「行くぞ。」
「え?え、ちょ!何!?」
それは突然だった。
最後のホームルームが終わり、荷物をまとめ終わったタイミングで私の鞄はヒョイっと持って行かれ、驚いていると影山に腕をがっしり掴まれた。
「凪ちゃん、また明日ね〜!」
「えぇ、望ちゃーん!?」
引き摺られるように引っ張られる私を優しい眼差しで見送ってくれる望ちゃん。
彼女に救いを求める手を伸ばすも、どんどん遠ざかってしまった。
そうして連れてこられたのはバレー部が使う体育館。
影山は私の腕を掴んだままで、重たい扉をガラッと開けるも、中には誰もいなかった。
どうやらまだ誰もいないみたい。
「着替えて来るから、絶対に帰るんじゃねぇぞ!」
帰るなよって言われても、鞄、影山が持ってっちゃったじゃん。
まるで人質か?
「...はぁ。」
私はそっと体育館を見渡した。
誰もいない体育館に一人で立つのはいつ振りだろうか。
トクンと胸が弾みザワザワと騒がしくなり始めた時、ふと近くにバレーボールが2個ほど落ちているのに気付いた。
何となくそれを1つ手にすれば、さっきお昼に日向たちからボールを奪った時と違って手にしっくりハマるような感覚にさらに胸がざわついた。
トントンっと数回地面に叩きつけると、ボールは吸い付くように私の掌へ戻ってきてくれる。
懐かしい――。
そんな感覚に思わず顔が綻んだ。
少しだけ時間が空いてしまったけど、出来るかな。
それはただの興味本位みたいなものだった。
私はサーブ位置となるラインへ向かい、そこからコートを見渡した。
まだネットが張られていないせいか、広々見える空間。
一度目を閉じ、あの時散々見てきた光景を思い浮かべる。
沢山の声援の中、笛の音が鳴ると一気に静まり返る空間。
まるで私1人しかいないかのような静寂の中、高くボールをあげる。
それから、ボールに合わせて助走からの高いジャンプ。
ありったけの力を右の掌に集めて、まっすぐタイミングを合わせて腕を振り下ろせば、、、
当たり前のようにボールがそこにいてくれる。
バシッ!!!
最高の当たりで飛んでいったボールは、アウトラインギリギリに入る。
あれーー。
私まだ飛べるじゃん。
そうあの頃のように飛べる自分に驚いた。
着地と同時に、靴下だったせいで一瞬滑ったが、すぐに体勢を整え、自分の掌を見つめた。
赤い、しかもちょっと痛い。
時間差でジンジンとしてくる手のひらを、そう悠長な事を考えて見つめていれば、彼らは突然やってきた。
「「うおおぉぉぉぉ!!」」
「っ!?」
爆音のような声にハッとして振り返る。
そこには先日の青城との試合で見た坊主頭の人と、初めてみるメッシュ髪の人が何やら興奮して立っていた。
今の、見られたっ
まずい。
直感的にそう思った私は、「失礼します!」と言い、2人の間から外へ駆け出した。
けど、それを阻むかのように私の顔面は柔らかいけど硬い何かにぶつかった。
「んぎゃっ!」
「おっ...」
反動で後ろに転びかける私。
あれ、これ前も似たような事あったな。
なんて考えながらも、次に襲って来るであろう衝撃にギュッと目を閉じた。
「......あれ?」
お尻に衝撃が来ない。
そう思いそっと目を開けると、目の前には影山の顔があった。
「大丈夫か?」
「うぇ..だ、大丈夫!!」
いつぞやと同じくらい近い顔に思わず声が裏返った。
心なしか顔まで熱くなり始めた。
影山はそのまま私の体制を整えてくれ、頭にポンと手を置いてきた。
「やっぱり凄いな………。お前のサーブ。」
そう微笑んできた彼に、今度は違った恥ずかしさが込み上げてきた。
影山にも見られてたのか...。
興味本位でやったとはいえ、迂闊だった。
「ぜ、全然...。制服だし、靴下でジャンプも低いし、そもそもボール低めだったし...」
「いや、それでも「影山クーン?」」
恥ずかしさのあまり俯いてゴニョゴニョと言い訳を述べていれば、後ろから地を這うような声が聞こえてきた。
振り返れば、先ほどとは打って変わった表情の2人が後ろでメラメラと燃えていた。
「先輩差し置いてイチャイチャしてんじゃねぇぞゴルァ」
「そうだぞ影山。俺たちにも紹介しろや」
どうやらこの2人は先輩のようだ。
あれ、ていうか私このメッシュの人知ってる。
この人確か...
