04
「ん、ん〜…...」
カーテンの隙間から覗く日差しが私の顔を照らす。
ゆっくり体を起こしてあたりを見渡すが、まだ視界がぼやけていた。
けど徐々にはっきりしてくる視界に、自分の部屋ではない事にすぐさま気づき大きな音を立てて飛び起きる。
「はっ!何時!?!?」
部屋を見渡し、壁にかかった時計を見つければその長針と短針は重なる様に真下を指していた。
そうだ、昨日あのまま寝ちゃったんだ。
やらかした……。と額を掌で覆う。
だが同時にこの時間に目が覚めて良かったと安堵する。
やらなきゃいけない事が沢山あるけど、まずは……。
私は目の前の机に置かれたスマホを視界に入れると、すぐ手に取りロックを解除する。
「あ〜…だよね。」
察してはいたけど、和美さんからの着信が3件と兄から着信が5件来ていた。
後でで良いやって結局連絡出来てなかったんだった。
私はスマホを片手に再びソファに寝転び、着信履歴を開いて一番上の名前をタップする。
少しのコール音の後、はいっとおっとりした声が聞こえた。
「あ、もしもし和美さん?おはよう。昨日ごめん、寝落ちしました……。」
[おはようございますなまえさん!そんな事だろうと思いました!もう凄く心配したんですからね!ご飯はちゃんと食べました?]
「ほんとごめんなさい…。家についてすぐ寝ちゃったから、お風呂もご飯もまだなの。今から食べるつもり。それよりさ……アイツ、もういない?」
[えぇ、つい先ほど出勤されましたよ。また近いうちになまえさんの顔を見にくると…。]
それを聞いてギュッと眉間に皺が寄った。
やっぱり昨日は私に会うためだったのか。
どうせ自分の望む通り雄英に入学できた事についてゴチャゴチャ言うつもりだったんだろう。
最悪。
「…とりあえず、今日は学校終わったら一回この家に寄ってから帰るね。」
[分かりました。今日も行ってらっしゃいませ。あ、それから治さんには私からも無事だったと伝えますけど、なまえさんからも連絡してあげてくださいね!]
「あー、うん。わかった。有難う!」
――プツ
電話を切り、横になったままスマホを元あった位置に置く。
真っ白な天井を見ながらついつい小さなため息が溢れてしまった。
「はぁ…...」
お風呂に入らなきゃいけないし、朝ごはんも食べないと学校でもたない…。
そろそろ本当に動かなきゃいけないのに何でか体が酷く重かった。
昨日個性を使った反動が結構きてるのか、色々な出来事があって疲れているのか...。
どちらにせよ高校二日目にして既に学校へいくのが億劫になるってどういう事?
まぁでも、行かなくちゃいけないんだよね。
重い体をを何とか起こし、私は制服を持って脱衣所へ向かった。
…
「なまえちゃんおはよ〜!」
「あ、お茶子ちゃん、おはよう。」
学校の最寄り駅を出てすぐ、後ろからお茶子ちゃんがやってきた。
もしかして同じ電車だったのかな。
「昨日大丈夫だったん?」
ちょっと遠慮気味に聞いてきた彼女に私は首を傾げる。
「何のこと?」
「え、ほら、先生に呼ばれてたやん!」
あぁアレか。っと思い出し、私は昨日の職員室での事を話した。
お茶子ちゃんも先生が意外に良い人で驚いていたので、多分他の人に言っても驚くんだろうな。
まぁ……。流石にね、あんな強烈な初日じゃ皆良い印象を残さないよね。
「入学初日に怒られるって絶対嫌だよね。目つけられても嫌やし。」
「あはは、ほんとに。尚更お叱りじゃなくて良かったよ。」
起きてからずっと下がりっぱなしだった気持ちが、気付けば普通ぐらいまで戻っていた。
多分、気さくに話しかけてくれた彼女のお陰だろう。
私は学校に着く前に彼女に会えたことを心の中で感謝した。
それから2人揃って教室に到着すれば、既に皆自分の席に座っていた。
そういえばお茶子ちゃんが今日は少し寝坊しちゃったって言ってたな。
私も出発するのがギリギリだったし、もうそんな時間か。
手にしていたスマホで時間を確認すれば後3分で授業開始時刻だった。
……本当に結構ギリギリだったんだな。
..
