静かな住宅街。
さらに静かな空間があった。
それがここ。
影山と、影山に抱かれている私と、一君。
誰も何も口を開かないけど、影山と一君の間には確かに火花が散っていて、私はいろんな意味で心臓がばくばくしていた。
「凪、こっち来い」
視線は影山から離す事なく、私にそう声をかける一君。
別に一君のところに行きたい訳ではないが、影山に腰を抱かれているこの状況は正直恥ずかしくて見られたくなかった。
私が影山から抜け出そうと彼に一声かけるも、チラッと私を見た後に彼の視線は一君へ戻った。
全然解放してくれなさそう。
むしろ先程より力が強い気がする...。
どうする事も出来ず、諦めかけた時に一君が最初に静寂を破った。
「影山。本当は昨日伝えようと思ってたけどよ.....凪だけは渡せねえからな。」
え。
一君急に何を言い出すの?
私は驚きすぎて、これでもかってほど目を見開いた。
「それは、俺もです。譲るつもりなんて1_もありません。」
そう影山は一君の言葉に驚く事なく平然と言い退けた。
先程よりバチバチと2人の視線が交差する。
間に挟まれた私は本当にどうしたものかと頭を回転させた。
けど、結局2人がこうなってしまったのは私が原因であるわけで...。
ここは私が腹を括るしかないのかもしれない...。
そう思い、私はポツリポツリと話し出した。
「2人とも、あの...申し訳ないけど、私は今本当に誰かと付き合おうとか考えてないの。....でも、2人の気持ちはよくわかったし...蔑ろにしたい訳じゃないの...それで....だから...」
これを言ってしまったら、私は本当に嫌な女になる気がした。
というか狡い女だと思う。
けど。
それでも2人が私を好きだと言ってくれるのなら....。
「私が、誰かと恋愛する気持ちになるまで待っててほしいの。」
2人は私の発言にキョトンとしていた。
影山は理解が追いつかなかったのか首を傾げていた。
再度沈黙の空間が広がったが、先程よりも早くそれは破られた。
「...どこまでだ。」
「えっ?」
「お前が俺と影山、どちらか決めるまでは、“どこまで”して良いんだ?」
一君が少し意地悪に笑ってきた。
どこまで....?
どこまでとは、つまり...。
私は言葉の意味を理解し、カッと顔が熱くなった。
「えっと...その...えーっと...わ、私がどちらかとお付き合いするまで...〜〜〜っ」
「キスな。」
「っ!?」
私が発言を躊躇していると、代わりに一君が答えた。
けど、正直私はハグまでどころか手繋ぐとかまでがいい...なんて思ってしまった。
「は、はじ、めくん...それは...」
「正直、影山と凪がキスすんのは嫌だが...俺がしたいから、な。これはフェアで行こうぜ。」
「っ...」
私、今すごい事言われてるよね?
堂々と言ってのける一君に、思わず普通の会話なんじゃないかと錯覚してしまいそうになった。
けど次第に言葉の意味を理解すれば、どんどん熱くなる顔。
それを2人に見られたくなくて、私は両手で顔を覆った。
それと同時にスルッと背に回っていた影山の腕が解放された。
指の隙間から影山は、よく見知った...
バレーの試合をしている時と同じくらいの真剣な顔をしていた。
「...つまり、凪が俺らどちらかを選ぶまでキスし放題で、尚且つ凪の気持ちをどちらが先に変えられるか勝負って事ですよね。」
「うぇ!?」
驚きのあまり変なところから声が出てしまった。
影山は一君に体全体で向かい合ってどこか挑発している様に見えた。
「へ〜。お前、バレー以外でもそういう顔するんだな。...まぁ、そっちがその気なら、俺も本気でいくぞ。」
「...分かりました。俺も、絶対に負けないんで。」
「えっ...ちょっと...何でそうなっちゃうのよ....」
自分が招いてしまった種とはいえ、この先が非常に心配になってきてしまった。
その後はなんとなく解散の空気となった。
しかし一君と影山それぞれに手を取られたので、私は何とか2人を避け猛ダッシュで逃げ切った。