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06

「なるほど、この核を守ればいいのね。」

 
近くで見ると思ったより大きい…。

というか大きすぎでしょこれ、なんていい的なんだ。


「尾白くん、なまえちゃん!私ちょっと本気出すわ!!」

「えっ?」

 
靴と手袋を脱いでそれを部屋の隅に置いた透ちゃんは、何も身に付けていないので本当に透明人間となった。

あ、でも小型無線だけ見える。



「じゃぁ作戦通りで、なまえちゃんと私で前衛ね!」

 
そういうと透ちゃんは我先にと部屋を出て行った。
 
彼女のあぁいう即行動!という感じは嫌いじゃない。


「じゃ、私もいくね!尾白くんここ宜しく!」

「あぁ、任せてくれ!」


彼から力強い返事を聞き、私は透ちゃんの後を追った。

 

私達敵チームの作戦は至って簡単。

透ちゃんと私で、このビルに入ってきたヒーロー達を滅多打ちにする。
 
それで万が一に備えて、尾白くんが部屋で核を守る。
 
と言った感じ。


「もう、透ちゃんどこ行っちゃったの?」
 

2人で前衛ねって言ってたわりに、先に部屋を出た彼女は既に近くにいない。

急いで彼女の後を追いたいが、まず右に行ったのか左に行ったのか、そもそもまだ同じ階にいるのかどうかもわからなかった。

とりあえず、左へ進んでみるがそれっぽい人が見えない。
 
というか、透明で無線しか見えないのだから当然だ。
 
先ほど無線だけ不自然に浮いて見えていた光景を思い出す。

 

ん?

無線…。


あ、そういえば私も無線付けたじゃん。
 
忘れてた…っと、耳に付けた無線に手をかける。

「あれ…」

右耳に付けた無線が、ない。
 
右じゃなくて左だっけっと、逆の耳を触ってみる。

けど何もなかった。

あれ、あれあれ?
 
両手で耳をペタペタ触ったり、服の後ろを確認するが無線が見当たらなかった。


「な、なくしちゃった…」


サッと血の気が引くのがわかった。

もし今ここでヒーロー達と遭遇したら、3対1になっちゃうよ私。

流石にやばい。

早く透ちゃんと合流しないと。


でも始まって少し経つけど、何にも起こらないな。


…尾白くん、大丈夫かな。

もし私達の思った道でヒーロー達が来なかったら、部屋で3対1だけど…。


あ、そのための無線なのか。






「うぅ、透ちゃん何処行ったの…」


下のフロアに降り、目を凝らして無線機っぽいのを探すが、全然見えない。
 
声を出して呼んだ方がすぐ合流できるんだけど、それだと向こうのチームに気付かれるかもしれないので、私は勘を頼りに彼女を探すことしか出来なかった。





――パキパキッ


「え、なに...」

後ろから徐々に壁や床、天井までもが突然凍りつき始め、その場の気温が一気に下がるのを感じた。

振り返りながら私は暖を取るように尻尾を体に巻き付ける。

それと同時に、足が床に凍り付いてしまった。

もしかして、このビル全体を凍らせてる?

…随分派手な攻撃を仕掛けてくるのね。
 

そして氷って事は、多分轟くんの仕業だろう。

昨日のテストの時も氷を使ってたのを覚えている。

そんな事を思い出しながら個性で自身とその周りの氷を溶かそうとした時、バキッと前方から凍りを踏み潰す音が聞こえた。



き、きた……?


この状況からして、足音はヒーローチームだろう。


ここで3対1だったら、本当にきついと思う。

そうなってしまったら潔く降参しようか…。

どうしたものか。っと考えていれば、足音の主が次第に見えてきた。

 

