present



26




「は、一君!」

「なんだ?」

グイッと凪に手を引かれ、俺は歩く速度を少し落とす。

「何だじゃないよ!着替え取りに行くって、今日うち泊まるの?」

俺は足を止めて、凪に向き直る。
もしかして凪は知らないのか?

「今日、久しぶりに及川家と岩泉家で飲み会やんだってよ。」

「....えぇ!?」

聞いてない!!と驚く凪に、メッセージ来てねえのか?っと聞けば、携帯がカバンの中だと言われた。

「まぁ、昔良くやってただろ。岩泉家は大人が集まって、子供らは及川家に追いやられるってやつだな。」

そう再び歩みを再開する。

「また急すぎる...」

でけぇタメ息が後ろ聞こえる。
まぁ、その気持ちは分からなくもない。

が、仕方ない。


.


「入るか?」

少し歩いて着いた我が家。
リビングの明かりがついているのが見え、外に声が聞こえないと言うことはまだ親達は完全に出来上がってなさそうだった。

入るか悩んでいる様子の凪には、とりあえず入るよう言った。


「見つかったら面倒だから、一旦俺の部屋まで直行な。」


そう凪の手を引いてそっと家に入る。
中に入れば、流石にリビングから母達の声が聞こえた。

今更だが凪と手繋いでコソコソやってる所を見られたらムカつくぐらい面倒な事になるだろうな。
そう考えながらも、俺は凪の手を離さないまま二階の自室へゆっくり向かった。


流石の凪も見つかったらめんどいという事を理解しているのか、黙って俺についてきた。



キィッと半開きだった自室の扉を開ける。
その音でさえ気付かれるんじゃないかって内心動揺する。

「ゆっくりな。」

凪の手を離し、俺の部屋に入るよう声をかける。
後を追って俺も中に入り、静かに扉を閉める。

俺は廊下に小さく耳を立て、バレてないことを確認して部屋へ目を向けた。


「っ....」

こんな状況だったとはいえ、見慣れた自室に凪がいる事に頭が急に冷静になる。
ちゃっかり連れ込んでる自分を内心良くやったと思うが、今じゃないし、寧ろ今は問題がある気がしてきた。


「一君の部屋、変わらないね。あ、これ私が載ってる月バリじゃん!懐かしい〜」

机の上に飾ってあった月バリを見て興奮気味の凪。

「私若いなぁ〜」

表情をコロコロ変える凪を見て、俺はスッと目を細める。


知ってるか凪。
その月バリ、未開封の保存用が棚にしまってあるんだぞ。

なんて事は言うはずもなく、月バリをパラパラと見ている凪を横目に俺は取り敢えず着替えるためにジャージとTシャツを脱ぐ。


「あ、一君私のところ付箋貼ってるし、マメだねって、ちょ!?何で脱いでるの!?」

「ばっ!声でけえって!!」

「んんっ!?」


急に声を上げた凪に驚いて、その小さな口を俺の手で覆った。
その反射にバサっと凪の手にあった月バリが床に落ち、動揺した凪がそのまま後ろへ下がっていった。

「ばか、おまっ..!」

「っ?!」

床に落ちていたゲームコントローラーに躓いた凪はそのまま後ろへ倒れて行く。
反射的に伸ばした手はうまく凪の手を掴めたものの、踏ん張りが効かず俺も正面へ倒れ込む。



ドサッ



「っぶねぇ...」

運良く凪の後ろにあったベッドに共倒れできた。
変なところに転ばず良かったと、小さく安堵したのも束の間。

「は、一君...」

自分の下から小さくそう聞こえてきた。
俺は視線を下に向け、ギョッとした。

両手で顔を覆いながらも、その隙間から覗く目と視線が交わる。
上裸で凪を押し倒しているこの状況と、急に流れ始めたなんとも言えない空気感に思わず俺は唾を飲んだ。

顔を隠していてもどんどん赤くなって行く凪。
その初々しさに思わず口が動いた。


「...初めてか?」


バカか俺は、何を聞いてるんだ。
自分の発言に頭が痛くなるのを感じた。

凪は無言のまま恥ずかしそうに身を捩った。



無言は肯定か?



ともあれ目の前にいるこの可愛い生き物に、自分の中に眠っていた何かが顔を覗かせ始めた。

それはきっと無意識で、好きな女を前にした男の本能的なものだったと思う。

「っんぁ!?」

俺は耳元に顔を近づけ、ふっと息を吹き掛ければ可愛い声が俺の耳にこだました。
俺は全身の熱が自身の下半身へドクドクと移動して行くのが分かり、少しだけ腰を引いた。

凪は自分の声に驚いたのか、両手で口元を押さえている。
その瞳は少し潤んでおり、今から何をされるのかと不安の色を示していた。

ギシッとベッドのスプリングが鳴る。

「は、じめくん、、私、本当に、は、初めてだから、だめ...」

グッと非力な腕が俺の肩を押す。
俺は器用にその両腕を掴み、凪の顔横にそれを縫い付ける。

「お前、それ煽ってるべ」

「っ..ちが」

「違くねぇよ。そんな顔されたら、その気なのかって思われてもおかしくねぇぞ。」

凪はキッと俺を睨んできた。

だが変わらず赤い顔に先程より潤んだ瞳。
ちっとも威厳なんて感じなかった。

寧ろ可愛いとさえ思えるその顔に、俺は少し残っている理性を保つのに必死だった。

「...こうやって男に抑えられたら、お前なんて身動きひとつ出来ねぇんだからな。あんま男を煽るような事言うな。」

「ぁ、煽って..ない...もん..これ、恥ずかしいよ、離して..」

本当に恥ずかしいんだろうな。

辿々しく喋る凪のその口はリップを塗っているのか艶っとしており、思わず視線はそこへ向く。


それに、こいつは分かってやっているのだろうか...。

俺から逃れようとクネクネ動いているが、それは逆に俺の心をくすぐっているという事実に...。


俺はギリギリを保っていたものが、ゆっくりプチプチっと切れる音を感じた。

俺は「そういうとこだろ」と小さく呟き、凪に顔を近づけた。

「〜〜っはじめくっ..ほんとに、だ..んんっ」

焦ったように口を動かす凪の口に俺はそのまま食らいついた。








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