「絶対ダメ。」
「んでだよ。そっちの方が凪が嫌だろ。」
「俺はお兄ちゃんだからいいの!!」
「別に俺だって、流石に何もしねぇよ。」
「当たり前じゃん!?でも分からないでしょ!男は皆狼なんだからね!」
皆それぞれお風呂が終わり、映画を見ようという話になったが意外にも皆疲れていて眠かった。
そのためもう就寝しようとなったわけだが、お兄ちゃんが一君と同じ部屋で寝るのはむさ苦しいから嫌だって駄々をこねている..。
その結果ジャンケンして勝った一君が私と寝るという話になったんだけど...私の拒否権はどこへ?
一君と寝るって言ったって、私の部屋に客布団敷いて寝るんだし実質別々なわけで...
お兄ちゃんは何をそんなに危惧しているんだろうか。
「一君とは約束があるから、何も起こらないよ...ふわぁ...」
私は2人を前に大きなあくびが出た。
片手で口元を覆い、じわっと出てきた涙を拭う。
結構本当に眠いかも。
「ちょっと約束って何?また俺の知らないところで色々進んでるの?尚更ダメに決まってるじゃん!!」
「うるせぇなクソ及川。お前が俺と寝れば丸く収まんだろ!つーかじジャンケンで勝ったのは俺だから俺は凪と寝る。」
「マジでダメ本気で怒る。今すぐボコボコにしてもいいくらい。」
「あ?やるか?」
ゴゴゴっと今にも始まりそうな争いに、私は付き合ってるのも苦になってきた。
「もう...みんなで寝ればいいじゃん。私が間で寝るから...」
そう船を漕ぎながら言えば、2人はぴたりと止まった。
けど、今私は何を言ったのか、2人はどんな顔をしているのかもほぼ理解していない。
もう瞼は閉じ、脳の半分睡眠準備を始めてしまった。
そのままソファにコロンと横になり、私は意識を手放した。
.
「んっ....?」
パチッと目が冷め、自分はいつの間にか寝ていたんだと気付く。
まだ何となくぼやぼやしている頭で昨日どうしたんだっけと徐々に記憶を辿っていく。
その途中、ギュッとお腹に温かい温もりを感じてそっと首だけ振り返る。
全然見えない。
でも、あー。
....なるほど。
結局リビングに布団を2枚敷いて3人で川の字で寝たわけだ。
私はどちらかに運ばれたのだろう。
それで...
目の前に一君の後ろ姿が見えるって事は、今私のお腹に回っている手はお兄ちゃんのものか。
「んん...凪...害虫..ころ、す...」
グリグリと私の首後ろに顔を埋めながら寝言で物騒な事を言う兄。
本当に寝てる?どんな夢見てるのよ。
そう思いつつ、暫くぼーっと朝の時間を過ごした。
「ん....は、よっ」
「ん、おはよう」
グルッと背を向けていた一君がこちらに体ごと振り返った。
その目はまだ眠そうだったが、視界に私を捉えると一瞬驚いた顔をするも直ぐ柔らかい顔になった。
「...起きて凪の顔が横にあると、なんかいい朝って感じするな」
「えぇ?何それ...ふふ」
別に小声で話す必要なんてないのに、朝の独特な空気感と静けさからお互いつい小声になってしまった。
「つか、俺こいつに昨日めっちゃ蹴られたんだよな..」
じとっと私の後ろに視線を送る一君。
私は昨日2人が喧嘩しそうになった後の記憶が全くないので、何のことかと首を傾げた。
「結局お前が凪の事抱いてるし...。凪もシスコン兄貴に苦労するな。」
そう一君の大きな手が伸びてきて、私の頭を優しく撫でた。
そのままグッと自然に顔を近づけて来たので、まずいっと思って一君の口元を私の手で覆った。
だめ。
そう口をぱくぱく動かせば、制止された事が気に食わなかったのか眉間に皺を寄せた彼。
私の両手はあっけなく退かされ、一君はガードの無くなった自身の唇を私の唇に当てて来た。
ほんの小さく鳴ったリップ音。
それにドキッとする。
目の前では意地悪そうに笑いながらぺろっと自分の唇を舐めた一君。
朝から刺激が強くて寝起きながらも顔へ熱が集まって来た。
私は恥ずかしくてそれを隠すようにくるっと彼に背を向けた。
けど、忘れていた。
「っ...」
後ろを振り向けば丁度兄の顔がドアップであった。
「んんっ...」
私が動いたせいか、彼は小さく唸って反対側に掛け布団ごと巻き取って寝返りを打った。
私はホッと胸を撫で下ろすが、急に掛け布団が無くなり小さく身震いする。
「くっくっく..」
