05 私たちの関係
ばち。
正にそんな効果音が付きそうな勢いで私は目を開けた。
キョロキョロと目だけ動かし、辺りを見渡す。
目の前には白い天井。
視界の端には白髪と肌色。
多分そうこれは顔、が映る。
お腹に少しかかる重みに、今朝も似たような目覚めだった事を思い出す。
違うといえば、そういう事をした相手が今はハッキリ誰かわかっている事。
顔だけ少し横に向ければ、子どものようなあどけない顔をして寝息を立てる不死川先生がいた。
そうそう、まだ昼間だっていうのに、私達はセックスをしたんだよね。
しかも私は何回イかされたか覚えてないし、彼は2回目以降、ゴムを付けていたのかどうかも覚えてない。
けど下の方でドロッとした感じがしないって事は、中では出していないのだろう。
...まぁ、少し考えてみれば彼はそういう事をしない人か。
もそもそと抜き出した手で、そっと不死川先生の髪を撫でる。
うちでシャワー浴びてるはずだから同じ石鹸のはずだ。
けど、彼に鼻を近づければ全然違う匂いがした。
「汗臭えだろォ」
眠たそうな声が上から聞こえ、顔を上げれば彼が薄目を開けて私を見下ろしていた。
『いえ。...そんな事は...』
そう言うと、クツクツ喉を鳴らした。
「みょうじ先生は、ヤッてる時と普段の時とじゃ、全然別人だよなァ」
『ぅっ...それも、違います...』
セックス中はいかに自分が淫らな女になっているか分かっているから、あまり強くは否定できない。
「...なァ」
スッと、お腹に回されていた手が私の頬を撫でた。
それに一瞬ピクッと体が反応する。
「仕事以外で、敬語とか使うのは正直面倒だァ。お互いタメ口でいかねぇかァ?」
そういえば、今は職場で見る彼ではなく少し乱暴な口調の彼だ。
というか、何故そんな真剣な顔で言うのだろうか。
確かに年は同じだが、不死川先生の方が私よし少し早くキメツ学園に赴任している。
一応、先輩...的な感じであるだろうに。
1人悶々としていると、彼は続けた。
「後、2人の時は先生もなしだァ。...普通に長いだろォ」
いつの間にか頬から頭に回っていた手は、私の髪をクルクルと指に絡めて遊んでいた。
なんなんだろうこの人は。
何故そんなにプライベートで親密な関係になろうとするのだろうか。
嬉しくないわけではない...。
けど、彼にとって私は都合の良い性欲処理か何かだろうに。
そうであれば親密な関係になるのを好まないはずだ。
でも、まあ。
特定の恋人もいないし、私もそう言う関係だと割り切ってしまえば問題もないのか。
『...わかった。じゃぁ...さ、実弥さん...?』
ピタッと突然彼は動きを止め、一瞬だけ眉間にシワを寄せた。
何か不味いことを言っただろうか。
「...不死川じゃ、ねえのかァ?」
『え、あー、だってほら。私弟さんの事、不死川くんって呼んでるから、ややこしいかなって。』
「あァ、そう言う事かァ」
ニヤッと笑って、私に顔を近付けてきた。
そして何故か始まる激しい口付け。
『や、ちょ…んっ』
ぐりぐりと腰に押し付けられるそれが、少しだけ堅い事に気付く。
けど、私はグイッと彼の胸を押し少し拒む。
「いやかァ?」
耳元で甘く囁いてくる彼は、何でかまたそういうモードらしい。
嫌ではないけど、今どこでスイッチが入ったのか知りたいし、性欲凄いなっと思う。
『い、やじゃないけど。その前に、聞きたい事があるし…』
そうだ。
私のスイッチが入る前に、きちんと昨晩どうしてあぁなったのかを聞いておきたい。
それに、少し体が怠いのでもう少し休憩させてほしいというのが本音である。
『あァ…』
実弥さんは、あっさり身を引いた。
私の上から退くとベッドの下に落ちている服を拾い上げ私に渡してくる。
なんだ、シないのか。
拒んでおきながら、心のどこかで残念っと思う自分がいた。
渡された下着をジッとみていれば、急に視界が陰った。
「続きは、また後でなァ」
ちゅっと頬に落とされた優しいキスに、なんだか心がふわっとした。
そういえば、私たちのこの関係ってどういう名前だろうか。
やっぱり、セックスフレンドなのだろうか。
実弥さんは、パパッと着替えを済ませ寝室を出て行った。
私もそれに続くように、服を着て後を追った。
….
