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06 隠し事





『実弥さん、夕食は食べていく?』

とりあえず、もうどっちが悪いとかそういう話は無理やり終わりにした。
キリがなさそうだったから。

外はすっかり茜色の空。
リビングでゆったりとテレビを見ている彼に、私は洗濯物を干しながら問いかける。

なんだか同棲してるカップルみたい。

あーっと歯切れの悪い返事をしながら、立ち上がりこちらに来た。
ガシッと湿った靴下を掴んだ手を掴まれ、それに酷く動揺する。

『え、なん、なんでしょう...』

「......今日、泊まってっていいかァ?」

『へっ.........ぁ。』

何故っと思ったが、そういえば続きは後でって言ってたっけ。
夜も、エッチするって事だよね…。

やっぱり性欲おばけかな?
そう思うが少しだけ夜のことを想像して顔が熱くなった。

『その...、明日もお休みだから別に大丈夫...です。』

断られるとでも思ったのだろうか、彼はホッとした顔で一言礼を言うと再びソファに座った。
かと思えば、こちらに振り向き「夕食は俺が作る」と言ってきた。

『一応お客様だから、気使わなくていいのに』

「いや、流石に悪いだろォ」

そういうところ真面目だな。
というか、彼は学校でもそうだけどプライベートとかも真面目なのだろう。
なんでこんなに良い人が苦情を多く受けるのか…。
苦情を入れる保護者に知ってもらいたいわ。

まぁ、それとこれとは別なんだろうけど。

『じゃあさ、あのー、お昼にお弁当の具セットみたいなの買ったんだけど、それ今日中に食べちゃわないといけないの。』

「あぁ、あれかァ。……分かった、適当に使う」

『うん。あと私が買ってきた材料も適当に使ってもらって良いから、夕食お願いします。』

「あァ。美味いもん食わせてやるよォ。」


ニヤリと笑い、机に置いてあったスマホを掴むとベランダに繋がるドアを開けた。

「実家に電話する」

『あぁ、うん。』

パタンと重たい窓が閉まり、スマホを耳にあてる彼の背中を見つめる。
そういえば、実家暮らしで下に兄弟が沢山いるって聞いてたな。
いつの間にか振り向いていた彼とぱちっと視線が合えば、何故か微笑まれた。

常に生徒にその顔でいれば、高感度アップなんだろうに。

私は途中だった洗濯物を干しながら、ふふっと一人笑ってしまった。



..



少ししてふわっと外からの風が私の頬を撫でた。
それに振り向けば、電話を終えたのか部屋の中に実弥さんが戻ってきていた。


『昨日も帰ってないけど、大丈夫なの?』

「あ?あァ、玄弥もいるしお袋もいるからなァ」


玄弥くんね。
いつだったかクラスメイトが怪我したって背負ってきたのを覚えているわ。
とっても正義感の強い優しい子よね。
顔が少し怖いけど。

そう言うところも兄弟似てるななんて思う。

『泊まること、なんて言ったの?』

これは素朴な疑問だった。
今日は家に帰らないって言ったら大抵「なんで?」ってなるはずだろう。
それに対して、なんて答えたのか。

恋人の家泊まる。

なんて、そんな関係じゃないからありえない。
まぁ、無難に友人の家に泊まるとかだろうな。

なんとなく答えはわかってたけど、ちょっとだけ期待してたりする。


「あー……、同僚の家泊まるって言った。」

『同僚…。なるほど、そのパターンか。』

「?...何か言ったかァ?」

『あ、うぅん、何でもない!そろそろ夕食作り始めるよね?洗濯物干し終わったし、私も夕食作るの手伝わせて!』

「あぁ、そうだなァ」




—実弥Side


『あぁ、玄弥か?お袋は?』

雲が一つもない茜色の空を眺める。
生暖かい風が少しだけ心地よく感じる季節だ。
この家のベランダは眺めがよく、遠くに電車が走っているのが見える。

[兄ちゃん?お袋なら、さっき寿美と一緒に買い物に行ったけど]

『そうかァ。…あー、昨日に続けてで悪ィが、今日も帰らねえって伝えといてくれェ』

[え、そうなのか?今日も学校か?流石に休んだ方が…]

玄弥の心配する声に、そういえば、昨日は学校に泊まり込みで仕事するって言った事を思い出す。
よくある泊まり込みだが、二日続けては初めてで流石に心配させているみたいだ。

正直な事話すか?

体ごと振り返り、視線を部屋の中に戻せばなまえと目が合う。
きょとんっとして首を傾げる彼女に、思わず頬が緩んだ。
それから俺に笑いかけけているのか、ニコニコしている彼女に思わず見惚れる。

職場で見るのと違うプライベートでの笑顔は、かなりグッとくるもんがある。


『悪い玄弥。お袋には内緒な、本当は昨日から恋人の家に泊まってんだァ』


だから心配すんなっとにやけそうな顔を片手で抑えながら再び部屋に背を向ける。
電話の向こうで玄弥の慌てた声が聞こえてくる。
今頃、顔真っ赤にしてんだろうなァ。


なまえとは正式に恋人ではないが、近い内にそういう関係になるつもりだから今からそう言ってもいいだろう。
彼女が俺の事をどう思っているかは知らねえ。
恋人になれるなんて、何の確証もないが俺は自身満々だった。

絶対に俺のものにするって、初めて会った時から決めてんだ。

『そのうち家族にも話すが、今はお前だけに教えとくからなァ、他の奴らには秘密にしとけよォ』

[あ、う、うん]

声色からして動揺たっぷりの玄弥。
純粋な弟を笑うつもりはねェが、今までこういう事を言った事がなかったからその反応が新鮮で思わず笑っちまった。


電話を終え、少しだけ熱を含んだ顔を覚めすように空を仰いだ。

いつ、なまえに言うかなァ。









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