present



28




「なんだっけ〜、俺のところに来てくれたら絶対に後悔はさせねえっっつて!」

「きゃ〜!一君かっこいい〜!」

「.......。」
「.......。」


なぜか岩泉家のリビングで私たちは母親達に囲まれていた。
うちのお母ちゃんの手には芋って書いてある瓶が...
一君ママの手には韓国語がなにか書かれた瓶。
一君パパはなにやらキッチンで料理していた。

まさに最悪だ...。
一君は隣ですっごい怖い顔してジュースを飲んでいた。

とりあえず、部屋での出来事で母達に聞かれていたのは本当に最後の方だったみたいで取り敢えず安心したんだけど...
酔っ払いのお母ちゃん達には見つかってしまったので絶賛絡まれている。

特に一君が。


小さくため息をついて私も用意されたジュースに口をつける。

「は〜じ〜め〜、あんたほんっと昔から凪ちゃん大好きだよね〜、部屋に連れ込んどいて〜なんで最後までしてないんだよ〜」

「ぶっ!?」

私は一君ママの言葉に思わず飲んでいたジュースを吹き出した。

「まじで...いい加減にしろよ」

「凪ちゃんがお嫁さんに来てくれるなんて最高に嬉しい〜!ねーパパー!」

「はいはい。2人とも、おつまみできたよ。それに、もう2人を解放してあげなよ」


キッチンから仏のように笑う一君パパから優しい言葉がかけられる。
思わずその声にホッとする。
一君パパはお酒が強いからまだ酔ってないみたい。

私達の前からおつまみに釣られてキッチンへ向かった母達。


「今のうちに行くぞ。」

「あ、うん」


そう言われてそろりとリビングを出る。
一瞬チラッとキッチンを見れば、一君パパが親指を立ててグッドしていた。

それに私は小さく手を振って一君と家を出た。



.



家を出てすぐ、一君は何も言わずに自然と私の手を取って歩き始めた。
チラッと彼の顔を見れば、暗くて分かりにくいけど頬が少し赤く染まっていた。

さっきの事を思い出して私も急に恥ずかしくなったが、その手を離そうとは思わなかった。


もうすぐ家に着くというところで、一君は私と手を離した。

まだ少し温もりが残る手のひらが、急に晒された外気によってヒヤッとした。

短い距離とはいえ、なんの会話もなく及川家に帰宅した私たち。
玄関を開ければ、いい匂いが玄関に充満していた。


グゥゥゥゥッ


そんな大きな音が聞こえて、思わず一君を見た。


「....くそ腹、減ったな。」

「...ぷっ..そうだね。早く食べよう。」

すっかり遅くなってしまったが、一応2人とも部活を終えてきて腹ペコなんだった。



ガチャッ

「あ、やっと帰ってきた!!」


リビングに入れば食卓に並んだ豪華なご飯達。

見覚えのあるオカズに、お母ちゃん達が飲み会前に作ってくれた事を理解する。
もう皆高校生なんだから適当に食べるのに...お母ちゃん達からしたら、私達はいつまでも子供なんだろうな。

