present



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「凪ちゃん、今日も来てくれたんだ!」


体育館に入るなり、私に駆け寄ってきた潔子さん。
今日もとってもお美しくて、もはや眩しかった。


「はい、あの...暫くは来るかもしれないです...(日向達に無理やり連れてだけど)」

「ほんと、嬉しい!でも、入部してくれたらもっと嬉しい!」


彼女のまっすぐ嘘のない言葉に思わず口を噤んだ。

こんな良い先輩がいる運動部、なかなか無いよね。
逆に入らない方が勿体無いし、だらだらハッキリしないのは申し訳ない気持ちになる…。


「じゃぁ、今日はドリンク手伝ってもらえる?」

「はい!」


とりあえず、今日は出来るだけマネージャー業をお手伝いする様にしよう。




.




「あれ〜、お姫様じゃん。よく昨日の今日で来れたね」

「ちょ、ツッキー、、天使ちゃんにそんな...」



飲み物の入ったボトルをベンチに並べている時、不意に後ろから聞こえた声に私はゆっくり振り返った。


「...お疲れ様です。用がないなら話しかけないでもらえますか?」

にんまり笑顔で返答すれば、私と月島くんの間にバチバチと火花が舞った。


「それから連れの山口くん?私のこと次そのあだ名で呼んだら怒るよ?」

「え!?あ、ご、ごめん...」

「…別にいいんじゃない?まぁ、全然天使な感じしないし、女王様とかお姫様の方が僕的には似合ってると思うけど」


思わず眉間に皺を寄せる。

言いた放題って感じで本当にムカつく。
昨日ボコボコにした事を根に持ってるのかしら。


今すぐにでも目の前のメガネをカチ割ってやりたくなってきた。





「なぁ山口、なんで凪って天使ちゃんなんだ?」

「えっ日向知らないの?及川凪ちゃんと言えば、学年の間で有名じゃない?」

「え?だから何がそんなに有名なんだよ」

「えぇ、頭が良くてスタイルも良くて、その上運動神経も抜群。笑った顔はずっと拝んでいられるくらい可愛い。それで一部の男子達が天使ちゃんってあだ名をつけて...」


「ちょっと、いい加減にしてくれる?本当に怒るよ!?」


月島くんに向けていた視線をギロッと山口くんと日向に向ける。
2人ともビクッと肩を上げると、うるさかったその口を閉じた。


一年の間で、特に男子達の間で私は謎に天使ちゃんと呼ばれている。

理由は先ほど山口が言ってた通りだけど、私もそう呼ばれてるのを知ったのは最近だった。
正直そういった変なあだ名を付けられるのは嬉しくない。

私には凪っていう名前があるわけで、知らない人から廊下で「天使ちゃんだ。」なんて言われれば誰よアンタ。としかならない。

だからそう呼ばれても絶対に振り返らないし、反応もしてあげない。




「おいお前ら、何やってるんだ?練習するぞ!」

「「っ...はい!」」



澤村さんの一言で皆が一斉にコートの方へ走って行った。

ふぅっと小さく息を漏らす、気持ちを落ち着かせる。


「凪ちゃん、皆がアップしてる間に私はタオル準備するから、凪ちゃんはゼッケン用意してもらえる?赤だけで大丈夫。」

「あ、分かりました!」



意外にもマネージャーというのは仕事が多くて驚く。
中学の時は自分が選手側だったのもあるが、マネージャーなんていなかったので自分の事は自分で。という感じだった。


ドリンクもタオルも人数が多ければ多いほど準備が大変だし、皆の練習に合わせて準備するタイミングも考えなきゃ行けない。
ゼッケンだって使い終わったら軽く洗うって言ってたし、今まで潔子さんが1人で全部やってきたと思うと何故か私が感動した。