後ろから一君が声を殺して笑っているのが聞こえ、私は振り返って睨みつけた。
「バカだなぁお前」
「うるさぃ...」
「ほら..こっち来い。」
そう自分が入っていた掛け布団を少し捲って私に手招きをする。
いくべきなのか迷っていれば、痺れを切らした一君に抱き寄せられた。
「...あったけぇな。」
兄とはまた違った胸の硬さ。
でも、一君の胸の中は確かに暖かくてすごく安心した。
>岩泉Side
俺の腕の中で規則正しい寝息を立てる凪。
胸に顔を埋めてるからその顔は見えねえけど、俺は今最高に幸せという事には変わりない。
そっと髪に鼻を近づけ深く呼吸をすれば、脳が凪の香りで溢れ、一瞬くらっとする。
もうすぐインハイだ。
暫く練習ばっかで凪をこうやって近くで感じられる日なんてほぼねぇ。
今のうちに沢山堪能したいところだが、付き合ってるわけじゃないからな...限度ってもんがある。
待つって言ったが、実際俺はどこまで我慢できるだろうか..。
そんなことを考えながら薄っすら意識を手放しかけた。
「岩ちゃん。」
もうすぐ完全に意識が飛ぶって時に、聞き慣れたムカつく声で俺は渋々目を開ける。
そこには全く目が笑ってない笑みを浮かべながら肘枕の体制でこちらを見る及川がいた。
影山も中々厄介なライバルだと思ってるが、やはりこいつがラスボスだろうな。
「凪、返して。」
「...だめだ。凪がこっちに来たんだ。」
「絶対嘘。寝る時は俺の方に来たんだから!」
キーっと凪を起こさないボリュームで言い合いをする。
俺はムカっと自分の額に青筋を立てた。
「クソ及川、お前が昨日俺のこと蹴って凪の事離しただろうが」
「え〜なに〜、俺寝てたから知らないもんね〜」
俺は無意識に凪を抱く力を強める。
もそもそとこちらに近づいてくるクソ及川。
「こっちくんな。」
「じゃぁ凪返して。」
「ぜってぇ嫌だ」
バチバチと及川と睨み合いながらも、クソ及川は凪の背中にピッタリくっつてきた。
嫌でも俺の腕に少しこいつの胸元が当たり、一気に幸せだった気分が台無しになった。
「うぜぇ。まじで離れろ。」
凪と一緒に少し後ろに離れるが、すぐ後ろにソファがあり行き止まりとなった。
負けじと及川が詰めてくるので、3人でギュウギュウの状態になり最悪だ。
「んん...ぐるじぃ...」
胸元から凪の篭った声が聞こえる。
クソ及川は待ってましたと言わんばかりに、凪に話しかけ始めた。
「凪、お兄ちゃんの所においで〜」
いつもより少しトーンの高いその声に思わず顔が引き攣った。
「...一君?」
むくっと顔を上げた凪は寝起きのせいで目がトロンとしていた。
その顔が可愛くて俺は引き攣ってた顔が一瞬で解れた。
「まだ眠いか?」
「んん...でも、もう起きる。」
グリグリと俺の胸に再度顔を埋める。
ヤベェな、これ。
目の前の可愛い生き物に思わずにやける。
「ちょっと、俺の前でいちゃつかないでよ!?」
ガバッと勢いよく起き上がったクソ及川は、そのまま俺と凪が入っていた掛け布団を剥ぎ取った。
「何す... 「寒っ!!」..っ!?」
急な冷気に凪は思いっきり俺に抱きついて来た。
そのせいで思わず言葉を詰まらせる。
というか、ちょっと待て。
さっきまで気付かなかったが、俺の腹あたりに当たる柔らかいその感触に「お」と声が漏れる。
なんかやけに柔らかすぎねえかこれ..。
「岩ちゃん、もしかして気付いたね..?」
俺が1人狼狽えていると、クソ及川はニヤニヤ笑いながら何かを手に見せびらかして来た。
「っ!?おま、それっ...まさか!?」
グワっと顔の熱が集まり、同時に下半身が少し反応する。
俺は凪から少し腰を引き、くっつく凪を引き剥がそうとする。
「凪離れろ!?」
「うぇ..なぁに一君...」
「凪ったら、昨日寝ながら脱ぎ始めるから俺びっくりしちゃったよ。」
「ん?...んんん!?!?」
凪は振り返り及川が手にするものを見て固まる。
そのあとは一瞬だった。
ガバッと起き上がった凪は及川の手からそれを奪い取り、何やら汚い言葉を吐きながら目に見えぬ速さでリビングを出ていった。
残された俺と及川は何が起こったのか理解が遅れる。
顔を見合わせれば、先に口を開いたのは向こうだった。
「....柔らかかった?」
「殺す。」