present



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「はぁ...はぁ...っ...はぁ...」

早朝の外の空気。
朝日が完全に昇り切らない、薄っすら明るいこの感じ嫌いじゃない。
むしろとっても好き。

鼻から息を吸って口から浅く吐く。
足取りはリズミカルに、無理のないペースで足を前へ進めていく。

なんて、頭ではわかってるけど疲れが蓄積すればするほどそれを行うのは難しい...。
家から大体3km位走った所で、私はそれを感じ始めていた。


「はぁ..はぁ...はぁぁぁぁ」

足を止めて両膝に手をつければ、後ろで高く括っていた髪が視界の端に垂れてきた。

現役運動部の時は5km余裕ぐらいだったのに...。
人間の体というのは少し怠るとこうも駄目な体になってしまうのかと思った。

私はボディバッグから小銭を取り出し、近くの自販機でスポドリを購入した。

「6時か。多分そろそろ...」

時刻を確認し、私は当たりをキョロキョロと見渡す。


この時間にココへ来たのは明確な理由がある。
所謂待ち伏せってやつだ。

昔と変わっていなければ、彼はこの時間にこの当たりを走っているはず。

「....っ、きた。」

少し乾いた喉を潤していると、予想通りの人物はそこの角を曲がって正面から走ってきた。
いつも見る制服や学校のジャージではなく、私服もジャージにどこか新鮮さを感じる。

少し手を上げて彼の名前を呼べば、驚いた顔でこちらへ走ってきてくれた。

「おはよう影山」

「お前、なんで」

ここまでの距離にどのくらい走ったのか知らないが、全く息が乱れていない影山。
ちょっと羨ましく思ってしまった。

「ここにきたら、会えると思って」

「は?...俺にか?」

「え?うん。昨日なんか影山言いかけてたし...ちょっと昨日のこと謝りたくて」

そう言うと影山は私にクルッと背を向けた。

「え、影山?どしたの?」

ヒョイっと顔を覗き込めば、影山はまたクルッと反対を向いた。
どうも様子がおかしくて私は再度顔を覗き込んだ。
けどやっぱり影山は顔を見せてくれず、私に背ばかりを向けた。

「もう!どうしたのよ!って、え..?」

そう腕を掴んで無理やり顔を覗き込む。

「っ..悪い、今..見るな」

そう私は掴んでいる腕と逆の手で自身の口元を覆う影山。
その顔は驚くほど真っ赤で、私は思わず口が空いてしまった。

「...もしかして照れてる?」

「っ...うるせぇ。」

えぇ...どこに照れるポイントがあったの..?
私は訳が分からず眉間に皺を寄せた。

黙って待っていれば、だいぶ落ち着いたのか影山が深呼吸をした後にこちらへ顔を向けた。

「...はぁ。悪い、その...凪が態々早起きしてまで俺に会いにきてくれたのが嬉しかった。」

まだほんのり色付いた頬。
けど、もういつも通りの影山だった。

「早起きは、まあ...たまたまと言うか、ちょっと家に居辛くて...」

まさかノーブラで兄と一君の間で寝ていたなんて思い出しただけで辛くなってきた。
暫くは顔を合わせたくないと言うのが本音。

そして逃げる様に朝のランニングに出たわけで、影山に会うかと思ったのも途中に思い立った事なので、、
こんなに喜んでいる影山を見てなんだか罪悪感が生まれてきた。

「昨日はごめんね。うちのお兄ちゃんと一君が...なんか、邪魔?しちゃって...」

「いや、大丈夫だ。けど、なんで岩泉さんが?」

「え?あー、岩泉家と及川家も家族イベントみたいなのがあってね」

「?..そうか。......岩泉さんと凪は、仲が良いのか?」

「うん?まぁ、幼馴染だし。って、知ってるでしょ?」

中学で私達が幼馴染って事はだいぶ有名な話というか、結構周りは周知の事だったと思う。
勿論影山だって知ってるわけで、なんでわざわざ聞いてきたのだろうか。

「...いや、そうじゃなくて。.......なんでもねえ。」


そういう割に影山は何か言いたげな顔をしていた。
その表情に私はハッとする。

一君もそうだったけど、もしかして影山も一君が私のことどう思ってるか知ってるんじゃ...。

いや、というか待って。



私、影山と一君とキスしちゃってるじゃん。



こういうのなんて言うの...。
ちょっと分からないけど、兎に角、もしかして私って、すごい嫌な女なんじゃ...。


多分、1人で色々考えて百面そうしていたんだと思う。
だから私は頬に触れた柔らかいその感触が何だったのか理解が遅れてしまった。

「なぁ。やっぱり...ダメか?」
「っっ...」

キュッとその細長い腕に抱き寄せられ、影山の少し冷えた手が私の頬を包む。
そのまま彼の指が私の唇をやんわり撫で回した。

早朝の住宅街。
誰もいないとはいえ、大胆にも外で男女がこんな事をしていれば注目の的であろう。

けど、影山の真剣な眼差しに私は周りを考える余裕なんてなかった。
両手で彼の胸板を押すが、当たり前の様にびくともしない。


「だ...だ....」

ダメって言葉が出なかった。
だって一君はダメって言っても拒否されたんだし、影山だけダメっていうのはなんか違う気がする。
そもそも本当にダメなのに全力で拒否できない私が一番悪いんだけど...。

こういうのは後々良くない気がするし、とりあえずフェアにしておくべきか...。

「〜〜〜ダメじゃ「凪」っ...!?」



あぁ、なぜ。
いつもタイミングが悪いんだろうか。

これは私の運が悪いのか、神様が私に意地悪なのか。

はたまた、彼らがそういう運命なのか...。


「岩泉さん...」
「影山...」








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