「ご、ごめんね一君..。いつも家じゃその、窮屈だから...下着つけてなくて...」
「いや、いい。俺は何も見てない。」
両鼻にティッシュを入れて仰向けで横になる一君。
私は隣に正座して先ほどのことを謝る。
お風呂へ行った兄曰く、私のせいで一君が鼻血を出したそうで...。
「...男の人って、本当にあぁいうので鼻血出すんだね。」
「っ..ばか、ちげえよ。お前のクソ兄貴に頭突きした反動だわ」
恥ずかしそうにパッと顔を横に逸らす彼に、私はダメっと顔に手を伸ばした。
そっと顔を天井に向ける様直せば、一君の頬に触れていた手が取られる。
「お前...他の男の前であれは禁止だからな。」
キュッと握られた手は少しだけ冷たくて、お風呂上がりの火照った体の私には心地良いと感じた。
「わ、分かってる...善処しま、きゃっ!?」
「約束しろ。じゃねぇと、さっきの続き、今すんぞ。」
急に掴まれていた腕を押され、気付けば一君が私の馬乗り状態になっていた。
さっきの続きっていうのは、やっぱりそういう事だよね...
急激に心臓が脈を打つ速度を上げたのを感じた。
「お、お兄ちゃん来ちゃう...」
一君の真剣な眼差しに耐えられず、空いた方の腕で顔を隠せば上から大きなため息が聞こえた。
「お前、マジで……いい加減にしろ。」
「な、何が……?」
そう零せば、そっと腕を退かされた。
視界に入った一君の顔はやっぱり真剣で、私は萎縮した。
「は、じめくっ…んっ!」
急に彼の顔が近付いてきたと思えば、そのまま唇を奪われた。
そして驚く暇もなくぬるッと口の中にスムーズに入ってきたものに背中がぞくっとする。
また、いきなり...。
「んっ...はっ...ぁっ...んんっ...」
ジュッと舌が吸われる、思わず腰が跳ねた。
それに気付いたのか、一君はグッと私に体を寄せてきた。
ガッツリ押さえ込まれている様になった体制に、何も抵抗ができず彼の胸元をギュッとだけ掴んだ。
「ん、はっ...凪、お前は煽りの天才かもな」
そう言いながら笑う一君に、私は何が煽りになってしまっているのか本当に分からない。
ただ、自分の顔が茹蛸の様に真っ赤になっているという事は、鏡を見なくても理解した。
「ほんと、お前可愛いやつだな...俺がいつまでも我慢できると思うなよ」
コツンとお互いの額がぶつかる。
一君はスッと目を細め笑っている。
言葉の割に、どこか余裕そうな彼の表情にこういうの慣れてて大人なんだなっと勝手に寂しく思った。
「一君、もうキスは、だめ.....」
そう小さな声で言えば、にっと笑って口を動かした。
「無理」
その返答に私は目が見開く。
そんなキッパリ断られるとは予想外だったからだ。
「言っただろ。“いまは“大人のキス以上はしないって。」
「で、でもキスだって...恋人とするものじゃ..」
「海外じゃ普通にしてるだろ。挨拶みたいなもんだ。」
なんか上手く丸め込もうとしてる風に感じるけど、私はそこまでバカじゃないんだよ。
ムッと唇を尖らせ、まず視線で反抗する。
「ここ日本だし、それに私だって思い出に残る素敵な初めてを迎えたかったし...」
「......影山との初キスは思い出に残るもんだったのか?」
「そ、それはアレもちょっと違うけど...って、えぇ!?」
「....はー....やっぱ影山だったか...マジでムカつくな。」
私の上から退いて隣で胡座をかいて項垂れた一君。
カマを掛けられた事に気付いて私はカっと更に顔の温度が上昇した。
「一君のバカ!本当になんで全部わかるわけ?見てた!?」
ポカポカと頭を殴る。
引っ掛かる私も悪いんだけど、一君は本当に察しが良すぎて怖い。
「凪。初めての大人のキスは、思い出になったか?」
「〜〜〜っ...う、うるしゃ、、いったぁ...!」
バババッと記憶が脳内で再生され、焦るのあまり舌を噛む。
それを見て笑ってる一君。
そういえばいつの間にか彼の両鼻から鼻血ティッシュ無くなっていた。
「お前がハッキリ答えを出すまではキスだけ許してほしい。」
大きな両手が私の頬を包み、また近づいてくる彼の顔。
だめだって、と顔を逸そうにもそんな事許されるもなく…。
私は諦めてそっと瞼を閉じた。
「んっ...」
チュッと軽いリップ音が部屋に響いた。
けどそれがすぐテレビの音でかき消された。
パッと離れた彼の両手。
同時に瞼を開けば、何もなかったかの様に立ち上がる一君。
「んじゃ、そろそろ俺の風呂準備するわ」
ガシガシと乱暴に頭を撫でられる。
私は未だ火照っている顔を冷まそうと両手で顔を覆った。
この数十秒後、兄がリビングに入ってきた。