そう思いながら私はキッチンで手を洗う。



「一君、ご飯は大盛り?」

食器棚から私と、兄。
それからお客様用のお茶碗を出す。

「あー、大盛りだな。」

「うん......お兄ちゃんは..?」

「っ...勿論大盛り!」

コンロでスープを温めている兄にもお米の量を問えば、凄く嬉しそうな顔をしていた。

盛っている間、一君は持ってきた荷物を部屋の端へ移動させてガサガサ整理していた。


そのためキッチンの空間には私と兄の2人だった。

最近は少し話すことが増えたけど、まだなんとなく気不味い事には変わりない。


「...ねぇ凪。学校楽しい?」

「っ..な、何急に...」

「んー?まあ、挨拶ばっかりで、こうやって話す機会が最近なかったじゃん?」


ニコニコと楽しそうな彼に私は怪訝な顔を向ける。


「はぁ...別に、学校は普通...」

「じゃぁ部活は?バレー部入ったの?」

「...入ってない。見学中なだけ。」

「じゃぁ飛雄ちゃんとは?本当に付き合って..「ない!」」


なんなんださっきから。
一方的に質問攻めばっかりじゃん。

流石に私も兄のそういう所にイラっとした。


「次もし聞いたら怒るか...っ!?」


言いかけた途中で、横からムギュッと巨体が私を包み込んできた。


「ちょっお兄ちゃっっ!」


思わず持っていたお茶碗を落としそうになる。

そんな事はお構いなしに、ギュウウっとまるで抱き枕でも抱えるようにされ、私は少し苦しかった。
久々に感じる兄の温もりに、昔はよくクソシスコン兄貴なんて思っていた事を思い出す。


「俺の可愛い妹に害虫が寄りつくなんて、最高にムカつくし...それが飛雄ちゃんなのがもっとムカつく。」

「はぁ?...美少女には害虫も益虫も付き物でしょ。」

「それ!凪がJKになって美少女具合が加速なのは嬉しいんだけど、同時に害虫が増える一方でしょ!?烏野なんてとこ行っちゃうから俺というガードが出来ないし、心配でしかないじゃん!?」


駄々をこねる子供みたいにウダウダ言っている彼。
私はそれをガン無視しながらお米を盛る。


「...お前ら、ほんと兄妹だよな。」

食卓に座りながらコチラを遠い目で見る一君。
何をどう見て兄妹と言っているのかわからなかった。


「因みに岩ちゃんは害虫だy「殺すぞ」」

「もういいから離れて、温まったならスープはカップに盛ってきて!」


無理やり兄をひっぺがし、私はお米を盛ったお茶碗を運ぶ。

それから3人で囲んだ食卓は思ったより楽しかった。
ついさっきまで気不味いなんて思った兄との空気も、意外とそんな事なくって何となく前みたいに戻ったのを感じた。



.



>及川Side

「ねぇ岩ちゃん。俺自然だった?」

「あ..?なんだそれ....別にいつも通りだべ」

凪がお風呂へ行き、岩ちゃんと2人ボーッとリビングでバラエティ番組を眺めていた。
俺の突拍子もない質問に何かを察したのか真剣な顔で返答をくれる岩ちゃん。

俺は良かった。と一言呟いて再度テレビへ目を向けた。


今日、というかさっき、久しぶりに凪に抱きついてみた。
この行動は俺の中で賭けみたいなものだった。

以前はよく凪にへばりつくようにハグをしていたけど、今の関係上絶対に拒否されると思っていた。
だから特に嫌がられる様子が無かった事が、あり得ないぐらい嬉しかった。

そう徐々に修復されていく兄妹関係に勝手に安心していた。


「ほんとにお前らって何で急に仲が悪くなったんだ?」

「んー...急というか、前も言ったけど....単純にお互い忙しくて顔を合わせる時間が無くなっちゃって、それでかな。だから明確な理由はコレと言ってないはずなんだけど...」

