「んぅっ...はじ、めく..んっ...」
「んっ...」
少しだけ乱暴なキス。
でもどこか優しくて、心地の良いキスだと思った。
私は目の前のある一君の顔に思わず見惚れる。
あ、まつ毛、意外と長いんだな。
恥ずかしくて頭がパンクしちゃいそうなのに、なぜか変に頭は冷静でいた。
角度を変えて何度も振ってくるキスに、私は何も抵抗が出来なかった。
「っ..凪、ちょっと口開けろ」
「っ...んんっ!?」
私は一君の言う通り少しだけ口を開けた。
それを待ってましたと言うように、私の口にニュルっと何かが入ってきた。
それが一君の舌だという事に気付いた時には、彼の舌によって私の舌は器用に絡め取られていた。
「んぁ..ふっ..」
くちゅくちゅと聞いた事ない音と、自分から発せられる声に背中がゾワゾワした。
私だってそう言う年頃なわけで、このキスが“大人のキス”って分かっている。
でもまだ私は高校生になったばかりで、やっぱり一君は2つも年上で凄く大人なんだって感じた。
暫く続いた大人のキス。
突然スッと一君が顔を上げれば、銀色の糸が私と一君の口をやらしく繋いでいた。
それを舐めとるように、ぺろっと舌舐めずりをした彼の顔はまさに獲物を確保した狼だ。
「はぁ...はぁ..はじ、めく...」
乱れた息を整える。
一君はこう言う時も流石運動部なのだろうか、全然息が乱れていない。
「凪。」
なんとなくいつもと違う。
とても熱がこもった声と共に、彼の手が私のブラウスのボタンに伸びてきた。
「っ...はじめく、だめ、それ以上は、ほんとに...」
そう言いながら、私は目頭が急に熱くなった。
このまま一君と私は“初めて”を迎えてしまうのだろうか。
恋人でもないのに、本当にいいの?
もしこのまま事をしてしまった場合、私は一君ともう元の関係に戻れないのではないか。。
そう思った途端、ポロポロと涙が溢れた。
「っ!」
「はじめく、ん...わた、しっ...」
「っ...凪...悪い、俺...」
涙で視界が悪い中、一君はいつもの一君に戻っていた。
けどその顔は酷く悲しそうで、その顔も私は見た事なかった。
「悪りぃ...」
ギッとベッドの音を立てて、私の上から退いた彼。
そのまま背を向けて扉の方へ向かおうとするのが見え、私は急いで起き上がって、彼の手を掴んだ。
「行っちゃ、ダメ。」
そう言えば一君は驚いた顔をするも、私の元へ戻ってきた。
再びベッドへ上がり、私を優しく包み込んだ彼。
私はそっと背中に手を回した。
「悪りぃ...本当に、理性ぶっ飛んでた」
悲しい声色だった。
それだけで顔は見えないけど、本気で謝っているのが分かる。
私は首を横に振り、ギュッと抱きしめる力を強くする。
私が苦しくない程度に一君も抱きしめ返してくれた。
「凪...。こんな事、今言うのは狡いって分かってる..けど...。」
ーー好きだ。
耳元で熱っぽく紡がれた言葉が、スッと私の中に入り込んできた。
一瞬なんのことか理解が遅れた。
そして脳より先に体が反応を見せ、私の全ては凄まじい勢いで熱を持ち始めた。
「わっ...わた、し..」
「いい。すぐ返事が欲しいわけじゃねぇ。....影山の事もあんだろ。」
その言葉に私は驚いて顔を上げる。
「一君、なんで...」
影山がは私を好きな事知ってるの..?
私の目尻をグッと拭った一君は困った顔で笑った。
「あいつが凪を見る目が、俺と一緒だからな。それに、あんな事言ってんの聞いたら嫌でも気付くだろ。」
「っ...そ、そういうもの...?」
「まあ、な。…あー。その、だからな…好きじゃねえ奴以外に、こんな事しねぇよっていうのは覚えといてくれよ。」
ガシガシと頭を掻く一君。
この仕草、照れ隠しなのを私はよく知っている。
.
「なぁ、凪。お前、その.....キス、初めてだったか?...悪かったな。」
そう言われて先ほどのことを思い出す。
ボッとまた顔が熱くなったのが分かった。
「は、初めてじゃ、ない..けど....大人のキスは、はじ、めて...だった...」
赤い顔を隠すように一君の胸の顔を埋める。
「......なんかそれはそれで複雑なのは俺だけか?」
「うっ...も、もう言わないで!..んんっ」
顔を上げたと同時に、一君に口を塞がれた。
「...なら、大人のキス以上は俺が最初に予約な。割り込みは許さねえよ。」
その真っ直ぐな瞳に私は口を紡いだ。
「...なんて、誰を選ぶのはお前の権利だ。ただ、俺のところに来てくれたら絶対に後悔はさせねえよ。それだけ覚えといてくれ。」
そう少し乱暴に頭を撫でられる。
そこにはいつも通りの笑顔の一君。
「も、もう!」
私はプイッを顔を横に向けた。
ちょうどその時、ガタガタっと廊下から物音が聞こえた。
その音に私と一君は一緒に肩を跳ね上がらせた。
「....。」
「....。」
黙って顔を合わせ、2人でそっと扉の方へ向かった。
ガチャっ
「わ!?」
「ありゃ!?」
「おおっ!?」
「....なに、やってんだよ...」
チラッと一君の後ろから顔を覗かせれば、ドアの前で見知った顔の大人が3人、廊下に座り込んでいた。
私はサァっと血の気が引いた。
いつから、そこにいた?
一君は顔が見えないけど、その拳はわなわなと震えていた。
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そのころ及川家では。
「2人とも遅いなぁ、もしかして岩ちゃんに食べられてる?......なんて、あり得ないか。どうせ親達に捕まったんだろうなぁ」