present



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「さ〜、体育祭の種目割り振るぞ〜!」

そう担任の掛け声と共に、皆がワイワイ騒ぎ始めた。

今日の午後の授業は、約2ヶ月後に控える烏野の一大イベントとなる体育祭について、各々種目を決めるものだった。

毎年応援団が凄い迫力らしくて、ちょっと楽しみにしてたんだよね。

担任が黒板に競技の名前を書いて行く。
皆はそれを見てアレがいいコレがいいって楽しそうだった。

「凪ちゃん何にするー?」

「んー、意外と玉入れとか好きなんだよね」

「あー、分かる!でもなんか烏野の種目って全部変なやつらしいよ?」

キャッキャと望ちゃんと盛り上がっていると、全種目の名前を書き終えた先生が皆の方に向き直った。

「よーし、じゃぁまず一個一個どう言う種目か説明して行くぞ〜。その後順番に候補聞いて行くから、定員オーバーの場合はじゃんけんな。」


そうして始まった種目の説明。
先ほど望ちゃんと話していた玉入れは競技にあったものの、どうやら籠を背負って走り回る人がいるらしく、その逃げ回る籠に玉を入れないといけないらしい。


それから、中学まではメイン競技となっていたリレーだけど、バスケットボールでドリブルしながら進まなきゃいけないらしい。


どれもこれも普通っぽいものがなかった。
文化部のために用意されたであろう◯×クイズという謎の競技もあり、なんだか今まで経験してこなかった体育祭になりそうだった。



.




「はい、んじゃぁ残ったやつは全員借り物競走な〜。」


着々と誰がどの競技に出るか決まっていき、私は無事に抽選なしで玉入れになれた。
望ちゃんはバスケが得意だからってリレーを選んでた。


本当に意外とアクティブでびっくり。


抽選に外れてどこにも入れなかった人たちは借り物競走と書かれた文字の下に名前がどんどん書かれて行く。


「ねぇ凪ちゃん。...影山くん借り物競走だけどいいの?」

コソコソっと耳打ちしてきた彼女に私は疑問符を浮かべた。



「先輩に聞いたんだけど烏野の借り物競走って、毎年裏の大名物って言われてるらしくて、お題が“好きな人”とか“付き合いたい人”とかそういう色恋沙汰のやつなんだって」

「へ〜、つまり走る側も、お題で選ばれる側も公開処刑ってやつ?」

「そうそう!めっちゃ面白そうだよね!」

「そういうのに敏感な年頃だもんねぇ........んん?」



凄く他人事の様に聞いてしまったが、私は再度黒板に書かれた名前を見る。


借り物競走の文字の下に影山。

確かにそう書いてあった。


私が手に持っていてペンをぽろっと床に落として固まってしまった。



「いやいやいや!!絶対ダメ!!本当にダメ!!!」

「お?どうした及川ー?今更変更はなしだからな〜」


慌てふためく私を他所に、担任はその黒板をスマホで写真撮って、じゃあ解散な!っと一言言って出ていった。


「〜〜〜っ」


私はどうすることもできず、椅子にストンと腰を下ろすしかなかった。


「だ、大丈夫だよ!普通のお題だって出るでしょ、、多分...」


慰めの言葉をかけてくれる望ちゃん。
その言葉通り影山が引くお題が普通であれと、今から願うしかなかった。

チラッと影山の席を見れば、グースカ机に突っ伏して寝ていた。
解散となった周りのガヤガヤする音で目が覚めたのか、パチッと目を開けた影山はむくっと起き上がり、「部活だ。」と呟いていそいそ教室を出ていった。

私は小さくため息を吐いて、帰る準備をした。
仕方ない、今どうこう考えてもどうにもならない。


「凪ちゃん、今日もバレー部?」

「...いや、バレー部は保留にしようと思ってて。」


昨日の今日で少しだけ行きにくいしなぁ。
あんな事があったのに、月島くんと顔合わせるのも気不味いし、影山も何となく昨日キ、、キ、キスのせいで今日1日避けちゃったし...。





最悪。

思い出したらまた顔が熱くなってきた。


両手で顔を覆って俯けば、トントンっと肩を叩かれた。


「えっと、多分...お迎えだよ?」

「え?」


顔を上げて望ちゃんが指差す方を向けば、既に部活着に着替え終わった日向と影山がいた。


てか、え?

