空がすっかり茜色に染まる頃、私は未だに入る部活をどうしようか悩んでいた。
とりあえず今日は週1で活動しているクッキング部がやっており、体験としてクッキーを皆で作ったのだが...
まさかの入部希望者の人数が多すぎて抽選となってしまった。
結果は明日と言われたが、どうだろうか...
キッチンの広さ的に5人しか受け入れられないと言われたが、今日抽選に応募したのは10人だ。
1/2の確率...
そもそもちゃんと抽選なのだろうか。
先輩達は今日私たち一年をまるで監視する様な嫌な視線があった。
それは誰を入れるか意図的に選んでいるようにも伺えた...。
こういう時に美少女というのは女子から良い印象を持たれないから辛い。
「はぁー、本当に辛い」
でかいため息を吐きなが、私は帰り道で1人項垂れた。
このまま曲がり角を曲がれば、もう家だ。
私がこんな事で悩んでいたって仕方ないし、お母ちゃんの美味しい夕飯食べてHeytubeでも見て寝よう。
「夕飯なん...んぎゃ!」
曲がり角に差し掛かった時、丁度向こうからも人が来ていたのか私は思いっきり衝突し、思わず尻餅をついてしまった。
「いったぁ....ぁ、すみません!」
完全に私に不注意だった。
閑静な住宅街だし、普段あんまり人と会うことがないからってカーブミラーを見損ねていた。
私は咄嗟に顔を上げ謝罪をするが、ぶつかった相手の顔を見て自分の目を疑った。
「...凪?」
「ぇ、、は、じめくん?」
お互い驚きが隠せず固まってしまった。
それはまるで時間が止まったのかと錯覚してしまう程。
「っ......わ、悪ぃ。」
先に時を動かしたのは向こうだった。
私へ手を差し伸べてくる彼は昔と変わらず大きな手をしていた。
いや、昔より明らかに成長している。
なんていうか、男の人の手だ。
「有難う、私こそごめんね。不注意だった。」
私は目の前の手に自分の手をそっと重ねた。
立ち上がってすぐにパタパタとお尻を叩く。
それと同時に一くんは私の鞄を拾って、再度謝ってくれた。
「ふふ、なんか少女漫画みたいな再会だね!鞄、有難う。」
普通に話しかけて来た私に驚いたのだろうか、一くんは何故か面食らっていた。
「そ、そうだな、何年振りだ?」
「んー、一くんが中学卒業したっきりだった気がするから2年とか?」
「そうか.....。悪いな、なかなか連絡してやれなくて。」
ポンっと頭に手が乗せられる。
今度は私は面食らう番だった。
「ちょ、もう!子供じゃないんだよ!」
スッと一歩下がって、その手から離れる。
私はちょっと恥ずかしくなって、それを誤魔化す様に前髪を整えた。
「あぁ、悪い、それもそうだな」
先程から謝りっぱなしの一くんは曖昧に笑った。
そういえば改めて見れば、上から下まで白だった。
そして所々にミントグリーンのライン。
とっても見覚えのあるジャージに思わず顔が少し歪む。
「......なぁ凪、その制服ってまさか、烏野..じゃねぇよな?」
彼の顔からスッと一瞬で笑顔が消えた。
声のトーンもいくつか落ちたのを私は聞き漏らさなかった。
「え、そうだけど?…私、烏野に入学したんだよ」
似合うでしょ?と制服を見せびらかす様にクルッと一回転した。
面白くない。
明らかに顔がそう語っていた。
「クソ及川が...だからあいつ...」
怖い顔でそう漏らす一くん。
彼の反応を見るに、私が烏野に入学したことを知らなかった様だ。
まさか、伝えてなかったのか...。
私は久しく見ていないあの人の顔を思い浮かべた。
「...お前さ、もしかして影山がいるから烏野に行ったのか?」
「...え?は?ちょっと、何それ!?」
何でここで影山の名前が出てくるのか不思議でならなかった。
突然のことに自分の中でカッと嫌な感情が溢れてくるのがわかった。
「た、確かに影山とは付き合ってたけど、あんなの友達の延長だったし…!だから、影山がいるから高校選ぶとか絶対ありえないし、全然そんなんじゃない!それに、私が烏野を選んだのはお兄ちゃっ......」
何言ってるんだ私は。
どうしてこんなにも動揺してるのよ。
言わなくても良い事を口走って、こんなの、ただ一くんに八つ当たりしてるだけじゃんか。
「私はただ、烏野の制服が可愛いって……そう思っただけなんだから!!」
「あ、おい!」
私は一くんを押しのけ、目の前に見える家まで猛ダッシュした。
後ろから一くんの声が聞こえるが、それを遮断する様にバタバタと家の玄関を開け、中に滑り込む。
久しぶりに走ったせいか、息切れが酷かった。
いや、これは息切れというか、先ほどの動揺からくるものかもしれない...。
落ち着け私。
大丈夫、大丈夫。
そう両手を胸元に当て、小さく深呼吸を繰り返した。
その時、ガチャっとリビングの扉が開き、間延びした声が聞こえて来た。
「岩ちゃん忘れ物でもしたー?」
いま。
世界でいちばんしたくない顔が、そこにはあった。