そういう俺に岩ちゃんは少し空間を眺めた後、口を開いた。

「そうじゃねぇと思うぞ。......凪はいつまでも俺らの後ろに居たくねえんだよ。」

「....わかってるよ。」


いつまでも妹だけど、だからって小さい子供のままじゃない。
あいつにだって自分の考えがちゃんとある。

だからずっと繋いでいた凪の手を、俺は早々に離していたんだ。
俺が引っ張らなくても凪は自分で着いてくるって思ってたから。

けど、そのタイミングが良かったのか悪かったのかは今も分からないままだ。

凪が俺のバレーする姿が好きな事は知ってる。
けど同時にすごく嫌いだって事も知ってる。



「はぁ..岩ちゃん...何で俺は凪のお兄ちゃんなんだろう..」

「何言ってんだ」

「...だって、兄妹じゃ無かったら、俺が凪の手をずっと引いてあげるのに...お兄ちゃんだと難しいじゃん。」

「....お前が思ってるより、凪は強えよ。それに...本当にアイツが辛い時は家族であるお前が助けになる事だってあんだろ。」


そっと膝を抱えて項垂れていれば珍しく岩ちゃんから励ましに近い言葉聞けた。
その言葉はすごく嬉しいけど、同時に凪と血の繋がらない岩ちゃんが凄く羨ましく思えた。


「ま、お前より俺が先に助けになってやるけどな。」

「は?」


意地悪そうに笑う岩ちゃんに、俺は何でか違和感を覚えた。
だって、こんなに直接的に凪の事を言う岩ちゃん初めてだったから。


「...岩ちゃん。凪に告白でもした?」

「あぁ。さっきな。」


あぁ、やっぱりそうか。

て、ん.......?


「えぇぇ!?!?」

ガシッと岩ちゃんの肩を掴む。
その顔は至って平然としていて、俺は混乱した。

どう言う事?
まだまだバレーに一筋でいいって感じだったのに!?

「待って待って、凪はなんて?確かに飛雄ちゃんよりは岩ちゃんが義弟になる方がいいけど、あれ、俺より岩ちゃんのが誕生日早いから義兄..?え、待って、凪と岩ちゃん結婚するの?え??」

「落ち着けクソ及川。結婚はしねえよ、付き合ってもねえよ!」


がんっと頭突きを喰らうも、俺はその返答に更に驚く。


「振られたって事!?」

「だからちげぇよ!保留だ保留。あいつはあいつで、今そう言うの考える時じゃねえと思ったから、待つって言ったんだよ。」


どこか照れくさそうに言う岩ちゃんに俺は落ち着いてなんかいられなかった。

凪ってどうしてこうモテるんだろうか。


そりゃあ俺の妹で超絶美少女だから仕方ないと思うんだけど、俺が知ってる中でも厄介なのが飛雄ちゃんと岩ちゃんなわけで...。

特にこの2人は諦めが悪いから凪に強めに言い寄ったりしてるんじゃ...。


「ダメだ。凪はまだ嫁に出さない。」

「だから結婚じゃねえって言ってんべ!?」


そう岩ちゃんと取っ組み合いが始まりそうだった時、ちょうどリビングの扉が開いた。



「え、2人とも何してるの?」


「凪!!お兄ちゃんは結婚なんて許しません!!!」

「はぁ?」


何言ってんの..と、呆れ顔でキッチンへいく凪。
その姿を見送って視線を岩ちゃんに戻すが、俺は岩ちゃんの顔を見てギョッとした。

「岩ちゃっ..鼻血っ!」

「おっ...やべっ」

「ちょっと、お風呂上がりの凪見て鼻血出したわけ!?マジでダメ、もう見るの禁止!!」


凪に聞こえないボリュームでそう言いながら近くにあったティッシュの箱を投げつける。


「お前、いくら家族とは言えあんな格好で家の中ウロウロさせてんのかよ。何も言わねえお前にドン引きなんだが」


鼻にティッシュを詰め、天を仰ぐ岩ちゃん。

あんな格好でって...確かにオーバーTシャツで下に履いてるのか分からなくって、すごいエッチな感じ何だけど...
前にちょっと指摘したら、ゴミを見るような目で睨まれたんだよね。

でも流石に今日は岩ちゃんもいるし、凪はもうちょっと意識した方がいいんじゃ...
仮にもさっき告白されたんだろ?

バカなのかうちの凪は!?


「え、一君!?どしたの!?」


キッチンで水を飲んでいた凪がこちらに気付いてパタパタ駆け寄ってきた。
その姿に俺は一瞬固まった。

待て待て妹よ。
やけにプルプル揺れるそれはなんだ、お前もしかして...。

岩ちゃんの横にスッと座って大丈夫?と首を傾げている。
俺は凪の肩を掴んだ。
反射的にコチラに振り向いた凪に俺は一言。


「凪、ブラジャーは...」

「え?あ........。」

何かを思い出した様に固まる凪。

「うっ...」


眉間に皺を寄せティッシュを詰めている方と反対側からも出血し始めた岩ちゃん。

勘弁してくれ妹よ。
お兄ちゃんは色々と辛くなってきたよ。








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