present






29

「私の家ね、轟くんと一緒で個性婚家庭なの。」

 
父が望んだ通り、私には個性が二つある話。

中学の時に起こった冷たい事件の話。

私が雄英のヒーロー科にいる目的の話。

そしてこの話を知っている轟くんとは戦友になった気でいたけど、私の勘違いだったのかもしれないという話。

くどい話にならない様に頭の中で纏めながら話していると、自分でも驚くぐらい落ち着いて言葉が出てきた。

終始黙って聞いている爆豪くんの顔は少し怖くて見れなかったけど、時々チラッと見た彼の顔は真剣に話を聞いてくれている様だった。


「それで、お母さんの話だけど…。」
 

そこまで言って、今まで躊躇なく開いていた口が無意識に閉じてしまった。

ここから先は誰にも話したことがないし、私自身も混乱がある話だ。

だから、うまく話せるか分からない。
 

「ごめん。あんまり、上手く話せないかもしれないんだけど……。」

「……あ?テメェが思ってる事ツラツラ言えば良いだろ。俺は纏めろなんて言ってねぇんだよ、吐き出せっつってんだよ。」

「っ…うん。」
 

ピシャリと言われてしまい、一度小さく深呼吸をした。

 
「ふー。……お、お母さんね、私の出産が難産で……それで私を産んでそのまま死んじゃったって聞いてたの。でも、両親のことを知ってる様な口振りだったエンデヴァーに体育祭で会って、その時にお母さんは自殺だったって聞かされて……。そもそも何でエンデヴァーが知ってるのかも疑問で、でもそれ以上に…何で家族は私に嘘をついていたのか、怒りや悲しみよりも、多分……恐怖が勝ったと思う。だって…考えれば分かるじゃない。お母さんが自殺したことを隠すのって、その理由が私に関係していて、私がそれを聞いたら悲しむから…。だから…っ………だから、皆私に嘘をついていたんだって、そうとしか思えないじゃない。」

 
だんだんと震えていく声に、浅くなっていく呼吸。

あの時のお兄ちゃんの青ざめた顔が脳裏に過ぎって、キュッと瞼を閉じる。

 

何で自殺したのか、ちゃんと理由を知りたい。

知らないといけない。

でも、知ってしまう事が恐ろしい。

 

欲しくて堪らなかった母親の愛情を、自分が原因で失っていたなんて知ったら、私はショックで立ち直れないかもしれない。




 
 
――嗚呼。


 
考えれば考えるほど息が苦しくなってくる。

誰でも良いから、違うよって言って欲しい。

そんなのエンデヴァーが勝手に言ってて、お兄ちゃんはただ驚いただけだって。

全部全部、私が良かったって思える話にまとめて欲しい。


じゃないと本当に私――。

 

「……ぃ。…おぃ……おい!!」

「っ………はぁっ……はぁっ……ばくご、く……」

 

一瞬、真っ暗な海に沈みかけた意識は爆豪君の呼び声によって引き上げられた。



 
「落ち着け。」


 
眉間に深い皺を作りながら、大きな両手が私の頬を包んだ。

同時に、堪えていた最初の一雫が膝上に置いてあった手の甲を濡らした。

そこからはダムが決壊したようにボロボロと涙が溢れ、目の前の爆豪くんの顔が歪んで見えた。
 

「も、もし…本当に私が……私がっ…原因だったら、どうしよう…」

 
こんなこと聞かれたって爆豪くんが困る事は分かってる。

現に私の耳には彼のため息が聞こえてきた。



「…………くだらねぇな。」

「っ………」
 

「母親がなんで自殺したのかなんて、真実を知ってる奴に聞かなきゃ一生分からねぇし、テメェが勝手に想像膨らませてたって今みてぇに気が滅入るだけだろ。んな事よりも、これからどうするかだろ。」

「これ、から……?」

 
ゴシゴシと親指で両目尻を拭われ、そっと離れていった手の温もりを追うように、今度は自分の両手で頬を覆った。

はっきりと見えた爆豪くんはあまりにも真剣な顔で、私は彼の言葉を静かに待った。


「……真実を知る事が正解じゃねぇだろ。テメェの兄貴が15年も隠してきたって事は、そんだけ知られたく無かったことだったんだろ。ならそのままでもいいだろ。今まで通り、ただ親父に復讐する事だけでも考えてろよ。」

「で、でも……」

「ただ知らなきゃとか思っとんなら余計だ。なんで知りたいのか理由をちゃんと考えろや!」


そう言い切ると、私の前に置かれていたグラスを手に中身を一気に飲み干してしまった。

ガンっと大きな音を立てて机に置かれたグラスに、ビクッと反応すれば、いつもの様に舌打ちをされた。


――コンコン。


「あ゙?」

「ご飯、来たわよ〜。」
 

部屋のすぐ外から爆豪くんのお母さんの声が聞こえた。
 

「おー。……行くぞ。」

「え?わ、私も?」

 
すぐ立ち上がろうとしない私にイラついたのか、ぐいっ腕を掴まれたまま私は彼に連れられリビングへ向かう事になった。



今更だけど、この物語には非常に優しい爆豪くんしかいません。笑






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