一応客人であるというのに、隣に座る実弥さんは私と自分の分のお茶を用意してくれた。
どうせだから茶菓子でも、っと買ってきた和菓子の饅頭を出せば少し嬉しそうな顔をしてお礼を言ってきた。
そういえば、いつだったか職場の飲み会の時に好物が「おはぎ」って聞いたな。
和菓子の類ならなんでも好きなのかな。
そんな事を思いながら、チラッと彼を見ればもぐもぐと饅頭を口にしていた。
『…それで、昨日。私の記憶が正しければ、女友達と飲んでたんだけど、なんで…その、実弥さんとそういう感じに?』
少しだけ言葉を濁して問い掛ければ、本当に何も覚えてねェんだなァっと言われた。
うっと言葉を詰まらせる。
酒は飲んでもいいが飲まれるな、っと言いたいのだろう。
自分が一番わかっています。
「昨日、遅くまで残業して帰ってる途中に、学校に携帯忘れてなァ。取りに戻ったら校門で潰れてるお前がいた。…そんだけだァ。」
『………え?終わり?』
あまりにもざっくりすぎる説明に、私は首を傾げる。
だって、本当にざっくりすぎないかな?
もっと色々とあると思うんだよね。
そもそも、なぜお持ち帰りコースになったのか。
あれ、というかなんで私校門の前にいたんだろう。
昨日少し早めに解散した気はするけど、飲んでた場所は学校から離れてる所なんだけど…。
『え、っと。…うん。一個ずつ整理しよう。…昨日、女友達と飲んでました。酔っ払って電車に乗って、学校の校門まで来てそこで潰れていた。それで、携帯を忘れて撮りに戻った実弥さんに、私は回収された。』
「俺がお前を見つけるまでの事は分からねェが、そういう事だなァ」
なるほど。
まぁ、そこは仕方ない、私も覚えてないし、多分誰も知らない事だ。
『私を回収する経緯は?...どうして昨日、貴方と…その、エッチ、しちゃったの?』
実弥さんは私に向けていた視線を机の饅頭にずらし、それを手に持って一口口に含んだ。
口を動かしながら、少しだけ上の方の空気を見つめ、何かを考えだした。
「……あのまま、置いておくのは危ねェって思ったから、タクシー呼んで家まで送る。それだけのつもりだったんだがなァ。」
手に持っていた饅頭がなくなり、今度はお茶の入ったコップを掴んでぐびっと喉を潤していく。
なんだか少し勿体ぶってるなぁ。
また視線を少し上にして言葉を選んでいる彼に、私は何、っと眉を潜めた。
観念したかのように、大きくため息を吐くと、ガシガシと頭を掻きながら口を開いた。
「勃った。」
その一言に、思わず変な声が出た。
『え、勃ったって、その…アレが?』
また大きなため息を漏らすと、視線を私に向けてきた。
ぱちっと合う視線。
なんでか実弥さん、少しだけ耳が赤い気がする。
「初めてお前とした時の事、マンション着いて思い出しちまったんだァ」
『あ……』
忘れていた訳じゃない。
彼との過ちは昨日で2回目。
1回目も、正直あまり記憶にはないけど、相手は実弥さん。
なんと言うか、それで、まぁ、多分抑えられなくてセックスが始まったわけですね。
『……』
「……』
二人の間に沈黙が流れる。
若干気まずい。
色々と察してしまった今、何を言えばいいのかわからなくなる。
でもとりあえずまず言わなきゃいけない事はこれだろか。
『その、実弥さんが送ってくれなかったら私、危ない目にあってたかもしれないから、えっと、助けてくれて有難う。』
「……助けたなァ、襲った身としては受け取れねぇ言葉だなァ」
『いや、いやいや、本当に…まぁ、エッチな事はしたけど、私も同罪というか、なんと言うか…』
多分スイッチの入った私は、自分からも色々求めたに違いない。
だから正直、そう言う意味ではこれは同罪。