あれ、待って。

足音からしてコレ……。



 
「っ...周正?」


ゆらっと私の前に現れたのは轟くんだった。
 
やっぱり。

他の2人はいないみたいだ。


「…1人?」


そう尋ねれば、あいつらは危ねえから外にいると返ってきた。

“危ねえから”か。

他のヒーローチームは仲間と協力して訓練をしているのに、彼は自分の力だけで私達3人を相手に出来ると思っているのだろう。

何でか少し、ムカつく。


「悪いな。動いてもいいけど、足の皮剥がれっから辞めとけ。」


そう私の横を通り過ぎようとした。

けどそんな事させるはずがない。

 
「っ...」


ふさっと彼の行手を阻むように尻尾で道を塞ぐ。


「……何か勘違いしてるけど、私に氷なんて効かないよ。」


ボッっと青い炎が私を包み、自身とその周りの氷が一瞬で溶けていく。

驚いた彼は急いで私から飛び退き、氷が溶ける様子をジッと見ていた。


「周正の名前は知ってても、個性までは詳しく知らないんだね。」


にっこり笑い掛けながら彼に向かって炎の球を数個打ち込む。

けどそれは分厚い氷の壁で簡単に防がれてしまった。



「出来れば、傷付けたくねえ」


細められたオッドアイの瞳がゆらりと私を捉える。

小さな声で呟かれたその声は、耳がいいので私にはしっかり聞こえていた。


「…貴方にとってのヒーローは敵も味方も傷付けずに1人で事件を解決する事なの?随分優しいヒーローを目指してるんだね。」


轟くんが顔を歪めた。

勘に触るような事を言ったのだろう。

彼の足元から私に向かって氷が猛スピードで迫ってきた。

咄嗟に尻尾を5本にし、さっきよりも強い炎で対抗する。


「っ…視界が」

個性のぶつけ合いで発生した真っ白な煙で視界が覆われ、互いに姿が見えない状況になった。


こちらから攻め込む方が有利だろうか。

でも待ち構えられていたらどうする。

頭を回転させ一番良い行動パターンを模索する。

けど――。


“考える”という事自体が私にとって一番悪い行動パターンだったみたいだ。



「っ!!」


目の前に現れた影に驚き、咄嗟に後ろへ下がろうとするがいつの間にか凍っている足元の所為でそれは叶わなかった。


「捕まえた」


そう低い声が聞こえ、同時に左手首を掴まれる。

そのまま勢い良く壁へ押し付けられ、強めに背中を打つ。

 
「うっ…」
 

私の手首を掴んでいる手と何も掴んでいない反対の手がそれぞれ顔の横に置かれ、所謂壁ドン状態なんだけど今のこの現状…何もトキメキなんてなかった。

むしろ背中が少し痛むし、徐々に体を氷で覆われていき、身動きが取れないようにされ気分としては宜しくない状態だ。


「少しでも動いたら、この手首折るぞ。」


空いた手で個性を使おうとした事がバレたのか、ギリっと握られる手首。


「はは、敵も傷付けたくないんじゃなかったの...?」


嫌味っぽい言葉が出た。

轟くんは「あれはそういう意味じゃねえ」とだけ言って、静かに私から離れていった。

尾白くんの待つ部屋へ向かう彼の後ろ姿を見て、私はもう交戦する気が失せていた。


「はぁ。呆気な。しかもめっちゃ背中痛い…。」


その小さな呟きは誰にも届くことはなかった。



..



少しして放送がかかり、訓練はヒーローチームの勝利で終わった。



「っ…周正、お前ずっとその状態だったのか。」


ついさっきまで怖い顔をしていた彼が戻ってきた。

さっきとは打って変わって、自分でこんな風にしたくせに何でか驚いた顔をしている。

まぁ。氷が溶かせる癖に何でまだ氷の中にいるんだよってね。

当たり前の反応といえば、当たり前だ。


「この氷の中、冷たくて気持ちいんだよね。」


へらっと笑えば、寒くねえのかよっと聞かれたので頷き返す。

近づいてきた彼はそっと左手で私を覆う氷に触れた。

ジュッと徐々に溶けていく氷に、私はパチパチと瞼を瞬かせた。


「え、自分の出した氷って自分で溶かせるの?」

「......周正は、俺の事を何も知らないんだな。」

 
オッドアイと至近距離で目が合う。
 
交戦中はギラついていたのに、何でか今は寂しそうな目をしていた。

 
氷はあっという間に溶け、体が開放的になる。

けど私は彼の言葉が気になりそのまま動けないでいた。


周正はって何?




「轟く...」

「なまえちゃーん!!ごめんねえ!!」

「おっ」


ドドドっと多分透ちゃんがこちらに走ってきている。(見えないから何となくで察し。)
 
轟くんを軽く飛ばすと、彼女は勢い良く私に飛びつくとメソメソと謝り倒してきた。


「私こそ無線落としちゃったみたいでゴメンね。」

「ううん!私が1人で突っ走っちゃたのが悪いの!!」

「ふふ、まぁそんな事もあるよ。」
 

彼女の背中をポンポン叩いていれば、尾白くんとヒーローチームの上鳴くんと障子くんがやってきた。


「狐森さんごめん。何も出来なかった」

 
申し訳なさそうにした尾白くん。

首を横に振り私もだよっと一言返した。


「モニタールームに戻ろう。」


これから始まる講評に自分が何を言われるか何と無く予想が付いており、少し足取りが重かった。




...


――モニタールーム


「私自身が思う反省点としては、まず通信機を無くした事、それから轟くんとの交戦で判断に遅れをとった事、です。」


講評は、「自分の行動の何がダメだったか1人ずつ。」っと言われたので最後に順番が回ってきた私はそう答えた。

そのあとは、全体の反省とかを尾白くんがいい感じに話してくれて、オールマイトが「そこまで分かっているなら私からは何も言う事がない」っという事で講評はあっさり終了した。
 
少し身構えていたから、ちょっと拍子抜けだなぁ。なんて。

その後も各チームの訓練が終わり、緑谷くん以外は無事に教室へ戻り今日は終了となった。



..



それぞれが帰り支度をし「また明日」という声があちこちで飛び交う中、例の約束がある私は鞄を持って轟くんの席へ向かう。


「あ、なまえちゃん、今日一緒に帰らん?」

「あー、ごめん。」

 
一緒に帰りたいのは山々だけど、今日は先約がいるんだよね。っと謝り、チラッと轟くんを見ればそのオッドアイと目が合う。



「…昇降口で待ってる」

「あ、うん。」


轟くんは自身の鞄を持ち、私の横を通り過ぎる際にそう言って教室を出て行ってしまった。
 
別に一緒に教室から帰ればいいのに。

彼の出て行った扉を首を傾げて見つめる。


「なまえちゃん、もしかして轟くんと2人で帰るん?」

 
お茶子ちゃんが大きな目をキラキラさせながら私を見てきた。

これは、あれだ。

女子特有のそう言う話になりそうなやつだな。


「そうだけど…。お茶子ちゃんが思ってるような事じゃないからね?」


じゃ、また明日ね!っと私は逃げるように昇降口へ向かった。




2026 5/19修正







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