present



10



「信介、おはようさん。」

朝練終わり、教室までの道のちでそんな甘えた可愛い声が、俺の脳ん中をふわっと揺らした。
声と同時に、自然と絡め取られた指先がじわじわと熱を帯びていって、それがゆっくり顔まで伝染していく。



「…おはよう。」


そう返したら、天音はちょっと頬を赤くして、にこっと笑い返してくれた。



……あぁ、ほんま今日も可愛すぎる。



ただな、周りの視線が、正直めっちゃ痛いんや…。


.



天音と付き合って、もうそろそろ3ヶ月。

気ぃついたことが何個かあるんやけど、まずひとつ目。


天音は、意外と――
いや、だいぶ積極的やねんな。

付き合った初日から人目なんてあんまり気にせんと、結構べったりしてくる。
今もこうして、俺の手を当たり前みたいに恋人繋ぎで握ってくれてて、なんちゅうか…嬉しい反面…心臓が持たん。ほんまに。



ふたつ目。

天音に送られてたラブレターとか、呼び出しとか、そういうんが前よりは減ったみたいやった。
「彼氏います」って事実が、抑止力になっとるんやろな。

…でも、なくなったわけちゃうねん。

時々、手紙の返事書いとる姿とか、昼休みや放課後に呼び出されとる事を知っとる。


みっつ目はな――
一つ目とちょっと繋がる話やけど、天音は、手を繋ぐ以上のことは自分からしてけえへん。


こう言うと、なんや俺が完全に受け身みたいに聞こえるかもしれんけどな……俺も、一応男やし。
当たり前やけど、天音と一緒におれば、手ぇ繋ぐだけで済むような気持ちじゃ済まん時もある。

ハグとか、キスとか……その先のことも、そりゃ、したいって思う時はあるんや。






……ほんの数日前やったか。


なんとなくやけど、「あ、今キスできるかもしれへん」ってタイミングがあってな。
俺はそっと、天音の顔に近づいたんやが…
何でか避けられてもうた。


「あ、ご、ごめん…びっくりしてしもて……!」って、天音は可愛く笑ってたけど。
その後、何か言うわけでもなく、そのままバイバイしてもうたんや。


俺としては……正直、落ち込んだな。
避けられたって思うと、何があかんかったんやろとか、ぐるぐる考えてもうて、何日かちょっとだけしんどかった。


けどな、天音は次の日も、またその次の日も、いつもと変わらん笑顔で俺に接してくれて。

……ほんまに、ただびっくりしただけやったんかもしれへんな、って思うて。


ただ、それを確かめようにも、お互い部活が忙しくなってしもて時間が合わん。
せやから、ちゃんと2人きりで話せる時間っちゅうもんが、取れてへん。



「信介、どうしたの?なんか、怖い顔してる……」

「っ……悪い、なんでもないわ。」


……ほんまは、なんでもないことないんやけどな。



「ふーん、変な信介〜!」


そう言うて、くすくすと笑う天音は、相変わらず上品で。
今日も、まるで椿の花みたいに――凛として、華やかな空気を纏ってた。



……ほんま、可愛すぎるねん。




.





ヴヴッ。

朝練の疲れがまだ体に残ってて、1限目はどうにも眠気が勝っとる。
決して授業中に寝たりはせぇへんけど、ポケットの中でスマホが震えた瞬間、思わず小さく体が跳ねてもうた。
それくらい、意識がちょっと遠のいてたっちゅうことや。

前の黒板で、先生がせっせと板書しとる。
バレへんように気ぃつけながら、机の下でそっとスマホを開いた。


[土日って、部活?」]

メッセージと一緒に、狐がハテナ浮かべた可愛いスタンプが届いてた。
勿論こんなメッセージを送ってくるのは天音だ。


……明日と明後日か。


隣をそっと見れば、天音がニコニコ笑いながら、こっち見とった。
その笑顔、ほんま、何回見ても見飽きへん。
見とれてまいそうになるけど、返事せんとな……。


土曜は確か、午前だけ練習が入ってたはず。
日曜は休みやったな。
頭の片隅でスケジュールを確認しながら、慣れた手つきでメッセージを打って、送信する。


[土曜の午前だけあるわ。日曜は休みや。」]


送ってから、また天音の方見てみたら、今度はちょっと嬉しそうに頷いてた。

……なんやろな。
ただそれだけのやり取りやのに、胸の奥がふわっとあったかくなった。



逸らしていた視線を再度天音に向ければ、スマホの画面を見てニヤニヤしてる横顔があった。

……あかん、また見惚れてまう。



ヴヴッ


[明日、うちにお泊まり来ん?親が旅行で1人寂しいねん]



ゴンッ。


「お?…北、どうしたんや?」

「っ…いえ、すんません。なんでもないです。」


思わず机の角に額をぶつけてもうて、ジンジンと痛むこめかみを押さえる。
その間にも、スマホを握る手に自然と力がこもってもうた。
怖々と、再び隣を見れば──


天音は少しだけ頬を赤くしながら、チラチラとこちらの様子を伺っていた。


……その顔見てたら、こっちまで顔が熱うなってきた。





──そう、いうことやんな…?






俺が思ってる意味で、合ってるんか…?


……落ち着け、俺。

冷静や。



冷静…。





[いく。]

少し迷った末に、たったそれだけを返した。
けどその直後、待ってましたと言わんばかりに、狐の「OK」スタンプが届いた。


……くそ、可愛えぇな。



いや、ちゃう。
今はそれどころやない。

部活終わったら、薬局寄らなあかんな…。
べつに、そうなるって決まった訳やないけど。

もしも、もしもの時のために備えとかな。


ただ、いざ買うとなると、未経験の身からするとどれ選んだらええんか全然分からん。
サイズとか、種類とか、色々あるらしいって話は聞いたことある。

誰かに聞く訳にもいかんし……。


……しゃあない、調べるしかないな。



スマホ片手にそんなこと考えてたら、また通知が来た。


[信介が好きな、豆腐ハンバーグ作るね]







……やられた。





なんやろう、この一言で一気に肩の力が抜けた。
ほんま、天音って、こういうタイミングで心をふわっと掴んでくる。

一緒に食卓を囲んで、笑って、そんな時間を過ごせるだけでも十分幸せやのにな。







せやけど、やっぱりどこかで天音と、そういう関係になれることを期待してる自分がおる。


もちろん無理強いなんかする気はない。
けど、もしも天音も同じ気持ちでいてくれてるなら……

ちゃんと、大切に、その気持ちを受け止めたい。



……頼むぞ、冷静な俺。





二章始まりました。
ガンガンR18入れたいので、苦手な方は一章で完結として頂ければと思います!







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