを見て、私は全てを悟った。



お母さんは、私の出産が難産で亡くなったって——。

今までそう彼から言い聞かされてきたのに、ずっと私は嘘を吐かれていたんだ。



ギリっと拳を握り、奥歯を噛み締めた。

悲しみと戸惑いと怒りと...。

色んな感情が溢れてきそうだった。



「お前、それ、どこで...。」

「っ...どうして教えてくれなかったの!?」

「っ...。」



兄妹で色の違う瞳が交差した。


「お前には、まだ言う時じゃないと...」

「じゃぁいつ教えてくれるつもりだったの!?どうして...どうしてよ!!!」

「やめっ、やめろ!!暴れるな!!!」


ベッドから重たい体を起こし、掴み掛かる。

バランスを崩した彼が、咄嗟に手をついたサイドテーブル。

その上にあった花瓶が床に落ち、陶器の割れる音が部屋に響いた。


しかし関係ない。


ブワっと掌から薄っすら炎が滲み出て、驚いた兄がその腕を掴み私はベッドへ縫い付けられた。


「離して!!お母さんが自殺した理由は、やっぱり私が原因なんでしょう!?」

「ちがっ...」


ガンッ!


突然開いた保健室の扉。

あまりにも乱暴に開けられたそれは、私達の言い争う声よりも大きな音を立てた。


驚いて2人揃って視線を向ければ、眉間に深く皺を刻んで立つ爆豪くんがいた。


「っ...君は、ばく..うおっ!!」


ズカズカ中に入ってきた彼は、兄の着ていた白衣の首根っこを掴むと勢いよく後ろへ投げ飛ばした。

ゴンっと棚にぶつかった兄は、いてて...っと後頭部を押さえていたが、それを心配できる余裕が私にはない。



兄を映していた視界は、スッと爆豪君の背によって遮られた。




第三者の介入によっても、収まる事のない感情。

バクバクと高速で脈を撃つ心拍が、もはや痛いとすら感じてしまう。



兄のあの言動からして、母が自殺したのは本当の話なんだ。




そして、きっとその自殺の原因は私だ。




エンデヴァーに言われた時から考えていたんだ。


母が自殺する理由を...。

きっと、私のせいなんだって...。


だから皆は、私に嘘をついてまで隠したかったんだって。




ジワっと滲む視界。

何もかも、最悪だ。



「ばく...ご..くん。」


この溢れんばかりの黒いドロドロした感情。

考えれば考える程、それに飲み込まれそうになる恐怖心。




もう、嫌だ。


誰でもいい。



誰でも良いから、ワタシを..





———助けて...。





ちゃんと声に出ていたのかも分からなかった。

けど、目の前の赤い瞳は一瞬揺れると、情けない顔をした私を映した。




それから気付けば、私は腕を引かれ廊下を走っていた。



もう大体の生徒は帰ったのか、廊下は人がいなくて静かだった。

走りながらも廊下の窓から差し込むオレンジの光が、チカチカと眩しい。


スッと目を細めれば、同時に目からポロポロと涙が溢れ落ちた。


何に泣いているのかすら、もう分からないし、考えたくなかった。





..




「..爆豪くん、有難う。」

「...アイツ、知り合いか?」


下駄箱に着き、私の腕をずっと掴んでいた手が離れた。

彼は体温が高いのだろうか。

手が離れた途端、掴まれていた手首の部分がヒヤッとしたのを感じた。


「.....兄、なの。...ごめんね、ちょっと喧嘩しちゃってさ、変な所見せちゃったね。」


なんとか普段通りの声色で話せているものの、表情だけは...今はとてもじゃないけど、愛想笑いすら出来ない。

だからどうか、振り返らないそのまま帰って欲しい。


そんな自分勝手な我儘な事を考えながら、顔を俯かせた。

足元だけが私の視界に映る中、前を向いていた爆豪君の足がコチラへ向いた。


やだ。

今は本当に見られたくない。


その一心で、更に顔を俯かせれば、ガッと大きな手が私の両頬を挟んだ。

驚いて身を後ろに引く前に、力ずくで上げられた顔。

視界には眉を顰め真剣な眼差しの爆豪君がいて、目を見開く。



「.....不細工な面してんじゃねぇよ。」

「っ......」

「テメェの家庭の事なんざ知らねぇし、興味もねぇんだよ。」


真っ直ぐなその言葉に嘘はないと分かる。

けど同時に、彼が保健室での会話を聞いていたのだろうという事を察する。


かなり大きな声で怒鳴り散らしていたから、ドアの前で聞かれてしまっていても無理はない。

他人の家庭の...母親の死について聞かされて、彼からしたら迷惑極まりないだろう。


私は、彼に謝罪の言葉しか出なかった。


「ごめんなっ...う..いひゃい...」


ググッと掴まれた顔に更に力が加えられ、思わず唸る。


グンっと近付けられた顔に、ピクッと肩が跳ね上がる。

目の前の瞳は鋭く、まるで私の中の全てを見透かす様に細められた。


「謝罪なんかいらねぇ。助けを求めたんは、テメェだろうが。」


静かな声だった。

スッと掴まれていた頬は解放されたが、私を捉える瞳だけはそのままで、コチラの言葉を待っている様子だった。



「....ぁ...えっと...ご...」

今し方要らないと言われた言葉が出そうになり、それを飲み込む。


「...あり、がとう。」

「.......ん。」


帰んぞ。と私に背を向けると、靴を履き替え始めた爆豪くん。

その一連の流れをボーッと眺めていれば、早くしろや!!と怒鳴られ、咄嗟に情けない返事を返していた。











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