「……これか。」
部活終わり、俺は例のものを買いに最寄りの薬局に来とった。
右手に握ってるのは、白文字で「0.01」と印字された赤いパッケージ。
左手には、可愛らしい蝶の模様が入った、0.03ミリと書かれたパッケージ。
どっちもネットで調べて、評価の高かったやつや。
0.01は「まるで生みたい」とか、「お互いの温度がダイレクトに感じられる」とか。
0.03の方は「滑らかで初心者向け、安心感がある」と書いてあった。
どっちがええんやろな…。
いや、こういう時こそ、男の出番なんちゃうか。
迷ってる場合やない。
ちゃんと責任持って、選ばんとあかん。
せやけど……
着けたことすらない俺が、いきなり本番でうまくできるとは到底思えん。
練習……しといた方がええよな。
いざって時に手間取って、変な空気になったら嫌やし。
白い箱の方は三つ入りって書いてあるし、念のため2つ買っておくべきやろな。
丁度迷っよったし、どっちも買うか。
そうパッケージから顔を上げた、まさにその時やった。
「あんたこんな所で何やってるん?」
その声に思わずビクッとして、手に持ってたモノを後ろに隠した。
......なんや、聞き覚えのある声の方へ顔を向ける。
「誰?」
「あー……弟。」
そう言いながら体格のいい男と腕を組んでるその姿は、紛れもなく――
姉、やった。
一瞬、血の気が引いた。
彼氏、やろな。
見た感じ、恋人っちゅうのはすぐ分かる。
それよりも、こんなとこで会うなんて聞いてない。
いや、最寄りの薬局で買おうとした俺が悪いんか…?
声も出んまま立ち尽くしてたら、「ちょっとあっち行ってて。」ってシッシと彼氏を追い払った。
彼氏は素直に離れていって、姉はそれを見届けると、ニヤァ…と、口元だけで笑った。
「で、ナニ買おうとしてたん?」
これは完全にバレとる。
何も言えずに後ずさりしかけた俺の足元を、姉のヒールがカツンと止めた。
「……ふーん、まさか北信介も、そういうお年頃になったんやなぁ?」
お願いやから今すぐこの場から地球ごと消えてほしい。
「彼女でも出来たんか?」
「……まぁ。」
もう見られてしもたら、下手な誤魔化ししても仕方ない。
別に恋人おるのがバレるんはええ。
いずれ紹介する時が来るやろうしな。
「なるほどなぁ〜、ついに信介にも春が来たんか!お姉ちゃんは控えめに言って嬉しいで!」
いつもどおり大袈裟にリアクションしながら、ニヤニヤと笑って喜んでる姉。
……で、その笑顔のままスッと手を差し出してきた。
「な、なんや?」
「その後ろ手に隠したもん、見せろや。」
俺は一瞬躊躇った。
が...
もはや逃げ道もない。
諦めた顔で、そっと赤と蝶柄の箱を姉の前に出した。
「……うわ、マジで選んでたんや!」
「……うっさいわ。」
「この蝶のやつ、随分かわええ柄のパッケやなぁ...っていうか、こっちは0.01やん。結構“気合い入ってる方”やで?」
「頼むから黙ってくれへんか。」
姉の無駄に鋭い分析と軽快なトークに、俺の体温はどんどん上昇していく。
勘弁してくれ……こんな辱め、しんどすぎるやろ。
さすがに家族相手でも恥ずかしいし、普通嫌やろ。
姉やからって限度があるっちゅうねん。
「……ほんま、あんまり詮索せんとってくれへん?」
そう言った俺の手元に、いつの間にか姉が別のパッケージを2つ差し出してきた。
「ほな、姉からのアドバイスや。こっちと、こっちの方がええで。」
……全然ちゃうのに入れ替わっとる。
「いや、なんで姉ちゃんに勧められなあかんねん。構わんとってくれ。」
そう言えば、姉はふんっと鼻で笑って、俺の胸を軽く小突いた。
「童貞が何言うてんの。あんたの為やないわ、あんたの彼女の為に選んであげとんのやで?」
「……。」
「彼女が初めてかどうか知らんけど、高校生なんてどっちにしても経験浅いんやから、優しくて失敗しにくいタイプ選ばんと。ほんで、“その後”も安心できるやつにしときや。気持ちだけで突っ走ったらアカンで?」
俺は黙って、姉の渡してきたパッケージを見つめた。
こっちは潤滑ジェル多めで、サイズもフリーか。
もう一つの方は……
ああ、厚さで安心感あるやつやな。
なんや、妙に説得力ある分だけ、余計に恥ずかしい。
「……ありがと。」
「ふふん、最初から素直にそう言いなさい。」
満足げに腕を組んで、姉は颯爽とレジへ向かって歩いていった。
いや、なんで姉ちゃんが先に行くんや。
「俺が買うんやけど……!」
思わず追いかけた俺に、「あんた顔赤すぎて無理やろ」って笑われたのは、言うまでもない。
姉、完全オリキャラです。
一応大学4年でくらいで、強めなイメージでいます。