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32

>爆豪Side

チュンっチュンチュン――。


朝5時頃。

目覚ましが鳴る前に、ゆっくりと目が覚めるこの時間。

いつもなら脳がしっかり覚醒するまでジッと見慣れた天井を見ているが、今日はその視界の端に見慣れないものがあったせいで意識は自然とそっちへ向いた。

それが視界の中心にくるよう顔を傾ければ、次第に昨日の出来事が頭の中を駆け巡った。
 

床に座りながら俺のベッドに腕と頭を預けた体制で寝ている狐女。

そういえば結局俺の部屋で寝たんだったなと思い返す。

けどこの女、なんでそんな体制なんだ?


「……おい。何してんだ。」


寝起きの掠れた低い声に目の前の毛耳がピクピクと動いた。


「んぇ?…あ、爆豪くんおはよ。」


ふんわりと優しい声が脳にジワっと浸透してくる。

朝からこんな距離で見るには毒なんじゃねえかと思えるその笑顔に、俺としたことが一瞬だけ見惚れちまった。

アホ面たちだったら間違いなく鼻の下デロデロに伸ばしてただろうな。

 
「っ...くそが。」
 

朝っぱらから野郎の事を脳裏に思い浮かべてしまった事に嫌気がさし、息をする様に暴言が溢れた。

それをバッチリ聞いていた狐女は、え?っと首を傾げたが、俺はそんな事気にせずに視線を部屋の端にずらした。

そこには綺麗に畳まれた布団があり、こいつは何時から起きとるんだと無意識に片眉が上がる。


「爆豪くんって、寝てる時は意外と可愛い顔なんだね。ちゃんと人の子で安心しちゃった。」

「っ……あ゙!?」

「ふふ。ごめんごめん。あ、私ちょっと電話してくるね!」


パタパタと逃げるように部屋を出て行ったその後ろ姿を目で追う。

あいつ、俺が人間じゃねえみたいな言い草しやがって、舐めとんのか。

 
「はぁー...。」
 

まだ日が出たばっかだっていうのに、もう疲れた気がすんな。




  
――爆豪くんおはよ。
 


「………。」

ま。疲れたとはいえ悪いもんではねぇ気がした。



 
..

 

「あ。」

部屋着からランニングウェアに着替えを終えた頃、狐女が部屋に戻ってきた。

こんな朝っぱらから誰に電話だったんだ。なんて聞く理由もなく、いそいそとランニングの準備を始める。

 
「爆豪くん朝ラン?なら、私も一緒に家出るね。」

「は?…どこ行くんだよ。」
 

そういえば、いつの間にか制服に着替えてやがるな。


「あー...。家にちょっと。暫く置いてもらうから荷物取りに行こうかなって、和美さん...お手伝いさんに電話してたの。」


しゅんっと下がった耳と尻尾に、コイツがどういう感情になったのかすぐ分かった。

こうも分かりやすいとコイツも大変だな。


「……こんな朝からか?」

「うん。兄にも一言言っておこうと思って。だから仕事行く前の時間が良くって…。」

「……。」


あの兄貴か。

コイツ、昨日の今日で顔合わせられるんか?

また、言い争いになるんじゃ……。


 
不安げな青い瞳を横目に、気付けば通学鞄から定期と家の鍵を取り出す自分がいて、己を気持ち悪い男だと思っちまった。


「……行くぞ。」

「う、うん。」


椅子にかけてあったウィンドブレイカーを羽織り、階段を降りながらまだ寝ているであろうババアとのトーク画面を開く。


【朝ラン帰るの遅い】

句読点もつけない簡素なメッセージを送りつけ、玄関で靴を履いて家を出た。

 

――ピコン。


「あ?」

 
早朝の閑静な住宅街に似合わない機械音が鳴り、ポケットからスマホを取り出す。

ロック画面にはババアから来たメッセージが表示されており、それを見て思わずスマホを握る手に力が加わった。


【なまえちゃんの事よろしくね♪】


「っ!?だぁーれが宜しくするかババア!!!」

 
スマホを持っていない方の手でボンッと小さな爆発をさせれば、隣で狐女が小さく悲鳴をあげて跳ね除けた。


つーか、なんで一緒だって分かったんだよ!!!

俺は少し小さくなった家へ振り返るが、そこには誰もおらずババアは超能力者かと一瞬疑う。

 
「ば、爆豪くんどうしたの?」
 
 
ピンッと耳と尻尾を真上に立たせている狐女を見て、更に眉間に皺を寄せた。


「驚きすぎだろうが!!」

「え!?わ、私が悪いの!?そんな朝から急に大きな音出されたら驚くってば!」

「るっせ!!はよしろや!!」


ガツガツと大きな歩幅で駅へ向かえば、狐女は昨日みたいに遠慮がちに俺の後ろをついてきた。
 

まじダリィ。









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