>影山Side
「おーい、影山!」
ちょいちょいと部屋の入り口で菅原さんが俺に手招きをしていた。
俺は首を傾げたながら菅原さんの元へ向かう。
「なんですか?」
「いや、ちょっとな。...凪にそこで会ったんだけど、廊下とか真っ暗で怖いらしくって、風呂まだっぽかったし、影山風呂場まで送り迎えしてやれよ」
「は!?」
こそこそっと俺にだけ聞こえる大きさでそう話す菅原さん。
話の内容に思わずでかい声で驚いてしまった。
「どうした影山ー?」
部屋で寛いでいた皆が俺たちに視線を向けた。
俺は何でもない。と言って部屋を出た。
ドアを閉める直前で菅原さんに「あざっす...」っと小さく言えば、優しく微笑む顔が見えた。
「凪の部屋、こっちだよな?」
そう左奥の突き当たりにあるドアを視界に入れる。
薄暗い廊下で、切れかかっている蛍光灯のジジジッという音が嫌に響いていた。
確かに、これはちょっと怖いのかもな。
コンコンッ
そっとドアをノックすれば、中からドタバタと大きな音が聞こえた。
大丈夫か?と思いながらしばらく待てば、ドア前に人が駆け寄る気配がした。
ガチャっと控えめに開いていくドア。
そっとその隙間から不安そうな顔をした凪が見えた。
「か、影山かぁ...」
俺の顔を見た途端、明らかにホッと胸を撫で下ろした凪。
菅原さんの言ってた通り、なんか怖がってるな...。
「風呂、まだなんだろ?」
「え、あー....うん。そろそろいく予定...だけど...」
明らかに目が泳いでいる。
凪の後ろの方に風呂セットらしいものが用意されているのが見え、行こうとしているが行けないといった所かと察する。
「早くしねぇと、明日に響くぞ。」
ほらっと手を差し出せば、凪はそれと俺の顔を交互に見た。
「え?...え?」
「っ..だから、風呂まで着いてってやるから早く行くぞ。」
「い、いいの!?」
パァっと暗かった顔が一気に明るくなった。
一度ドアが閉まると、すぐ風呂の荷物を手にした凪が廊下へ出てきた。
凪がこういったところを怖がるのは少し意外だった。
「荷物、持つぞ」
「え、全然重くないから大丈夫だよ?」
ありがとっと笑う凪。
今ので今日の疲れが吹っ飛んだ気がした。
実は少しだけ風呂まで遠い。
とはいっても、ほんの数分で着く距離ではある。
凪を送ったら一旦部屋に戻るとして、迎えに行くタイミングで誰かに捕まったら面倒だな。
そんな事を考えていると、右手に柔らかい感触があった。
「えっと...お、お風呂場まで、お願い...します」
薄暗くて見えにくいが、絶対に顔が赤い凪。
彼女の方から手を握ってきた事が嬉しくて、俺は繋がれた方と反対の手で思わず口元を押さえた。
かわいっ
そう思いながら、先日凪に「影山って、照れると口元隠す癖あるよね。」と言われた事を思い出す。
別に意識したわけじゃないが、思い出した手前それをするのが逆に恥ずかしくて、俺は口元を隠すのをやめた。
.
「じゃぁ、俺は一旦戻るか「え?」...あ?」
「こ、ここまで?」
女子とかかれた暖簾を見ながら、凪は俺の手を強く握った。
恐らく無意識の行動だろう。
それでも俺の心臓を弾ませるには十分だった。
「こ、こう言うのってさ、脱衣所が一番怖いじゃん!もし私がお風呂入ってる時に脱衣所から音が聞こえたら...めちゃ怖いじゃん!」
はっきりそう言う凪に思わず声を出して笑った。
「お前、いくつだよ」
「ぅ...か、関係ないじゃん...」
いつもはムキになって「じゃぁいい!」って風呂に行きそうなのに、今日に限っては俺の手を強く握って離そうとしなかった。
ちょっとぷくっと膨らんだ頬に、若干潤んでいる瞳。
まるで小さい子供みたいだと思った。
あぁ、ほんと...可愛くて仕方がねぇな。
スッと目を細め、名前の頬に触れるだけの軽いキスを落とす。
「っ..な、何で今...」
ポッと顔が赤くなり、その大きな瞳が俺を写した。
「紛れたか?」
「っ...やだ、お願い脱衣所で待ってて」
そう手の繋がれた方の腕を全身で抱きしめる凪。
これは本当に行ってほしくないと言う事なのだろう。
顔を赤くしながらも必死の様子に、言わずもがな口元がにやけそうになる。
「...なら、交換条件な。」
「え、な、、なに...」