present



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>及川Side

「も〜ほんと、岩ちゃんってば大袈裟なんだよなぁ。ちょっと捻挫したくらいで暫く部活休みだなんて...。」


包帯で巻かれた足を、なるべく地面につけない様にし、先程まで岩ちゃんが飲んでいたコップをキッチンの流しに持っていく。



来週は烏野との試合だ。

俺達は絶対に、飛雄ちゃんを倒さないといけない。



さっきまで岩ちゃんとその話をしていた。

岩ちゃんは、飛雄ちゃんが烏野に行ったことをまだ信じていない様だったけど、金田一と国見の話によれば確かだと思う。
それに、中学時代の飛雄ちゃんの恋愛に関する噂話まで教えてくれた。

なんとなく2人は言いにくそうにしていたけど、俺は弱みを握れるチャンスだと思ってウキウキして聞いた。



けどそれが間違いだったのかもしれない。


絶対に今日ミスって捻挫したのは飛雄ちゃんのせい。

岩ちゃんがあり得ないイライラしていたのも飛雄ちゃんのせい。


絶対にそうだったと思う。



それだけ俺たち2人の心は乱されたってことだ。





.





俺は中学の時、初めて会った時から飛雄ちゃんが嫌いだった。

天才セッターなんて言われるあいつのプレー、心底反吐が出るくらい大嫌いなんだ。
それを今、チームが変わったということでボコボコに出来る大チャンスだ。


が、その前に凪と飛雄ちゃんが付き合ってただって?


どうせただの噂だ。



けど、もし本当だったら?



凪が選んだ高校は飛雄ちゃんと同じ烏野だ。

何故俺と同じ青城に来なかったの合点する。



まぁこれは俺の勝手な仮説でしかないから、岩ちゃんには言えないが、もし仮説が正しければ----。



俺は飛雄ちゃんを殺してしまうかもしれない。




ザーッと流しの水を片付けたばかりのコップに注ぎながら、1人冷たい感情を膨らませていた。






ガチャーーー、バンッ!!





玄関の方から不意に聞こえた激しい音に、俺はハッと顔を上げた。

今さっき岩ちゃんが帰ったばかりだった為か、忘れ物でもしたのかな?と思い、俺は水道の水を止めた。
そして再び包帯の足を地面になるべくつけない様にリビングの扉まで向かった。


リビングの扉を開ければ、薄っすら玄関に置かれた芳香剤の匂いが鼻を掠めた。


「岩ちゃん忘れ物でもしたー?」

そう呼びかけながら顔を覗かせれば、そこに立っていたのは凪だった。


「ぇ...」


久しぶりに見たその立ち姿は、妹であることを忘れてしまうくらいに目を惹いた。

けど、その顔は何故か今にも泣きそうで、それなのに綺麗だと思えてしまった。
同時に、小さい頃よく泣くのを我慢していた彼女の顔がフラッシュバックした。

俺はハッとして、急いで口を開いた。



「ぁ....おかえり。」


自分でも恥ずかしいくらい声が裏返り、思わず右手で口元を隠した。

「っ.....」

凪は返事をするでもなく、靴を脱ぎ捨てたと思えば、顔をうつ伏せにして階段を駆け上がって行った。






「...岩ちゃん、だな。」



俺は一瞬で全てを察した。
きっと家を出た岩ちゃんと、すぐそこでバッタリ出会したんだ。

岩ちゃんが何を言ったのかまで分からないが、凪に遭遇したということはーー。

凪の制服姿を見たということ..。
つまり、凪が烏野に行ったという事に気付いてしまったんだ。


「あちゃー...」


岩ちゃんの事だから、何で烏野に行ったのか詰め寄ったか...。
それとも今日聞いたばかりの最悪な噂...飛雄ちゃんとの事を問い詰めたか?
どちらにせよ、凪をあんな顔にさせたのは岩ちゃんで間違いないだろう。



最悪だ。
なんて厄日だ。







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