「千鳥山の...西谷夕、さん?」
「お?お前俺のこと知ってるのか!」
さっきまでの顔が嘘のように、ニカっと眩しい笑顔で笑う彼はやっぱりそうだ。
中学の時にベストリベロ賞を取った「千鳥山の西谷」。
まさか烏野にいたなんて...。
「あ、こいつは俺のクラスメイトっす。今日は見学に連れてきました。」
待て待て、見学に行くなんて誰が言ったのよ。
当然の顔でそう言う影山の足を私はグッと踏んづけた。
けど全く痛くなかったようで、なんだ?と首を傾げて私を見下ろしてきた。
「おーい、お前ら何やってんだ?」
ゾロゾロと他のバレー部メンバーが集まってきた。
チワッスと声を揃えて挨拶する影山達に釣られて、私も軽くペコリと挨拶し、影山の後ろにサッと隠れた。
このままだと本当に見学しなきゃいけない流れじゃん。
「影山、私今日は帰るから鞄返してよ。」
そう耳打ちすると、影山は無言のまま私の手を取った。
体育館へ入っていく先輩の最後尾につき、私は再び体育館に入らされた。
.
「えー、今日は一年生の子が見学に来てるけど、お前ら練習に集中しろよ..?特に田中と西谷な。」
そう主将である澤村先輩の声が体育館に響いた。
あれからメンバーが皆揃い、結局私は見学者という事でバレー部にいる事になった。
主将が話している最中だっていうのに、私を見た途端日向はキラキラ目を輝かせながらコチラに手を振ってきたので、小さく振り返した。
それを見ていた坊主の先輩と西谷先輩も私に手を振ってきていて、とりあえず同じように振り返した。
「はあん、潔子さんとはまた違った良さ!!」
「うるさいぞ田中!!西谷も鼻の下伸ばしてんじゃない!」
なんだか私はいない方が良い気がしてしまった。
そう心配に駆られていると、スッと隣にマネージャーだと言う3年生の清水潔子さんがきた。
「ごめんね煩くて。悪い奴らじゃないから安心して。」
「あ、はい!大丈夫です!ただ、急に見学に来てしまって申し訳ないです..」
「ううん。マネージャー探してた所だから凄く嬉しい。好きに見ていってね。」
...まさに女神だと思った。
私はどちらかと言うと可愛い系統だが、潔子さんは綺麗系だ。
女の私だからこそわかるポイントがたくさんあるけど、兎に角この人、めっっちゃ美人。
「潔子さん!!女神様です!!」
彼女の手を取り、詰め寄れば少し困ったように笑ってくれた。
「ねぇツッキー。あの見学に来てる子ってさ、天使ちゃんだよね?」
「...あぁ、3組の...男子にチヤホヤされてる子でしょ?」
「っ...おい!!」
ただ見ているだけで何もしないのは申し訳なかったので、皆の練習風景を見ながらタオルを畳むのを手伝った。
最後の一枚をたたみ終わる時、影山の怒号が体育館に響いた。
皆何事かと視線を向けると、影山がメガネくん、、
さっき潔子さんに名前教えてもらった、月島くんの胸ぐらを掴んでいた。
「あれ〜、何でそんな怒るわけ?もしかして王様もあの子に気がある感じ?意外だね、僕は絶対にあんな遊んでそうな子嫌だけどな〜」
「お前、良い加減にしろよ」
「お、おいお前ら落ち着け!」
先輩達がアタフタして喧嘩を止めようとしていた。
何となくだけど、状況を把握した。
月島くんは私が気に食わないようだ。
それで、影山は月島くんが何か言ってたのに反応して怒ってるんだ。
全く、何で影山が怒るんだか。
私は畳終わった最後のタオルを置いて、そっと彼らに近付いた。
「......月島くん!私と勝負してよ。」
皆が一斉にこちらへ振り返った。
月島くんは何言っちゃってんの?とでも言いたげな怠そうな顔をしていた。
影山私の発言に驚いたのか、スルッと掴んでいた月島の胸ぐらを離した。
「月島くんが私の事気に食わないって感じなのは何となく分かった。でも、だからって真剣にバレーやらない人は、私だって気に食わないよ。」
「っ...」
「部活だからって何となく流せる所は流してやってるよね。皆すごく真剣なのに、君だけそんな動きをしているように感じた。私、そういうの大っ嫌い!」
だから勝負してよ!
ビシッと月島くんに指を向ける。
皆ざわざわする中、月島くんと私の間にはバチバチと火花が弾けていた。
プチ小話
凪のサーブを見た後の会話
「な、なぁノヤっさん..見えた、よな?」
「あぁ...あれは完全に...白だったな。」
「あぁ。完璧な白だった。」
そう2人は体育館の端で固い握手を交わした。
「(白か…)」