present



39



>影山Side

「おーい、影山!」

ちょいちょいと部屋の入り口で菅原さんが俺に手招きをしていた。
俺は首を傾げたながら菅原さんの元へ向かう。

「なんですか?」

「いや、ちょっとな。...凪にそこで会ったんだけど、廊下とか真っ暗で怖いらしくって、風呂まだっぽかったし、影山風呂場まで送り迎えしてやれよ」

「は!?」

こそこそっと俺にだけ聞こえる大きさでそう話す菅原さん。
話の内容に思わずでかい声で驚いてしまった。

「どうした影山ー?」

部屋で寛いでいた皆が俺たちに視線を向けた。

俺は何でもない。と言って部屋を出た。
ドアを閉める直前で菅原さんに「あざっす...」っと小さく言えば、優しく微笑む顔が見えた。

「凪の部屋、こっちだよな?」


そう左奥の突き当たりにあるドアを視界に入れる。
薄暗い廊下で、切れかかっている蛍光灯のジジジッという音が嫌に響いていた。

確かに、これはちょっと怖いのかもな。



コンコンッ

そっとドアをノックすれば、中からドタバタと大きな音が聞こえた。
大丈夫か?と思いながらしばらく待てば、ドア前に人が駆け寄る気配がした。

ガチャっと控えめに開いていくドア。
そっとその隙間から不安そうな顔をした凪が見えた。

「か、影山かぁ...」

俺の顔を見た途端、明らかにホッと胸を撫で下ろした凪。
菅原さんの言ってた通り、なんか怖がってるな...。


「風呂、まだなんだろ?」

「え、あー....うん。そろそろいく予定...だけど...」

明らかに目が泳いでいる。
凪の後ろの方に風呂セットらしいものが用意されているのが見え、行こうとしているが行けないといった所かと察する。

「早くしねぇと、明日に響くぞ。」

ほらっと手を差し出せば、凪はそれと俺の顔を交互に見た。

「え?...え?」

「っ..だから、風呂まで着いてってやるから早く行くぞ。」

「い、いいの!?」

パァっと暗かった顔が一気に明るくなった。
一度ドアが閉まると、すぐ風呂の荷物を手にした凪が廊下へ出てきた。

凪がこういったところを怖がるのは少し意外だった。

「荷物、持つぞ」

「え、全然重くないから大丈夫だよ?」

ありがとっと笑う凪。
今ので今日の疲れが吹っ飛んだ気がした。



実は少しだけ風呂まで遠い。
とはいっても、ほんの数分で着く距離ではある。
凪を送ったら一旦部屋に戻るとして、迎えに行くタイミングで誰かに捕まったら面倒だな。

そんな事を考えていると、右手に柔らかい感触があった。

「えっと...お、お風呂場まで、お願い...します」

薄暗くて見えにくいが、絶対に顔が赤い凪。
彼女の方から手を握ってきた事が嬉しくて、俺は繋がれた方と反対の手で思わず口元を押さえた。

かわいっ

そう思いながら、先日凪に「影山って、照れると口元隠す癖あるよね。」と言われた事を思い出す。
別に意識したわけじゃないが、思い出した手前それをするのが逆に恥ずかしくて、俺は口元を隠すのをやめた。


.


「じゃぁ、俺は一旦戻るか「え?」...あ?」

「こ、ここまで?」

女子とかかれた暖簾を見ながら、凪は俺の手を強く握った。
恐らく無意識の行動だろう。
それでも俺の心臓を弾ませるには十分だった。

「こ、こう言うのってさ、脱衣所が一番怖いじゃん!もし私がお風呂入ってる時に脱衣所から音が聞こえたら...めちゃ怖いじゃん!」

はっきりそう言う凪に思わず声を出して笑った。

「お前、いくつだよ」

「ぅ...か、関係ないじゃん...」

いつもはムキになって「じゃぁいい!」って風呂に行きそうなのに、今日に限っては俺の手を強く握って離そうとしなかった。
ちょっとぷくっと膨らんだ頬に、若干潤んでいる瞳。
まるで小さい子供みたいだと思った。

あぁ、ほんと...可愛くて仕方がねぇな。

スッと目を細め、名前の頬に触れるだけの軽いキスを落とす。

「っ..な、何で今...」

ポッと顔が赤くなり、その大きな瞳が俺を写した。

「紛れたか?」

「っ...やだ、お願い脱衣所で待ってて」

そう手の繋がれた方の腕を全身で抱きしめる凪。

これは本当に行ってほしくないと言う事なのだろう。
顔を赤くしながらも必死の様子に、言わずもがな口元がにやけそうになる。

「...なら、交換条件な。」

「え、な、、なに...」








- 41 -

prev次#


ページ:




リンク文字