生半可な気持ちじゃとてもじゃないけど続かない事だ。
彼女はバレーが好きなのか、それとも皆がするバレーが好きなんだろう。



段々とそんなことを考える暇もなく、潔子さんと2人パタパタと動き回っていれば、あっという間に部活は終了となった。




「「お疲れ様でした!!」」




「はぁ...」

「凪ちゃんお疲れ様。今日はやる事多くて大変だったよね」


そう言いながら私にそっと拳を差し出してきた潔子さん。

私はそんな事ないですと言いながら、その拳の意味がわからずとりあえず手のひらを出してみた。

柔らかく微笑んだ潔子さんは、私の掌の上にそっと何かを乗せた。


「わ、ありがとうございます!」


私は手のひらに置かれた苺ミルクと書かれた飴をギュッと握った。


「じゃ、お疲れ様。」


体育館を出ていく潔子さんの背中を見送り、私も帰ろうか悩んでいると日向がやってきた。



「凪!昨日月島にやったサーブ、俺にも打ってくれ!!」

「え...えぇ〜...」


私はあからさまに嫌な顔をした。
というより、あんなに部活で動き回ったのに日向はまだ練習するのか。

体力バカすぎる。


元々体力がない私は、運動のブランクもあり、それに今日の激務マネージャー業というので既にへとへとだった。
とてもじゃないけど、日向が欲しいサーブを打つ元気なんてない。


「無理。もう疲れた。」


私はパタっと横になって天井を仰いだ。

「凪!」

ぬっと私の視界に日向が入ってきた。


「じゃあ来週、絶対って約束な!」


そう私の視界からフェードアウトした日向。
また勝手に色々決められたし...これはイラっとしない方がおかしいよね。


「はぁー」


「あの、てん..及川さん、お疲れ様」


一瞬閉じていた目をひらけば、視界には誰も映らない。
不思議に思い、少し顔を横にずらせばオドオドとした山口くんが立っていた。


私はムクっと体を起こし、立ち上がる。


「その、今日は..ごめんね。あのあだ名、嫌だって知らなくて...」

正直あの月島くんと一緒にいる彼も似た様な人種かと思ったから、こんなに謙虚な感じの子で驚いた。
それが故に私は正直な感想が出た。


「月島くんと違って山口くんは良い子なんだね。」

「え?あー...ツッキーも、いつもあんな感じじゃないんだよ。及川さんにはちょっと、この間の勝負の件もあって対抗心が強くあるっていうか......兎に角、ツッキーは本当は良いやつって事だけはわかって欲しいんだ!」

「...山口くんは、月島くんの事よく知ってるんだね。」

「え、ま、まあ、付き合い長いしね」


そう笑う彼を後ろから呼ぶ声が聞こえた。
話題の人物、月島くんだ。


「あ、ツッキー!じゃぁ及川さん、今日は本当にごめんね、呼び方はもう気をつけるから!」


そう言って月島くんの方へ駆けて行った。
彼からは鋭い視線を感じながら、私はお疲れ様と声をかけ山口くんを見送った。



「私も帰ろうかな...」

そうぽつりと呟いてコートの方を見れば、影山と日向が2人だけ残っていた。
彼らは一体何時まで練習するのだろうか。


「日向!私の鞄返してー!」


私の呼びかけに反応した日向と、何故か影山も一緒に練習を中断して駆け寄ってきた。


「もう帰っちゃうのか?」

「まぁ、今日疲れたし」

「帰るなら、送ってく。」

「えぇ、影山も帰るのか?」


じゃぁ帰るか〜と日向はボールを片付けに行った。


「...別に毎度毎度送ってくれなくていいよ。」

「俺はそうしたいから、良いんだよ」


それだけ言い残して、影山も片付けに向かった。



.



時刻は18時半。
もう時期生徒の完全下校の時間だった。

ぱっぱと着替えを済ませると、更衣室の前で2人が騒いでいた。


「くそ〜次は負け無いからな!!凪、これ鞄な、また来週!」

そう私の鞄を押し付けるように渡してきた日向はビュンッと走って行った。


「どしたの?」

「鍵の返却をどっちがやるかでアイツがじゃんけんに負けた。」


あ〜なるほど。と思っていれば、それじゃあ今から影山と2人で帰るのかという事に気付いてしまった。


せめて途中まで日向が居てくれても良かったのに..。

そう思っていると、影山が下駄箱へ歩き始めた。










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