present



06


「凪、さっさとお風呂入っちゃいなさいよ〜!」

『んー...』


結局あの後は母と合流して、一緒に夕食の買い物をしてから帰宅した。
家に入るなりどっと疲れが私を襲ってきて、部屋着に着替える間もなく私はリビングのソファに倒れ込んだ。


キッチンからは夕食の準備をする音が聞こえる。
昔からそうだけど、何かを切るトントントンって音とか、何かを炒めるジュゥって音とか、心地よくて、安心して...ついつい寝てしまうんだよな。



「凪ー?お母ちゃん夕飯の準備終わったら婆ちゃんのとこ行ってくるからね?...聞いてるー?」

『んん...』


薄らいでく意識の中でお母ちゃんがケタケタ笑う姿が最後に目に入った。
ふわっと体に何か暖かいものが乗り、それが毛布である事を認識しながら私は完全に意識を手放した。



.




>及川Side

「...はぁ」

今日は朝練の途中から岩ちゃんが終始不機嫌で参ったなぁ。
周りは事情を知らないから、どうせまた俺が何かやらかしたと思ってるし...。

まぁ間違いでもないんだけどさ。

まさか岩ちゃんがあそこまで怒ると思わなかった。
凪へ好意を寄せているのは昔から気付いていたけど、今はバレーに集中って感じだったからそこまで気にしてないと思ってたし。



...まぁ、そういう俺もショックを受けたのは事実だ。


一昨日お母ちゃんと入学式いつくるのか話してたら、妙に話が噛み合わなかった。
不思議に思ってると、人生で一番...いや、二番目に衝撃な事実を知らされた。


「烏野って入学式の後に保護者会があるみたいで、青城の時と違って少し時間かかりそうなのよね〜」


あの時、鈍器で頭を思いっきり殴られた気分だった。

俺は別にバカじゃ無い。
お母ちゃんの言葉からすると、凪の入学式は烏野で行われるもので、つまり、、


凪は烏野に入学するってことだ。



岩ちゃんじゃないけど、俺だって凪は青城にくるって思ってた。
だから衝撃だった。
もはや悲しみの感情が大きかった。


昔は何でもかんでも俺も真似をして、ひよこみたいに後とを追いかけてきていて...
それはもう毎日楽しかったのになぁ。


でも突然凪は俺を追わなくなった。
俺と違って才能があると言われたバレーだって辞めていた。




__ガチャ


「ただいま。」


昔の記憶を呼び起こしていれば家に着いた。

玄関には下ろしたてであろう小さなローファーが脱ぎ捨ててあり、凪が家にいる事を示している。


どうせいつも通り俺が帰ってくる時間は部屋に篭ってるんだろうな。
そう思いながらリビングのドアを開ける。
夕食の匂いが俺の鼻を刺激して、同時に腹の虫が疼くのがわかった。


「お母ちゃんただいま」


キッチンへ声をかければ返答はなかった。
あれっと思い食卓に目をやれば置き手紙があった。


「婆ちゃんのところ行ってきます。凪は疲れてるみたいなので寝かせてあげてね 母」


なるほどね〜と口から漏らしながら重たいバッグを肩から下ろす。
入学式だけでへばるなんて、凪はいつから柔になったんだ?


そんな事を考えながらソファに目をやると、
もそもそと動く塊があって俺は思わずギョッとした。


それが凪であると認識できるまで数秒。
まさか部屋で寝てると思っていたから驚いた。

「... 凪。」


そろっと忍足で近くに寄ってみれば、お母ちゃんが掛けたであろう毛布は床に落ち、ちょっとだらしない寝相の凪から規則正しい寝息が聞こえてきた。
その呼吸と同時に上下する胸元に目をやれば、見慣れない制服。


黒い制服に身を包んでいる事に気付く。



あぁ、本当に烏野に行っちゃったんだな。




...別に俺は凪を突き放したわけじゃない。
何か原因があって喧嘩をしているわけでも無い。

ただ自然とお互い何も話さなくなって、顔も合わさなくなった。

あの時はバレーの事でいっぱいで、天才と呼ばれる後輩も現れて、俺自身何も余裕がなかった時だ。


凪は家族だし、何も問題ないって思ってた。
どうせいつもみたいに俺の背中を追いかけてくるに決まってるって..そう思ってたのに...。

俺が着ている白い制服を拒絶するような黒い制服。
似合ってるって、一瞬でも思った自分がいて嫌になった。




「...お前は絶対に白の方が似合うのにな。」


そう頭を一撫でし俺は風呂へ向かった。







「それにしても久々に顔を見たけど、我が妹ながら可愛い顔をしている。うんうん。さすが俺の妹!」

そう思いながらお風呂に入る及川兄であった。







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