「ふーん...。24対13か、ちょっと遅くなっちゃったな」
もうすぐワンセット目が終わる時、私は青葉城西高校の第3体育館のギャラリーに来ていた。
バレーの試合を見るのは凄く久しぶりだ。
体育館そのものは凄く大きいのに、上から見るコート全体はとっても小さく見えた。
けど、実際自分がコートに立てば凄く広くて、6人で守るなんてとてもじゃないけど人が足りない。なんてつい思ってしまう事を私は知っている。
「あれ、あのオレンジの子...」
烏野のサーブターンのようだが、サーブ位置に立つのは影山とよく一緒にいるオレンジ頭の子だった。
まさかと思ったけど、あんな小さいのにバレー部だったのか。
ピッ
「あ...。」
ホイッスルの音と共にボールが不自然に上がった。
私は思わず小さく声を漏らしてしまった。
絶対に今、笛の音にビビってボール上げたな。
まるで素人みたいなミスに、こっちの顔が強張ってしまう。
バシッ
「イダッ!」
「っ...」
その時、一瞬で空間が凍りついたのを感じた。
誰も動かない。
何も発しない。
そんな空間にただボールがポンポン...っと転がる音が嫌に響いた。
私も目の前で起こった状況に、一瞬理解が追いつかなかった。
今、オレンジの子がサーブミスって...それで、、
ピーっ
再び笛の音が鳴り、同時にどっと空間が沸いた。
「ウワッハハハハ!おい!後頭部大丈夫か?」
「ナイス後頭部!アハハ!」
「煽るなっつーの!」
「やめろお前ら!」
烏野メンバーはゲラゲラ笑っていた。
一部メンバーはお腹まで抱えている。
かと言う私も、思わず吹き出してしまい、声を殺して笑った。
「ぶっ...やば..ナイスヒットすぎ、ふふ、ふふふ」
思わずツボってしまった。
遅くきちゃったと思ったけど、ナイスタイミングで来れたみたいだ。
それにしても、後頭部なんて私もたまにやってたけど、思いっきり入ったなぁ。
しかも影山に当てたのが最高に面白い。
あー、オレンジの子も悟り開いちゃってるよ。
「ありゃぁ、影山も大激怒だね」
手すりから少し身を乗り出し、影山がオレンジの子に詰め寄ってるのを確認する。
2人とも凄く怖い顔をしているのがこの距離からでもわかった。
中学の時の影山のプレースタイルはよく知ってる。
コート上の王様。
そう呼ばれているのだって知ってた。
そんな影山からしたら、あのサーブはありえないミスだろう。
きっと今すぐにでも下がれって言うんだろうな。
「とっとと通常運転に戻れバカ野郎!!」
影山の怒号が体育館に響いた。
「う、わ...」
まさかの言葉に私は驚きを隠せなかった。
怒号..というより激励?
あの影山が?
「なになにー?」
「練習試合だってさ」
「これから第2セットじゃん!」
パタパタと青城の生徒がギャラリーに増えてきた。
私は被っていたフードをキュッと深く被り直し、一歩下がった。
第2セットが始まり、私は未だにコートに姿を現さないあの人の姿を探した。
足を軽く捻挫したというのはお母ちゃんから聞かされていたが、もう万全で今日の試合は出てるって聞いてたのに、なんでいないんだろうか。
「あ、レシーブ乱れた。」
「影山、カバー!」
「はい!」
「レフト持って来い!」
...クイック、ではない。
あれだとレフトか...ライトのオープンでもいいかもしれ---。
「っ..嘘、クイック!?」
思わず声が出てしまった。
急にオレンジの子が飛び出したかと思ったら、それに合わせて影山が彼へトスを上げた。
でも、ちょっとトスが高い。
多分当たらない..。
そう思った後、予測通りボールはオレンジの子の手に当たらず床に落ちた。
「...あの子、目閉じてなかった?...それに、影山...もしかして今のトス謝ってるの?」
影山がオレンジの子に謝る様な仕草が見えた。
彼らと反対側のコート内で金田一と国見が驚いているが、そりゃぁそうだよね。
私だって、今凄く驚いている。
それにしてもあの速さ、まぐれ?
流石に素人が見ても分かるぐらいには異常な速さだと思う。
実際に目の前であんな動きされたら、反応出来ない気がする。
....あれがまぐれじゃないなら。
彼はすごい逸材だ。
というより...。
バンッ!!
「「シャー!!!!」」
得点が入る笛の音が鳴った。
「...化け物だ」
「なんだなんだ!?」
「すげえ!はっえー!!」
流石にギャラリーからもドワっと声が上がった。
私はドキドキと煩いくらいに鳴り始めた自分の鼓動を抑えるように胸元を押さえた。