影山着替えるの早くね?と思っていると、日向が「凪!部活行こうぜー!」と手を振ってきた。


「えぇ...」

「ふふ、じゃ、私も部活行くから、また来週ね!」


望ちゃんがパタパタと教室を出たと同時に、日向が私の席までやってきた。


「ひ、日向...私まだバレー部に入るのは考えてて...」

「?...だから?」

「え、だから、今日は....」

「別に。どうするか決まるまで毎日来ればいいだろう。」


ぬっと現れた影山は、さも当たり前の様にそう言って退けた。

こいつはまた、よく平然と顔合わせられるな...。
こっちは影山を見るだけで顔から火が出そうだっていってるのに。


「行こうぜ!カバン持ってってやるよ!」

日向は机の上に置かれた私の鞄を持って、ルンルンと出ていってしまった。


また鞄を人質にされた...。


「行くぞ。」


そう言う影山の手には、私の机横にかけてあった体操着と体育館履きがあった。


「〜〜〜っ」

ほんと、どいつもこいつも強引すぎでしょ。




.



影山が歩く少し後ろから後を追う。
足の長さからして影山の方が圧倒的に早く歩けるはずなのに、彼は私に合わせてくれているのか今以上に二人の距離が開くことはなかった。

更衣室がある校舎棟へ移動すれば、廊下には私と影山だけになった。
先ほどまで他の生徒達の話し声など雑音があったせいで、今この静けさがやけに目立った。

でも、不思議と昨日と同じで、決して居心地が悪い感じではなかった。

さっきから黙っている影山は何を考えているんだろうか。

そう彼の顔を覗き込もうと思ったが、後ろから見える影山の耳が真っ赤だった事に気付いて、私は足を止めてしまった。



ダメだ...本当に昨日の事ばっかり思い出してしまう。


俯いて熱くなる顔を冷ますように、少し冷えた両手で顔を覆った。

やめろぉ、思い出すな、深呼吸だ私。


「ふぅ..〜〜」





...無理!



いくら美少女でも彼氏歴が影山しかない私にとって、あんなイベント初めての事過ぎて、昨日の今日じゃ忘れられるわけない!


何よりあれ、ファーストキス...


せめて一週間は時間空けないと封印できない。

でも影山の顔見たら一瞬で封印解けそうだし、ほんと、どうしよう。


こんな時、なんで同じクラスなのよ。




「...ぃ、、、おい、凪!」

「っ!」


ガッと肩を掴まれ、びっくりして顔を上げると、視界いっぱいに眉をハの字にした影山がいた。


「っち、ちかぃ...」


思わず数歩後退る。
じっと目が合えば、やっぱり恥ずかしくてふいっと顔を横にそらした。


「凪」

「...っ」


クイっと大きな手で顎を掴まれ、無理やり正面に顔を向けられる。


「...嫌、だったか?」


そう問うてきた影山は、やっぱりまだハの字眉で、さっきと少し違う、心配というより悲しげな表情だった。

それに、嫌だったか。というのは、影山にとってはどれに対して言っているのか分からないが、私が一番に思い浮かぶのは昨日の事だ。


「今日、俺のこと避けてただろ。」


その言葉に内心ぎくっとする。

こういうところは鋭いのね、と思いつつも何の返答しないわけにもいかないので、私は少し重たい口を開く。


「ぃ、嫌..ではなかった。.....けどっ...」

「...けど?」

「は、初めてだったから...その...初めては、、、もっと...夜景が、綺麗なところとか...初デートで、とか..その...思い出に残るようなのが...」


だんだん小さくなる声に、自分は何を言ってるんだと更に恥ずかしくなった。



別に影山とキスしたのが嫌だったわけじゃない。

初めてが影山だったのも、嫌...だったわけじゃない。


じゃあ良かったのか聞かれたら、それもそれで頷けるわけではない。


「〜〜っ...もう、見ないで」


パッと影山の手を振り払い、私はその場にしゃがみ込んだ。

真っ赤になった顔を影山に直視されるのに耐えられず、もう暫くは顔を上げたくなかった。



「...悪い、“次は”そうする」


彼は今どんな顔をしているのか分からないけど、その返答はちょっと違う気がして..

でも今言い返せるほど私のHPはなくて、この状況からただただ逃げ出したかった。


どちらとも何も話さない沈黙の時間は再びきた。

さっきは居心地悪くないって思ったけど、やっぱり嘘。

全然無理。



誰か助けて。

そう思った時、救いの声は現れた。

「おーい!!お前ら何やってんだよ!部活始まるぞー!?」

誰がきたのか見なくても分かる。

あぁ、日向...今日ほど君に感謝する日はないだろう。



プチ小話

~着替え終わる凪を廊下で待機中~

「影山、お前なんか今日顔赤くね?風邪か?」

「っ!うっせぇボゲ日向!!」

「うわ、なんだよ!心配してやってんじゃんか!」

「いいから黙ってろ!!」







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