授業開始を知らせるチャイムが鳴り、同時にボイスヒーローこと、プレゼント・マイクがやってきた。
皆は本格的に始まる授業に目をキラキラさせていたが、いざ始まった授業は普通に授業だった。
そう。
本当に、普通の授業だった。
多分、皆思ってることは同じだと思う。
けどよく考えれば普通の授業で当たり前なんだよね。
「オーケー! んじゃ次の英文、誰か読んでみろYO!」
それからマイク先生の後も、必修科目の”普通”の授業を受け午前は終了。
授業の合間の休憩時間に、お昼は食堂に行こうって梅雨ちゃんとお茶子ちゃんに誘われたのでお財布とスマホを持って3人で食堂へ向かった。
..
「う〜ん….」
メニューを前に、私は腕を組んで悩んでいた。
助六寿司があったので、それを頼もうと思ったのだけど「本日限定メニュー”きつね丼”」という文字を見つけてしまったのである。
「なまえちゃん、何にするか決めたん?」
「いや、助六寿司か限定メニューで迷ってる…」
「ん?きつね丼って、確か油揚げとネギを卵で閉じたやつやんな?」
「あら、お茶子ちゃん食べた事あるのかしら?」
「うん! 夜ご飯でよく食べとったよ!」
悩み続ける私の横で2人がそんなお喋りを始めた。
助六寿司には稲荷寿司があるから引かれるけど、通常メニューだ。
こう言っては何だけど、正直いつでも食べられる。
が……。
写真の稲荷寿司が私を誘惑してくる….。
「〜〜〜、よし!おすすめにする!!今日限定だもんね!!」
助六寿司は明日食べよう。
絶対にそうしよう。
三人でそれぞれ食券を購入し、食堂のクックヒーロー。
ランチラッシュさんにお皿をもらう。
実は雄英の生徒はほとんどが皆この人の作るランチを楽しみにしている。って、学校説明会で聞いた気がする。
まぁ分からなくもない。
だって……。
「うっわぁ。」
私のお盆に置かれたのは見た目もそうだけど、出汁の香ばしい匂いが鼻を擽り、思わずその場で涎が出そうになるほど美味しそうなご飯だった。
先に席を確保してくれていた2人の元へ行けば、きつね丼が気になったみたいだ。
「丼って言うから、てっきり大きいのかと思ったけど意外と小ぶりなのね。」
梅雨ちゃんの言葉に、「ヘルシーで女の子におすすめ」って書かれていたのを思い出す。
「もしかしたら女の子サイズなのかも。女の子におすすめってあったし!」
「へ〜、以外とそういうのもあるんやね」
初めての学食に色んなことに興味津々な私達。
けど目の前のご飯にお腹が限界なので、お喋りは後にして とりあえず3人で両手を合わせた。
「「「 いただきます! 」」」
それぞれ頼んだお昼ご飯を一口頬張る。
「ん〜〜〜!!」
口に広がる何ともいえない抜群の味に思わず唸る。
2人を見れば、私と同じように幸せそうに口を動かしていたので、感想は皆一緒みたいだ。
「安いのにこの味って、最高すぎるよ雄英!」
「食べ終えてしまうのが勿体ない気がするわね」
「ふふ、2人とも大袈裟だなぁ〜」
「そう言うなまえちゃんも、結構大袈裟な反応だと思うんやけど…。」
「あぁいうのは自然に動いてしまうから隠しようがないわよね。」
一点を見つめて笑う2人に、何を見ているのか視線の先へ目を向ければブンブンと尻尾が後ろで揺れていた。
途端に恥ずかしくなって、私は尻尾をスルっと太腿の間に挟む。
「うぅ…」
ついでにパタリと耳を畳んだ私を見て2人が笑うもんだから更に恥ずかしくなる。
