present



17



お昼休み。

バレー部が使う体育館横のスペース。

確か前に、そこで見かけたはず。



「っ...いた。」




そこには影山と、探していたオレンジの子がレシーブの練習をしていた。


「もっと腰落とせ日向ボゲェ!!」

「うっ..分かってるっつーの!!」


ガミガミ言い合いながら練習を続ける2人に、私はそっとタイミングを見計らって、横からボールを奪った。


「っ!凪!?」

「おぉぉぉスッゲェジャンプ!!」


2人とも驚いた顔で私を見た。


影山の驚いてる顔を横目に、私はまっすぐオレンジの子のところへ向かう。


急に詰められてきた事に驚いたのか、慌てるオレンジの子に口元がにやけそうになる。


彼の目の前、歩みを止める。


こう並んでみると、私が155cmだから、、、、

ポンっとオレンジ頭に私の手を置いて、ずいっと顔を近づける。


「ひゃくろくじゅう......さんくらい?」



普段周りにでかい人ばっかりいるから、この目線で男の子と話すのは久しぶりだ。


「うぇ!?あ、えぇーっと」

女の子の免疫がないのか、顔を真っ赤にしているオレンジ君に、私はさらに詰め寄った。


「ねぇ、名前は?クラスは?どこ中出身?バレーはいつから?」

「お、おい!」


勢いでグイグイ詰め寄っていると、後ろから肩を引かれた。

影山が凄い形相で見下ろしてきた。

私は怯むでもなく、影山に向かい合うと、ビシッとオレンジの子を指差した。


「...影山、私はこの子に用があるの。」


そういうと、さらに怖い顔をして舌打ちしてきた。


「俺の前で他の男に詰め寄るな。普通に不愉快でしかねぇ。」

「はぁ?だから、もう影山とは付き合ってないんだから、それこそ関係ないでしょう!」

「だから、俺と付き合えって何度も言ってるだろうが!」

「うっ...ほんと、アンタも中々諦めが悪すぎ」


そう。

だいぶ前の告白現場遭遇事件を覚えているだろうか。

あの日、影山にまた恋人になりたい宣言をされてからと言うもの、タイミングさえあれば好きだとか。付き合おう。って言ってくるようになった。


その気はないとはいえ、影山は普通にカッコいいし、愚直に好きだって言われたらこっちだって流石に照れる。

毎度いい感じに避けてきていたけど、こいつはこんな時まで...。


「えぇぇ!?この美人、お前の彼女!?」


オレンジの子が頬を赤く染めながらキラキラした顔で私たちを見た。


「ち、違う。前は付き合ってたけど、今は影山が私に片想いしてるのよ」

「おま、そんな堂々と言うんじゃねえ」


流石に恥ずいだろう。と片手で口元を覆う影山。


全くわからない。

さっき自分で最初に恥ずかしい事言ってたでしょうに。


やっぱり影山ってバカなのか...。



影山の元カノ!?ってキラキラな眼差しのオレンジの子に、恥ずかしがる影山。

その間で虚無な顔になってしまう私。

何よこのカオスな空間。





.



「ゴホンッ...改めて、私3組の及川凪。よろしくね」


「俺は日向翔陽!1組!」

「そう、日向翔陽……聞いた事ないわね……」


あんだけ化け物みたいな動きができたら、てっきり中学で有名な選手かと思ったけど、初めて聞く名前で驚いた。


「私、この前青城との試合見てたよ。日向の速攻、凄過ぎて化け物かと思った!」

「化け物ってお前...もっとオブラートに包めよ...てか、今なんて?」

「...だから、試合、見たよ。」



影山と日向は驚いた顔で私を見た。


「もしかしてバレーやるのか!」
「どうやって入ったんだ!?」


2人が同時に喋り出し、同時に喋り終わった。

彼らは顔を向け合うと、恐らくお互いが何を言ったのか聞こえなかったのか首を傾げていた。

試合中、2人のプレーはすごく良かったのに、もしかしてバレー以外だと2人は良い意味でおバカコンビなのかしら。


「えっと…。まず日向の質問からね、バレーは小学校の時から。中学の時はそれなりに有名で月バリに出た事もあるよ。それから、影山の質問は簡単な事ね〜、放課後なんだから運動部っぽい格好して堂々としてれば余裕で入り込めたよ。」


ちょっと自慢げに話をすれば、今度は2人とも声を合わせて「おぉー!」なんて言ってる。

やっぱりこいつら馬鹿かもしれない。


「じゃぁ凪は女バレか?」


女バレ...女子バレーボール部に入ってるか?って質問だよね?


「......バレーは中2で辞めたの。今絶賛部活探し中。」

「クッキング部どうしたんだ?」


ギクと痛いところを突かれた。

先々週くらいに行ったクッキング部なんてとっくに抽選結果が出て、清々しいほどに落選だったわ。


「...美人って大変なんだよ影山。」

「あ?」

「そういえば男子バレー部のマネージャー、清水先輩が探してたぞ!」


どうだ!とキラキラな目で勧誘してくる日向を見て、私は目を細めた。


「......。」


武器、仲間になり得るもの...。

一君に言われた言葉を思い出し、私は日向とまっすぐ向き合った。



「中学2年の時、私はバレーをする意味がなくなったの。だから辞めた。...けど、日向のプレーを見て、私はバレーがまだ好きって気付いて、目標に向かってまた頑張りたいとも思えたの。正直まだ悩んでるけどね...。どうするのが正解なのか、本当にこの進み方でいいのか、今分からないの...。」



「んん?」


日向は真剣に私の話に耳を貸してくれているが、意味がわからないのだろう。

彼は首を傾げた。



「えーっと...つまり、日向のバレーに感動したの!だからマネージャーはやるか悩んでる!」


要約すればこういうことだが、1人語りしてしまった事を少し恥ずかしく感じた。

隣で黙って聞いている影山は神妙な趣だった。


「本当は、もう少し早く日向に会いに行こうと思ってたんだけど、考えてたら足が動かなくてさ。...でも、話せて良かった。もう少し考えてみるね!」


じゃぁ。と2人の背を向けた時、ギュッと後ろから手を引かれた。

影山か?

そう思い振り返ると、意外にも日向が私の手を引いていた。



そして真っ直ぐな目で私を映し出した。

その目はこの前の試合で最後のセットを決めた時、思わず身震いしてしまった目と同じだった。


「バレーで悩んでるなら、バレーで解決するのがいい。放課後、バレー部観に来いよ!」

「っ...でも」

「日向に同感だ。ちょっとでいいから観に来いよ。」


日向は先ほどと打って変わってキラキラした顔で私を見た。

影山が賛同してくれたのが嬉しかったのだろうか。


「......今日は無理、でもそのうち顔出すね。」


とりあえず、まだ今日行く気になれない私はヘラっと笑ってそう返した。

じゃぁ、また。とだけ言い残し、今度こそ立ち去ろうとした。



後ろから「絶対こいよー!」なんて聞こえたけど、振り返る事はなかった。






「影山ってあぁいい子が好きなんだな。確かに凪は美人だったけど。」

「あ?まぁ、美人っつーか、可愛いよな。...つか日向ボゲ、いきなり名前で呼んでんじゃねぇよ!」

「はー?影山だって名前で呼んでんじゃんか!」

「俺はいいんだよ!!」

「じゃあ俺だって名前で呼ぶ!!」

そうガルガルと2人の言い合いは時間ギリギリまで続いた事を私が知る事はなかった。








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