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05



>影山Side


「凪が、好きだ。俺と付き合って欲しい。」

『っ......も、もちろん!』


中2になったばかりの春。
俺の言葉一つで茹蛸みたいになった凪。
学年1の美女と言われている彼女に告白したあの日。

晴れて恋人になれた日を俺は一生忘れることはないと思う。



あの時の嬉しさは、バレーの試合で勝った時とはまた違うものがあった。
隣のコートで練習する女バレのメンバーで、練習日が被る日は無意識に凪を目で追っていたのを覚えている。

皆が凪を「可愛い」やら「彼女にしたい」やら言っているのは知っていた。
そんな皆の注目の的である凪を俺の彼女に出来た事が嬉しすぎた。

でも、実際恋人になったところで何をすればいいのか分からないし、取り敢えず帰りが重なりそうな日は一緒に帰るようにしていた。


俺は正直それで満足していた。

凪と恋人でいて、大好きなバレーが出来て、毎日幸せだと思っていた。






けど、それは多分俺だけだったんだ。





凪が中2の夏には受験があるからって早々にバレー部を引退した。

それを知ったのは既に引退した後だった。


俺は何も聞いてなかったし、部活が無くなった事で凪と帰る時間というのはめっきりなくなった。
そして次第に一緒に帰る事自体がなくなった。


中3になって凪とは益々疎遠になった。
クラスが違うことで教室の階も1つ違かった。

俺は相変わらずバレーばかりで、凪とは同じ学校だしそのうち会えたら話せばいいか...なんて考えてた。
その矢先、俺はチームメンバーといざこざがあったり、受験というストレスや色々な事が重なりすぎて、気付けば卒業していた。


卒業後も凪の事は変わらず好きだった。

けど学校という共通の居場所が無くなった今、俺は初めて凪の連絡先も家も知らないと気付いた。
ましてや受験した高校だって知らない。。
でもきっと凪はあの人と同じ高校を受験しただろうから、烏野に行く俺とは完全に疎遠になってしまう...。


そもそも何で俺は連絡先を聞かなかったんだ。
今更遅い後悔を抱えながらも、俺は名前もわからない感情を掻き消すようにバレーに集中した。



そして烏野の入学式を迎えていたが、凪への気持ちなんて1ミリも整理ができていなかった。





.




入学式を終え、皆が一斉に各々の教室へ向かう中で周りの女子は全員同じ顔に見えている。
中学の時もそうだった。
でも凪だけは唯一顔をちゃんと認識出来たんだよな。


「っ...くそ」


俺にはバレーがある。早く忘れよう。
そう言い聞かせながらも自分の眉間にシワがよるのがわかった。




その後はぼーっとしてれば担任の話も終わっており、皆チラホラ帰り始めていた。
俺もバレー部に行くかと立ち上がった時、廊下側の後ろの席に女子2人がキャッキャ話しているのが目に入った。
何も考えず後ろの扉から教室を出ようと思ったが、なぜか俺はその2人の女子の前に立っていた。

多分無意識だったと思う。




凪。



そう口が動いて、久しぶりに声に出した名前は耳から脳へ、そして全身に伝って心臓がギュッとなった。


ふわっと動くミルクティーブラウンの髪。
ぱっちりと大きな目に、ぷくっとした小さな口。


ああ、やっぱり。
俺はこの女を知っている。
凪で間違いない。


そう思った時には既に彼女の腕を掴んで歩き出していた。

どこか2人きりになれる静かな場所で話がしたい。
そんな都合がいい場所を探しつつ歩いていれば、後ろから凪が何やら喋りかけてきた。




あぁ、こいつは笑った顔も相変わらず可愛いんだな。




俺はベンチに座らされ、凪は俺の前に立って喋っている。
俺は今抱いているこの感情は...感動..というのかもしれねぇ。



『それで、なんでとび.....影山くんは烏野にいるわけ?』



飛雄。
今そう呼ぼうとしたのにわざわざ影山と言い換えた凪。



彼女曰くもう俺たちは終わった関係だから名前呼びはしないとのことだ。
俺は卒業してから整理できなかった凪への気持ちを忘れようとしていたのに...
顔を見た瞬間確信した。


俺は凪が本当に好きで、この気持ちはずっと変わらないままだって...。
そうでなきゃ、俺はきっと凪を見かけても声を掛けることは無かったはずだ。


ギュッと膝に置かれた拳を握れば、私は影山を嫌いになったわけじゃない。という言葉が降ってきた。
咄嗟に俺は顔を上げるが、凪は続けてこう言い切った。


『折角始まったばかりの高校生活なんだし、私は面倒な事に巻き込まれたくないの。過去のことなんて忘れて高校でもモテモテ女貫いて新しい素敵な恋をして、平凡なキラキラJK生活送る予定なんだから、絶対邪魔しないでね!』


ビシッと向けられた指にモテ女と自称する辺り兄弟そっくりだと感じた。
けどそれと同時に新しい恋を探すという凪にフツフツと怒りの感情が湧き出てきた。
凪の隣に知らない男がいて、そいつに向かって笑いかける凪なんて..
勝手な想像の中の話だがつい手が出ちまいそうだ。



俺は目の前の指をそっと握った。
それに驚いたのか、どんどん遠ざかろうとする彼女に詰め寄れば、負けじと凪も後ろへ下がっていく。
俺は空いている腕をその細い腰へ回し、そのまま自分の方へ引き寄せた。



付き合ってた時に、凪とこんな距離になった事なんてない。
顔がどんどん熱くなっていくのを感じる。
凪は大きな目をさらに大きくして驚いている。



「影や...「そのポジションは、俺だ」」



凪の恋人は、必ずまた俺がなる。


そう目で念押し押して、俺は凪から離れた。
これ以上は顔が熱くてどうにかなりそうだった。


明日からは凪に毎日話しかけるようにしよう。
中学の時と違って幸いにもクラスは同じだ。


っと...勿論バレーも疎かにはしない。
早くバレー部、行かねえとな。








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