でもそれを嫌とは思わず少し嬉しく思った私の尻尾は腿の間で小さく揺れていた。
高校生活2日目にして、こんなに楽しいお昼を迎えられた事がとても嬉しい。
それからご飯を食べながら、私たちは色んな話をした。
出身地の話とか、趣味の話とか、ほんとに色々。
その中でも一番盛り上がったのは、昨日のテストで見たクラスメイト達の個性の話だった。
「確かに、みんな凄い個性だったけど、私はなまえちゃんの個性が一番かっこよくて好きだわ。」
「え!?そ、そう言われると嬉しいなぁ…。」
「でも確かに、あの尻尾が九本になる瞬間すごかった!!どういう仕組みなん?」
梅雨ちゃんの突然の告白に釣られ、お茶子ちゃんも私の個性が気になったようだ。
「ん〜、仕組みって言われてもなぁ…。尻尾は自由な本数にできるんだけど、九本にする時だけ少し大変でね。耳に意識全部集中させて、そしたら耳が段々熱くなるからその熱を思いっきりボーンって外出す感じ!そしたら九本になる。」
「「………。」」
「全然わからん」「わからないわ」
「ですよねぇ……。」
謎の間で、多分2人は私の説明を理解してくれようとしたのだろうが、あれでは無理だったようだ。
私なりに分かりやすい説明をしたつもりなんだけど、理解が難しいことは百も承知。
「…ごめん。でも皆もそういうの説明しにくくない?感覚で個性使ってる人も多いと思うしさ。」
「確かに。どうやってこのベロを操作してるのって聞かれたら難しいわね」
私もだ、っとお茶子ちゃんが続く。
難しい顔を始めた2人に私は口角が上がった。
「まぁ、自分だけがわかるっていう……それこそ“個性”なんじゃないかな。」
こうしてこの話は終了した。
丁度時間になったので、私達は食器を返却口に戻しまた他愛もない話をしながら教室へ戻った。
そして迎えた午後の「ヒーロー基礎学」
「わーたーしーがー!!...普通にドアからきた!!!」
オールマイトの登場に教室が一気に騒がしくなった。
それもそうだ、誰もが憧れるNo.1ヒーローが目の前にいるんだ。
皆が興奮した声をあげている中、私はオールマイトの横にアイツの顔がチラつき胸がざわついた。
昨日アイツが帰宅するという出来事もあったから余計だ。
ああ。
嫌いだ。
胸糞悪い。
戦闘訓練を始めるため、コスチュームが各自配布された。
「ん?狐森くん、着替えに行かないのかい?」
「っ…オールマイト」
どうやら私はぼーっとしていたみたいだ。
既に教室には誰もおらず、私は何をしていたのだろうかと一瞬困惑する。
それを心配そうに私の前まで来たオールマイトに、思わず顔が強張ってしまった。
彼の顔を見るだけで、どうしても胸がざわつくのだ。
そして嫌な記憶が無理やり頭に流れ込んでこようとする。
—— 私はヒーローにならない。
—— オールマイトには、ならない。
「なまえちゃん、置いてっちゃうよー?」
後ろから聞こえた声にハッとし、反射的に振り返える。
クラスの女の子達が後ろの出口で私を待ってくれていたみたいだ。
「あ、ご、ごめん、今いくね!」
結局オールマイトとは目を合わせることなく、私は皆のもとへ駆け寄った。
食堂で登場した”きつね丼”ですが、こちら たまご様より参考にさせて頂きました!
お恥ずかしながら、作者は食べた事がないので今度作って食べてみようかと思います。
因みに京都で有名らしいので、関西出身のお茶子が良く食べてたことにしました笑
2026 5/18修正